バージョンアップLOVE

ザクロ

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斜め上を行く真実

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その時の私に笑顔は無理だった。

彼がどう取り繕おうと、私は最初から受け付けないと決めていた。

だから、私のご機嫌伺いをしても無駄なこと。

彼の神妙な顔をただ冷ややかに見ていた。

その時、奥さんがパフェを持ってやって来た。

「こんばんは、初めまして。」

人懐っこい笑顔で話しかけられて、愛想を返さないわけにはいかない。

私は何とか笑みを作って応えた。

「これ、矢野君のバイト代から天引きしとくから。」

もちろん冗談のようだ。それはいい。

ややこしいことにマスターまでやって来た。

「もう今日は閉めるから、片付けの音はうるさいかも知れないけど、ゆっくりして行ってよ」

「・・あ、・・はあ、あの、でも」

「聞いてるよ。あなた矢野君に引導渡しに来たんでしょ?」

奥さんは事も無げにそう言った。

私はまた混乱させられた。

「コイツ、悪い奴じゃないんだけどね、女グセが悪くて。」

マスターは上から弘樹の頭をクシャッと揉んだ。

何、何?

「今何人と付き合ってんだっけ?」

弘樹は、何とも情け無い目をして、私に萎れた愛想笑いを見せた。

(・・三人・・かな・・)


さ、三人!?


「それ、彼女も入れて?違うよね?」

今度は奥さん。

(はい・・違います・・)

マスターが頭をはたいた。

「おっ前、いい加減にしろよ?」

何の茶番だ、これは。

「あの、ちょっと・一体何なんですか?」

とにかくどんどん混沌にはまっていく私は、なんでもいいからリセットしたかった。

奥さんが少し落ち着いた笑顔で言った。

「ついさっき頼まれたのよ、矢野君に。」

「自分のこと、洗いざらいぶちまけてくれってね。おい、これでいいのか?彼女確実にお前をフッちゃうよ?」

すると、弘樹は取りすがるような目で私を見た。

「な、何?いや、ダメだから。ダメダメ!」

「だよねぇ?初めから分かってることなんだけどさ、まぁ彼なりの誠意って意味じゃない?」

私はフツフツと怒りがわいてきた!

「せ、誠意?
冗談でしょ!
私、今すごく不愉快だから。
こ、こんな風に他の人まで巻き込んで、それって一体なんなのよ。
アンタ、女口説くたんびにこんな事してんの?」

・・ついキレてしまった。


「・・そうなの?」

マスターと奥さんが弘樹に注目した。


「な! んなわけないでしょ! こんな事頼んだの初めてっすよ!」

私にはさらにやり場のないものが込み上げてきた。

「惨めだよ・・こんなヤツの・・その他大勢の女になってたなんて・・アタシはそれが悔しいの!」

悔しいと言えば、この状況も相当悔しい。

どうして自分が泣いているのか分からないから。こんなのはまったく想定外だった。

私は弘樹のヤツを冷たくあしらって終わる計画だった。

自分の心境なんか喋るつもりはこれっぽっちもなかったのだ。

男に裏切られた哀れな女になりたくなかった。
どうしてこんな無様なことになったんだろう。


奥さんが私の肩を抱いてくれた。

振り解いて癇癪起こしたい気持ちだったけど、優しくされると、なぜかとても悲しくなってきた。

「矢野くぅん、アンタ本当に悪いことしてるよ?」

「分かってます・・すんません・・」

弘樹は声を詰まらせていた。

「だけどさあ、お前、彼女だけはその他大勢にしたくなかったんだろ?」

弘樹が頷くのを見ながら、私は嗚咽していた。

「そんなの今さらダメでず。今さらそんなごど言っでもダメでずぅ」

あ~あ~・・何て醜態を晒してるんだろ。

「これはもう、清算しなきゃ話になんないんじゃない?」

私の頭を撫でながら、奥さんは柔らかくも厳しい口調で弘樹に言った。

(・・はい、)

「清算なんかしてもダメだから。アンタが清算しようが、私関係ないから。」

「分かってる。・・清算したあかつきには、なんて言うつもりはない。オレが勝手に清算するんだから。
でも・・・ちょっとでいいから、考えてくんないかな・・」

「だってさ?・・どうする?」

私は思い切りむくれて涙を拭いてる。

「とにかく、まぁこっから先は二人に任せよう。ママ、片付けるぞ!」

奥さんは弘樹にゲンコツのゼスチャーをお見舞いして腰を上げた。





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