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しおりを挟む「ねえ、りつちゃん?なんでお会計終わってるの?今日は私が払うって言ったよね?私、言ったよね?」
「ははっ。絵美は本当に質問ばっかだね。」
「茶化さないで!」
無事トイレから戻ってきた絵美。会計を済ませる際に頼んでおいたお冷をクッと煽った彼女は、テーブルに伝票がないのに気付き、ポカンと口を開けてこちらを見た。けれど、次の瞬間、キッと恨みがましい視線を寄越す。それを、また呵々と笑って流そうとしたら、怒られた。これは、いかん。
「ねえ、今日はりつちゃんの誕生日のお祝いだって言ったよね?だから、私が払うって言ったよね?りつちゃんも了承したよね?」
「うーん…」
そう、今日は私の誕生日のお祝いという名目だったのだ。けれど、どうにもむず痒い。祝ってもらうことは、それはもう、とても嬉しい。大事な友人が、私の為だけの時間を作ってくれるのだ。喜ばない筈がない。けれど、私は奢られるというのがどうにも苦手だった。それが、親しい仲なら尚更。
なんだろう…繋ぎ止めておきたいのかもしれない。捻たどうしようもない思考だ。
さて、そんな私の汚い思考よりも、今はこの状況の打開が先決だ。早くなんとかしなければ、絵美の可愛いお顔が大変だ。
「…絵美には言ってなかったんだけど、私、バオバブの木の精霊なんだ。『誕生日』って概念がそもそもないの。」
「ブフッ!」
…我ながら酷い。なんだ、バオバブの木の精霊って。もっと他にあるだろう、大丈夫かこの脳味噌。思わず真顔で言ってみた酷い設定に、零した瞬間に頭を抱えた。然し、耳に届いたのは吹き出したした笑い声。
あれ、掴みはオッケー?そう思って顔を上げた先の絵美は、それはもう残念なものを見る視線を、隠すことなく私に注いでいる。吹き出したのは絵美ではない?じゃあ…?
そうして少し視線をずらせば、私たちの右隣の席。私の斜向かいの席に座る同年代と思われる男性が、私と、自らの向かいにオロオロと視線を彷徨わせる。彼の向かい、と言うことは私の隣。
ぐりっと首を真横に回せば、俯いて、プルプルと震える大きな背中。それを認識すれば視界の端、斜向かいの男性の顔色が可哀想なくらいに青くなる。…ふむ。
「絵美。私、笑われてる。」
「うん。私は全然面白くなかったけどね。」
おお、厳しい。見ず知らずの男に笑われているのは正直ムカついたが、直ぐにどうでもよくなる。偶々隣の席に居合わせただけの他人だ。絵美より優先すべき存在ではない。その低い笑いの沸点を、どうにか収めてやってくれお連れ様。その内噎せそうだぞ、この男。
然し、それは要らぬ杞憂だったようだ。
「ご、ごめんね。斜め上を行く言い訳に耐えきれなくて。」
漸く人を笑うことにひと段落つけたのだろう。振り向いたのは、中々見ないレベルのイケメンだった。
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