男だらけの異世界トリップ ~BLはお断り!~

空兎

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1巻

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   第一章 冒険者編


 Q. 異世界へ行ったらなにをしたいですか? 
 A. 勇者になって魔王を倒して、ハーレム作って女の子とイチャイチャしたいです。


 男なら、誰だって一度はあこがれることだろう。ここではないどこか別の世界に行って唐突に強くなってモテて冒険をする、そんな物語の主人公みたいな人生に。
 少なくとも俺はそうなりたい。切実になりたい。現実ではまったくもってモテないまま年齢イコール彼女いない歴を更新しているからこそ、異世界へ行って可愛い恋人とイチャイチャすることを夢見てしまう。
 え? 高校三年生になってもまだ厨二病ちゅうにびょうが抜けきらないのかって? これから本格化する過酷な受験戦争を前にうつになっているのだから、妄想くらい自由にさせてください。ああ、神様。どうか俺を異世界トリップさせてください! と、わりと本気で願う。
 別に今が、どうしようもなく不幸というわけではないのだ。可愛いけど生意気で兄をパシリだと思っている妹や、超絶美少女な幼馴染おさななじみがいるのに、そいつらは俺の親友が好き――という無慈悲な現実はあれど、この世界が別に嫌いではなかった。
 でも現状に満足もしていなかった。
 異世界から召喚された勇者様が魔王を倒してお姫様とハッピーエンドになるように、俺も……、俺も物語の主人公のように生きてみたい……!
 と常日頃から思っていた、ら……ッ! 
 ある日、気付けば見知らぬ土地にいた。あたりにはレンガ造りの建物が並び、獣耳けものみみを生やした人や爬虫類はちゅうるいっぽい顔の人たちが歩いている。中世ヨーロッパのような外観の町で俺は呆然ぼうぜんと立ち尽くしていた。
 ――そういえば、ここに来る直前までの記憶がない。だけれども周りの風景は、どう見ても日本ではないし、こんなところに旅行に出かけた記憶もない。うん、これはもう間違いないですね。
 どう考えても異世界にトリップしていますよ! 神様ありがとう! 
 やっふー! 来たよ来たよ異世界だよ! ついにあこがれの異世界に来たんだよ! 
 毎晩枕元でお祈りしていたのが通じたんだね! 異世界に行かせてください! あとエロい夢見たいです! と。後者は毎晩叶ってたけど前者はなかなか叶わなくてあきらめかけた。でもついに実現したんだね!
 そういえばラノベではお決まりの、神様からの異世界の説明とかなかったけど大丈夫かな? 『貴方の寿命を間違って終わらせてしまったので、お詫びに異世界に転生させます』とかなんとかってテンプレのやつ。
 それと、俺の最期ってどうなったんだろ? 車にかれそうになった黒猫を救ったり、学校を襲ってきたテロリストから友達を守って死んだりとか、そんな感じかな? 
 むむむ、まったく記憶がございません。でも、まあいいや! 美少女をかばって死んだってことにしておこう。それでこの世界でその美少女と再会してラブコメが始まるんですね、わかります。
 ともあれ、ここで生きていくためにはないと困るものがありますよね? 
 この現代ゆとり系男子である俺が、突然異世界に放り込まれて生きていけるはずがない。転生したばかりですぐ死ぬはずないと信じたいし、ということはアレだ、トリップ特典があるはずだ! 
 俺が知る限り、ラノベやアニメの歴代トラベラーはトリップ特典をもらっていた。ならば俺にだってあるはず!
 ということでさっそく、なにかチートな能力や武器を授かっていないか調べることにする。道の真ん中に堂々と立っていると邪魔なので端に寄った。
 服装は制服のままだなー。持ち物はハンカチ、ちり紙、スマホくらい。うん、持ち物も変わりはないや。
 じゃあ力が強くなったのかな? と思ってその辺の壁を思いっきり殴ってみる。壁に変化はないが、俺自身も痛みはあまり感じなかった。なんとなく、熱さを感じるくらいだ。おお? これはきたんじゃね? ダメージ無効的なスキル持っているんじゃね? 
 どんなスキルを持っているか調べてみよう。こういう時、俺の好きなラノベとかではステータス画面を見れば自分が持っているスキルがわかるんだよね。だけど、ステータス画面の出し方がわからない。適当にスキル名を唱えたら、発動しないかな。とりあえず、やってみるか。
「スキル防御」、「スキル魔法」、「スキル剣術」、「スキル探索」とブツブツ唱えていき、「スキル鑑定」と言った瞬間、世界がブイーンとにじんで様々な情報が空中に文字として現れた。
 あらゆる物や人を鑑定するスキルのようだ。行き交う人のステータスも見ることができた。
 なるほど、自分自身のことも鑑定して、ステータス確認できるパターンか。
 やっぱりあったよ、俺のトリップ特典! もしかして他にもスキル持っているんじゃね? 
 ――俺の鑑定結果は、こんな感じだ。


【名 前】  シロム・クスキ
【年 齢】  18
【適 性】  ?? 
【階 級】  Lv1
【スキル】  鑑定
  条件 :異世界転生すること
  能力 :人、物問わず視界に映したものの詳細を知ることができる
  代償 :なし
【スキル】  異空間倉庫アイテムボックス
  条件 :異世界転生すること
  能力 :異空間に10+Lv個の収納箱を所有できる。1つの箱には同じ種類のアイテムなら99個まで収納可能
  代償 :なし
【スキル】  身勝手な防御力エゴニスト 
  条件 :異世界転生すること
      ??の適性があること
  能力 :受けた攻撃のダメージを1/10にする。状態異常系の攻撃は防御できない
  代償 :感度が10倍になる
  

 うおおおっ!! 俺ヤバイ。トリップ特典三つもあるじゃん! 
 一つ目は『鑑定』。視界に映ったものの情報を得ることができる。
 これはお得だ。つまり相手の情報が丸わかりということでしょ? 異世界にきたばかりだからノーリスクで情報を得られるのは本当に有難い。この能力には、これからお世話になりそうだ。
 二つ目は『異空間倉庫アイテムボックス』! これはもう王道だよね! 
 いちいち物を持ち運ばなくて済むという恩恵おんけいを受けられる。
 本当に使えるのかな? とその辺にあった小石を入れてみたら、きちんと収納できた。ただし手で触れた物しか収納できないようだ。遠くにある大岩に「収納されろ」と指令してみても、なにも起こらなかった。
 そして三つ目はきたよ! きたよ! 
身勝手な防御力エゴニスト』、ユニークスキルだぁー!! もうこれはチートの香りしかしない! 
 ふむふむ、スキルの名前はエゴイストではなく、エゴニストなんだな。
 どうやらさっき俺が壁を殴ってもあまり痛くなかったのは、このスキルの影響のようだ。オート発動でダメージを十分の一にするなんて、なにこれ素敵。別に運動が苦手ということではないが、実際に戦闘するとなると俺の防御力なんてペラペラでお粗末そまつな紙レベルだろう。それを補ってくれるこの能力は素晴らしい。
 だけど気になることもある。その代償だ。
 感度が十倍になるっていうのを聞いて、エロいこと考えるのは俺だけだろうか? 違うよね? 皆もエロ同人みたいな展開を想像しちゃうよね? でも俺の感度が上がるって、どういう状況なんだ? まあよくわからないけど、スキルを使ってみれば判明するだろう。
 これらのスキルが異世界トリップの特典っていうのは、条件に異世界転生することって書いてあるし間違いないだろう。それはそうと、身勝手な防御力エゴニストの条件の『??の適性があること』って部分は気になります。適性って、鑑定スキルではわからないのかな? 
 なにか条件を満たせばわかるのかもしれないし、今は置いておこう。きっと今後、勇者の適性が出て、お城に行って伝説の剣とか抜いちゃうフラグが立つのですよね、わかります。どんどんRPGっぽくなってきて生きるのが楽しいです。
 というわけでトリップ特典も無事確認できたし、冒険者ギルドを探してみることにする。異世界にきたんだから、これから俺も冒険者になってモンスター退治とかしちゃう感じですよね。やばい、めっちゃ興奮してきたわ。これは夢のハーレムなんかも作れるかもしれない。
 道行く人に冒険者ギルドの場所を聞いてみたら、わりとあっさり教えてくれたので比較的早く見つかった。
 石畳いしだたみでできた道を歩き、早速行って中に入ると、いかにもギルドというような内装だ。カウンターと酒の並ぶ棚があることから、酒場も兼ねているのだと察する。まあギルドって、おっさんのたまり場という印象あるし、そのほうが色々勝手がいいのだろう。
 それにしてもこの世界に来てから、まだ女の子を見かけていない。冒険者ギルドだし仕方ないと思うけど、やっぱりここにも女の子がいない。むさいおっさんばかりです。
 だがしかし! まだ俺はあきらめない! 何故ならギルドには看板娘のお姉さまぁー! な受付嬢がいるはずだからである!
 ギルドの受付のお姉さまといえば、年上なのにちょっと抜けてて世話好きで、ミニスカに眼鏡と相場が決まっている。
 俺、年上のお姉さまに『あら、僕、可愛いわね。お姉さんといいことしない?』って言われたいんだ。
 まあギルドのお姉さまにそこまで望むつもりはない。その展開は童貞には早すぎる。お姉さまを見れるだけで十分です。
 さあ、お姉さまとのご対面だ! と思って受付に行くと、そこには金糸のような美しい髪を持つ美人が座っていた。

「すいません、あの、冒険者になりたいんですが」
「おや、随分ずいぶんと可愛らしい方ですね。では手続きをいたしましょう。お名前は?」 

 こちらを向いた金髪美人はとろけるような笑みを浮かべそう言った。美しいお姉さまにこんな微笑みを向けられたら、俺は魅了されとりこになったであろう。お姉さまであれば。
 そう、受付に座っていたのは男だった。ちょっと待てててぇぇぇーー!!
 ミニスカの眼鏡っは!? なんで男なの!? 女の子はどこ行ったの!? 

「シ、シロムです」
「シロムくんですね。僕はミチェル・アスコートと言います。それではギルドの説明をしますので」
「あの、受付嬢はいないんですか?」 
「え?」

 口を挟むべきではないとわかっていても、思わず言葉が出てしまった。だって! 本当にギルド嬢に会うのを楽しみにしてたんだもん! あきらめきれないよ! 

「受付嬢? それはなんです?」 
「えっと、ギルドの受付をする女の人のことで」
「ああ、めすのことですね。面白いことを聞きますね。人族にめすはいませんよ?」 

 にっこり笑いながら、ミチェルさんは俺を絶望の底に叩き落とすことを言った。
 いわく、この世界に女の子は存在しないらしい。生殖活動も男同士ででき、子供も男が産める。だからめすは存在する必要がなくなり消え去ったと、偉い学者様が言ってたとか言ってなかったとか。かろうじて魔物の性別にめすというものが存在するらしいけど。ふ、ふざけんなぁぁぁぁッ!! 
 女の子のいない世界だと!? そんな世界は認めんぞ! チェンジだ! チェンジ! うわあああっ! こんなはずではぁぁーっっ!
 俺は猫耳美少女と童貞卒業して勇者になって、魔王を倒して、最終的に王女様と結婚して幸せになるはずなのに、なんでこんなことに!!
 あんまりな状況に絶望して、俺はむせび泣いた。

「どうかしましたか?」 
「あ、いえ、なんでもないです。ギルドについての説明をお願いしてもいいですか?」 

 正直、メンタルやられて心折れかけているんだけど、うん。異世界にきたんだから冒険したいです。
 ミチェルさんがギルドについて話をしてくれる。どうやら冒険者にはS、A、B、C、D、Eの六ランクがあるようだ。Eが最弱、Sが最強で、もちろん俺はEランク。Sランクまでのぼり詰めると一国の将軍並みの権力が与えられ、そして色んな国々から仕えてほしいと求められるらしい。そんなSランク冒険者は、まだこの世界に五人しかいないという。Sランクにもなると一人でドラゴンの討伐を任されたりもするそうだ。
 シロムくんもなれるといいね、とミチェルさんに言われてこくりと頷く。Sランク冒険者かぁ、六人目になれたら、めちゃめちゃカッコいいよね。うん、決めた。俺の異世界での目標はSランク冒険者になることにしよう。強いし権力持てるし希少価値も高いなんて最高だろ? 俺はすでに複数のスキル持ちだから、きっとあっさりなって周りに『最速でSランク冒険者になったシロムだぞ? すげえ! かっけええ!』と言われることだろう。今から楽しみである。
 まあ、それはさておき今の俺はEランクでしかない。Eランクの俺が昇級するにはクエストを十個以上成し遂げた後、昇級試験を通らなければならないそうだ。試験まであるとはなかなか面倒だが、ランクが上がればクエストの難度も上がり、命の危険もありそうだから慎重になるのは当然だろう。
 さて、話も聞けてギルドへの登録も済んだし、早速クエストを受けてみるか。
 ミチェルさんにEランクで受けられるクエストを教えてもらう。


《依頼主 ギルド》

 内 容:ルソク草の納品
 納品数:10
 報 酬:大銅貨1枚 ※超過分も買い取り可能

《依頼主 ギルド》

 内 容:ラックルの花の納品
 納品数:5
 報 酬:大銅貨1枚

《依頼主 ベネディック牧場》

 内 容:農場の羊の見張り
 期 間:終日
 報 酬:大銅貨3枚

《依頼主 ベルト・ブラインド》

 内 容:レイ米の運送手伝い
 期 間:終日
 報 酬:1袋運ぶごとに銅貨30枚

《依頼主 ギルド》

 内 容:ゴブリン討伐
 納品数:10体分のドロップアイテム
 報 酬:銀貨1枚 ※追加の討伐は1体につき大銅貨1枚


 この五つが、Eランクの俺が受けられるクエストらしい。にしても大銅貨とか銀貨とかお金の単位がわからない。ゴブリンの討伐が一番冒険者っぽいお仕事だけど、俺まだ武器を持っていないんだよな。いくらチートスキルを搭載とうさいしていても、武器がなければハントは無茶だろう。

「うーん」
「とりあえず最初はルソク草かラックルの花の採取がオススメですよ。いきなりモンスターの討伐は難しいでしょうし」

 ミチェルさんの言葉を聞いて、もう一度クエストを確認する。確かに言われた通りの気がする。
 お金貯めて武器を買うまでは、ゴブリンとは戦えないし、残りの二つはクエストというよりはバイトみたいだ。採取もお遣いのようなものだけれども、まあまだ冒険っぽい気がする。うん、そうだな。これにしよう。

「じゃあ、すいませんミチェルさん。ルソク草のクエストでお願いしま……」
「おい、ガキ。見ない顔だな? 新しい冒険者か?」 

 その声に呼応して、ミチェルさんが「グレイさん」と困ったような声を上げる。
 うん、誰? 
 俺の声をさえぎっていきなり話しかけてきたのは、背の高い紺色の髪のイケメン野郎でした。野郎に声かけられても嬉しくありません。イケメンだと、さらに腹が立ちます。ちょっと顔がいいからって調子乗んなよ! 
 にしてもこのイケメン、なかなか強そうである。
 腰に差している剣はうろこおおわれていて見るからに高価そうだし、黒いよろいも男心を刺激するイカしたデザインだ。カッコいい! 黒いよろいってあこがれるぜ! で、こいつ何者だ? 俺にはトリップ特典の鑑定スキルがあるので見てみる。


【名 前】  グレイ・カルステニウス
【年 齢】  27
【適 性】  双剣
【階 級】  Lv63
【スキル】  双蛇の乱舞ブラインシックル
  条件 :双剣の適性があること
      Lv45以上であること
  能力 :やいばを振るうことにより斬撃を飛ばせる
  代償 :斬撃を放つごとに相応の時間硬直する


 イケメンとかふざけんなと思ったら、レベルとスキルもとんでもなかった。
 レベル63だと!? え、それってかなりすごいんじゃね? しかもこいつ、かなりチートなスキルを持っているぞ!?
 斬撃を飛ばせるってどんだけ!? 俺もほしいと思ったけど、双剣の適性がないと無理なようだ。適性って武器とかそっち系のことだったのか。ところで俺の適性ってなんだろね。さっき見た時は『??』となっていたけど……。今度、誰かに聞いてみよう。
 俺がそんなことを考えている間に、ミチェルさんが口を開く。

「グレイさんは、なんでこんなところにいらっしゃるんですか? 確か貴方は王都の帝国騎士団に呼び出されていたはずでは?」 
「あんな脳筋連中に興味はねえよ。適当に言って蹴ってきた。それよりミチェル、こいつは誰だ?」 

 そう言うとグレイとかいう奴は、不躾ぶしつけに俺の顔をジロジロと覗いてきた。なんだよ俺の顔には目と鼻と口くらいしか、ついてないぞ? それともなにか、あまりにも自分の顔の造形と違う平凡な奴がいるから気になって見ちゃってるんですか? 滅べ、イケメン。喧嘩けんか売ってるなら買うぞ? 俺のレベルが上がった三年後くらいにな! 

「彼はシロムくんで、たった今ギルドに登録してくれた新米冒険者です。まだ初心者ですから、からかわないであげてくださいね?」 
「こいつがか? 腕もひょろいし力もありそうには見えねえし、どこかの坊っちゃんと言われたほうが納得できるぞ? お前、本当に冒険者になりたいのか?」 

 怪訝けげんな顔をしながら、グレイが俺に話しかけてくる。先ほどジロジロと俺のこと見てたのは、身体つきを品定めしていたらしい。
 そりゃ俺だって、自分のことがムキムキマッチョで強そうに見えるとは思わないけどいいの! ほっとけ! 俺にはトリップ特典のチートなスキルがあるから大丈夫なんです! 自分がちょっと強くてイケメンで細マッチョだからって調子乗んなよ! 

「はい。冒険者になりたいです。俺、今無一文でどうしてもお金稼ぎたくて」
「それだけの容姿なんだから、金稼ぎたいならアッチを売ったほうがいいんじゃねえか? なんなら俺が最初の客になってやってもいいぜ?」 
「ちょっとグレイさん!」 

 ニヤニヤと不快な笑みを浮かべながらそう言うグレイを、ミチェルさんがとがめた。
 アッチってドッチだ? 楽にお金を稼げる方法なら少し興味はあるが、話の流れとミチェルさんの声色からヤバイ感じのお仕事であると推量される。
 ……これは俺の想像なんだが、紹介されそうになったお仕事って夜のちょうとかエロス的なやつですか? なに言っているんだこいつ。何故俺にそんなことをすすめるんだよ。

「そういうのは好きな人とすると決めているのでしません。それに冒険者に昔からあこがれていたんです」
「ふーん」

 俺の言葉を聞いたグレイは、気のない返事を返す。つまらない答えだったから俺に興味を失ったのだろうか。それなら是非ともそのままであってくれ。

「そんなに冒険者になりたいなら、俺がついてってやろうか?」 
「え?」 
「初めてのクエストなんだろ? 俺がパーティ組んで一緒に受けてやるよ」

 興味の方向が変にシフトチェンジしてしまったようだ。一緒にクエストを受けるだと? なんでそんな話になったの? 

「グレイさん!」 
「なんだよミチェル。Sランクの俺が新米冒険者の手助けをしてやるって言ってるんだ。なにが悪い」
「それ自体は悪くありませんが、シロムくんは今登録したばかりでギルドのルールすら知らないんですよ? まだ上級冒険者と行動を共にするのは早すぎます」
「そんなの俺が教えればいいだろ? なぁ、お前だって俺と狩りに行きたいだろ?」 

 そう言いながらグレイは、ふたたびニヤついた笑みを向けてきた。
 どうやらグレイはSランク冒険者らしい。どんだけスペック高いんだよこのイケメンと思っていたら、世界最高峰の冒険者の一人なのか。で、なんで世界に五人しかいないSランク冒険者が、こんなところにいるんだよ。暇なの? Sランク冒険者って実は暇なの? 
 まあ、それは置いといて、どうやらこのグレイという奴が俺を冒険に連れてってくれるということらしい。何故そういう考えに至ったのかは謎だが、話だけ聞くと俺にとって利があるように聞こえる。
 どう言いつくろおうと俺はこの世界ではペーペーだ。だから熟練者から冒険のイロハを学ぶことができるのは、とても美味おいしい。だって俺はまだ剣の振り方も知らないんだもん。武器の扱い方やモンスターの知識など教えてもらえるのは助かる。うん、得だ。お得だ。
 俺はじっとグレイの顔を見つめる。それに気付いたのか、グレイはニヤリと笑った。

「来るだろ? クソガキ」

 答えは決まっている。こいつとパーティを組むのはメリットが大きい――

「だが断る!」

 そう言った瞬間イケメンの顔が引きつった。ははっ! ざまあー! 
 いくらグレイの提案が魅力的でも、俺はそれを受けるわけにはいかない。俺は人とは違うスキルを持っていて、それをむざむざ他人にはさらせない。特異な力はいらん軋轢あつれきを生む。頼りにされたり尊敬されたりするのならいいが、恐れられたり攻撃されたりするのはごめんだ。
 ……なんてくだくだ言い訳したが、結局のところ俺の本心は『イケメンと一緒にいるなんてごめんだ! パーティは可愛い女の子としか組まないって決めてるんだよバーカッ!』である。この世界に女の子はいないらしいけどさっ!

「俺の誘いを断るだと? てめぇ、ちょっと可愛いからって調子に乗りやがって」
「いや、自分のことを可愛いなんて思っているわけないだろ、どういう思考回路だよ。お前みたいなイケメンの野郎にそんなこと思われたところで、嬉しくもなんともないわ!」 
「優しくしてやれば付け上がりやがって。あんまり生意気言うと、ここで犯すぞ」
「ちょっとグレイさん、物騒なこと言わないでください。それに本人が断ったのだから、もういいですね? 今日のところはお引き取りを!」 

 そうミチェルさんが言うと、グレイはチッと舌打ちをして俺をにらみ付け去っていった。グレイが扉から出て見えなくなったところで、俺はほっと一息つく。
 こええー、冷静に考えたら俺、Sランク冒険者に喧嘩けんか売っちゃったんだよな。ヤバイかも。うん、夜道は歩かないようにしよう。

「ごめんねシロムくん。グレイさんはSランク冒険者で腕は確かなんだけど、ちょっと問題があってね」
「いえ、ミチェルさんは悪くありません。それに別に気にしてませんから」

 まあ冒険者がならず者っていうのは、もうデフォルトだから仕方ない。俺もそんな奴らにめられないように早く強くなろう。

「そう言ってもらえると助かるよ。それにしてもグレイさんの男癖の悪さには困ったものだなあ。シロムくんが、ちゃんと断れる子でよかったよ」
「え、男癖が悪い?」 
「グレイさんは気に入った人を見ると、すぐ食べちゃうんだよね。シロムくん可愛いから、おそらくグレイさんの好みだったんだと思う」
「はは。俺、別に可愛くなんてありませんよ」

 俺は顔を引きつらせながらそう答える。やっぱりそういう意味だったのね! 
 俺、うしろのバージン狙われていたのかよぉぉー!! こえぇぇー!! 
 男しかいない世界だから、エッチな行為も男同士でするのが当然なことはわかる。だが自分もその対象に見られているのだと聞くと泣けてくる。待って! 俺って本当にノーマルなの! そっちの世界にはいけないの! 尻をささげることはできません! 

「シロムくんは可愛いよ」

 俺がカルチャーショックを受けていると、ミチェルさんがにっこりと微笑んできた。

「子供かなと思ったけど、見た目ほど幼くはないのかな? 僕はシロムくんのことタイプなんだけど、シロムくんはどう?」 

 グレイに取られなくてよかったと付け足し、嬉しそうに笑うミチェルさん。そんな彼に俺は言いたい、ブルータスお前もか。
 男だらけの現状に、俺のメンタルが致命的なダメージを受けてしまう。
 とはいえ俺は、このファンタジーな世界で生きていくんだ! 女の子とのアレコレは叶わなくとも、このリアルRPG世界で勇者やハンターになる夢は捨てない! 元の世界への帰り方もわからないし、そもそも元の世界で死んだから転生した可能性も高いし、冒険を楽しんでいこう! 
 ゆくゆくはモンスターを狩って俺☆無双! とかしたいが、今は武器もお金もない。まずは採取クエストを受けてお金を稼ぐことにする。

「じゃあ武器代を稼ぐためにも、ルソク草の採取クエストを受けたいです」
「構わないけど、シロムくんは武器を持ってるの? 森はモンスターが出るから護身用の武器は持って行ったほうがいいよ?」 

 え、森に行くには武器がないといけないの? でも俺は文無しで、武器を買うにはクエストを受けて森に行かないといけない。なにこれ詰んでませんか? 俺、冒険者できないじゃん。

「え、そうなんですか? 俺、手持ちが全然なくて武器を買えないんですが、どうしたらいいでしょう?」
「……そうだ、冒険者がいらなくなった昔の武器をいくつか寄付してくれているから、一つ好きなのをあげるよ。処分品のような物だし欠けてたりびたりしているけど、丸腰よりはいいよね」

 そう言ってミチェルさんは奥に引っ込むと、なにやら金属音のする箱を持ってきて俺の前に置いた。
 中を見ると一部が欠けた刃物やびた短剣なんかがたくさん入っていた。
 おお、なんか無料ただで武器を手に入れられそうだぞ? 大したものはないっぽいけど、それでももらえるだけ有難いや。
 ガチャガチャと箱をあさって中を調べる。その中にびたように見える赤黒い短剣があった。お、これとかどうだ? せっかく鑑定スキルもあるんだし、見てみますか。


【名 前】  紅盗の斬剣ブラッティスティールダガー
 ランク :A
  能力 :斬りつけた相手の血を吸収し持ち主のかてとする。持ち主の傷、及び体力を回復する


 …………は? 
 思わず二度見する。え、処分品って言っていたよね? なんか、とんでもないものが交じっていたんだけど、どういうこと? ブラッディ……いや、ブラッティか。エゴニストといい、英語と造語が交じってる感じか。で、コレはランクAの武器で、しかも『傷、及び体力を回復する』って機能も付いているの? うわああああっ、つええええええっ!? え、ちょっと待って、なんでこんなとんでもない剣がこんなとこ入っているの!? そんでもってこれ、本当にもらっていいの!? 

「ミチェルさん、あの、本当にコレもらっていいんですか?」 
「うん、どれも今の中級冒険者たちが初心者の時に使っていた武器だからね。切れ味のいいものはないだろうけど、ないよりましだと思うし」

 ミチェルさんは、あっさりもらっていいと言う。いや、絶対これ初心者用の剣じゃないと思うけど、くれると言うなら遠慮なくもらいますよ! やっふー! 早速俺のスキルが仕事しましたね! 早々に性能のいい武器を手に入れられてラッキーですわ! 

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