転生悪役貴族の仮面学園生活~族滅予定の悪役貴族に転生したから、原作知識で何とかしてみる~

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20話 進軍

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 翌日朝。

 出発の準備を終えた我々は丘の上に集まっていた。
 主力であり、この冒険者軍団の発起人でもあるロイが昨晩決まった作戦を正式に発表したあと、一人の少女がみんなの前に立った。

 エレアだ。

 エレアの身分を知らない冒険者たちはなぜ彼女がそこにいるのかわからず、ざわざわしていた。
 大勢の冒険者達を前にして、エレアは少し緊張をしているようだった。
 彼女は深呼吸をして自分を落ち着かせると、両手を掲げた。
 彼女の指にあったスペースリングだろう指輪がキラリと光ったあと、彼女の手にあるものが現れた。

 それは小ぶりな冠だった。
 その冠は直視できないほどの金色の光を放っていた。
 炎や太陽が放つような物を照らす物理的な光ではなく、見る者の心を照らす魂層の光だ。
 それはかつては皇室を象徴する飾りでしかなかった俗物が数百年もの間、数十億人という膨大な数の人間の信仰を浴び続けることで神域級の魔法具に進化した、帝国皇族の証である帝冠の1つだった。

「我が名はエレア・レドレク。
 この大地の正当なる支配者、皇帝ゴルギス・レドレクの血を継ぎし者にして、帝国第3皇女なり」

 彼女の名乗りの後、一瞬の静寂の末、イルシオン学院の生徒である我々以外の全ての人間が膝を付き、頭を垂れた。
 帝国に生まれた彼らは皆、皇室に対する忠誠心を洗脳式教育で刷り込まれていた。
 冒険者には貴族を敵視するものも多いが、皇族は別格なのだ。

 一方で我々はというと、エレアと距離が近い上に、同じ学院に通っている。
 そしてソフィは自身がエルフ族の王族であることから、ロイは主人公特有の身分制度に対する意識の無さから、私は彼女の婚約者であることと転生者という特殊さから反応が薄いだけだ。

 私の目線から見るとついつい忘れてしまいそうになってしまうが、彼女はこの世界で最も高貴な身分を持つ者の一人だ。
 世界で最も強大な帝国を支配するレドレク家の一員である彼女は、神々ですらぞんざいに扱えない存在なのだ。

 エレアはすぐに冠を納めた。
 あの神域級の冠はまだレベル19である彼女が軽々しく扱えるようなものではない。
 今の一瞬だけで、彼女の顔色が少し悪くなったほどだ。

「我々の敵は魂を弄ぶ邪悪な死霊使いです。
 全員が生きて帰れる戦いではありません。
 ですが、死んでいった人たちのためにも、これから犠牲者を出さないためにも、我々は戦うべきです」

 一度話し出すと、エレアは人が変わったように厳かな雰囲気を醸し出した。
 その声は自信に満ち溢れ、人々の心を動かす力があった。

「邪悪に立ち向かうあなた達はまごうことなき勇者です。
 私は皇族として皆さんと共に戦えることを誇りに思います。
 さぁ、皆さん、立ち上がってください。
 邪悪な死霊使いに我々帝国民の意地と誇りを見せつけるのです」

 一瞬の静寂のあと、誰かが吼えた。

「皇女殿下万歳!
 死霊使いなんかミンチにしてやる!」

 彼の声は起爆剤となり、死霊使いに対する荒々しい罵詈雑言があたりに響いた。
 士気はうなぎのぼりだった。

 平和な人生を送っていた現代日本人としての価値観からすると正直理解し難い感情なのだが、封建制の国家においては地位の高い人間と肩を並べて戦闘出来ることは名誉だとされる。
 実際フォルダン家の兵士たちも、戦場に私がいると張り切り具合が違ったりする。

 我々は出発した。
 目指す先は邪気の中央部でもある、ダンジョンの出入り口だ。



 道中、我々は何度も死霊軍と衝突した。
 それらは数を揃え、集団を成した我々の敵ではなかった。
 しかし中央部に迫るにつれ、死霊軍の数もその一体一体の強さも増し、徐々に死傷者が発生し始めた。

「くそっ、しくじっちまった、不甲斐ねぇ。
 俺たちはおいてってくれ」

「ああ、後で必ず迎えに来る」

 戦闘力を失った負傷者たちを連れて行く余裕も、彼らを守る兵力を残す余力もない我々は、彼らを可能な限り安全そうな場所に残していった。
 近くの死霊たちは一掃したし、魔物は死霊たちに全滅させられている。
 我々が死霊使いに勝った後に助けに来れば良いのだ。
 逆に我々が負けるようなことになれば、彼らを助ける必要もなくなる。

 エレアという興奮剤の効果も切れ始め、皆の顔に焦燥感が浮かぶ中、主人公陣営に敗北はないことを、少なくとも今回はないことを知っていた私だけはのんきに風景を楽しんでいた。

 私の近くにいたゼラは不安げだった。
 昨日頬を赤らめて走り去った彼女だったが、朝会ったときにはケロッとしていた。

「勝てるかな、この戦い」

「大丈夫だ。
 私たちの力は温存できている。
 死霊使いなどに負けはしないさ」

 我々レベル20台の戦士は決戦に備え、ここまでほとんど手を出していない。
 仲間に対するカバーも陣形が崩れそうな時など、最低限にとどめていた。
 周囲の戦士たちが身を挺して主力である我々を無傷の状態で死霊使いの元へ送る作戦だ。

「でもこれほどの力を放ってるのよ。
 本体はどれだけ強いか」

 ゼラは天の邪気を見上げた。
 近づけば近づくほど、その邪気の強大さがよくわかった。
 私は彼女だけでなく、周りにも聞こえるように少し声を張って答えた。

「このダンジョンにいるということは、死霊使いの年齢は高くて20前後だ。
 そんな若者が死霊術をここまで極めている可能性は限りなく低い。
 この召喚術はおそらく強力な召喚系邪法具による力だろう。
 となると、本体の戦闘力はそう高くないはずだ。
 勝機は十分ある」

 近くにいたクノスが賛同した。

「その通りです。
 それに死霊使いを持ち上げるのも良いですが、我々学院生を軽く見てもらっては困りますね」

 我々の言葉を聞いて、周囲の顔色が少し良くなった。
 ダンジョンにおける我々学院生というのは、前世で言えばクイズ大会における東大生のようなものだ。
 相手は死霊使いという伝説的な存在ではあるが、それでも彼らにとって我々は安心感のある味方だと言えるだろう。

 そんな会話もありつつ、我々は足を止めなかった。
 そして丘を越え、林を抜け、我々は邪気の中央にたどり着いた。
 そこには一人の男が佇んでいた。
 死霊使いだ。

 最後の戦いが始まった。
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