ああ、スライム。君はなんておいしいんだ!

空兎

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スライム、後方支援中……

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「エアトじゃねえか。なんでお前がいるんだ?」
「あ、イツダツさん、こんにちは。ポーション持ちの回復要員として参加しているんです。イツダツさん達も討伐メンバーだったんですね」 

オークキングを倒すべく森を行進しているとふいに話しかけられた。見るとイツダツさんだった。イツダツさんもこのクエストに参加していたのか。

「おう、俺達はBランク冒険者だから当然参加するさ。エアトはポーション担当として呼ばれたんだな。まあ確かにエアトは上級ポーションを持っているんだから今回の戦いでは必要になる可能性が高いぜ。怪我したら頼むな」
「勿論です。イツダツさんはお得意様なのでサービスしちゃいますよ」
「はは、あんがとな。まあ世話にならないように気をつけるぜ」

そういって仲間の元に戻るイツダツさんに手を振る。イツダツさん、Bランク冒険者だったんだ。よく見ると他にもチラチラとうちの店の常連さんがいるのが見えるぞ。うちに来る人って意外とランクが高い人が多いんだね。優良客が減るのを阻止するためにもポーションはドシドシ使っていこう。

ちなみに今回使われたポーションはギルドが経費扱いで払ってくれるらしい。太っ腹ですなギルドさん。これで遠慮なくポーションを使うことができます。

「上級ポーションってなんのことです?エアト、上級ポーション作れるのです?」

イツダツさんがいなくなるとミツバが話しかけてきた。何故か目がジットリしている。

「作れるよ」
「……聞いていないのです。上級ポーションなんて凄く貴重で中々手に入らないのになんで私に言ってくれないのです」
「作れるようになったの3日前だったんだよ。なんだ、ミツバも欲しいのか。はい、どうぞ」

コメット袋からスライムポーションをひとつ取り出しミツバに差し出す。ミツバは目を少し見開きこちらを見てきた。

「そんな高価なもの気軽に渡してはいけないのです。後で買い取るので取り置きしてほしいのです」
「ミツバは親友だから気にしなくていいよ。それに今は戦闘前なんだから取り敢えず一本は持っててよ。気になるなら後で料金払ってくれてもいいからさ」

そういってミツバの手にスライムポーションを押し付ける。親友のミツバからお金を取るなんてとんでもない。

ミツバはこの町にきて右も左も前も後ろも分からなくなって道に迷ってついでにチンピラにまで絡まれているところを助けてくれた恩人だ。

そしてスライムの素晴らしさを教えてくれたのもミツバだった。チンピラから助けてくれた後ミツバはその辺りのカフェに連れていってくれてスライムゼリーをご馳走してくれた。そこで俺は運命に出会ったのだ。

元々食い意地の張っていた俺は色んなモンスターを食べたことがあったが、スライムを食べるのは初めてだった。勧められるままに口にした。そしてその瞬間全身に衝撃が走ったのだ。スライムゼリーはおいしかった。とてつもなくおいしかった。

以来、俺はスライムに愛を注いでいる。ミツバは人生の指針を築いてくれた俺の神様だ。そんなミツバがスライムポーションが欲しいと言うならば渡すのもやぶさかでも無い。

全然タダで構わないけどミツバが友情に金銭的要因をいれたくないというタイプなら代金を支払ってもらっても別に良い。まあとにかく今から戦闘が始まるのだから上級ポーションは持ってて下さい。

「……本当にいいのです?」
「どうぞ、どうぞ」
「ありがとうなのです。正直、今回の戦いはどうなるかわからないので上級ポーションがあるのは有難いのです」
「お役に立てて何よりです」

我が友、ミツバの為になれたのなら良かったよ。山のように恩ばかり積もっていっているから返せる時に返しておこう。

ミツバがスライムポーションを受け取る。でも微妙そうな顔になる。

「……エアト。なんでこのポーションの蓋、スライムなのです?」
「さあ?俺が作ったからじゃない?」
「……納得したのです」

ミツバのため息がその場に漏れた。

森の中を進む。木の葉が陰りなんとなく森全体が薄暗くなってきた。

スラりんは右側のポケットの中にしまう。何故だかわからないけどスラりんはオークから狙われているようだし隠した方がいいだろう。

右側のポケットに柔らかな重みを感じる。ポケットの上から触るとぷにぷにとした感触が伝わってきて気持ちよかった。

しばらく歩いていると『よし、ここで止まってくれ』というガイさんの声が聞こえてきたので足を止める。

ガイさんは大き過ぎず、しかし後ろの方にいる俺にもハッキリと聞こえる声で話し始めた。

「先行していた仲間からの情報で前方にオークの集団がいるそうだ。キングの姿は確認できていないが将軍ジェネラルはいるようだ。初撃で出来るだけオークの数を減らしたいから弓矢や魔法を使える者は前に出るように頼む。各自、周りと連携を取りつつオークを殲滅してくれ」

いよいよオークとの戦闘が始まるようだ。魔法の使えるミツバは前に行ってしまった。ちょっと心細い。

そして、それから10分も経たないうちに
前から呪文を唱える声や何かが風を切る音が聞こえてきた。ついに戦闘が始まったのだ。

金属音が辺りに響き渡り前方にオークが溢れているのが見えた。うわっ、あんなにオークがいるのか。え、これって割とヤバイ戦い?なんか生きて帰れる気がしなくなってきたぞ?

だけれども冒険者たちも強かった。Cランク以上しか参加していないというだけあって誰一人欠けることなくオークたちを撃退している。その中でもガイさんとその周りにいる赤い鎧を着た人達が強すぎる。一振りで何体ものオークが倒された。

おぅ、やっぱり俺参加するべきじゃなかったかな?なんか場違い感がものっすごくあって切ないです。まあ来てしまったのはもう仕方ないし出来ることはしよう。はーい、ポーション欲しい人ー!

戦闘もずっと続けてはいられない。時折前線で戦っていた人が場所入れ替えで後方下がってくるのでポーションを渡したり水を渡したりして回復してもらう。それでも上級ポーションを使うほどの傷を負った人はいなかった。皆さん強いですね。

そうしているとふらふらとした足取りでミツバがやって来た。手には小振りの剣を持っている。あれ?ミツバ魔法使いじゃなかったの?

「お疲れ、ミツバ。はい、ポーション」
「ありがとうなのです。オークの数が思ったより多過ぎて疲れました。赤竜の焔のメンバーがかなり倒してくれるのでなんとかなっていますけど、持久戦はこっちが不利なのです。早くオークキングを倒さないとダメなのです」
「なるほど。あと、ミツバって魔法使いだよね?なんで剣持っているの?」
「魔力はいつまでも保つわけじゃないのですよ?もう8割くらいのMPは使ってしまいました。私は凡人なのです。稀代の天才魔術師、マグ様ならこんなことにならないのですよ」

そういってため息を吐く。ミツバが剣を使うのは魔力がほとんど切れてしまったかららしい。そうか、魔術師は魔力がないと魔法が使えなくなるもんね。だから剣も使えるっていうミツバは本当にすごい。俺はどっちもできません。

ミツバの話を聞きながらうんうん頷いていると、出てきた名前に聞き覚えがあって思わず反応する。え?マグ様?

「ミツバ、マグ様って、」
「知らないのです?あの魔王を倒した勇者パーティのひとり、マグ・カップ様なのですよ。おそらく今いる魔術師の中では最強と言われている大天才。マグ様が火魔法を使えば炎が七色に変わり水魔法を使えば龍が現れ風魔法を使えば千の刃となり敵を切り裂く。私の火魔法はまだ赤以外になったことがないのです。修行が足りないようなのです」

そういってミツバがふーっと息を吐く。ああ、うん、そうか。やっぱりあのマグのことか。マグって稀代の天才って言われているんだ。懐かしいな、マグ。いつも『薬、薬をくださぃ……』っていっている子だったけど元気にしているかな?

マグは俺の昔の仲間で確かに魔法は凄かった。ミツバの言う通り火魔法は七色に変わるし水魔法はドラゴンの形となって襲ってくるし風魔法は風が剣の形となって降り注ぐしすっごく強かった。

でもミツバ、いくら魔法を極めても炎の色は変わらないよ?だって色が変わるのはマグの魔法だけ特別なんじゃない、マグは火魔法を使うときにわざわざ・・・・色を変える魔法も一緒に使って七色に変えているのだ。

マグが言うには37個の構築式を作り炎の魔法の発動に合わせて演算することにより七色になるらしい。そう、七色のファイア・ボールだ。だけどそれだけだ。それによって攻撃力が上がったりとか速度が上がったりとかとかそういうことはない。

むしろ七色にすることによって余計に魔力を使ってしょっちゅう魔力切れになっちゃうのにマグは絶対に七色に変えるのをやめない。無駄だといっても辞めない。

曰く、『魔法はかっこいい。かっこ良くなければ魔法ではない。つまりかっこいいとは魔法なのだ!』だそうだ。

意味はよくわからないけどつまり魔法をかっこ良く放つためには魔力も手間も惜しまないということだ。そのせいで戦闘中に倒れることもしばしばだったけれど。

「ミツバ、これ食べてみて」
「なにそれ?」
「コンペートゥ。甘くておいしいよ」

コメット袋の中から瓶詰めされたカラフルな星菓子を取り出し3粒ほどミツバの手に落とす。

ミツバは不思議そうな顔をしたけどそれを口に入れた。途端ミツバの顔が驚愕に変わる。

「何なのです……魔力が回復していくのです」
「うん、魔力回復薬だよ。ちゃんと効いたようでよかったよ」
「魔力回復薬っ、そんな貴重な物だったのですか?」

ミツバがバッとこちらを見てくる。

「え、貴重なの?」
「世にほとんど出回らないのです。値段をつけるならひと粒100sはするのです」
「うわぉ、めっちゃ高い」

なんとコンペートゥはとても貴重な物だったらしい。魔力を蓄える花の蜜と砂糖を錬金して作ったのだが、ひと粒100s?それってポーションの10倍じゃないですかヤダー。マグが飲みものみたいにガブガブ使うから貴重な物っていう意識はありませんでした。俺の持ち物って結構高級品ですね。

「エアトは気づいたらCランク以上しか参加できないクエストに参加していますし、上級ポーションや魔力回復薬作れますし、実は凄いやつなのです?」
「いやいや、そんなことは全くないです。戦闘力5のゴミなんで過剰な期待をしないで下さい」
「……まあいいのです。回復ありがとう、充分休めたので行ってくるのです」

ミツバが手をひらひらと振りながら前方に戻っていく。がんばってね、ミツバ。俺の分のノルマまでオークを倒して下さい。

全体を見るとかなりの数だけのオークが倒せたようで視界に映るオークの数が減っている。だけれどもこちらも消耗しているようで死人こそ出ていないけどポーションを求める声や怪我人は増えている。油断できない状況だ。

「精が出ますね、エアトさん」

剣があたり肩口が抉れたという冒険者に下級ポーションをかけ飲ませてもう一度かけ、としているとふと、声をかけられた。

顔を上げると赤い鎧を着たそばかす顔のお兄さんがそこに立っていた。

「あ、どうも。えっと貴方は?」
「赤竜の焔の副リーダー、ノルン・トレインと申します。適切な後方支援をありがとうございます。おかげで多くの兵士が万全な状態で戦うことが出来ています」

そういってノルンと名乗ったお兄さんはニコッと笑う。赤い鎧を着ているから赤竜の焔のメンバーだとは思ったけど副リーダーさんだったのか。偉い人だ。

そんな偉い人に役に立っているといってもらってちょっぴり嬉しい。Fランクの俺なんて普通に考えたらただの足手まといだからね。すこしでも貢献できていたら幸いである。

「ありがとうございます。ノルンさんはどうして後方に来たのですか?ひょっとして怪我をしたんですか?」
「いえ、そろそろ戦況が動くと思って戦力の強化に来たんです。貴方もそう思ったからここにいたんでしょ?」

ノルンさんがそういってニッコリと笑う。え?なんのこと?と返そうと瞬間すぐ傍から『グオォォオーン!!』という叫び声が聞こえて来た。ビクリと身体が震える。

え?何事!?と思って声のする方を見ればそこには新たなオークの群れが続々とこちらに向かってやって来てた。

おまけにその先頭には……オーク将軍ジェネラルがいた。え?

あまりの急展開、難易度ベリーハードモードになった現状に俺は心の中で絶叫した。
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