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第二部

休息

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「ダンジョンの奥にはあんな奴らがいるんだな。こりゃやばいぜ」


ライドが独り言にしては大きな声でそういう。確かにダンジョンの奥に世界滅亡わっしょいな魔族さんが眠っているとは思わなかったよ。ダンジョンには夢と希望ばかりではありませんね。


「そうですね。僕らもシロム様がいなければ彼の餌となっていたでしょう」

「だな。一応聞くがシロムどうするんだ?ダンジョン攻略を続けるのか?」


ライドがちらりとこちらを見ながらそう聞いてくる。まあ確かに魔族がいる以上リスクとリターンが釣り合っているとは言えないだろう。魔族は残虐で好戦的でそんでもって俺たちを餌だと思っている。普通に考えたらそんな奴らと戦いたくはないよな。目の保養にはなるけど。

ライドの発言もそれを踏まえてだろう。ダンジョン攻略を続ければ魔族と戦うことになるがいいのかと。勿論答えは決まっている。


「あたりまえだろ?俺はSランクになる男なんだからむしろサクッと攻略してギルド長にもうひとつランク上げさせてやるわ」

「だよな!強いっていうならそれ以上に強くなればいいんだぜ。こんないい獲物逃がしてられねえな」


バシッと拳を掌に叩きつけながらライドがいう。おおぅ、勇ましいな。もしかして逆境には燃えるタイプですか?まあ仲間が頼りになるのはありがたい。


「僕もシロム様に従います。シロム様のいく道が僕の進む道なので」

「フィルもありがとう。じゃあ取り合えず白猫団の目標はダンジョン攻略な。魔族は強いけど最奥までまだ時間かかるしレベルを上げて対策立てて倒そう」


うん、対策は必要だ。次は是非とも一決必殺イッケツヒッサツは使わないで倒したい。毎度毎度使うたびに襲われるんじゃ尻が死にます。

流石に今からダンジョンいくのは何だし今日は休息にしてまた明日からダンジョンに潜ることにする。たまにはぶらぶらと自分のいる街を見て回るのも悪くないよね。フィルとライドと適当に散策する。


「今日は珍しい果物が入っているぜ!この赤くて丸い果物、割ると果汁が詰まった実がたくさんはいっているんだぜ!ほら、なくならないうちに買った買った!」

「今日はンリルとリニアが安いよ!脂が乗って身が引き締まっているぜ。そこの兄ちゃんひとつどうよ?」

「さあさあ見ていった!異国から仕入れた幸運のお守りや恋愛成就の腕輪なんてのもあるよ!お、そこのイケている兄ちゃん、隣のかわいい子にプレゼントはどうだい?」


街は賑わいを見せている。歩いていると露店の店主たちに声をかけられ、中にはおいしそうな果物や肉や魚を売っている店もある。


「結構にぎわっているね」

「そうですねシロム様。この街はとても栄えているようです」

「だな。なんか欲しいものでもあったか?」


露店の商品ひとつひとつに目を奪われているとライドがそう声をかけてくる。うん、そうだな。


「魚が安いみたいだし今日のご飯は魚にしようか。たまにはシンプルに塩を振って焼いたものを食べたいな。
 ああ、でもリニアフィッシュって煮込みにするとすごくおいしいんだよ。う~ん、悩む。魚だけだとバランス悪いし野菜とか果物もあったほうがいいよね。
 あそこの洋ナシみたいな赤い果物めっちゃ気になるわ。うん、一つ欲しいな」

「そういうのじゃねんだけど、シロムはいい嫁になるな」


何故かライドが笑っている。は?何言っているんだ?どんなに尻が酷使されようと俺は嫁にはなりません。お嫁さんを貰う方です。

取り合えずほしいなと思ったものは片っ端から買っていく。白猫テントの代金も支払い終わっているし今はお金が溜まるばかりだ。テント代が賞金で払いきれたからそのために用意していたお金がまるまる残っているんだよな。レオンに投資して何かすごい装備でも作ってもらおうか。
 
ある程度買いこんで通りを歩いていると(荷物は全部ライドが持ってくれた。俺がやっとのことで担いだ荷物をあいつは軽々と肩に乗せやがった。ちくしょう)あたりに甘い匂いが漂った。

何処からだろうとキョロキョロしていると『あそこの店だ』とフィルとライドが赤い屋根のお店を指さす。獣人達は鼻がいい。

せっかくだからと中に入るとふわっと甘い匂いに包まれる。どうやらここはお菓子屋さんのようだ。

うわっ、めっちゃいい匂い。棚に並んでいるのはクッキーや焼き菓子だな。おいしそう。

何を隠そう俺は甘いもの好きだ。なんか甘いもの好きじゃない男性は世間に多いらしいが俺は好きだ。糖分ラブ!

俺も最初はそこまでお菓子が好きなわけじゃなかったが自分で作るようになってから食べるのも作るのも好きになった。え?なんでお菓子作りをしようと思ったのかって?女の子受けがいいって聞いたからですが、なにか?

お菓子を作れる男はモテる。そう聞いて奮闘したのだが女子にお披露目する前に『うおっ、なんだこれめっちゃうめえ』と野郎どもの口に入っていった。おかげで俺も周りの男どもには甘党が多い。全くもってうれしくない事案でした。

棚に飾られるお菓子をあれこれ吟味する。せっかくだしどれか買っちゃおうかな。クッキーにマドレーヌにバターケーキか。うん、どれもおいしそう。
 
その時ショーケースの存在に気が付く。ケーキ屋さんのディスプレイみたいな感じだなと思って中を覗き込んだ瞬間目を奪われる。そこにあったのは黒い輝き。

こ、これは……


「チョコレートだ!」

「ええ、チョコレートでございます。職人が一つ一つ丁寧に作りました至高の一品となっております」


俺の呟きに店員さんはにこりと笑ってそう答える。おおっ、やっぱりチョコレートだったのか!

何を隠そう俺の1番好きなお菓子はチョコレートなのである。お菓子業界に革命を落とした一品、カカオからチョコレートを初めて作った人と握手したい。

うん、久しぶりに物を目の前にすると是非とも食べたくなる。幸いお金はあるんだからこれはもう買うしかない。


「すいません、このチョコレート下さい」


「かしこまりました。ひと粒大銅貨1枚になりますが、お幾つお包みしましょうか?」


店員さんがにっこりと笑う。え、たかっ。ひと粒大銅貨1枚ってめっちゃ高い。大銅貨1枚あったら2食分の食費になるからね。元の世界でいうとひと粒1000円のチョコレートってくらいの感じじゃない?

まあ買うけど。もう俺のチョコレート食べたい欲求は天元突破してます。でも普段はこんな高いチョコ食べてないからね?好きなチョコレートはマーブルさんです。


「じゃあ20粒ください」

「かしこまりました。お包みしますので少々お待ち下さい」


店員さんが高そうな箱にチョコレートを詰めていく。あー、俺のチョコレート~。早く食べたいな。


「何か買ったのかシロム」

「ああ、チョコレートを買ったよ。実は俺甘い物めっちゃ好きでその中でもチョコレートは特に好きなんだ。いやぁ、レビューにチョコレート買えるとこがあってよかったわ」


店員さんに銀貨2枚を支払って店を出る。思わず綺麗に包装された箱に頬擦りしそうだ。家に帰ったらどれから食べようかな~。 


「たっだいまー!レオン、ニック~、チョコレート買ってきたから食べようぜ!」

「ッ、シロム!大丈夫だったのか!」


ウキウキしながら家に帰ると両手背中に大量の荷物抱えたレオンとかち合った。なんだその荷物、今から登山にでも行くつもりだったの?


「五体満足、健全無事無事だったけど、どうしたの?」

「俺はっ、お前の帰りが遅いからまた事件に巻き込まれたのかと…っ」

「シロムはんはトラブルメーカーですからな。危ない目にまた遭っているのじゃないかと今にも飛びたそうとするレオンを諌めるのも疲れましたわ」


ニックが若干疲れ顔でそういう。どうやら帰りが遅なって心配をかけたらしい。寄り道いっぱいしたならなー、これは素直にすまんかったわ。


「ギルド寄って買い物して帰ってきたんだよ。遅くなってごめんな」

「いいんだ。シロムが無事ならそれで、」


ゴシゴシと目元を擦りながらレオンが答える。え、泣いてね?これ、レオン泣いてね?

まあ前回ズタボロの尻が大破された状態で戻ってきたことを考えれば心配もするか。すまん、レオン。次からは寄り道するときは連絡するようにするよ。報・連・相は大事。


「ごめん、レオン。帰り道にチョコレート売っている店見つけてさ。つい寄っていたら遅くなっちゃったよ」

「チョコレート?シロムはチョコレートが好きなのか?」

「好き好き、ちょー好き。俺は甘いもん大好きなんだよ」


腕の中のチョコレートのことを考えると思わず頬が緩む。ああ、久方ぶりのチョコレート。この世界きてから一度も食べてないもんな。思わず頬擦りしそうになる。

すると瞬間レオンの顔が真っ赤に染まった。泣いたり赤くなったり表情変化の忙しい奴だな。で、どうしたんだ急に?


「かっ、かわっ」

「嗜好品は人によっては絶大な効果を与えると言いはりますが、シロムはんにとってはまさにチョコレートがそうだったんですな」


ニックがふむふむ頷きながらそういう。え、俺ただチョコレートが好きなだけなんだよ?それなのになんなんだこのみんなの反応は。なんか恥ずかしくなってきたわ。うん、ちょっと好きな物見つけてはしゃぎ過ぎたのかもしれない。

その後は皆でチョコレートを食べたのだが何故か俺に譲りたがる。いや、別に好きだけど一気に大量に食べたいわけじゃないから普通に皆んなで分けようよ。これからは好きなもの見つけても自重するわ。でもチョコおいしい。

至福の時に頬を緩ませている俺は気づかない。ニックの目が怪しげに光ったことに。

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