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1巻

1-3

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 南の森に行くと森狼フォレストウルフはすぐに見つかった。というか、すぐに襲われた。
 森に入って普通に歩いていると、うしろからグルルッという獣声が聞こえてきて振り返った途端、狼が飛びかかってきた。不意打ちとは卑怯ひきょうな! 上等だゴルァー! 返り討ちにしてやるぞ! 
 不意打ちを食らったが痛みはほとんど感じなかったから、そのまま紅盗の斬剣ブラッティスティールダガーを振り下ろす。刃に当たった森狼フォレストウルフは、あっさり光のエフェクトとなり消えていった。
 紅盗の斬剣ブラッティスティールダガー身勝手な防御力エゴニストのおかげで攻撃面防御面共に万全だ。森狼フォレストウルフに何度攻撃されようと俺はほとんどダメージを受けない。攻撃されたところは妙に熱を持っているが、『感じる』という程でもなかった。それに、ただ一度刃を当てるだけで奴らを倒すことができる。つまり俺は相打ちですら勝ちなのだ。
 飛びかかられる。斬る。別の奴に噛まれたがダメージはない。何匹もの森狼フォレストウルフに乗りかかられるが紅盗の斬剣ブラッティスティールダガーで斬りつければ、すべて消えていった。
 そんな感じに森狼フォレストウルフを少しずつ減らしていたら、かなわないと悟ったのかキャインキャイン言いながら逃げていった。ふっ、口ほどにもない奴らだな。まあ俺が強すぎるんだろうけどね! 
 倒した森狼フォレストウルフが消えた後には奴らの牙が残った。
 全部牙か。狼だから毛皮が残ると思ったんだけど違うんだ。このドロップアイテムって、なにか法則とかあるのかな? レアアイテムがあるかどうかが知りたいです。
 とにかくギルドに戻ってミチェルさんに聞くかと思いながら森狼フォレストウルフの牙をしまっていると、チクリと首筋に痛みを感じた。
 なんだ? と思って振り向こうとしたが身体が動かない。それどころかそのまま地面に倒れこんだ。
 なにが起きたのかわからない。指先までしびれて、まったく動けなくなった。本当になんなの!? 攻撃を受けたの!? 誰に? グレイに? あのイケメン、本当にいい加減にしろよ! 
 だがグレイは今、王都にいるはずだからそんなわけがない。混乱していると、身体の下に硬いなにかが差し込まれる。それが俺の視界に入った瞬間、俺は状況を悟った。
 木だ、木が俺を持ち上げようとしているのだ。
 やがて俺の下に差し込まれた枝によって、木の根元まで連れていかれる。視界に映るその姿に確信した。
 木とはいってもその中央には顔があり、周りにはつるがうねっている。こいつがアイビーウッド、ソロハンターキラーのモンスターだ。
 ヤバイ、捕まってしまった。完全に油断してたけど、でも、どうやって気を付ければよかったんだよ! 森の中にいて木が敵とか、なんという無理ゲー。
 ミチェルさんからもらったこう麻痺まひやくは、異空間倉庫アイテムボックスに入っている。これは別に口が動かなくとも念じれば出てくるが、手が動かないから取り出すことができない。これは詰んだ。
 アイビーウッドは俺の周りで、つるをゆるゆるとうねらせた。つるの先からは粘液のようなものが出てきて、それが俺の着ている服を溶かしていく。
 思い浮かぶのは食虫植物だ。奴らは消化液を出し、獲物をじわじわ溶かして吸収する。ひっ! 考えただけで恐ろしい。そんな死に方いーやーだぁー! 
 つるは、俺の服を布切れに変えると身体に巻き付いた。ゆるゆると身体の上をいずるつるを不快に思っていたら、そのうちの一本が俺の目の前までやってきた。
 なんだろう? と思っているうちにつるの先がクパッと裂け、花弁が開くみたいに広がった。それはまるで口を開いて獲物を呑み込むかのような仕草に見える。
 ひいいいいいっ!! グロッ! キモッ! あれで今から俺はパクッといかれるわけですね、わかります。わかりたくねぇ、助けてええぇぇぇぇーー!! 
 つるは俺の上をゆらゆら揺れていたが、やがて胸元までやってきた。そして――

「ひゃああァあぁアァァーー!!」 

 俺の乳首をおおうと、そこを吸った。
 はひっ、え、ちょっと待って。なんで俺のおっぱい吸うの? 
 じとりと背中に嫌な汗が伝う。アイビーウッドは獲物を麻痺まひさせて食べてしまうらしい。……ん、その食べるってアレか? アレなのか? 
 そうこうしている間に他のつるも同じように先を開き、俺のもう一方の乳首に吸い付いた。

「アアァぁあああァァーー!! あひゃっ、イッ……! ああんァアアッーー!!」 

 叫びながら思う。もう間違いない。アイビーウッドの食べるは、性的な意味でだ。こいつは陵辱りょうじょく目的の触手モンスターなのだ。ふざけんなー! なんなんだ、この世界! 
 ユニークスキルをもらえたと思ったらエロい代償付きだし、エロモンスターが普通に闊歩かっぽしているし、ひょっとしてここは18禁BLゲームの世界かなにかなのか? なんでそんな世界に俺を転生させたのだよ。

「ひぃん、ひゃあああッ! やぁっ! おっぱい揉まないでぇー!!」 

 つる改め触手共は、俺の乳首を吸いながら花弁の部分(?)でモミモミしてくる。このままだとAAダブルエーカップくらいにバストアップしてしまうかもしれない。本気でいらない。

「ひぅ……、あああァん! ……ぁ、アアァっーー!」 

 ヤバイ、かなり気持ちいい。さっきまで戦闘中だったし、身勝手な防御力エゴニストの代償、感度十倍が普通に発動しちゃっているのか? またお前かよ。発動条件はなんなんだよ、気まぐれだな!
 あまりに気持ちよすぎて、俺の息子さんから先走り液があふれる。残念ながら完勃ちだ。すると触手たちが俺の息子に群がり始めた。
 なんなんだよ、お前たち。言っとくがそこは、すごくデリケートなんだよ? いつかエクスカリバーとなる大切な場所なんだよ? 触るんじゃない! 
 という俺の心の声が聞こえるはずもなく、触手は俺の息子に巻き付き上下にしごき始めた。さらに花弁が開いた触手に先っぽを吸われる。
 ちょっとぉぉぉぉぉーー!! お前らその手腕、どこで身に付けたの!? アアッ! ダメっ! 裏側と先っちょは弱いのっ! イッちゃうぅッ! イクうぅぅぅぅーー!! 

「んはぁアアァッ……、やらァあぁぁぁー! いくぅぅぅぅー! はァんアぁアァーー……!!」 

 身体が動かないので抵抗することもできず、そのままイカされた。さらに、はふーっと息を吐こうとしたら再度触手に吸い上げられ、もう一度イッてしまった。ああああっ! もうらめぇ……、イキすぎて疲れた。
 ジュルッ、ジュルッ、という音がするから、おそらく触手たちは俺の精液を飲んでいるんだろう。やったね! 触手はエッチなお汁が好物って証明できたよ! あとは女の子がいたら完璧だね!
 触手たちはまたゆるゆると俺の息子に絡み勃たせようとするが、イッてすぐなのでなかなか勃たない。気持ちいいのは間違いないが、一度に出る精子さんの量には限度がある。

「もう出ないと思うし終わりにし、ヒッ!」 

 言い終わらないうちに、うしろに触手が集まり始めた。そこは嫌だ。うしろは嫌だ。思い出すのはグレイと致した時に感じたしびれるような感覚だ。あんなものをもう一度経験したら、絶対におかしくなる。

「いやだ、そこは……、やめっ、ヤァ……ッ!」 

 なんとか逃げようとするも、まだしびれが取れない。わずかに身体をよじることができるくらいで大した抵抗にはならない。
 触手たちは俺の足を開いて動かないように固定し、うしろに狙いを定めた。
 細めの触手がゆったりと入ってくる。触手自体がヌメッてるからか、あっさりと入った。
 あっ、あっ、とあえぎながら鈍い快感に耐える。うしろの快感は直接的な快楽ではないが、身体を常に火照ほてらせ、ジワジワ追い詰めてくる。おかしくなりそうで嫌だ。

「ひんっ……、ああッ、んはァッ……、アアッ!」 

 何本もの細い触手が中に入ってくる。俺は、とにかく早く終われと祈った。その瞬間だった。

「ひゃぁああァァーー!? アァッ!?」 

 一本の触手が、とある場所を強く突いた瞬間、貫くような快感があり絶望する。またあの快感だ。
 うしろのある場所をこすられると、どうしようもなく感じてしまう。当然触手たちもそれに気が付いたようで、執拗しつようにその場所を狙ってきた。

「ひあぁっあっ……、うごかし、ちゃや……! あっぁぁあああッ!」 

 複数の触手が代わる代わる攻めたててくる。麻痺まひ以外のしびれが全身に巡り、おかしくなりそうだ。
 ふと見ると俺の息子様も、ふたたび勃ち上がっている。息子よ、別に今日は頑張らなくていいから、おねんねしててくれ。
 うしろを突かれてあんあん言ってると、ふと中でうごめいていた触手たちが出ていった。え? ひょっとして終わったの? ここでヤめられると正直生殺し……いや、なんでもないです! 終わってよかった! アハハ。
 じゃあ、こんな恐ろしい触手の森からは早く逃げないと! そう思ったが触手の拘束こうそくは外れない。え? 終わったんじゃないの? と不思議がっているうちに尻を高く持ち上げられる。次いでアイビーウッドから一本の太い触手が出てきた。
 その触手は他の緑色の触手と比べると若干黒ずんでいて、しかもなんとイボイボ仕様だった。……まさかと思うけど、今からそれを俺に突っ込んだりしないよね? はは、大丈夫だよね? 
 と心の中で念じてみたが、イボイボ触手は俺のうしろにあてがわれた。ふざけんなあああああっ! 

「やめてっ、それは絶対にやばい……っ! アッ、あぁあああァァ……ッ!!」 

 その大きい触手は、俺の中に押し入ってきた。身をよじって暴れるが、中に入られてはどうしようもない。律動りつどうを始めた触手に俺は悲鳴を上げた。
 ……よくさ、エロ同人誌でイボイボ触手とか出てくるじゃん? アレ、なんで出てくるかわかったよ。はっきり言って、気持ちよくて仕方ない。ホント死ぬ。気持ちよくて死ぬ。で、エロ同人を書いてる奴らは、なんでそんなこと知っているんだ? お前らまさかッ! 

「ひあぁ゛っああ゛ぁぁあッ、アッ! アッ……! だめぇえー! ぁあぁっ!」 

 ふざけている場合じゃなかった。本当にヤバイ。内臓をえぐられる気持ちよさとか、知りたくなかった。うえぇ、しかも触手たち、俺の息子にまた例の、先がクパァって開く触手をこすり付けてくる。それ、ほんとやめて、吸うのはダメ。お前ら、吸引力の変わらない、ただ一つの触手たちかよ! って、某掃除機のCMを思い出している場合じゃない。ああぁっ! らめえぇっー!!

「吸わっないでぇ……、あっあぁあっいくっ、ひぁァあ゛、ッーー!!」 

 うしろを突かれながら前を吸われて、あまりの気持ちよさに力の限り暴れる。しかしそのすべてを触手に押さえ込まれる。ビクッビクッと跳ねる身体を押さえつけられ、ゴリゴリと中をえぐられた。俺はその乱暴な快感にイカされた。

「ひぎいぃ゛んっ、ぁああん、イッ、イッ……、イクぅぅううッ~~~!」 

 ピュッと発射した精液に触手が群がる。
 イキながら先っぽを吸われたので、ついでに軽くもう一度イッた。
 俺の中にいたイボイボ触手が、ずるずると出ていく。これで終わりにしてくれるのかと思ったら、別の触手が待機していた。こいつら、俺を解放する気ないな。ヤバイ、このままだと干からびる! 
 なんとか逃げ出そうと暴れても、しびれた身体では思うように抵抗できない。困った。本当に困った。どうしよう。……ってあれ? 俺、今暴れていたよな? ひょっとして動ける? 
 恐る恐る腕を動かすと、ぎこちないものの動かすことができた。若干しびれが残ってるけれど、これなら充分だ。口元まで動かせるなら異空間倉庫アイテムボックスから取り出したこう麻痺まひやくを飲める。
 これはチャンス! と思い、すぐさまこう麻痺まひやくを飲み込む。すると身体からピリピリとしたしびれが消え去った。俺、復活! 
 元気になってしまえば、こちらのものだ。ドンッと木の幹を蹴りアイビーウッドから逃れ、近くに落ちてた紅盗の斬剣ブラッティスティールダガーを拾う。
 ふふふ、ここからは俺のターンだ。

「よくもエロいことしてくれたなっ! 触手プレイなんて俺の新しい性癖を開花させんじゃねぇーーッ!!」 

 紅盗の斬剣ブラッティスティールダガーを振り回し、触手を切り裂いていく。アイビーウッドはダメージを受けているのか、触手をうごうご動かしていた。所詮しょせんは低レベルモンスター、チートを搭載とうさいしている俺の敵ではないのだ。
 そうして、アイビーウッドの中央に刃を立てる。するとキシャアアアアと悲鳴を上げながら消えていった。その場にはドロップアイテムらしき、拳大こぶしだいくらいのたぷたぷした緑の球体が落ちていた。なにかはわからないけど、拾っておこう。ギルドへ戻って、ミチェルさんに聞けばいいや。
 やっとこのまわしい触手プレイが終わったのだ。やったー! 勝ったぞー! 人としてなにか大切なものを失った気がするけど、とにかく勝ったぞー! 
 喜びのあまりガッツポーズをするが、俺の服はただのボロ切れとなっているので、ほぼ裸だ。このままの状態ではいられない。
 仕方ないので異空間倉庫アイテムボックスから元の世界の制服を取り出して、それを着る。うぇ、なんか変な汁がついちゃいそう。流石さすがに制服は汚したくないし、どっかにクリーニングできるところはないだろうか。
 さて、そんなこんなでギルドに戻って森狼フォレストウォルフの牙を納品する。俺の服が変わったことに気付いたミチェルさんは驚いた表情をした後、困り顔で眉間を押さえていた。俺がアイビーウッドに襲われたことがバレたらしい。なんかすいません。

「とりあえず森狼フォレストウォルフの討伐はクリアできているから、ランクDに昇格したよ。おめでとうシロムくん」
「はは、ありがとうごさいます」
「でもその格好、アイビーウッドに遭遇したんだよね? ……この時期は、まったくと言っていいほど活動してないのに……」

 ミチェルさんいわく、今の時期は冬眠中なんだそうだ。それなのに遭遇しちゃうなんて、俺どんだけ運悪いんだよ。いや、待て。確か破殻への天啓ブレイストランクアップの代償って、モンスターに遭遇しやすくなるだったよな? ひょっとして、その効果が表れたのだろうか。悲しすぎて泣けてきた。俺のスキル、エロに縁ありすぎだろ! 

「ねえシロムくん。もうソロで戦うのは限界じゃないかな? 次は死ぬかもしれないよ?」 

 そう心配そうにミチェルさんは言った。確かにその通りだ。アイビーウッドをやっつけられたのは、ミチェルさんに薬をもらっていたからだ。俺一人でハンターをやっていくのは、もう限界なのかもしれない。
 だがこの世界の人間は男同士で恋愛する。戦闘中にエロエロになってしまう俺は、いつそいつらの餌食えじきになるかわからない。ケツは尊いものなんだ、これ以上蹂躙じゅうりんされてたまるかッ! 

「でも俺が希望するパーティの条件に合う人がいなくて」
「なら、もういっそ奴隷を買うのはどうかな?」 
「奴隷?」 
「冒険者が奴隷を買って戦わせるのは、わりと普通のことなんだよ。主人には生殺せいさつ与奪よだつの権利があるから、決して奴隷は逆らわない。だから奴隷をパーティに入れる人は多いんだ」

 ミチェルさんの話を聞いて、なるほどと頷く。
 奴隷という考えは、すっぽり抜けてたよ。
 でも本当に奴隷は俺を襲わないのか? 戦闘中は、もはや俺の意思とは関係なくエロエロになるのだが本当に襲ってこない? 奴隷×主人っていう下剋上カップリング発生しない? 

「逆らわないって、どれくらい強制力があるんですか? 例えばこう、ムラムラってきて襲ってきたりしませんか?」 
「欲情は生理現象だからどうにもならないけど、奴隷には本人の行動を拘束こうそくする奴隷紋が刻まれるから、シロムくんの許可なしに襲うことは絶対にないよ。それは保証する」

 ミチェルさんが奴隷に関して太鼓判を押す。そうか、ならいいや。仕組みはわからないけど、俺を襲うことはできないらしい。戦闘中どんなにエロくなっても俺を襲えないってことは素晴らしい。だって俺の尊い菊門が守られるんだもの! 
 そもそも俺は秘密が多いのだ。絶対的に俺の味方でいるしかない奴隷というのは、パーティメンバーとして、とても魅力的だ。うん、いいね。

「俺は奴隷を買おうと思います」
「うんそうだね、それがいいよ。じゃあ今から奴隷商に紹介状を書くから、ちょっと待ってて」

 そう言うとミチェルさんは店の奥に消えていく。そして俺はミチェルさんがくれた紹介状を持って奴隷商のところへ向かうのだった。


 奴隷館は繁華街にあり、この町での奴隷の需要を認識させられた。
 店に入って店員さんに紹介状を渡すと、いかにもお偉いさんというつらのおっさんがやってきた。

「これはこれは、ミチェル・アスコート様の縁の方が、ようこそおいでくださりました。私はこの店のあるじのハイネス・ボガードと申します」

 おっさんが手を揉みながらそう言う。
 うん、ミチェルさんの権力が半端なさすぎて正直ドン引きだ。いや、だっていくら紹介状があるったって俺は駆け出しの冒険者だよ? なのに店長が出てきちゃうって、やりすぎでしょう。
 ミチェルさんって本当に何者なの? 前に鑑定してみたら、受付なのにレベル50を超えていたし……只者ただものではないよね? ラノベやアニメで物語の最初のほうに出てくる美形の登場人物はなにかの伏線と相場が決まってるが、ミチェルさんもそうなの? あとで固有イベントでも発生するの? こえええー。
 とりあえず今はミチェルさんが何者かは置いといて、奴隷を手に入れよう。

「あの、それでですね、戦闘奴隷を見せていただきたいのですが構わないですか?」 
「おお、もちろんです。こちらへどうぞ」

 ハイネスさんに案内され、奴隷がいるとおぼしき部屋に向かう。
 建物の奥に進むにつれ、表の華やかな店構えから、どんどん簡素な造りに変わっていった。
 奴隷の住まいにお金をかけたら採算取れないもんね。当然のことではあるが、なんかもやっとするのは俺が奴隷のいない平和な世界で育ったからであろうか。

「こちらの部屋が戦闘奴隷の部屋です。お気に召した奴隷がいましたら、私に声をお掛けください。その者の能力について説明いたします。お望みでしたら個別に呼び出すことも可能でございます」

 つまり個人情報を知った上に面接もできるわけか。でも面接なんてしたことないぞ? せいぜいバイトの面接を受けたことがあるくらいなんだけど。いや、要はフィーリングだよね? この人と一緒にパーティ組めそうだと思ったら、それでいいんだし。よし、頑張るぞ! 
 そう決意し、ハイネスさんに続き中に入る。そして仲良くできそうな人がいればいいなと思っていた俺が見たものは――
 いかついムキムキマッチョのおっさんが通路の両側に整列している光景でした。……なんだ、と? 
 ハイネスさんは俺の動揺には気付かず、つかつか中へ入っていく。そうしてにこやかに説明を始めた。

「こちらの男はレベルがすでに23もあり即戦力になるでしょう。こちらの男はドワーフなので小柄ではありますが力が強く、前衛にうってつけです。こちらの男は――」

 次々と説明をしてくれるが頭に入らない。いや、だって、あのですね、……強面こわもてのおっさんたちの眼光が鋭すぎて心が折れそうです。
 この人たちの主人に俺がなるの? 無理です。ノオォォォォーー!! 

「それでですね、こちらの男は――」
「チェンジで」
「え?」 
「チェンジでお願いします」

 ハイネスさんの説明をさえぎる。いや、これ以上説明されたって、この人たちとパーティ組めませんから。一緒に冒険するとか無理ですから。
 ハイネスさんは困惑の表情でこちらを見てきた。

「お気に召した者はいませんでしたか?」 
「はい。えっとですね、できれば俺と歳が近くて、容姿がいかつくない人がいいんですけど」

 そう言うとハイネスさんは、ほほうと頷いた。

「つまり若い者がよろしいのですな」
「はい、まあそうです」
「ほうほうわかりました。これは気が回らなくて申し訳ございません。確かにお客様からは言いにくい事柄でありましたね。すぐに手配いたします」

 どうやらハイネスさんは、わかってくれたらしい。よかった! 部屋の中にヤのつく自由業的な眼光のおっさんばかり並んでいるのを見た時は、本気でどうしようかと思ったよ! これで安心だね!
 部屋を出て別の場所に向かう。今度の部屋には様々な種族の美少年がいた。よっしゃー! ハイネスさん、わかってくれたのか! そうそう、これくらいの年代の人たちがよかったんだよ! 別に美少年である必要はなかったけれど。むしろフツメンの奴らがよかったけれど。
 ハイネスさんが一人一人説明していくのを、今度はふむふむと聞いていく。だが、なんかおかしい。なんというか違和感を覚える。こいつら本当に戦闘できるの? 

「こちらの少年は兎人族とじんぞく愛玩あいがん用にぴったりです。声も可愛らしいし、まだ若いので長くお使いいただけるでしょう。もちろん初物です」

 ハイネスさんが説明する兎耳の生えた少年を見る。ふるふる震えていて、見る人が見れば庇護欲ひごよくをそそられるのかもしれないが、生憎あいにく俺はなにも感じない。
 いや、だってこの兎耳の子供、鑑定スキルで見たらまだ九歳なんだぞ? そりゃ確かに長いこと現役でいられるだろうが、使えるようになるまでにどれほどかかるんだ? だいたい愛玩あいがん用とか初物とかなんなの? 俺は一体なにをすすめられてるの?
 ちらっと周りを見たところ、この部屋にいるのは八歳から十四歳くらいの男の子ばかりだった。この部屋って、ひょっとしてあれか? アレのための部屋か? 
 愛玩あいがんとか初物とか言ってたし、つまりはそういう人たちを集めた部屋なんだ。もう言わなくてもわかるだろ? 性奴隷たちの部屋だ。ふざけんなああぁぁぁぁーーー!! 
 俺にとって、もっともいらない種類の奴隷じゃねえか! なにが、ほうほうわかりましただよ! 確かに顔が怖くなくて若い子がいいって言ったけど深読みしすぎだろ! 俺は本当にガチでパーティメンバーがほしいの! 
 ダメだこのおっさん、役に立たない。もういい、自分で探そう。
 俺はあたりをぐるっと見渡して、よさそうな奴を探した。俺を襲わなくて戦える奴がいいな。
 ジロジロと探してみたのだが、ここにいるのはやっぱり子供ばかりらしい。別に戦えるなら十四歳でも構わないけど、愛玩あいがん用とか言われる奴らだからか、どいつもこいつもレベルが低い。
 やっぱりこの部屋はダメだ。ハイネスさんに言って別の部屋を見せてもらおうとした時だった。
 視界の端に黒い三角耳をとらえた。ま、まさかあれは!! 
 そいつは部屋の隅で丸くなっていて、つややかな黒髪の上にツンと立ち上がった二つの三角耳がある。間違いない、あれは猫耳だ。俺のあこがれの猫耳なのだ。
 異世界に行ったら、こういう子とパーティを組もうとずっと決めていた。それがまさか現実に……
 そいつは俺の気配に気付いたのか、ゆっくりと振り向いた。緑がかった金瞳きんどうと目が合う。ついに、ついに俺は見つけたのだ。俺だけの猫耳びしょうじ……
 振り向いたそいつのお胸はぺったんこで、顔つきも女の子のものではない。うん、わかっていた。猫耳美少年でした。美少年でした。わかってたよ、このオチは。もちろんわかってたさ。ぐすん。
 それはともかく、こいつは猫の獣人なのだろう。ここで会ったのもなにかの縁だし、せっかくなので彼を鑑定してみる。


【名 前】  フィルエルト・キルティ
【年 齢】  16
【適 性】  ??
【階 級】  Lv10
【スキル】  なし


 スキルはないが、レベルは10とちょっと高めだ。特にこの部屋にはレベルが10を超えている子がいないから強いように感じる。というか俺より高いし、普通に強いんじゃない? さっき鑑定したら、俺レベル8だったよ! 
 まあ戦闘奴隷の中にはもっとレベルが高い子がいるだろうから、パーティメンバーに最適かというと微妙なところだが、でもなんか気になってしまう。猫耳だからだろうか。猫耳だからですね。とりあえずハイネスさんに聞いてみて、それから判断したって遅くあるまい。

「ハイネスさん、あそこにいる猫耳の彼はどういう子なんですか?」 
「え!? フィルエルトのことですか!?」 

 ハイネスさんは心底驚いたような声を出した。なんだ? フィルエルトには問題でもあるのか?

「確かにフィルエルトはこの容姿ですし、お客様が目をとめるのも無理はありませんが……」
「なにか問題があるんですか?」 
「ミチェル様のご紹介の方に、嘘を申し上げるわけにはいきません。フィルエルトは歳が十六なのです」

 鑑定したから知ってたけど、それってなにか問題あるのか? 

「ご存知の通り、男子というのは十五で成人し、身体的にも大きな成長を遂げます。中にはまれに体格が変わらない方もいらっしゃいますが、フィルエルトは今年すでに十センチも身長が伸びています。これからも成長しますでしょうし、どのような容姿になるかは保証しかねます」

 もちろん知りませんでした。なるほど、俺が十八歳と知ったグレイが驚いたのは、そのせいだな。十五を過ぎると皆ゴツくなってしまうのに俺がムキムキじゃないから。……ほっとけ、俺の成長期はこれからくるんです。俺の元いた世界では後伸びする男の子も多いんです。
 とにかくフィルエルトは今、成長期真っ只中ただなからしい。アレ的な目的な人にとっては、ショタがゴツい青年になってしまうのは困るだろうが、俺にとっては万々歳だ。体格がよくなれば、それだけ戦力になるだろう。どんどん成長するといい。

「それにフィルエルトは処女ではありません。彼はとある貴族に飼われていたのですが、十五歳になり成長が始まったので、ここに売られてきたのです。早い話が在庫処分品ですね。お客様にはすすめられません」

 しょ、処女ではないのか。いや、俺も処女じゃないけど。お互い大変でしたな。あれ? なんだか視界がにじんできたよ? 

「そしてこれが、おすすめいたしかねる最大の理由、フィルエルトは前の主人に逆らったという事実があります」
「え、フィルエルト逆らっちゃうんですか?」 

 それはよろしくないことだ。奴隷という待遇は可哀想だけど、俺はなにより自分の尻を守ることに重点を置いている。エロスキルを所持する俺を、ムラッとしたから襲いましたなんていう奴は当然却下だ。というか奴隷は主人に逆らえないんじゃなかったの? 

「前の主人が言うには抱かれるのを嫌がり、挙句、爪を立てて抵抗したそうです。私も詳しくは聞き出せなかったのですが『あんなに可愛がってやったのに最後に嫌がりおって。まあ、それはそれで楽しめたがな』と。おっと、これは余計な一言ですね。とにかく前の主人は随分ずいぶんと腹を立てているようでしたよ。ですので、特にお客様のような方にはオススメできませんね。おそらくフィルエルトは炭鉱に送られるでしょう」
「すいません、フィルエルトください」
「え?」 

 ハイネスさんは目を丸くする。確かにこれだけ欠点を挙げられれば、普通なら買うのを避けてしまうのだろうけど、生憎あいにくとそれらは俺にとっては全然デメリットではないのだ。
 これから成長していくならお買い得だし、処女かどうかは心底どうでもいい。主人に逆らったのも、抱かれるのが嫌だっただけでしょ? 大丈夫、俺はフィルエルトとそういう行為をするつもり、まったくありませんから。男とするアレコレには一切興味ありませんから! 

「ほ、本当にフィルエルトでよろしいのですか? 猫人族びょうじんぞくをお望みでしたら他にも見繕みつくろって参りますが」
「いえ、フィルエルトがいいです。彼を買います」

 別に猫人族だからフィルエルトにしたんじゃないよ? まあ確かに猫耳には心動かされるものがあったけど、フィルエルトにした最大の理由は――
 尻 を 狙 わ な い こ と だ ! 
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