バージョンアップLOVE

ザクロ

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新年。いよいよ動き出す?

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「年賀状来てるよ。分けといたから。
はい、これお姉ちゃんの。」

そんなに交友関係ないからな・・・
中学、高校の同級生から数枚、サークルのみんなから数枚。あとは美容院と洋服屋・・

妹が私の中から一枚抜いて言った。

「ね、矢野弘樹ってどっかで聞いた名前なんだけど。」

その言葉にお父さんが反応した。

「昔近所に住んでた子だろ。ほら、よく遊びに来てた。」

「あー!そうだ!弘樹君だ!」

「懐かしいなあ、お母さんがよく可愛いがってた子だ。なんだ、お前また会ったのか?」

「え、うん・・まぁ。」

妹の手からひったくって改めて見る。

筆ペンで書いたであろう、実に下手クソな字。
その横にはボールペンで何やら色々と書いてある。
妹が覗き込むのを避けて、私はそのまま部屋に持って入った。



謹賀新年
昨年末は本当にゴメン!
杏里に会えてマジで嬉しかった
今年は心入れ替えて
キミのハートをゲットするぜ!



・・ダッサぃ

と言うか、もう既にスマホにはいくつも弘樹のお正月メッセージが入っている。

あの弘樹がわざわざ年賀状?
ちょっと笑えた。

LINEには初日の出を見に行こうだの、初詣でに行こうだの、そう言う誘いもあったが、全部却下した。

『三人も相手にしてたら初かどうか分かんないでしょ?
どうぞ彼女達と行ってらっしゃいませ。』

正月早々私は嫌味をぶつけた。

すると、すぐに返事が来るからウザい。

『杏里と行きたい 杏里じゃなきゃダメ』

若干白け気味ではあるけれど、まあ持ち上げられて悪い気はしない。

あの女たらしがいつまで続けられるか分からないが、私はしばらく様子を見てみることにした。







三が日も過ぎ、サークルのメンバーとささやかな新年会をしようことになった。

私も人のことは言えないが、陰キャな子ばかりなので、忘年会の時のようなオシャレな空間は気疲れする、とのことだった。
簡単に済ませたいので街までわざわざ出て行くのも面倒だ。
タウン紙を見ても、メンバーの要望を満たすお店を、と考えると、決めるのには時間がかかる。


そこで・・
ちょっと気が引けたが、私は True のことが頭に浮かんだ。

バルでも落ち着かない、と感じたメンバーだ。Trueでもちょっとした拒否反応があったが、大学の近くと言うことで最終的には皆が賛成した。

提案した手前、お店への打診も任されてしまう。
仕方なく私は初めて自分から弘樹にLINEを送った。

『お店もうやってるよね?』

『やってるやってる』

『サークルの新年会とかできる?』

『できる! 今暇だから、マスター達喜ぶよ!何人くらい?予定日も教えて 予約入れとくよ』

『八人 予定日は・・アンタの出勤日教えて』

弘樹はすぐに送り返してくれた。

『ありがとう この日は避けて予約する』

すると、涙の顔文字が返ってきた。つい吹き出してしまった。



私が幹事ということになった。
みんなの都合を聴き取り、成人式を避けて夕方から始める旨、私は弘樹を通さず、お店に直接連絡を入れた。


そして来たる当日。

「いらっしゃいませ!」

あ・・いる。

出勤日を避けて予約したはずなのに。

ママが私に拝むような格好をして寄ってきた。

「ゴメン!矢野君の頼みに根負けしちゃっさ。」

そんな気もしないではなかった。
私は口を尖らせて、むくれ顔を彼に見せてやった。
それなのに、アイツは満面の笑顔。

「知り合いなの?」

サークル仲間が好奇の目で私達を見てる。

「昔の同級生だよ。それだけ。」

憮然とする私の背後から猫撫で声がした。

「あのぉ・・」

両手を揉みながら、弘樹が立っていた。

「幹事はどちら様で・・」

私だよ!知ってるクセに!

「お飲み物、お持ちしてよろしいですか?」

むくれた私と媚びへつらう弘樹。その対比が、事情を知らないメンバーにはやけに面白かったらしい。
みんな笑いを堪えていた。

まあいいか。私の席は後ろ向きだし。

しかしほどなく向かいのメンバーが私の背後を見てまた笑いを堪えた。

「あのぉ・・」

私は振り向いて彼の袖を引っ張り、声を押し殺して言った。

(ちょっと!普通に話し掛けらんないの?)

(すみません。)

(で、今度は何?)

(お好み焼き、トッピング一つずつサービスしてくれるって。
あとドリンクも一杯ずつサービスね。みんなの希望きいといてよ。)

私は向こうのマスターとママさんに頭を下げた。

(あ~、分かった分かった。ね、次からは普通にしてよ?普通に!) 

(はい、承知しました!)

隣の先輩が笑いながら聞いてくる。

「ねえ、何なの?あなた達すごく仲良しに見えるんだけど。」

「良くない、良くないです。」



新年会はその後無事に終わった。
すぐ近くにありながらみんなが敬遠したのは、私と同じ理由。ここは陽キャのお店、と決め付けていたのだ。

しかし、実際に来てみた印象はかなり良くて、メンバーは皆ここを気に入った。

会計を終わらせて解散。

メンバーのみんなが散って行く中、ママさんはコッソリ私に手招き。

私にお茶を一杯飲んで行けと言ってきかなかった。


「本当に来てくれて嬉しいなあ。新しいお客さんまで連れて。」

「いえ、ホントは醜態晒しちゃったから恥ずかしかったんですけど。」

思い出しても恥ずかしいあの晩。色々と苦いクリスマスだった。

「その後、どうなの?」

「どうって・・変わってないです。」

「そう。私達、本音では応援してんだけどね。」

「やめて下さい。アイツは嫌いです」

ママさんは笑っていた。

「実はね、私達夫婦も同じ組み合わせなのよ?だから他人事とは思えなくてさあ。」

聞けばマスターはF大でママさんはT女。二人はそのOB、OG夫婦だったのだ。


「へえ、先輩だったんだ!でも、いくら先輩が応援してくれても、私は変わりませんから。」

「そっかあ。あ、ほら、矢野君、まだまだ誠意が足りないってよ?」

「はい、頑張ります!」

ふん、勝手にしろ。



(ところで幹事さん)

弘樹がまた擦り寄ってきた。

冷ややかな流し目で見ると、彼はヒソヒソと耳打ちしてきた。

(ちょっと真面目な話したいんだ。少しでいいから時間作ってくれない?)

(え~、一体何?)

(またLINEするから。ちょっと考えといて。)




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