隣の古道具屋さん

雪那 由多

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愛すべき時を刻む音 9

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 いや、おま、なんでそんなにも慣れてるんだと思う。以外にもケモナーだったとか、似合わねーなんておもってみたり。って言うか九条相手に鈴さんの方もなんでご満悦気に撫でられなれてるんだという疑問は膨らむも続く話にそれは一旦置いといて

「渋滞していてもゆっくりとバスは動いてやがてある一点の所で俺達は言葉を失いました。
 いつも俺達が乗っているバスがトラックと衝突していて、いつも俺達が乗っているあたりにトラックがバスに突き刺さっていたのです」

 ぞっとする話に九条の手は止まり、キラキラしていた朔夜の瞳も驚きに大きく見開かれていた。
 その中ではたきの人は

「それから?」

 話はここで終わりなのかと言うような静かな言葉に征爾君は首を横に振り

「あのバスに乗っていた人の大半は小さな怪我はあれど無事でした。ですが、俺がいつもいた所に居た人でしょうね。お亡くなりになっていて……」

 さすがに言葉を失ってしまう。
 それでは時計はまるでそれを予知したかのようなものではと思うも

「お前の代わりに被害者が出ている。あまり気持ちの良くない話だな」
「です。
 それに先日、うちの家は会社を経営していて大切な契約があった日にまた時計が家中の時計を止めまして、大幅な遅刻からの結果。そちらとの契約はなくなってしまいました。
 うちの会社にも大損害が出て大変なことになってたのですが……」
 きっとそれが時計を預かった時に聞かされた話だろう。
 大損害の話までは聞いたなと思えば

「契約が出来なかった会社には大きな負債があり、それを隠してうちの会社の傘下に入るつもりでした。傘下に入った後その負債を押し付けるつもりだったようです。
ですが時間に遅れた事により、まあ、相手もプライドの高い方たちでそちらの方を優先して他の会社と手を組む結果になりました。
 結果から言えばその会社のトラブルに巻き込まれる事もなく事なきを得たという所ですが……」
「ああ、結局その会社は負債を押し付けた代わりに切り捨てられて破綻してるな」
 いつの間にか手にしていたスマホで調べて結果を先回りして読んでいた。って言うかどうやって調べたんだろと気にはなったけど記事に夢中で教えてはくれないようだ。
「他にもそういう事がちょっと立て続けに起きたので祖母も父も時計を気味悪がって、だけど後継ぎだからと言って俺をかわいがってくれた祖父が大切にしていた、まさに楠家の繁栄の象徴に手を出すのはどうなんだと思って……
 もし時計が壊れて動かなくなったのならそれはそれで大切に飾っておけばいいのではとおもいます」

「下手に触って障りに触れたら祟られるからな」

 ぽつりと九条の言った言葉に征爾君はこくんと頷いた。
 そう。
 この年で初めて学校をさぼるくらいの勇気を出してきた理由。
 
「なるほど。時計は何もただで恩恵を与えていたわけではない。
 何かあったからこそ守って来たのにその仕打ちはひどいじゃないかってことか」
「守り神とまで言われるのならそのまま大切に祀るのが一番だ。たとえ動かなくなったとしてもだ」
 うんうんと頷く九条にそういうものか?と言うはたきの人。
 
「じゃあ、もしうちに帰って来た時、俺が祖父の形見として受け継ぐというのもありでしょうか?」

 あんな物騒なものを欲しがるのかと思うも

「たぶんだが、お前の一族と言う所に時計は執着している。
 黙っててもお前の所に転がり込むだろうし、むしろ君の祖母や父がどこかで処分してしまう方が危険だ。
 もうあれはただの時計ではないのだからな」

 そんな九条の言葉にふーんと言うはたきの人と目を輝かせる朔夜。
 俺はなんだか怖くなってしまったものの

「まあ、それが呪いだというのならあの時計が執着する理由を探すんだな」

 九条の言葉にはっとする。
 それこそ我が家の稼業で俺の目指す道では、という様に気付いた俺を九条とはたきの人が冷静な目で俺を見ていた事を俺は気づいていなかった。



 とりあえず修復はできないからといて二、三日預かったのちにお返しする、そういう予定だからと言えば征爾君はほっとした顔で今からでもという様に学校に向かうというのだった。
「真面目だな」
「普通ですよ。吉野様はやんちゃしていたとか?」
 さりげなく場を和ませるつもりで言えば
「やんちゃはしたつもりはなかったけど先生たちにはマークされたな」
「意外……」
 朔夜が驚くも
「なに、ただ保健室に居座ってただけだよ。俺が行っていた学校の保健室は先生の謎の愛読書がたくさん並んでてな。読破しようと思ったら出席日数がぎりぎりになっただけだ」
「先生の努力が偲ばれる」
「なに、成績は普通に点は取って来たから文句は言わせなかったぞ」
「余計先生の努力が!」
「それでも俺をこき使う教師だっていたんだからな。呆れたもんだぞ」
「素晴らしい先生ですね」
「実物にあってそう言えるかが疑問だけどな」
 言えば力強く首を縦に振る九条。
 やめてよ、なんかはたきの人を教育出来る立派な教師像が崩れかけるんだけど……

「それにしても時計の事をどう思う?」

 九条の当たり障りのない言葉。
 
「どうもこうもないだろう。時計は購入先の楠家を繫栄させてボロボロになってまで楠家を守ろうとしている。
 購入した家に大切にされただけの話ではないだろう。
 楠家以外はどうでもいいという事は分かったが楠家に何かを求めているその何かが今更調べられるかが問題だな」

「だな」

 九条の短い返事。
 二人の思う所は一致したという所だろう。

「ちなみにあの時計を預かってから家の時計が止まっています」
「早く帰りたいってことか?」
「まあ、数日お泊りしたら帰すってことを時計に伝えておけ。できるだけ早く帰せよ。
じゃないと何をしてくるかわからんからな」
「ですね……」
 何をしてくるかわからない。
 つい先日鯉の掛け軸で起きたとんでもない事件とそれと同時期に我が家に乗り込んで来たはたきの人という二大事件を思い出せばなるべくトラブルを避けるためにも早々に返品した方がいいだろう。
「じゃあ、今日の夕方にでも電話を入れて明日にでも引き取ってもらいましょう」
「ああ、それがいい」

「じゃあ、その前に一度見ておこうか」
「なんですと?」

 なんてはたきの人が席を立てばすぐさま次郎さん達も立ち上がってはたきの人の側に駆け寄った。
「うわ、なんかすごく理想の飼い主してる」
「香月、どんな状況だ?」
 朔夜が目をキラキラとさせて説明しろと言えば
「はたきの人が立ちあがったら次郎さん達全員はたきの人の側に駆け寄ってさ、なんかすごく……」

 皆さん騙されてません?

 なんては聞けなかった。
 だけど次郎さんは九条に
「すまないが主の為に取次ぎを頼む」
 そんなできる使役の姿。素直にかっこいいと思うも
「いや、九条に頼まずとも俺に聞こうよ」
 そこはしっかり主張しておくのだった。

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