ああ、スライム。君はなんておいしいんだ!

空兎

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スライム、オーク王との戦闘!

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オークキングが出ました。まさかの展開に涙が出そうです。あと少しで勝てそうと思ってきたところにラスボス登場とは神様は鬼畜すぎませんかね。それともこうやってうまくいかないことが世の常なのでしょうか。生きるのが辛くなってきます。

なんにせよ今回のクエストの目的であるオークキングは倒さなければならない。だけれどもここにはその戦力がない。今まで戦ってくれていた冒険者たちはオークキングの攻撃で吹き飛ばされて起き上がってこない。

唯一対抗できそうなノルンさんはまだオーク将軍ジェネラルと戦闘中だ。オークキングを倒すには絶対に赤竜の焔の力が必要だと思うんだけどガイさんは何処にいるんだろう。まだ先頭で別のオークと戦っているのだろうか?助けてガイさん!ここにオークキングがいますよー!

「《極炎の煉火バハザール・ファイリア》!!」

赤い巨大な炎玉が現れオークキングに向かって飛んでいき激突した。誰が、と思ってみるとミツバが荒く呼吸しながら魔法陣を展開していた。

「これ以上、好き勝手させないのです!焼け焦げるのです、オークキング!!」

無事だったミツバがオークキングに向けて魔法を使ってくれたのだ。よかった、ミツバはさっきのオークキングの攻撃は当たらなかったんだ。おまけに強そうな魔法攻撃がオークキングに直撃しましたよ!これはひょっとしてひょっとするんじゃない?

ちょっと期待した気持ちでオーク・キングを見た。だけどそんな些細な希望はすぐに打ち砕かれることとなる。

「魔術師カ。邪魔ダナ」

炎玉はきちんとオークキングに当たっていた。だけれどもそんなものはオークキングには効かなかったらしい。

無傷のオークキングがそこに立っていたのだった。

「嘘、全く効いていないのです……」

ミツバがガクッと膝をついてその場にヘタリ込む。魔法の効かない状況に絶望したというのもあるのだろうけど、おそらく魔力が切れたのだろう。魔力が切れると魔術師はかなりの疲労感を覚え立っていられなくなるらしい。よくマグも倒れていた。

そんなミツバに向かってオークキングがズンズン歩いていく。右手にはとてつもなく大きな剣を握りながら。

ミツバはもう逃げられない。魔力切れから立ち上がることができない。そこへ大剣を持ったオークキングが向かったら……?

頭が真っ白になった。ミツバが殺されてしまう。ミツバが、ミツバが……俺の親友が!

気付いたら走り出していた。走りながらコメット袋に手を突っ込む。ミツバを助けるために手段なんか選んでいられない。

コメット袋から紫玉とクリスタルでできた透明な短剣・・・・・を取り出す。

紫玉をオークキングに向かって投げる。投擲は正確だった。紫玉はオークキングの頭部に向かって飛んでいく。

だけれどもこちらの動きをオークキングは察知していたようだ。紫玉はオークキングに当たる直前で大剣によって薙ぎ払われた。

「小蝿ノヨウニ、付キ纏ウ。目障リナ、先ニ其方ヲ仕留メルカ」

オークキングがミツバに背を向けこちらを向いた。紫玉はオークキングにダメージを与えることは出来なかったけど気を惹くことには成功した。それで十分だ。クリスタル・ソードを握りオークキングに向かって全力で走る。

「エアトは足手まといなのです!こっちに来てはダメなのです!早く逃げて下さい!」

前方でミツバがこちらに向けて叫んでいる。

ミツバは優しい。足手まといだなんて言っているけどあれは俺を逃がそうとしているのだ。ミツバはいつだって優しい。

仲間と別れて初めてひとりになって、どうやって生きていこうかと悩んでいた俺を助けてくれたのがミツバだ。

下級ポーションを作れるならそれを売ればいいといったのも露店の開き方を教えてくれたのもミツバだ。

最初の頃はほぼ毎日様子を見に来てくれて、一緒にご飯を食べて他愛ない日常の話をした。

俺は来てくれるお客さんやスライムを使って作った料理の話を、ミツバは冒険者としての日常や家族のことを。ミツバには兄がいて、ちょっと抜けているところが俺はそのお兄さんにそっくりでミツバは放って置けないらしい。

今Uターンしたらひょっとしたら俺はオークキングから逃げることができるかもしれない。俺の命は助かるかもしれない。

でもしない。そんなことしたらミツバが死んでしまう。ミツバを死なせはしない。

クリスタル・ソードを強く握る。これは幼馴染が離れ離れになるからお守り代わりに、と言って持たせてくれた俺の最後の切り札だ。

「ミツバから離れろぉーっ!」

クリスタル・ソードを大きく振りかぶる。そして勢いよくオークキングに向かって振り下ろした。

瞬間、ガラスの割れるような音が響いた。

オークキングは俺のクリスタル・ソードを大剣で受け止めた。それだけだ。それだけで俺のクリスタル・ソードは粉々に砕け散ったのだ。

「矮小ナ人ハ、使ウ武器モ脆弱ダ。羽音ヲ奏デルシカナイ虫ケラガ。弱キ者、貴様ラハ、タダ強者ニ蹂躙サレレバ良イ」

周りには砕けたクリスタル・ソードの破片がキラキラと降り注ぐ。そして、オークキングが大剣を振りかぶった。遠くでミツバの叫び声が聞こえた気がした。

大丈夫だよ、ミツバ。うん、これでいい。これでいいのだ。クリスタル・ソードは砕く・・為に振り下ろしたのだ。

錬金術というスキルは形ある物を別の物質と組み合わせるスキルのことだ。

スライムと薬草でスライムポーション、弾ける木の実と花火ネズミで音玉、聖水と聖樹の葉で魔除けのポプリなど様々な物を作ることが出来る。

そうしてある時思ったのだ。スキルや魔法を錬金術の素材にできないだろうかと。

スキル“錬金術”のように具体的な形のないものはどうしようもないが、例えば斬撃を飛ばすことのできるスキル“スラッシュ”、この飛ばされた斬撃には形がある。これを錬金することは出来ないのだろうか?

と思ったんだけど結構難しかった。形があるといっても斬撃は飛んでいるし対象に当たるとすぐ消えちゃうし、おまけに錬金は触れてないと出来ないから一歩間違えれば俺が攻撃を受けてしまう。

マグの防御魔法がなければ試そうとも思わなかっただろう。だけれども色々な条件で試して様々な材質を試してクリスタルならばスキルや魔法をその中に錬金することができることがわかった。

クリスタルは魔術師の装飾品によく使われるもので魔力伝道がよく、さらに魔力を蓄積しやすい。スキルや魔法を留めておくにはぴったりの器だった。

そんなクリスタルの中でも俺がクリスタル・ソードに使ったのは雪山の最奥にあったクリスタルで出来たダンジョン、そのボスである水晶の透龍クリスタル・ドラゴンを倒して手に入れた最も高品質なアーク・クリスタル。これであるから耐えられた。これでなければ耐えられなかった。俺がクリスタル・ソードに込めたのは幼馴染の最強のスキル・・・・・・だ。

光る。砕かれたクリスタルのカケラが光りだす。

キラキラとクリスタルのカケラが降り注いだ。そしてそれは光の線となり刃となる。

「ナンダ、コレハ?光?小僧、何ヲシテイルッ!!」
「終わりだよオークキング。お前は手を出してはいけないものに手を出したんだ。ミツバは絶対に守るから」

オークキングが急に光り出した周りの状況に驚き声を荒げる。だけどももう遅い。

幼馴染がひとりで旅する俺のためにありったけの魔力を込めてくれた。困った時は遠慮なく使えと。今がその時だ。

勇者である幼馴染が魔王を倒した最強のスキル、それがここに込められてある。

「《ー輝刃の流星群エルデ・サンダ・キル・ライデントー》!!」

光の雨がその場に降り注いだ。降る。降る。光が突き抜けていく。

そして光がオークキングを貫いた。一本ではない。何本もの光線がオークキングを撃ち抜いた。

どんなに硬いものだろうと輝刃の流星群エルデ・サンダ・キル・ライデントの前には役に立たない。流星群のように降り注ぐ光の線がオークキングを貫いていった。

「何ダ、コレハッ!!弱小種族デアル人間ガァ、コノ我二傷ヲォッーーッ!!!」
「その通り、俺はとても弱いよ。だけど弱いなりに知恵を絞り道具を作るんだ。オークキング、お前を倒すよ。ミツバを死なせはしない」
「狩カレルダケノ存在ガッー!!運命ハ、全テ強者ニヨッテ決メラレルッッ!!強者デアル我ガ勝者ニナルノダァッーーッ!!」

オークキングの赤く充血した瞳が俺を射抜く。だけれども恐れない。オークキングは強い。だけれどもそれより上の強さを知っている。

「強い人が運命を決めるのならやっぱりそれはお前じゃないよ。だって俺はお前よりもっと強い人たちを知っている」

オークキングが身体中に光線を浴びながら怒号をあげる。そして大剣を俺に叩きつけんとばかりに振り上げた。

だけれどもそれが俺に届くことはなかった。

手に握っていたクリスタル・ソードの残りのカケラを砕きオークキングを投げつける。

ピカッとした光と共にゴトリと何か重い物が落ちた音がした。それはオークキングの腕だ。線で降り注いだ光線に大剣ごと右腕を切り落とされたのだ。

その瞬間オークキングが倒れる。巨大な肉体が倒れ地に伏した。俺は勝ったんだ。

「やったー!ミツバ、オークキングを倒したよ!」
「馬鹿ッ!エアト、逃げるのですっ!!オークキングがッッ!!」

倒せた喜びにミツバのところへ駆け出そうとした瞬間ミツバの悲鳴のような叫び声が消えた。

え?と、思考する時間もなく急に強い力に引き寄せられる。身体が宙に浮き首に圧迫感を覚え息苦しい。

首を締め付ける何かを外そうと手を寄せるがそれは鉄のように硬く動かない。

息が苦しい。頭に血が上って破裂しそうな感覚。

かろうじて残った意識で薄っすら目を開けるとフゥー、フゥーと洗い息を繰り返すオークキングの顔がすぐそばにあった。

「人間、オ前ハ許サナイ。オ前ダケハ必ズ殺ス」

首を締める手にさらに力が込められる。オークキングは生きていたのだ。嘘やん。なんで腕切り落とされて身体中に穴開けられて生きているのだよ。

いや、いくらなんでもオークキングもギリギリなはずだ。最強スキル、エルデさんを食らって無事なわけではない。たぶん最後の力を振り絞って俺を殺しにきているのだろう。そんなことに力を振り絞らないでよ。うわあああっ!これめっちゃピンチだよ!誰か助けてぇー!

「エアトを離すのです!炎弾フレイア!!」
「グヴゥッ……!!」

オークキングの後頭部に何かが当たる。赤くて熱い。ミツバの炎弾フレイアだ。

弱っていたオークキング炎弾フレイアは効いたらしい、手から力が抜けて俺の身体が傾く。

オークキングの手が俺の首から離れた。地面に投げ出され倒れていく俺から何か・・が飛び出した。それは真っ直ぐオークキングに向かって飛んでいく。

「クグッ、魔術師メ。ヨクモ我ノ邪魔ヲ……。貴様モ、ココデ殺……ッッ!!」

唐突にオークキングの声が途切れる。ゲホゲホと息を吐きながら何が起こったのか顔を上げてみるとオークキングの顔の周りに緑色のゼリー状の何かが張り付いていた。

見てすぐ何かわかった。スラりんだ、スラりんがオークキングに飛びかかったのだ。

「ッッ!!ーーッ!ッ!ーーーッ!」

オークキングが暴れる。口と鼻が塞がれたから呼吸が出来ないのだろう。

なんとかスラりんを剥がそうとするがスラりんは流動体で掴みにくい。おまけにオークキングは片腕になってしまいスラりんを引き離す腕も足りないのだ。

オークキングが暴れる。暴れる。そして……静かになった。

オークキングの巨体がドスンと地面に沈む。もう、本当に動かない。

ずっとオークキングの口と鼻を塞いでいたスラりんがふるふる震えながら俺のところに戻ってきた。それを掬い上げ肩に乗せる。

まさかスラりんが戦ってくれて、しかもオークキングを倒すなんて思わなかった。でもおかげで助かった。

ありがとうスラりん。君のおかけでオークキングを倒せたよ。

肩に乗せたスラりんを感謝の気持ちを込めて撫でる。色々あったけどオークの最上級種、オークキングの討伐に俺たちは成功したのだ。
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