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雨の惨劇 3
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昔から迫力のある目をしていたが今は記憶以上の気迫ある目にこれ以上待たせてはいけないという様に慌てて足を運ぶも
「遅い」
「ええ……」
お前は社務所から一歩出ただけだろうと文句を言いたかったけど目の前には馬に人参のごとくお守りをぶら下げられれば
「無理なお願いを聞いてくださいありがとうございます」
あれから帰ってすぐに用意してくれたのだろう俺専用のお守り。制作過程は分からないがこの小さなお守りを作る九条の姿を想像するとこの目つきの悪さでと言うギャップにニマニマとしてしまう。まあ、こんな俺の心理何て見抜いたかのような人を馬鹿にした目で
「はっ!そして無理な事をしようとするのだから腹立たしい!」
とっくに俺の心の内はばれていたようで、でも止めようとせず俺の意思を尊重してくれる九条。ほんと親父と言いいい奴だと言いたいが……
「って言うか、無理言って悪かったのは謝っただろ。まだ何かあるのかよ」
受け取ったお守りは返さないぞと言う様にそそくさと普段から首にぶら下げていてお守りがなくても習慣のように首にぶら下げる紐にお守りを縛り付ければその仕草ではなく俺の顔をじーっと、目の奥底を覗くように目を細め
「何があった」
「なにがって、意味わかんないんだけど」
ここ数日はありすぎてどれがどれだかわからんという様に言えば
「お前の霊力、少し変化したな」
「変わる物なのか?」
「お前は変わりすぎたけど…… 安心しろ。今回は悪い方じゃない。
なんて言うか期待するほどでもないが良くなっている。ほんの微かにだが」
そこまで言われば少し心当たりがあった。
「あれか?
さっき着物を着た人が二つの光の玉を引き連れていてその人とすれ違ったとき犬の鳴き声が聞こえてさ。
神社にまさかの犬って驚いたんだけどその時なんかふわっとたような、はっとしたみたいに視界がクリアになったというか体が軽くなったというか……」
少しでもあの不思議な気分を伝えようと言葉を探すも結局感覚的な言葉しか選べなかったけど
「そうか。分かった」
「え?それでわかったの?」
逆に聞けば九条は少し頭が痛そうに目を瞑り
「まあな。今回は問題ないが、もしまたそういう感覚を感じたらすぐ俺に知らせろ」
「九条に面倒を見てもらう気分。なんか不思議だ」
「あほか」
なんて白い目で見られたと思えば
「今までは店主がお前の事を思って俺とやり取りしてきたがこれからはお前がお守りの劣化具合や交換スケジュールを立てて取りに来いって言う事だ。
大体いつまで親を頼ってる。三十過ぎて自分の身を親に守ってもらって甘えてんじゃねえ」
思いっきり馬鹿にされてしまった。
はい、馬鹿です。
こんな事を言われないと気付かないなんて恥ずかしくて穴を掘って入りたいです。
「引き継ぐならお守りの代金とかはお前が店主から聞きだすことから始めろ。そしてその料金にびっくりして親を尊敬と感謝して懸命に働くんだな」
想像以上にお高いお守りだという事に驚いて、それをずっと何も知らずに頼っていたことにショックを受ければ
「じゃあ、そろそろ家に帰る。
あの鯉の奴らついにやりやがったから、すぐに戻らないと……」
「らしいな。店主からも連絡をもらった。とにかく気を付けて帰れよ」
そうだ、今は無事家に帰る事に集中しないと、と思えば
「背中を貸せ」
言って九条は俺の背中に指を滑らせ何かの文字を書き、そしてバンバンと背中を叩いた。
さらに社務所に居た男に何か指示を出してお札を何枚か作らせて……
「家に帰るまではこれで問題ない。
あとあの子の部屋のお札、これに張り替えろ。俺が即席で作ったものよりかは効果があるからな。時間稼ぎにしかならないけどな近いうち強力なのを持っていく」
そう言うだけ言って社務所ではない方へと向かって歩いて行った九条だが受け取ってまだ墨の匂いの残るお札をもって九条が去っていった方へと頭を深く下げた。
家に帰るまで二件の車の事故を目撃した。
前の車が前の車に追突したりとか、隣の車右折車にぶつかったりだとか…… これは偶然出会ってほしいと願いつつ家に入れば……
「無事だったか遅かったから心配したぞ」
すぐに親父が出迎えてくれた。
「帰り道に九条の所に寄って来たから。これ、もらってきたんだ」
「そうか。なら少しは安心だな」
本当に安心したかのようなほっとした顔。ずいぶん心配させてしまったようだ。
「あとこれって幾らなの?九条がいつまでも親に甘えるなって言うからさ、これからは自分で払おうと思って……」
「知りたいか?」
少し表情の硬くなった親父に……
「え……、そんな高い奴なの?」
「オーダーメイドらしいからな。ただ、初めてもらったときから値段は上がってないから、そこは九条さんに感謝しなさい」
十数年前から値段が変わらない物なんてないだろうと遠回しに言われたけどそっと耳打ちされた金額にぼったくってんじゃないの?なんて言う言葉は飲み込んで
「とりあえず無事帰ったこと連絡しておく」
話しながら母さんにも顔を見せた所で
「七緒の様子は?」
「九条さんのお守りとお祈りが効いて今は落ち着いてるわ」
「よかった……」
しかも術で眠らされている間は泣く事もないだろうし……
あれにはさすがに参った。
女の子のなく姿ってこんなにも切ないなんて……
「次目を覚ました時には全部終わってると良いな」
「そうだな」
「またあの元気な声聞きたいものね」
なんだかんだ言って俺達親子は七緒を我が子同然という様に大切にしていたことをなんとなく理解し、この監視しているとでも言いたげなうっとうしい雨が早く止みますように。太陽が良く似合う七緒の笑顔を取り戻せますようにと胸のお守りをそっと握りしめて願うのだった。
「遅い」
「ええ……」
お前は社務所から一歩出ただけだろうと文句を言いたかったけど目の前には馬に人参のごとくお守りをぶら下げられれば
「無理なお願いを聞いてくださいありがとうございます」
あれから帰ってすぐに用意してくれたのだろう俺専用のお守り。制作過程は分からないがこの小さなお守りを作る九条の姿を想像するとこの目つきの悪さでと言うギャップにニマニマとしてしまう。まあ、こんな俺の心理何て見抜いたかのような人を馬鹿にした目で
「はっ!そして無理な事をしようとするのだから腹立たしい!」
とっくに俺の心の内はばれていたようで、でも止めようとせず俺の意思を尊重してくれる九条。ほんと親父と言いいい奴だと言いたいが……
「って言うか、無理言って悪かったのは謝っただろ。まだ何かあるのかよ」
受け取ったお守りは返さないぞと言う様にそそくさと普段から首にぶら下げていてお守りがなくても習慣のように首にぶら下げる紐にお守りを縛り付ければその仕草ではなく俺の顔をじーっと、目の奥底を覗くように目を細め
「何があった」
「なにがって、意味わかんないんだけど」
ここ数日はありすぎてどれがどれだかわからんという様に言えば
「お前の霊力、少し変化したな」
「変わる物なのか?」
「お前は変わりすぎたけど…… 安心しろ。今回は悪い方じゃない。
なんて言うか期待するほどでもないが良くなっている。ほんの微かにだが」
そこまで言われば少し心当たりがあった。
「あれか?
さっき着物を着た人が二つの光の玉を引き連れていてその人とすれ違ったとき犬の鳴き声が聞こえてさ。
神社にまさかの犬って驚いたんだけどその時なんかふわっとたような、はっとしたみたいに視界がクリアになったというか体が軽くなったというか……」
少しでもあの不思議な気分を伝えようと言葉を探すも結局感覚的な言葉しか選べなかったけど
「そうか。分かった」
「え?それでわかったの?」
逆に聞けば九条は少し頭が痛そうに目を瞑り
「まあな。今回は問題ないが、もしまたそういう感覚を感じたらすぐ俺に知らせろ」
「九条に面倒を見てもらう気分。なんか不思議だ」
「あほか」
なんて白い目で見られたと思えば
「今までは店主がお前の事を思って俺とやり取りしてきたがこれからはお前がお守りの劣化具合や交換スケジュールを立てて取りに来いって言う事だ。
大体いつまで親を頼ってる。三十過ぎて自分の身を親に守ってもらって甘えてんじゃねえ」
思いっきり馬鹿にされてしまった。
はい、馬鹿です。
こんな事を言われないと気付かないなんて恥ずかしくて穴を掘って入りたいです。
「引き継ぐならお守りの代金とかはお前が店主から聞きだすことから始めろ。そしてその料金にびっくりして親を尊敬と感謝して懸命に働くんだな」
想像以上にお高いお守りだという事に驚いて、それをずっと何も知らずに頼っていたことにショックを受ければ
「じゃあ、そろそろ家に帰る。
あの鯉の奴らついにやりやがったから、すぐに戻らないと……」
「らしいな。店主からも連絡をもらった。とにかく気を付けて帰れよ」
そうだ、今は無事家に帰る事に集中しないと、と思えば
「背中を貸せ」
言って九条は俺の背中に指を滑らせ何かの文字を書き、そしてバンバンと背中を叩いた。
さらに社務所に居た男に何か指示を出してお札を何枚か作らせて……
「家に帰るまではこれで問題ない。
あとあの子の部屋のお札、これに張り替えろ。俺が即席で作ったものよりかは効果があるからな。時間稼ぎにしかならないけどな近いうち強力なのを持っていく」
そう言うだけ言って社務所ではない方へと向かって歩いて行った九条だが受け取ってまだ墨の匂いの残るお札をもって九条が去っていった方へと頭を深く下げた。
家に帰るまで二件の車の事故を目撃した。
前の車が前の車に追突したりとか、隣の車右折車にぶつかったりだとか…… これは偶然出会ってほしいと願いつつ家に入れば……
「無事だったか遅かったから心配したぞ」
すぐに親父が出迎えてくれた。
「帰り道に九条の所に寄って来たから。これ、もらってきたんだ」
「そうか。なら少しは安心だな」
本当に安心したかのようなほっとした顔。ずいぶん心配させてしまったようだ。
「あとこれって幾らなの?九条がいつまでも親に甘えるなって言うからさ、これからは自分で払おうと思って……」
「知りたいか?」
少し表情の硬くなった親父に……
「え……、そんな高い奴なの?」
「オーダーメイドらしいからな。ただ、初めてもらったときから値段は上がってないから、そこは九条さんに感謝しなさい」
十数年前から値段が変わらない物なんてないだろうと遠回しに言われたけどそっと耳打ちされた金額にぼったくってんじゃないの?なんて言う言葉は飲み込んで
「とりあえず無事帰ったこと連絡しておく」
話しながら母さんにも顔を見せた所で
「七緒の様子は?」
「九条さんのお守りとお祈りが効いて今は落ち着いてるわ」
「よかった……」
しかも術で眠らされている間は泣く事もないだろうし……
あれにはさすがに参った。
女の子のなく姿ってこんなにも切ないなんて……
「次目を覚ました時には全部終わってると良いな」
「そうだな」
「またあの元気な声聞きたいものね」
なんだかんだ言って俺達親子は七緒を我が子同然という様に大切にしていたことをなんとなく理解し、この監視しているとでも言いたげなうっとうしい雨が早く止みますように。太陽が良く似合う七緒の笑顔を取り戻せますようにと胸のお守りをそっと握りしめて願うのだった。
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