上 下
23 / 31
第二部

アイドル企画進行中

しおりを挟む

「これは無理だな」

「これは無理ですね」

「これは無理ですわ」


蒼穹の爪に二層攻略の道のり聞いてついに三層に到達した俺たちだが目の前に広がる光景に白旗を上げた。

三層について少し開けた場所に出たと思ったらそこから五本の道が伸びていたのだ。うん、これは今回の攻略では無理ですね。というかどれが正解かこれからしらみ潰しに探さないといけないのか?これはなんという無理ゲー。


「これ、どうしよう。全部順番に見て行くとなると恐ろしいほど時間がかかるぞ?」

「情報収集は必須ですね。せめて最初の分かれ道のどれが正解かは調べないとかなりの時間を浪費してしまうでしょう。ラリーならばどの道が正しいか知っている可能性があるので彼から買うというのはいかがでしょう?」

「ああ、なるほど。ラリーならボーダー同士の情報網とかで知っているかもしれないもんね。情報買おうか」

「だが最初がわかったとしても残りが迷路みてえに複雑になっていたら流石に俺でも覚えきれねえぞ?こいつはまずいな」


互いに意見を出し合い今後どうするか相談する。ダンジョンというよりは迷宮を攻略している気分だ。一層、二層でも思ったけどこのレビューのダンジョンはかなり複雑な作りになっている。ゲームだとマッピングは勝手にやってくれるが現実世界では自分たちで行わなければならない。三層攻略が難しそうで頭が痛い。


「こういう時にあいつがいたらな」

「あいつ?」


ライドがぼやくような声でそういう。こんな複雑な道を覚えられる人が知り合いにいるのか?


「誰かマッピングできる人に心当たりがあるの?」

「俺の幼なじみに方位把握ディレクションっていう珍しい適性を持っている奴がいたんだよ。なんでもどんな場所にいても自分の居場所がわかるスキルらしい」


方位把握ディレクション?なにそれめちゃめちゃ便利な適性じゃん。歩く方位磁石みたいなスキルだよね?え、すっごくパーティに来て欲しいんだけどその人どこにいるの?


「その人パーティに入ってくれたりしませんか?」

「あー、あいつはちょっとな、」


ライドの歯切れが悪い。ん?人類皆友達って感じで誰にでもフレンドリーなライドが言い澱むなんて珍しいぞ?何か問題ある人なのかな?ライドが嫌がるなんてよっぽどだぞ?あんまりアレな人にはパーティに来て欲しくないですね。


取り敢えず今の状況ではどうしょうもないので地上に戻って情報収集をしようということになった。他のパーティはどうやって下層を攻略しているんだろうね。誰か教えてくれないかな。

三層の開けた所で休憩をとって二層の途中で一泊して地上に戻った頃には夕方に差し掛かるくらいだった。ラリーいないかな?流石に他のパーティのボーダーに行っちゃっているかな?


「あ、あの白猫団のシロムくんですよね?」

「え、はい。そうですが?」


キョロキョロとラリーを探してあたりを見渡していると知らない奴に声をかけられた。返事をしつつも最近ろくな目に遭ってないから警戒しながらそいつを見るとぱっと見好青年っぽい男がいかにも緊張してますって言った感じで立っていた。うん、なんだ?


「お、俺シロムくんのファンです!これ、受け取って下さい!」

「え、俺のファン?」


全く予想外の言葉に思考が一瞬飛ぶ。え、ちょ、俺のファンってどういうこと?いや、俺、強ええとかかっこいい!とかは言われたいと思ってたけど別にアイドルになりたいとは願ってませんよ?マジでなんだこれ?

取り敢えず差し出された物をなんだと見てみるとそれは三角耳に目と髭を黒で描き赤いスカーフを首元に巻いた、白猫柄のチョコレートでした。女の子受けしそうな可愛いらしい品物である。おお、いいなこれは。次のバレンタインは白猫柄のチョコレート作ろうかな。まあこの世界だとあげる相手がいませんけど。

白猫団の俺に白猫チョコを渡すとは洒落ていますね。よくこんなチョコレート見つけてきたなと感心していると恐る恐る俺のファン1号が視線を向けてきた。


「ダメですか?」


ファン1号は不安そうな顔をしている。俺は男にチョコレートをもらう趣味はないので本音をいうとダメだけど、別に交際を申し込まれているわけではないしこの世界だとバレンタインがないからチョコレート贈るのに特別な意味もないだろう。もらうだけなら貰ってもいいんじゃね?それになんかこんな辛そうな顔されると流石に可哀想だ。


「えっと、貰うだけなら。どうも、」

「本当ですか!ありがとうございます!チョコレートはシロムくんの好物だし白猫柄のチョコならシロムくんに受け取ってもらえるというのは本当だったんですね!これからも応援しているのでがんばって下さい!」


そういうとファン1号はパァと顔を輝かせ俺の手に白猫チョコを渡すと嬉しそうに離れていった。うん、待って。なんで俺がチョコレート好きだって知っているの?しかも誰かから聞いたみたいな言い方だったけどどういうことだよ。

いや待て、ひとりだけ心当たりがあるぞ。俺がチョコレート好きだと知っていてそれを金儲けに利用しようとする奴がひとりいるな。

そこでハッと辺りを見渡すと他にもこちらを窺う人が何人かいることに気付いた。しかも『マジで白猫チョコ受け取ってもらえたぞ?なら俺のも、』『くそう、白猫チョコ、俺も買っておけばよかった!』なんて声が聞こえてくる。おいおいおい、いつの間に白猫チョコなんてもんが世に広まったんだ?ファン1号が白猫柄のチョコ持ってきたのもたまたま見つけたんじゃなくて俺に渡すこと見越して作られているってこと?なにそれ怖い。なんか勝手にブランド化されているよ。


「シロムくん、ちょっといいかな?これ、受け取って欲しいんだけど」


そうこうしている間にファン2号がやってきて俺に白猫チョコを渡してくる。それに調子付いた周りも便乗して俺に白猫チョコを押し付けてくる。10人ほどからチョコを受け取ったところでフィルとライドと全力ダッシュでその場を抜ける。おうちに帰ったら問い詰めないといけないやつがいるね!
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

永世くんは異世界でモフ騎士くんにゲットされるようです?

BL / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:722

煌めく氷のロマンシア

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:565

Ω令息は、αの旦那様の溺愛をまだ知らない

BL / 連載中 24h.ポイント:766pt お気に入り:2,912

俺はゲームのモブなはずだが?

BL / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:949

美形に溺愛されて波乱万丈な人生を送ることになる平凡の話

BL / 連載中 24h.ポイント:5,197pt お気に入り:1,091

飼い犬Subの壊し方

BL / 連載中 24h.ポイント:3,111pt お気に入り:256

【完結】悪役令息に転生した社畜は物語を変えたい。

BL / 完結 24h.ポイント:688pt お気に入り:4,784

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。