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第二部
蒼穹の爪
しおりを挟む「わいらは君達に敵意あらへんで?武器降ろして話し合おうや」
「話す必要などない。ただここを通して貰えればそれでいい」
「そうなんやけど、フレイザー、もう少し愛想よく出来へんのか?だから無駄に敵を作ってしまうんやって」
リーダー格っぽいふたりが前に出てそう言ってくる。ひとりは熊耳の大阪弁っぽい言葉をしゃべる陽気なおっちゃんでもうひとりは灰色のピンッと立った三角耳を持つ無表情の兄ちゃんだ。敵意はないという言葉通りふたりは手ぶらだし雰囲気的にもゆったりしているから本当に横を通りたいだけなんだろう。ライドとフィルに目配せをして武器を降ろす。だけれども直ぐにしまいはしない。
この間ダンジョン内で他の冒険者に襲われた身としては警戒を緩められないのだ。襲われて尻を掘られるのは絶対に嫌です。
「ただ通るのでしたら構いません。どうぞ」
「まだ若いのに警戒心が強いのはええこっちゃ。ダンジョン内のトラブルは自己責任やもんな。もしよかったら君達のパーティ名を教えてくれへんか?」
「かまいませんよ。白猫団です」
「ほう、最近有名なルーキーかいな。そりゃしっかりもしとるな。わいらは蒼穹の爪や。よろしゅうな」
パーティ名を聞かれたので答えると熊耳のおっちゃんはニコニコと笑いながらそういった。
蒼穹の爪?ちょっと待って、その名前すっごく聞いたことがあるぞ?え、ひょっとしてそれってラリーの言っていた超有名パーティじゃない?まさかこんなところでそんな有名人に会うとは思っても見なかったわ。
「えっ、蒼穹の爪って、あの蒼穹の爪ですか?レビューいちのパーティで二層と六層を攻略した精鋭ばかりで構成されていって噂の、」
「いやあ~、そない大げさに言われると照れますけど、まあその蒼穹の爪で合ってますわ。ルーキーにも知られるなんてわいらも有名になりましたな」
「無駄口はいい。さっさと行くぞ」
「やれやれ、うちのリーダーはせっかちですな」
そういってスタスタ歩いてくる灰色耳の、リーダーと呼ばれた男が歩いてくると残りのメンバーもこちらに向かって歩いてくる。
このまま通り過ぎてくればなんの問題も起こらずに済むなと思っていると、灰色耳のリーダーがピタリと足を止める。え、何ごと?と思って目線の先を見るとおにぎりの小山の上に目が釘付けになっていた。まさか食べたいのか?えっと、向こうは超有名パーティなわけだし取り敢えず誘うべきなのか?
「俺が作ったおにぎりなんですけど、食べますか?」
「…いや、いい。見知らぬ者の施しなど口にする必要はない」
「おおおっ!なんやこのうまそうなおにぎりは!?これ食べてもええんか?おおきに!ご馳走になりますわ」
灰色耳のリーダーはそっけなく俺の誘いを断ったが熊耳のおっちゃんは顔を輝かすとすぐさま嬉しそうに俺の隣に座り山と積まれたおにぎりをひとつ手に取った。それに対して灰色耳のリーダーが不機嫌そうに熊耳のおっちゃんを見る。
「何をしているボアイル。余計なことで時間を浪費するな」
「いやでもな、フレイザー。こんなうまさそうなおにぎり前にして食べへんという選択はありまへんで。ただでさえダンジョン内の食事は質は悪いんやからこんなん見せられたらしんぼうならんわ。それにフレイザーもこのおにぎりを食べたいんやろ?」
「・・・」
熊耳のおっちゃんの言葉に灰色耳のリーダーが黙る。どうやら図星のようだ。え、あんなつっけんどんな感じなのにマジでおにぎり食べたいの?リーダーの賛成も得られたところで改めて熊耳のおっちゃんがニコニコと俺に笑みを向けてくる。
「で、このおにぎりはホンマに食ってええんか?」
「ええ、構いません。お口に合えばいいんですが」
「こんないい匂いさせている飯が不味いわけあらへんよ。それじゃいただきますや」
そういって熊耳のおっちゃんは大口を開けておにぎりにかぶりついた。髭に米つぶをつけながらおっちゃんは『うまい!なんやこりゃ、めっちゃ美味しいやんけ!』と叫んだ。それを皮切りに他の蒼穹の爪のメンバーもぞろぞろと俺たちの側までやってきておにぎりの山を囲むように座り食べ始めた。
はい、というわけで何故か蒼穹の爪のメンバーとお食事会になりました。11人という大人数のおかげでおにぎりの小山はみるみる減っていった。よく見るとその中で周りに負けじとガツガツおにぎりを胃袋に取り込んでいるライドの姿がある。お前は夕飯があるのだから程々にしておきなさい。別にこんなのまた作ってやるからそんなに必死になるなよ。
さてと、蒼穹の爪と敵対しないようにおにぎりをあげたわけだが、本当に友好深めただけで貴重な食糧(まあ俺はアイテムボックスにいくらでも収納できるけど)を提供したんじゃ割に合わない気がするし情報収集しますか。ここは気さくな熊耳のおっちゃんに聞くのがいいかな?
「あの、すいません」
「なんや?ええっと、ああ。そういえば自己紹介してまへんでしたな。わしはボアイル・ロットール、君は?」
「シロム・クスキです。えっと、俺たち今二層の探索中で蒼穹の爪さんたちがいるってことはこの道は合っているってことですか?」
さりげなく二層攻略の道筋を聞いたつもりがボアイルさんにはバレたらしい、口元を吊り上げてちょっと意地悪そうな顔をした。
「なんや、情報収集かいな。可愛い顔してちゃんとやることやりはるな」
「えっと、まあそうです。三層へ行く道教えてくれませんか?」
「まあこんなうまい握り飯もらったら教えなしゃあないわ。ぶっちゃけカミさんの飯よりうまいし。おっと、これは内緒な。ブレイザー、白猫団に三層への道教えてもかまへんよな?」
ボアイルさんが灰色耳のリーダー、ブレイザーさんに呼びかける。フレイザーさんは俺たちとは少し離れた小岩に腰かけ静かにおにぎりを頬張っていた。
フレイザーさんはボアイルの呼びかけに少し顔を上げると『ああ』と短く肯定の言葉を返すとまた黙々とおにぎりを食べ始めた。
あれだよね、フレイザーさんはクール系イケメンですね。無口無表情、しかもレビューのトップパーティのリーダー、どこかの乙女ゲーが始まりそうなキャラ設定です。まあこの世界は男しかいないからBL展開しかないんだけどね!
てことでボアイルさんは三層への道のりを教えてくれた。とはいえ俺は覚えられないのでフィルを呼んで代わりにお願いする。一応フィルと一緒に聞いてはいたのだが次の曲がり角を右行って右行ってモンスター部屋を通り過ぎるところまではわかったけど後はギブでした。なんでフィルはそんなすぐに覚えられるの?うちの子マジ優秀。
大量にあったおにぎりがなくなったところで蒼穹の爪が立ち上がる。もうすぐに出発するらしい、立ち上がったボアイルさんがパンパンとズボンの土を払う。
「それじゃあわいら行きますわ。シロム君達うまい握り飯をご馳走様やで。ホンマに美味かったから冒険者やめて飯屋開くなら教えてな?常連になるで」
「こちらこそ三層への道のりを教えて下さってありがとうございます。冒険者を辞めることはないですが料理を褒めてもらって嬉しかったです。また何処かで会いましたらよろしくお願いします」
「…飯、美味かった。礼だ。何かの役に立つだろう」
そういってフレイザーさんが何か小さな物を投げて来たのでキャッチする。見るとそれは小さな青い石で大きな爪を持った灰色の狼が描かれれていた。なんだこれ?
「フレイザー!それ、印章やんか!そんなんあげるほどシロム君のこと気に入ったのかいな!」
「印章?」
あの陽気なボアイルさんがギョッとした顔していることからこれがとんでもなく凄い物だということはわかったんだけど、印章ってなんだ?
「フィル、印章って何か知っている?」
「貴族などが己の権威を保証するものに使うものです。家紋が刻まれておりそれにより印章を持っている者がその庇護下にあることを示します」
「印章を持っているのは基本貴族だろ?だがあいつが貴族には見えねえぞ?ってことは、マジか」
フィルの話を聞くに印章とは特定の人を表すトレンドマークみたいなもので持っているとその人が後ろ盾になっているという表れになるらしい。
つまりこの青い石掲げて『俺に手を出すと蒼穹の爪が黙っていませんけど?(ドヤァ』的なことができるということですね。無茶無茶凄いもんじゃないか。レビューのトップパーティが俺の味方だって言っているようなものだろ?しかもライドの言い方だとさらに凄いことがありそうだぞ。
「Sクラス冒険者の印章なんて、自分かて価値わかってますやろ?ほんまにええんか?」
「お前がいうことは大袈裟過ぎる。その石ころにそこまでの価値はない」
「え、Sクラス冒険者?」
聞こえた言葉に耳を疑う。ちょっと待って、Sクラス冒険者ってあれですか、世界に5人しかいなくてそのうち1人がクズな双剣使いで俺が目指している冒険者の最高ランクのことですか?
いやでもレビューのトップパーティのリーダーがSクラス冒険者なのはおかしくない気がする。ってことはフレイザーさんは本当にSクラス冒険者なのか?
「貴族以外で印章なんてもん持っている奴はそれくらいしかいねえもんな。ってことはマジでSクラス冒険者なのか」
「公的な印章を持てるのは貴族とSクラス冒険者しかいないので間違いないでしょう。冒険者最高峰のSランク冒険者に認められるとはさすがシロム様です」
なんかフィルがめっちゃキラキラした目で褒めてくれるんだけどこれ、認められているの俺の実力じゃなくて料理の腕だよね?おおぅ、それは嬉しいけど嬉しくないです。
ライドとフィルの話を聞くに印章を持ているのは一部の限られた人らしいからフレイザーがSクラス冒険者なのは間違いないらしい。
うわ、マジか。もう2人目のSクラス冒険者に会っちゃったのか。いやでもフレイザーさんはどっかの双剣使いと違って性的な目で見てこないし襲わないし印章くれるしいい人だ。グレイがクズ過ぎて他のSクラス冒険者にもなんか悪い印象持っちゃってたけど別に他が悪いとは限らない。偏見、ダメ、絶対!とにかく印章くれたしフレイザーさんにはお礼を言っておこう。
「あの、印章ありがとうございます」
「ああ、何かあったら頼るといい」
そういってフレイザーさんは最後までクールな感じで去って行った。すぐにボアイルさんたちも追いかけて『リーダー待ってや!あ、シロム君達は飯ありがとうな!また何処かで会ったらよろしゅうな!』と言って追いかけていった。
なんか嵐が過ぎていったような感じだけど結果的におにぎりで三層への道のりとSクラス冒険者の印章ゲットしたんだから大儲けだったよな。
2人目のSクラス冒険者フレイザーは寡黙でまともないい人でした。
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