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スライム、核肉
しおりを挟むレッドスライムをテイムする為に火の街、ファイア・ウォールに向かう。だけれどもファイア・ウォールはここから山を2つ超えないといけない。たどり着くのは当分先だ。取り敢えず今日は野宿しよう。
辺りが暗くなってきたのでコメット袋からテントを取り出し野営することにする。組み立てるのはスラりんにも手伝ってもらった。スラりんは意外と器用だ。
モンスターが襲ってこないように周りに魔除けのポプリを撒いた。そして夕食の準備をしている時、ふと思った。今日の俺の晩御飯はスライムをパンに挟んだスライムバーガーなのだがこれを食べている時スラりんは俺のことをどう思うんだろう?
スラりんからしたら自分の仲間を食べているわけだからかなり不愉快だよね?それどころか憎むレベルなのだろうか。よくもわたしの仲間を……絶対許さない。いつか必ず倒してやるっ!と下克上を狙っているのだろうか?
確かテイムって主人のレベルを抜いたらモンスターは従う必要がなくなるとミツバが言っていた気がする。え、スライム食べるのまずいの?でも今後食べないでいられる自信がないぞ?どうしよう。
「スラりん、あの、俺スライム食べることが好きなんだけどこれについてどう思う?」
悩んでも仕方ないので直球で聞いてみた。
嫌われるかも、と内心びくびくしているとスラりんはにっこりと笑う。
「嬉しいですよ。エアト様に好いて頂けるなんてとても光栄なことです」
「えっと、味覚的な意味で好きなんだけど大丈夫?」
「はい。むしろわたしが食べられたいですね。エアト様、よろしければわたしを召し上がって下さいませんか?」
そういってスラりんが手のひらにぷるぷると震える小さなスライムを出した。これは予想外、まさか全面肯定の上食べて欲しいと言われるなんて思わなかったよ。
え、スライムって食べられるの嫌じゃないの?食べられるだよ?もぐもぐされて飲み込まれてるんですよ?本当にいいのだろうか。スライムって変わった種族なんだね。
取り敢えず俺にとっては都合のいいことだからまあいいや。スラりんが出してくれたちびスラは貰っておく。食べるかどうかはちょっと検討で。だって、めっちゃ濃い緑してるし絶対にこれは苦いですよ。
「俺が食べるために他のスライムを狩るのもいいの?」
「弱い者が淘汰されるのは当たり前のことではありませんか。モンスターは弱肉強食、弱い者が食べられるのは当然の摂理です。それでエアト様、わたしのことは召し上がっていただけないのでしょうか?」
スラりんだけじゃなくて他のスライムを食べることも大丈夫か聞いてみると弱い者が食べられるのは当然だなら気にしないとのこと。結構シビアな意見ですね。そして話がスラりん食べるところに戻って来ましたよ。
「えっと、実はスラりんの出すちびスラは特級ポーションの材料になるから取っておこうと思って、」
「スライムはMPが切れるまで作ることができますのでまだまだ生み出せます。ですから、そのわたしは食べて下さいませんか?わたしはエアト様の血肉になりたいのです。エアト様にとって必要なら他の人間にわたしの一部を売り渡すのは構いませんが、せめていくらかはエアト様の中に入れて下さいませんか?」
スラりんが手の中にポンポンといくつものちびスラを生み出しながらそういった。食べないという選択肢はなさそうだ。
食べることができないのも困るけど食べて欲しいと全力で言われるのも戸惑いますね。しかもスラりん、苦いんだよな。
いや、でもここで食べないのはスライムマスターではないよね?よし、食べよう。俺はこの世のスライムを食べ尽くすのだ!
濃緑のスライムを口に入れる。薬草の苦味を濃縮した味がした。あまりの苦さに涙が出そう。
感触は、感触はおいしいんだよ。ただ味がめっちゃ薬草です。あ、でも体力がすごく回復した気がする。回復アイテムとしては本当に優秀だよね。
「エアト様、わたしを食べて下さってありがとうございます」
「あ、うん。こちらこそご馳走さま」
ちびスラを食べるとスラりんが光悦とした顔をしていた。食べられることを喜ぶスライムなんてホント俺と相性最高だよね。これでおいしかったらなんの問題もなかったのにそこだけが残念だ。
スラりんが作ってくれた大量のちびスラはコメット袋に入れておく。あとで超級ポーションを作っておこう。
火を焚いて夕食の準備をする。俺はスライムバーガーでスラりんには薬草を用意している時にふと思い出す。あ、そうだ。アレを食べておかないと。
「スラりんって薬草以外も食べられる?」
「基本的には何でも食べられますよ。ただ、身体に薬草が馴染んでいるので全く薬草を食べないとなんとなく落ち着かないですね」
「じゃあ薬草と一緒で構わないからこれを食べよう」
コメット袋から保存用の紙に包まれた肉の塊を取り出す。紙を開けると赤みかかった綺麗な肉で暗闇の中薄っすらと光っているように見えた。
「これは?」
「オーク王の核肉だよ」
「なんと、オーク王の核肉ですか?先日エアト様が倒されたあのオーク王の物ですね」
スラりんが驚いたように目を見開く。コア肉とはモンスターの魔力が最も込められた部位のことでこれを食べるとそのモンスターの特性に応じてなんらかのステータスが上がる。
功労賞の時にオーク王を倒したということでそんな貴重なコア肉を俺がもらえることになったのだ。おそらくオーク王ならば攻撃力が上がるだろうからせっかくだしスラりんと食べよう。
だが、スラりんはコア肉を前にするとにっこりと笑う。
「そのような貴重な物をわたしが口にするべきではありません。どうぞ、エアト様おひとりでお食べください」
「え、いやでもオーク王倒したのはスラりんの力があったからこそだし、食べたらステータスが上がるんだよ?スラりんも食べようよ」
「いえいえ、スライムであるわたしが食べたところでその力を活用できるとは思えません。そのような無駄なことをするよりもエアト様に食べていただいた方がはるかに有意義です」
スラりんにコア肉を食べることを断られてしまった。え、スラりんにコア肉を与えるのは無駄なの?いや、そんなことはないよ。スラりんが強くなったら俺はすごく助かります。
おそらくスラりんがいいたいのはスライムという種族を育成するのは効率が悪いということだろう。スライムは最弱といわれる種族だ。そんなモンスターにステータス向上のアイテムを与えるのは確かに役に立つか微妙なところだ。
でもスラりん結構強いよね?さっき襲ってきたチンピラあっさり倒していたくれたじゃないか。スラりんにコア肉食べてもらうのは全然無駄じゃないと思うよ。
それに人型になってから俺はスラりん親近感が湧いた。なんというかもう、テイムしているって感じはなくて普通にパーティメンバーが増えたという気分なのだ。
仲間が増えた。そんな新しい仲間とおいしい物を食べたいと思うことはおかしなことではないだろう。
「スラりん、やっぱり一緒に食べようよ。スラりんのステータスが上がるのは意味があるしそれに俺ひとりで食べても味気ないよ。ご飯は一緒に食べるものなのです」
「エアト様……かしこまりました。エアト様がそう仰るのでしたらご相伴に預からせてもらいます」
スラりんがにっこりと笑う。どうやら納得してくれたようだ。それはよかった。じゃあ早速ご飯タイムとしましょう!
フライパンを取り出し塩、胡椒を軽く振って両面をパパンと焼いた。肉の焼ける匂いが漂いお腹が空いてきた。
うまく焼けたのでスラりんの分を切り分けて目の前のお肉にかぶり付く。瞬間、口の中に広がる肉の旨みに頰が緩んだ。
おっいしー!いやぁ、スライムもおいしいけどやっぱりコア肉はこれはこれで格別だ。
口の中いっぱいに広がる肉の味を堪能する。そのモンスターの1番の力が込められているところだからそりゃおいしいに決まっているよ。
昔はコア肉よりおいしい物はないと本気で思ってたもんね。ミツバにスライムを食べさせてもらってなかったら今でも思っていたかもしれん。
むしゃむしゃとコア肉を食べる。すると今度はスライムが恋しくなったのでスライムバーガーにかぶりつく。
ああっ!おいしいっ!やっぱりスライムはおいしいよぉ!
口の中でコア肉の肉汁とスライムが溶けていき絶妙なハーモニーを作り上げる。
食べることって幸せだよね。生きていてよかったと本当に思う。
ふとスラりんはどうしているかとみるとなんと肉を手づかみした。そして、
「流石オーク王のコア肉ですね。非常に良い養分になりそうです」
手が液状化してぽちゃんと肉がスラりんの中に沈んだ。
予想外の光景に唖然とする。どうやらこれがスラりんの食事風景のようだ。
そうだ、人の形をしているけどスラりんはスライムだ。食べるのは口からとは限らないよね。むしろ全身で食べちゃうのがスライムなのか。うん、理解はできた。納得はできてないけど。見た目的に衝撃が大き過ぎます。
違和感が強いので人の姿の時は口から食事するように頼んだ。スラりんは了承してくれた。
食事を終えてテントにて眠りにつく。スラりんが人型になって驚いたけど2人旅になって結構楽しそうだなと思った。
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