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マスク
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ボクの店の商圏は、地方都市の郊外にあるベッドタウンだ。
店の前には国道が走っているので、もちろん単発のお客さんもやって来るが、だいたい来る客は同じ顔ぶれで、マスクをしていても、誰なのか頭の中では漠然と認識できている。
最近、ボクの店に二人組の若い女性客が来るようになった。
一人は一見、若手人気女優の大貫真帆。
そしてもう一人は・・お笑い芸人の・・名前は浮かばないが、小太りの・・
「よう、潤、あの二人組、また来てるぞ。」
先輩社員の木曽さんもカノジョがいない。
「お前、どっちがいい?」
ボクにそう問いかけながら、もう笑っている。
それは二人のシルエットを見れば、分かりきった質問だったからだ。
食品コーナーの清掃時間になったので、ボクは担当の袋菓子コーナーに向かった。
ちょうど彼女達が見ている少し横でプライスの歪みを直していると、大貫真帆がマスクを顎まで下げたのだ。
あ・・やっぱり全然違う。
大貫真帆はアヒル口だ。ところが彼女はどちらかと言えばたらこ唇で、真帆より少し出っ歯に見えた。
掃除から帰ると、木曽さんが興奮気味にボクの腕を掴んだ。
「潤よ、見た?見た?」
「ああ、見ましたけど・・全然大貫真帆じゃなかった。」
「はあ? そりゃ違うよ、滝口翔子だろ!」
「滝口翔子?・・誰ッスか、それ」
と、休憩時間に木曽さんから見せてもらったスマホの画像は、ボクの思い描いた顔とはまるで違っていた。
名前は知らなかったが確かによく見る実力派女優だ。
ああ、そう見たか。
人の好みは色々だ。
滝口翔子はたらこ唇でやや出っ歯。だがそれが魅力の女優だ。
木曽さんはあの女性に滝口翔子を見た。まさに理想の顔だったのだ。
ボクの思い込みとはかけ離れていたが、恐らく客観的に見れば彼女は美人の範疇には充分に入る。むしろ滝口翔子よりバランスが良いとさえ思う。
木曽さんはしばらく希望に満ちた毎日を送っていたが、数日後、男と腕を組んできた彼女を見て沈没した。
「ソーシャルディスタンスだろうが。イチャイチャしやがってけしからん女だった。」
悲しい負け惜しみだが、ボクは心から同情する。
ボクらのような男は、こうした細やかな幸せの繰り返しで生きている。
しかし木曽さんはへこたれない。また新しい幸せを見つけることだろう。
ボクも見習わなきゃ。
店の前には国道が走っているので、もちろん単発のお客さんもやって来るが、だいたい来る客は同じ顔ぶれで、マスクをしていても、誰なのか頭の中では漠然と認識できている。
最近、ボクの店に二人組の若い女性客が来るようになった。
一人は一見、若手人気女優の大貫真帆。
そしてもう一人は・・お笑い芸人の・・名前は浮かばないが、小太りの・・
「よう、潤、あの二人組、また来てるぞ。」
先輩社員の木曽さんもカノジョがいない。
「お前、どっちがいい?」
ボクにそう問いかけながら、もう笑っている。
それは二人のシルエットを見れば、分かりきった質問だったからだ。
食品コーナーの清掃時間になったので、ボクは担当の袋菓子コーナーに向かった。
ちょうど彼女達が見ている少し横でプライスの歪みを直していると、大貫真帆がマスクを顎まで下げたのだ。
あ・・やっぱり全然違う。
大貫真帆はアヒル口だ。ところが彼女はどちらかと言えばたらこ唇で、真帆より少し出っ歯に見えた。
掃除から帰ると、木曽さんが興奮気味にボクの腕を掴んだ。
「潤よ、見た?見た?」
「ああ、見ましたけど・・全然大貫真帆じゃなかった。」
「はあ? そりゃ違うよ、滝口翔子だろ!」
「滝口翔子?・・誰ッスか、それ」
と、休憩時間に木曽さんから見せてもらったスマホの画像は、ボクの思い描いた顔とはまるで違っていた。
名前は知らなかったが確かによく見る実力派女優だ。
ああ、そう見たか。
人の好みは色々だ。
滝口翔子はたらこ唇でやや出っ歯。だがそれが魅力の女優だ。
木曽さんはあの女性に滝口翔子を見た。まさに理想の顔だったのだ。
ボクの思い込みとはかけ離れていたが、恐らく客観的に見れば彼女は美人の範疇には充分に入る。むしろ滝口翔子よりバランスが良いとさえ思う。
木曽さんはしばらく希望に満ちた毎日を送っていたが、数日後、男と腕を組んできた彼女を見て沈没した。
「ソーシャルディスタンスだろうが。イチャイチャしやがってけしからん女だった。」
悲しい負け惜しみだが、ボクは心から同情する。
ボクらのような男は、こうした細やかな幸せの繰り返しで生きている。
しかし木曽さんはへこたれない。また新しい幸せを見つけることだろう。
ボクも見習わなきゃ。
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