転生悪役貴族の仮面学園生活~族滅予定の悪役貴族に転生したから、原作知識で何とかしてみる~

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34話 教授

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 突如現れた4人の教授たち。

 私は力を振り絞ってコールスの肩から剣をどけ、鞘に納めた。
 そして乱れた服装を正すついでに、目立たないようベルトの装飾に軽く触れ、その存在を確認して安心した後、彼らに貴族礼をした。

「お目にかかれて光栄です」

 ソフィの護衛をしていたあのエルフ族の老人、アレフとは違い、教授たちの見た目は若い。
 それは彼らの実年齢が若いからではなく、レベル60のレベル障壁を突破した際に潜在能力を使い果たしていない、つまりはレベル70、神域に至る可能性を残していることを示していた。
 これほどの存在は世界を見渡してもそう多くはない。
 神域の超越者が姿を表さない限り、彼らは個としては世界で最も強い一握りの存在だ。

 髭をはやした中年男性、ドレアルはあごをなでながら言った。

「悪くない。
 わしの若い頃に迫る才能だ」

 鷲鼻の目つきが鋭い男、イカルドはつぶやいた。

「面白い。
 若くして覚醒するとこうなるのか」

 妙齢の美しい女性、メリルはうなずいた。

「素行はあまり良くなさそうだけど、それを補って余りある資質ね」

 一番若そうな白髪の男、ハメロは優しげな笑顔を浮かべた。

「この若さでこの力、何か秘密があるに違いない。
 バラしてみたいね」

 ハメロの言葉に、私は全身の鳥肌が立ったのを感じた。

 ハメロはその優しそうな見た目とは裏腹に、生粋のマッドサイエンティストとして知られている。
 好奇心を満たすためなら非人道的な実験も辞さず、また、後先を考えないことでも有名だ。
 彼の最も狂気的なエピソードは、その身に宿る神性の研究をするために、テルモス神族の神の子を殺害し、その頭蓋骨で魔法具を作ったことだろう。
 激怒したテルモス神族は彼に対する誅殺令を出し、全神族が彼の命を狙う事態になった。
 その後紆余曲折があり、結局彼は生き残ってこうしてイルシオン学院で教授をしているのだが、彼の研究室にまつわる黒い噂は絶えない。

 私の異変に気づいたハメロは手を振って言った。

「ははは、そう身構えなくてもいいよ。
 帝国民には手を出さないって学院長と約束したから」

「は、はい……」

 ハメロは帝国の庇護を受けるために学院長といくつかの取り決めを交わしており、その中には当然彼の凶行を制限するものがあった。
 原作から彼のことをある程度理解している私も当然それを知ってはいたのだが、レベル60の守護者が僅かにでも覗かせた悪意に恐怖するのは生き物としての本能であり、抑えられるようなものではない。

 ましてや今の私は力の使いすぎで精神的に弱っているのだ。
 倒れなかっただけ立派だといえるだろう。

 イカルドは言った。

「だが秘密があるのは本当だろう。
 詮索つもりはないが、差し出せばそれなりの見返りはやるぞ?」

 大成する戦士というのはそれなりの秘密を持っているものだ。
 そういう帝国の、人類の未来を担っていくであろう若い芽を守るために、イルシオン学院では学生の秘密に対する過度な詮索を禁じるルールが設けられている。
 このルールは外部の力に対しても有効であり、学院生の秘密を嗅ぎ回る外部勢力に対しては学院が圧力をかけて手を引かせる。
 こういう庇護を受けられることもまた、学院生の特権の一つだ。
 平民生まれの後ろ盾のない生徒にとっては、生死に関わる非常に大事な特権でもある。

 私は首を振った。

「いえ、秘密だなんて。
 私はただ運が良かっただけです」

 原作知識があるんです。
 それで貴重な資源をかき集めてました。
 だなんて、言えるわけもない。

 イカルドは鼻を鳴らした。

「ふん、貴族ったらしい嫌な言い回しだな。
 嫌なら嫌と素直に言わんか」

 イカルドは貴族に対する嫌悪を隠さなかった。
 実は彼も貴族生まれなのだが、落ちこぼれだった若い頃に虐待を受けた挙げ句家を追い出され、後に冒険者として成り上がったという経歴を持っており、そのせいもあって相当な貴族嫌いだ。
 そんな主人公感溢れる過去を持つ彼が脇役なのは、きっとその凶悪な人相のせいだろう。

 教授たちは皆伝記が一冊書けるほどに伝説的な人生を歩んできたものばかりだ。
 レベル60というのは決して常人が辿り着ける領域ではない。
 彼らはあらゆる逆境を跳ね除け、幾度も死線をくぐり抜けてきた真の強者たちだ。

 私は苦笑いを浮かべた。
 イカルドはレベル60の守護者だ。
 嫌味を言われるどころか、殴られても黙って受け入れるしかない。

 メリルは周囲を見渡して言った。

「場所を変えましょう。
 ここは人目が多いわ」

 教授たちの登場に周囲は静まり返っていた。
 教授は特別講義など、特殊な場合を除けばめったに初等部に姿を表さない存在だ。
 彼らの活動拠点は主に研究棟と中等部にある。
 皆彼らに敬意の、そして私には羨望の眼差しを送っていた。
 複数人の教授の興味を引くことは上位ランカーどころか、十傑でもあまりないことなのだ。

 癖の強い人物が揃う教授の中で、メリルは最も常識人といえるだろう。
 彼女はいずれ主人公の師匠となる、原作の主要人物だ。

 メリルの言葉にドレアルはうなずいた。

「それもそうだな」

 ドレアルはその粗野な風貌の通り、豪快な性格をした武人だ。
 入学試験において、クライオス家の要請を受けて計画に加担した教授でもある。
 しかしだからといって彼が豪快を装った陰湿な悪人だという訳ではない。
 この武力がものを言う世界では、善悪の境界線というのは結構あやふやなものだ。
 誰もが物語の主人公たちのように、脛に傷を作らずに高みに登れる幸運な状況にいる訳ではない。

 ドレアルは私に近づき、私の肩に手をかけた。

「来い」

 ドレアルの言葉とともに、周囲の景色が急速に変わり始めた。
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