バージョンアップLOVE

ザクロ

文字の大きさ
上 下
12 / 15

ラスボス 木島奈緒

しおりを挟む
「あら、久しぶりね。どうしてたの?」

お客さんに水を出していたママさん。

「今日は矢野君休みだけど・・」

「そうですか・・・」
 
私の様子をうかがってママは恐る恐る訊いてきた。

「何かあった?・・ケンカしてんの?」

「あ、いいえ、そんな事ないですよ。」

ママさん鋭いから、誤魔化し切れないかな。

私はまた窓際の席でジュースをオーダーした。

「あら、山城さん、来てたの?」

手芸部の先輩が偶然入って来た。

「バスの時間が空いちゃって。」

「あ、いいですよここ。座って下さい。」

隣のテーブルに座ろうとした彼女を私は向かいの席に手招きした。

「あれから時々来てるの。ここ、居心地いいから。」

良かった。少しはお店に貢献できてるみたい。

「そう言えば彼は?今日休み?」

「みたいですね。」

「元気な子だと思ってだけど、二日前かな。すごくボウッとしてたわ。あんなこともあるのね。」

へえ・・・

「なんかこう、窓の外ジィッと眺めててね、ため息ばっかりついてたなぁ。マスターにドヤされてた。」

「あらいらっしゃい。先輩は?コーヒーね?」

と、伝票を書いた後、ママさんは私の肩を叩いた。

「こら、どうしたの?んもぉ、アンタ達同じ顔して。」

「へ?・・誰と?」

「矢野君とよ。何かこう・・遠くを見つめちゃってさ。最近ため息ばっかりついてるよ、あの子。」

この二日間はLINEさえして来なかった。
私が返事をしなかったから。

頭に来て思わず感情をぶつけたけれど、私はこの状態を望んではいない。
どう対処していいのか自分でも分からなかった。

とはいえやたらと、寂しいな、と思った。




翌日・・・

私はもう一度 Trueに行くことにした。やっぱり弘樹の顔を見たい。

「いらっしゃいませ」

ママさんがニヤリとして奥を見た。

俯き加減の弘樹は肩を落として奥から出てきた。

チラ、と目が合って、バツが悪くて私は一度そらしたけれど、すぐに戻した。

彼は私を見ると、唾を一飲みして言った。

「いらっしゃい」

たった数日会わなかっただけなのに、懐かしい。弘樹もそんな目て私を見つめた。

「何にする?」

「紅茶・・お願いします」

「はい。」

元気がないと聞いた弘樹の目は、今は嬉しそうに見えた。

私達はいつものようには言葉を交わさず、互いに静かに目を合わせ、微笑みだけを交わした。


「それじゃ、帰るわ。」

「待って。話がある。」

私は彼の上がる時間までお店で待った。

バス停のベンチで、弘樹は私に頭を下げた。

「ウソをついて悪かった。」

「もういいよ。
私も・・常識で考えたら分かる話だったのに。」

「でも、まだ怒ってるだろ?」

「面白くないのは確か。でもアンタの言う事も分かる。清算には時間がかかる。」

「許してくれんのか・・」

「仕方ないでしょ・・」

そう言うと、弘樹は息を振るわせた。

「・・良かった・・」

「おおげさね。」

「駅まで送ってもいいか?」


弘樹はバスの中でもあまり喋らなかった。
ただ私の隣にいて、時々微笑んで・・

景色を見るフリをして、窓ガラスに写った私の顔ばかり見てた。

私もそう。

何度もそうして見つめ合った。



「来てくれて、アリガトな。」

今さらそんなことを言われてちょっと変な気分だった。

なんだか可笑しいほどお互いにぎこちなくて、妙に照れ臭くて。

でも嬉しかった。



その夜、弘樹は久しぶりにLINEしてきた。

『杏里の顔見れて良かった』

『私のおかげで元気出た?』

ちょっと戯けて返す。

『ああ 久しぶりに元気出た 』

『今 電話しても大丈夫?』

『もちろん』

プルル・・、
弘樹はすぐに出た。

ところがちょっと困った。
何を話していいか分からず、変な沈黙。

「ごめん・・別に話はないんだけど・・」

『ハハ、何だよそれ』

「・・・声が聞きたかっただけ。」
手元にあった枕を抱き締めていた。

『・・・うん・・・』

変な話だけど、何も喋らないのに嬉しかった・・













街まで出るのは久しぶりだった。

この聳え立つ大きな病院に木島奈緒がいる。

「ホントにいいんだな?」

「うん。」

修羅場になるかも知れない。

けれど、木島奈緒という強敵を退けるには、どうしても私が立ち会わねばならない気がした。

弘樹は昨夜連絡を取って、彼女の勤務が終わる時間を確認してある。

私達は病院から二つ裏の筋にある、地下の喫茶店に待った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...