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しおりを挟む「ねえ、りつちゃん?おかしくない?何で普段からお化粧しないの?勿体なくない?」
「絵美は質問ばっかだねぇ。」
目の前で眉を顰めて、じっとりと此方を見遣る数少ない友人に、呵々と笑いながらビールを呷る。すると、更に眉間の皺が深くなる。折角の可愛い顔が台無しだ。
料理を運んできた店員にビールの追加を頼めば、ああ、更に眉間に皺が…。思わず苦笑を零しながら、運ばれてきたアヒージョを差し出す。くつくつと煮立つオリーブオイルの中で、ブロッコリーとタコが目に鮮やかで食欲を唆る。それは、差し出された絵美も同じようで、キラキラと輝く瞳は、一瞬でそれに釘付けになる。
「私、化粧は必要ないと思ってる。仕事でもラフな格好だし、そもそも内勤だし。」
「じゃあ、今日は?ちゃんとお化粧もしてるし、綺麗にしてるじゃん…。」
私の答えに、ぶすくれてノンアルコールカクテルに口を付ける絵美に、ふむ、と自らを見下ろす。首元がざっくりと開いた白いニットに、シガレットパンツ。足元はサックスブルーのパンプス。シンプルではあるが、普段の私と比べれば、確かに女らしい格好ではある。けれど、私がこんな風にするのは、絵美に会うときだけだ。
絵美は、とても可愛らしい。小さな身体に、所謂『森ガール風』なナチュラルな格好を好む彼女は、容姿も愛らしい。パッチリと大きな目も、ふっくらとした唇も、ほんのり色付いた頬も、本当に可愛い。まさに、私とは正反対の理想の女の子である。
捻くれて可愛げのない、未だに影で『悪魔』と呼ばれることのある私。けれど、絵美は最初から物怖じすることも否定することもなく、本音で付き合ってくれる。私は、そんな絵美が大好きで、大切だ。絵美が喜んでくれるから、絵美と並ぶ時はきちんとする。自分が向けられると倦厭するような依存心。それを彼女に抱いてる私は、なんとも面倒な奴である。
絵美は、それを理解して受け入れてくれた上で、こうして不満を口にする。彼女からすれば、私のひょろりと高い上背も、曰く『クール』な私の容姿も、羨ましいのだと。だから、いつも勿体無いと不満をぶつけてくる。
お互いに無い物ねだりしているものだなぁと、また、ビールを一口。
「りつちゃんなら、それこそ男の人も選り取り見取りなのに。」
「あ、こら。」
友人の欲目が強い絵美は、そう言って私のビールを奪うとそれに口をつける。絵美はお酒が殆ど飲めないどころか、ビールは苦手な筈だ。慌ててジョッキを奪い返せば、その可愛らしい顔はこれでもかと言う程くしゃくしゃに歪められていた。
「りつちゃんが飲んでると凄く美味しそうなのに…解せぬ…」
「馬鹿言ってないで水飲みな。ほら。」
「大丈夫。トイレ行ってくるから。」
たった一口のビールで、既に顔を赤くするなんて、どれだけお酒に耐性がないのか。吐きやしないかと心配したが、足元はしっかりしてるから大丈夫だろう。けれど、念の為、今日はお開きにした方が良さそうだ。トイレに向かう絵美の背中を見送り、私は今の内に会計を済ませてしまおうと店員を呼び止めた。
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