男だらけの異世界トリップ ~BLはお断り!~

空兎

文字の大きさ
上 下
28 / 31
第二部

掲示板

しおりを挟む
 私はサイラスの後ろを冷や汗を流しながら付いて歩いている。

「サイ様、もうこれ以上は困るよ。家狭いのにこんなの入んないよ」

「だって、ミウは僕の妹になったんだから。不自由な生活はさせられないよ」

「今も不自由じゃないよ。ちょこっとお金がないだけでさ、自由気ままに生活出来てるよ」

 私はサイラスに溢れんばかりの貢ぎ物を頂いている。

『サイ様は、もう一人のお兄ちゃんだね!』

 私がこの言葉を言った瞬間、サイラスは翠の瞳をこれでもかと言わんばかりに輝かせて、私の手を取った。串焼きと一緒に。

『お兄ちゃん……良いね! 良い響きだ』

『サイ様……どうしたの?』

『僕はミウの事が気になってしょうがなかったんだ。パーティーで膝を付いて僕に謝罪した時に、ミウ言ったでしょ。僕の前には二度と現れないって。正直悲しかった。もっと話したいって思ってたから』

『そ、そうなんだ』

『これは恋愛感情なのだとばかり思っていたけれど、今はっきり分かったよ。ミウは僕の妹だ。妹になって欲しい』

 サイラスの圧が半端ない。ひとりっ子は兄弟姉妹に憧れると言うがここまでとは。同い年で兄妹と言うのも変な話だが、私自身、恋愛のいざこざに巻き込まれるよりは兄妹ごっこを楽しむ方が気が楽だ。私は軽い気持ちで返事をした。

『良いよ。おにいちゃん』

 これが間違いだった。サイラスは私を串焼きも買えないほどに貧乏だと思っているようで、お金を渡してきた。流石にそれは駄目だ。全拒否しているとサイラスが言った。

『だったらせめて、兄としてプレゼントをさせてくれ。それなら良いでしょ?』

『まぁ、物で貰った方が現金よりはマシかな』

 ——そして、今現在家具やら衣服を大量にプレゼントされているところだ。

「家に荷物を送ろうと思うんだけど、どこに届けたら良い?」

「あー、どこかな……」

 自宅の住所を言っても届かないし、やはり魔王に持って帰ってもらうしかないか。私が悩んでいると、サイラスが言った。

「とりあえず城に送っとこっか。部屋狭いなら僕の部屋にドレスとか置いといてさ、着替えたい時においでよ」

「あー、うん。そうだね」

 それならそのままサイラスに返品という形を取れる。良いかもしれない。

 サイラスが使用人らしき人に耳打ちすると、荷物は次々と店から運び出された。そして、サイラスは私の方に向き直ってにっこり笑顔で手を出してきた。

「ん? 握手?」

「手繋いで帰ろう」

「え……? 私たち恋人とかじゃないよね?」

「うん、兄妹。だから手繋いで帰ろう」

 サイラスの頭の中の兄妹像はどうなっているのだろうか。兄妹で手を繋ぐのは小さい頃くらいだ。呆気に取られていると、サイラスは眉を下げて言った。

「ごめん、抱っこだった? それともおんぶ?」
 
 何だろう。普通に兄に見えてきた。言っている事ややっている事が日本にいる兄と変わらない。私はそれが可笑しく思えて、ふっと笑った。

「良いよ。手繋いで帰ろう」

「母上と父上にも紹介しなくちゃね」

「それはやめといた方が……」

 私はサイラスと手を繋いで仲良く城へと戻っていった。

◇◇◇◇

「ねぇ、サイ様?」

「おにいちゃん!」

「ねぇ、おにいちゃん。どうして私の部屋が出来てるの? しかも、おにいちゃんの隣の部屋に」

 城へ戻ると、客間で魔王の迎えを待つのかと思いきやサイラスの部屋に通された。そして、そのまま繋がっている隣の部屋に。

 そこには先程購入した品の数々が並んでおり、今にも住める状態になっていた。

「大事な妹だから。僕の目の届く部屋じゃないと不安でしょ」

「いや、そうかもしれないけどさ、ここって将来のお妃様の部屋だよね? せめて別の部屋にしてよ」

「細かいことは気にしなくて良いよ。もう一人のお兄さんが来るまでまだ時間あるからさ、少し休んでなよ」

 もう一人の兄とは本物の兄ではなく魔王のことだ。この世界では私の兄と言う設定でいくらしい。

「こっちの部屋が気になって使えないなら僕の部屋使いなよ。さっきからミウ眠たそうだし」

 サイラスの言うように私は眠い。昨日の睡眠時間は三時間。そして、半日サイラスに付き合って動き回っているので、今にも寝落ちしそうな程に眠たいのだ。

 時計を確認すると、魔王が迎えに来るまで後一時間。そして、そこにはふかふかのベッドが……。

 セドリックの時に異性の部屋に二人きりで入るのはやめようと決めていた。しかし、サイラスは私に対して恋愛感情がないとはっきり言った。

「お言葉に甘えて、少し寝るね」

「どうぞ」

 サイラスに誘導され、サイラスのベッドの中に入った。

「気持ち良い……」

 私はサイラスに布団をポンポン叩かれながら船を漕いだ。

◇◇◇◇

 五十分後。

「——ミウ、ミウ」

 耳元で声がする。何だかくすぐったい。

「ミウ? そろそろ時間だよ」

「うん。お兄ちゃん、後五分」

 私はいつものように抱き枕をギュッと抱きしめながら二度寝した——。

 五分後私はパチッと目を覚ました。いつものことだが、この五分はアラームが無くても起きられる。不思議だ。

「はー、二度寝って最高だよね。お兄ちゃん」

「そうだね」

 兄の声が下から聞こえるのは気のせいか? 恐る恐る下に目線をずらした。

「お兄ちゃん? え、わっ! 誰?」

「おにいちゃんで合ってるよ」

「え、な、なんで? なんでそんな所にいるの?」

 私の腕の中にサイラスがいたのだ。しかも、私は思い切りサイラスの頭を抱きしめている。

「ご、ごめん」

 パッとサイラスを解放すると、サイラスは至極嬉しそうに言った。

「五分前に起こしたんだけどさ、ミウがおにいちゃんって言いながら僕を抱きしめてくれたんだよ。そんなに僕を慕ってくれて嬉しいよ」

「あー……」

 もしかしなくとも私は抱き枕と間違えてサイラスを抱きしめて寝ていたようだ。

 私がしていたように今度はサイラスが私を頭からしっかりと包み込んだ。自分からサイラスを抱きしめていた手前、サイラスを拒絶できない。

「今度からは初めから一緒に寝ようね。兄妹なんだから」

「はは、そうだね。おにいちゃん……」

しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。