転生悪役貴族の仮面学園生活~族滅予定の悪役貴族に転生したから、原作知識で何とかしてみる~

四角

文字の大きさ
上 下
20 / 38

20話 進軍

しおりを挟む
 翌日朝。

 出発の準備を終えた我々は丘の上に集まっていた。
 主力であり、この冒険者軍団の発起人でもあるロイが昨晩決まった作戦を正式に発表したあと、一人の少女がみんなの前に立った。

 エレアだ。

 エレアの身分を知らない冒険者たちはなぜ彼女がそこにいるのかわからず、ざわざわしていた。
 大勢の冒険者達を前にして、エレアは少し緊張をしているようだった。
 彼女は深呼吸をして自分を落ち着かせると、両手を掲げた。
 彼女の指にあったスペースリングだろう指輪がキラリと光ったあと、彼女の手にあるものが現れた。

 それは小ぶりな冠だった。
 その冠は直視できないほどの金色の光を放っていた。
 炎や太陽が放つような物を照らす物理的な光ではなく、見る者の心を照らす魂層の光だ。
 それはかつては皇室を象徴する飾りでしかなかった俗物が数百年もの間、数十億人という膨大な数の人間の信仰を浴び続けることで神域級の魔法具に進化した、帝国皇族の証である帝冠の1つだった。

「我が名はエレア・レドレク。
 この大地の正当なる支配者、皇帝ゴルギス・レドレクの血を継ぎし者にして、帝国第3皇女なり」

 彼女の名乗りの後、一瞬の静寂の末、イルシオン学院の生徒である我々以外の全ての人間が膝を付き、頭を垂れた。
 帝国に生まれた彼らは皆、皇室に対する忠誠心を洗脳式教育で刷り込まれていた。
 冒険者には貴族を敵視するものも多いが、皇族は別格なのだ。

 一方で我々はというと、エレアと距離が近い上に、同じ学院に通っている。
 そしてソフィは自身がエルフ族の王族であることから、ロイは主人公特有の身分制度に対する意識の無さから、私は彼女の婚約者であることと転生者という特殊さから反応が薄いだけだ。

 私の目線から見るとついつい忘れてしまいそうになってしまうが、彼女はこの世界で最も高貴な身分を持つ者の一人だ。
 世界で最も強大な帝国を支配するレドレク家の一員である彼女は、神々ですらぞんざいに扱えない存在なのだ。

 エレアはすぐに冠を納めた。
 あの神域級の冠はまだレベル19である彼女が軽々しく扱えるようなものではない。
 今の一瞬だけで、彼女の顔色が少し悪くなったほどだ。

「我々の敵は魂を弄ぶ邪悪な死霊使いです。
 全員が生きて帰れる戦いではありません。
 ですが、死んでいった人たちのためにも、これから犠牲者を出さないためにも、我々は戦うべきです」

 一度話し出すと、エレアは人が変わったように厳かな雰囲気を醸し出した。
 その声は自信に満ち溢れ、人々の心を動かす力があった。

「邪悪に立ち向かうあなた達はまごうことなき勇者です。
 私は皇族として皆さんと共に戦えることを誇りに思います。
 さぁ、皆さん、立ち上がってください。
 邪悪な死霊使いに我々帝国民の意地と誇りを見せつけるのです」

 一瞬の静寂のあと、誰かが吼えた。

「皇女殿下万歳!
 死霊使いなんかミンチにしてやる!」

 彼の声は起爆剤となり、死霊使いに対する荒々しい罵詈雑言があたりに響いた。
 士気はうなぎのぼりだった。

 平和な人生を送っていた現代日本人としての価値観からすると正直理解し難い感情なのだが、封建制の国家においては地位の高い人間と肩を並べて戦闘出来ることは名誉だとされる。
 実際フォルダン家の兵士たちも、戦場に私がいると張り切り具合が違ったりする。

 我々は出発した。
 目指す先は邪気の中央部でもある、ダンジョンの出入り口だ。



 道中、我々は何度も死霊軍と衝突した。
 それらは数を揃え、集団を成した我々の敵ではなかった。
 しかし中央部に迫るにつれ、死霊軍の数もその一体一体の強さも増し、徐々に死傷者が発生し始めた。

「くそっ、しくじっちまった、不甲斐ねぇ。
 俺たちはおいてってくれ」

「ああ、後で必ず迎えに来る」

 戦闘力を失った負傷者たちを連れて行く余裕も、彼らを守る兵力を残す余力もない我々は、彼らを可能な限り安全そうな場所に残していった。
 近くの死霊たちは一掃したし、魔物は死霊たちに全滅させられている。
 我々が死霊使いに勝った後に助けに来れば良いのだ。
 逆に我々が負けるようなことになれば、彼らを助ける必要もなくなる。

 エレアという興奮剤の効果も切れ始め、皆の顔に焦燥感が浮かぶ中、主人公陣営に敗北はないことを、少なくとも今回はないことを知っていた私だけはのんきに風景を楽しんでいた。

 私の近くにいたゼラは不安げだった。
 昨日頬を赤らめて走り去った彼女だったが、朝会ったときにはケロッとしていた。

「勝てるかな、この戦い」

「大丈夫だ。
 私たちの力は温存できている。
 死霊使いなどに負けはしないさ」

 我々レベル20台の戦士は決戦に備え、ここまでほとんど手を出していない。
 仲間に対するカバーも陣形が崩れそうな時など、最低限にとどめていた。
 周囲の戦士たちが身を挺して主力である我々を無傷の状態で死霊使いの元へ送る作戦だ。

「でもこれほどの力を放ってるのよ。
 本体はどれだけ強いか」

 ゼラは天の邪気を見上げた。
 近づけば近づくほど、その邪気の強大さがよくわかった。
 私は彼女だけでなく、周りにも聞こえるように少し声を張って答えた。

「このダンジョンにいるということは、死霊使いの年齢は高くて20前後だ。
 そんな若者が死霊術をここまで極めている可能性は限りなく低い。
 この召喚術はおそらく強力な召喚系邪法具による力だろう。
 となると、本体の戦闘力はそう高くないはずだ。
 勝機は十分ある」

 近くにいたクノスが賛同した。

「その通りです。
 それに死霊使いを持ち上げるのも良いですが、我々学院生を軽く見てもらっては困りますね」

 我々の言葉を聞いて、周囲の顔色が少し良くなった。
 ダンジョンにおける我々学院生というのは、前世で言えばクイズ大会における東大生のようなものだ。
 相手は死霊使いという伝説的な存在ではあるが、それでも彼らにとって我々は安心感のある味方だと言えるだろう。

 そんな会話もありつつ、我々は足を止めなかった。
 そして丘を越え、林を抜け、我々は邪気の中央にたどり着いた。
 そこには一人の男が佇んでいた。
 死霊使いだ。

 最後の戦いが始まった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

1001部隊 ~幻の最強部隊、異世界にて~

鮪鱚鰈
ファンタジー
昭和22年 ロサンゼルス沖合 戦艦大和の艦上にて日本とアメリカの講和がなる 事実上勝利した日本はハワイ自治権・グアム・ミッドウエー統治権・ラバウル直轄権利を得て事実上太平洋の覇者となる その戦争を日本の勝利に導いた男と男が率いる小隊は1001部隊 中国戦線で無類の活躍を見せ、1001小隊の参戦が噂されるだけで敵が逃げ出すほどであった。 終戦時1001小隊に参加して最後まで生き残った兵は11人 小隊長である男『瀬能勝則』含めると12人の男達である 劣戦の戦場でその男達が現れると瞬く間に戦局が逆転し気が付けば日本軍が勝っていた。 しかし日本陸軍上層部はその男達を快くは思っていなかった。 上官の命令には従わず自由気ままに戦場を行き来する男達。 ゆえに彼らは最前線に配備された しかし、彼等は死なず、最前線においても無類の戦火を上げていった。 しかし、彼らがもたらした日本の勝利は彼らが望んだ日本を作り上げたわけではなかった。 瀬能が死を迎えるとき とある世界の神が彼と彼の部下を新天地へと導くのであった

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

聖女の娘に転生したのに、色々とハードな人生です。

みちこ
ファンタジー
乙女ゲームのヒロインの娘に転生した主人公、ヒロインの娘なら幸せな暮らしが待ってると思ったけど、実際は親から放置されて孤独な生活が待っていた。

処理中です...