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第二部
四角関係
しおりを挟む許嫁?ライドとミロが許嫁?おっかしいなー。俺の知っている許嫁って婚約者とかそういう意味だったはずなのに言葉の意味が状況にマッチしてないぞ?あ、わかった。異世界だと許嫁は幼馴染とか親友っていう意味の別の単語なんだな。やれやれ、またBL率が高まったのかと冷や汗かいたよ。
「それは親同士が勝手に決めただけのことだろ?別に無理して従うことはねえぞ?」
「ちがうよライド、僕は無理なんかしてないんだよ。昔から強くてかっこいいライドに憧れていて、君のお嫁さんになりたいとずっと思っていたんだ。好きだよライド。僕と一緒になって下さい」
そういってミロがライドに詰め寄る。身長2m超えているせいでハタから見ていても威圧感が凄い。声は少年なのに見た目は超ガテン系のムキムキマッチョさんですね。そんなギャップはいらんかったわ。
はい、ということで許嫁は俺の知っている許嫁で間違いないらしい。やっぱりホモだったよ。しっかりホモだったよ。なんでこんなホモとばっかり遭遇するんだろうね。世界に男しかいないからか。泣いた。
「ミロ…、わりぃ。お前の気持ちには応えられねえ」
「どうして、なんでだよライド。僕はあの村で君の次に強かったじゃないか。より強い嫁を得ることが虎人族の本能なのに僕のどこがダメなんだよ」
「確かにお前は強えし虎人族としては優秀な男だからあの村にいたらお前を嫁にしてただろう。だけれども今の俺には好きな奴がいる。だからお前を嫁にはできねえ」
ミロはライドのお嫁さんになりたくてわざわざ村から出てきたらしい。故郷を飛び出し好きな人を追いかけるなんてロマンチックな話ですね。普通の恋愛話ならメロドラマが始まりそうな展開なのに登場人物が全員男なせいでまったくトキメキが起こりません。まあというわけでなんの感嘆もなく2人の痴話喧嘩を見ているとライドがとんでもないことを言ってきた。好きな人?ちょっと、待て。それってまさか…、
それを聞く前にライドは俺の隣に立ち肩に手を回してきた。
「俺はこのシロムのことを嫁にしてえんだ。わりぃが諦めてくれ」
「気安くシロム様に触らないで下さい。いくらライド様といえど容赦できません」
が、すぐに手を退け俺から一歩距離を取る。横を見るとフィルも立ち上がり両手にダートを構えていた。うちのセコムが発動したようらしい。あまりの急展開に思考がついていかないで呆然としていると目の前に同じく状況を理解できず狼狽えているミロの姿があった。よかった、同士がいるわ。やっぱり意味わかんない展開だよね、俺にもわからん。
「え?ライドはそのシロムとかいう奴が好きなんだよね?でも猫人族の奴が庇ったってことは2人は恋人なの?」
「いえ、そんな恐れ多いものではありません。僕はシロム様の奴隷なのでシロム様を守ることは当然ということなだけです」
「てとこはシロムはライドの想い人ってことか。そういうことだよねーーッ!!」
瞬間、ミロが立ち上がり俺に向けて拳を振りかぶる。
え、ちょ、なんで俺が殴られないといけないの!?もしかしてライドに好かれているってことで嫉妬されて攻撃受けそうになっているの?なんというとばっちり、俺全然悪くないじゃん!
取り敢えず、防御力上がっているし身勝手な防御力さんがいるから大丈夫だと思うが殴られたくもないので全力で避ける。しかし、ミロの拳が俺に届く前にライドが身体を割り込ませその攻撃を受け止めた。
「邪魔をしないでライド!ずっと、ずっと、僕の方が好きだったのに、この泥棒猫ッ!僕はライドの許嫁だよッ…!」
「落ち着けミロ。それでシロムに攻撃を仕掛けるのは間違っているだろ。誇り高き虎人族が無様なさまを晒すな」
片手を掴まれながらそれを振りほどこうと必死にミロが暴れる。しかしライドの方は余裕があるようでそれなりに体格差があるはずなのに簡単にいなしていた。これはレベルの差なのか?それてもライドの実力か?どっちにしてもライド強えわ。
「それをいうならライドだって虎人族の誇りを汚しているよ!虎人族は強い嫁を得ることを至極としている。なのにそんなヒョロイ奴を選ぶなんて容姿に惑わされているんだよ!」
「確かにシロムが可愛いから好きだっていうのはある。だけどそれだけじゃねえよ。シロムは強えよ。お前よりも、俺よりも、だから俺はシロムのことを嫁にしたいんだ」
その言葉にぴたりとミロの動きが止まる。そしてライドの言ったことを理解すると信じられないとばかりに元々大きかった目をまん丸に見開いた。
「ライドより強いって、何言っているんだよ。そんな小さくて薄い身体つきの奴が強いわけないじゃないか。騙されているんじゃないの?」
「俺はシロムと一緒にパーティ組んでダンジョンに入っているんだ。シロムの実力は知っている。こいつはとんでもなく強い奴なんだ」
ミロの言葉をしっかりとライドが否定する。茫然とするミロに攻撃する意思はないと感じたのかライドがミロの手を離す。ミロの両手が力なく降ろされた。
「そんな、だって、おかしいんだよ…。ライドはフー村で1番強い虎人族なのにそれより強いなんてあり得ない」
「強さのことで嘘ついたりしねえよ。シロムの実力は本物だ」
「そんなこと言われても納得できない。ねえ、本当に強いなら証明してよ。君はライドよりも強いんだろ?」
話し合いを傍観しているとこっちに飛び火した。キッと睨みつけるように俺を見てくるミロに俺はげっ、と表情を歪める。
ええーっ、今話し合いで解決したのではなかったのかよ。ホモの修羅場になんか巻き込まれたくないからマジほっといて欲しかったのに俺が何かしないといけない雰囲気になっているよ。どうしよう、なんとかするにもこれ結構難しい案件だぞ?
俺の攻撃力の大部分は紅盗の斬剣によって支えられている。ということで俺は対人戦はまったく得意じゃないのだ。モンスターならともかく人を斬るのはめっちゃ抵抗あるしライドと同じ虎人族なら身体能力すごいんだろ?まともに戦ったとしても紅盗の斬剣が当たる気がしません。強さを示すのに一対一の勝負だと勝ち目が全然なさそうである。
困っているとフィルが目配せで『殺りましょうか?』と伝えてくる。いやいや、さすがに落ち着こうフィル。めんどくさいホモだけどミロはライドの幼馴染だ。やっちゃうのはダメですよ。相変わらずうちのセコムは優秀だけど過激です。
さて、どうしよう。ミロと勝負しても勝ち目薄い上に勝ってもライドの嫁の座を獲得するという罰ゲームのような特典しかないわけだからまったくメリットがない。そんなことよりも俺は仲間になってくれるノーム族探したいんだよ。ミロみたいに特殊な技能持っている奴でもいいんだけどとにかくダンジョン攻略できる仲間が欲しいんです。
ん?ということはミロを仲間にすればいいんじゃない?ミロのスキル、方位把握はダンジョンみたいな場所でも自分の位置がわかるんだろ?ノーム族がいなくてもミロがパーティに入ってくれれば下層の攻略を行うことはできるだろう。
俺の実力を証明するのもダンジョンに一緒に入るのなら簡単だ。対人戦はあんまり役に立たない俺だがモンスター相手ならスキルも紅盗の斬剣も使い放題だし強いところを見せることができる。ミロがパーティに入ってくれたらいいことだらけだ。
だがもちろん問題もある。ミロはライドが好きでライドは俺が好きで俺が1番好きなのはフィルでフィルの忠誠心はカンストしているというこのややこしい四角関係の状態でパーティがうまく機能するわけがない。組織において1番大切なのは人間関係だという。ダンジョンという命かけの空間で共に過ごすのにパーティメンバーの仲が悪いのは大問題だ。
ふふふ、しかし俺はいいことを思い付いたのだ。ミロはライドを好き、
ーーならばミロを援護してライドとミロをくっ付けてしまえばいいのだ。
そうすれば俺の尻を狙う奴が1人減るしパーティ内も雰囲気も険悪なものにならなくなるしまさに一石二鳥!問題はライドがミロを好きになるかだが自分を慕って追いかけてきた弟分のことが嫌いなわけではないだろう。生涯の愛番の代償についても君達がイチャコラする間は相対的な自己犠牲で消しといてやるよ。これなら代償適用されないんじゃね?
あとは強い方が好みっていってたしダンジョン内でモンスターたくさん倒させてレベル上げしたらいいんじゃないでしょう。
ノーム族をパーティに入れるのは難しいしここはミロに来てもらいたい。ついでに俺に対する恋愛視線を減らしてくれたら最高だ。よし、この方向で話を進めよう。
「じゃあ、ミロ。俺たちのパーティに入るか?」
「え?」
「なッ、シロム何いってんだッ!?」
ライドが弾かれたようにこちらを向く。まあこの険悪な雰囲気の中、仲間になろうといいだした俺の行動がわからなのだろうが、まあちょっと聞いてくれよ。悪い話ではないから。
「俺の実力知りたいなら一緒ダンジョン行けばわかるだろ?俺たちも方もダンジョンの構造把握できる仲間探してたしそう考えるとミロはぴったりだ。だからリーダーとしてミロに白猫団に入って欲しいと思ったんだけど、勿論ライドとフィルが嫌ならやめとくよ。今のメンバーの意見が一番大事だし」
「シロム様の意見に反対などありません。正直、シロム様に敵意がある者をパーティに入れるのは不穏だとは思いますが、必要であることも理解してます。万が一の時は僕が対処しますのでシロム様のされたいようにしてください」
「俺も嫌じゃねえがシロムに負担がでかいだろ。ミロはお前のこと恋敵だと思っているんだから嫌っているぞ?シロムはいやじゃねえのか?」
ライドが不安そうに聞いてくるがぶっちゃけると別に嫌だとは思ってない。そりゃ嫌われているよりは好かれたいと思うけど好かれる=尻を狙われるわけだからましだろ。むしろ絶対に俺のこと好きにならないから安心できるくらいだ。ちゃんとパーティとして行動してくれるのなら俺にとってミロは良いメンバーだ。
「ちゃんとパーティの一員として行動してくれるなら構わないよ。どう、ミロ?白猫団に入らない?」
「…どういうつもり、僕に情けをかけているってこと?」
ギロリと睨みつけミロが威圧してくる。身長2m超えの威圧はちょっと本気でビビりそうになるけどここで引くわけにはいかない。有用なスキル持っていて俺の尻を狙わない人材は貴重なのだ。
「パーティとして必要だと思うから勧誘しているんだよ。君にとっても俺の実力がわかるしライドの近くにもいられるからお互いにメリットがある。俺はミロにパーティに来て欲しいと思っているよ」
そうしっかりミロの目を見ていう。身長差があって見上げる形になり地味に首が辛い。種族差が体格に出過ぎだろコレ。絶対にミロが横に並んだら俺の方が年下扱いされるわ。
「パーティに入れてもらえるなら願ってもないよ。強くなってライドを振り向かせてみるよ。君には負けないからねシロム!」
ミロは俺を見下ろしたままキッと睨んでそういう。まあ確かに威圧感はすごいけどまだ15歳、その顔は少し幼く見えた。まあ俺よりもみっつも下なんだしここは大らかな心で対応してあげよう。
それにミロはホモを引き受けてくれるし能力的に頼りになるし最高のメンバーだ。めちゃんこ期待しているから是非とも頑張ってライドのハートを掴んでくれ。
取り敢えず俺達は道案内できる人材をゲットしたのだった。
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