異世界召喚に巻きこまれたらスマホがバグって騎士団団長の妻になるそうです

雪那 由多

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この世界に人権はないらしい

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 やって来た花の日。
 今日も晴天で聖華ちゃんとのお茶会は……

「何で侍女達が前より倍の人数になっているのかなー?」
「あははははー。
 多分この間のリベンジお茶会で天鳥さんがやりすぎちゃったのが原因かと思いまーす。
 口止めしても侍女達の至福なお顔と甘ーい匂いは隠せませんでした」

 言いながらエヴィリーナ様お友達御一行も今は侍女見習いとして聖華ちゃんの侍女軍団の中にちゃっかりと紛れている姿に苦笑を零す。
 とりあえずと言う様にハウゼンさんに屋敷の料理長に作ってもらったお菓子をプレゼントして、空っぽになったバスケットからエクレアとシュークリーム、ロールケーキを大量に取り出す。
 そして聖華ちゃん筆頭侍女の方にお菓子を運ぶためのトレーにそれを山盛りに盛り付けて

「少し込み入った話をしたいので下がってていただいても宜しいでしょうか?」

 バスケットより明らかに入りきらない量のお菓子たちに目を丸くしながら頷いて、全員を連れてどこか急ぎ足で去って行くのを微笑ましいなぁと眺める天鳥に

「少しサービスしすぎです」
「だったらずうずうしいですって鞭を与えるのが聖華ちゃんのお仕事じゃないか」

 俺と仲がいいからお菓子のプレゼントがあり、少しでもご機嫌を損ねたら無くなる、それぐらいの采配は絶対元の世界でもお嬢様だった聖華ちゃんには難しい事ではないだろうと言っておく。

「それで込み入った話って?」

 ゆっくりと紅茶に手を付けて一口飲めば

「聖華ちゃんは魔王の事何所まで聞いてる?」
「魔王と言うと深淵の魔王…… ですか?」
 
 知ってはいるようでどこまで話せばいいだろうと言う顔はそれでも情報源は一つではないと言う様に俺に会った直後充電と言うように渡されたスマホを覗き込んで写メった画像を見せてくれた。

「魔王って言うとこれでしょうか?」

 紫紺のストレートの長い髪とすらっとした切れ長の深い紫の瞳。間違いないと頷けば聖華ちゃんはほんのりと頬を染めて

「ひょっとして攻略しちゃいました?」

 つまりヤったのかと聞きたいのだろう。
 こう言う事を聞きたがり、知りたがり、好奇心が止まらないお年頃に俺はしぶしぶながらもギルティと告白。

「やー!もう!クラエスさんみたいな素敵な旦那様を捕まえておきながら美形を見たらすぐに股を開くなんて大人ってさいってー!」

 言う顔は物凄く楽しそうにどこでどんなふうにヤったの?!と口と好奇心は反比例しているようだ。

「因みに魔王の名前はジェラルド・ヒュー・ヴィンセントさん年齢不詳」
「これがジェネラルだったら将軍か魔王かはっきりしてよって言えたのにね」
「むしろ生まれながらの将軍か。将軍で頭打ちとは成長を阻害する名前だな」

 そんなどうでもいい事を笑いあいながら

「美形でしたか?」
「このクソゲーのボスになるくらいには」

 強引で、強引で、強引で。
 この世界に居ないタイプと言うかアレックスが不良になったらあんな感じ。いや、年齢不詳での時点で不良って言うのは笑えるなと思わず吹き出してしまえば

「くっ!早く実物みたい!
 きっと声も渋くってえっろい躰してるんだよな」
「聖華ちゃん本当に高校生だったの?」

 働いていた会社の女子社員を思い出す親父臭さに引いてしまうのは当然だと言いたい。
 そんな俺の視線に居た堪れないと言う様に「こほん」と咳払いをして

「魔王が復活して瘴気がこの国、というか世界を守る結界を超えて侵入して来た為に私たちはこの世界に召喚されました」

 急に冷静な声で瞳を伏せて、胸の前で手を組んで聖女らしく祈りを奉げるようなそんな神聖な空気が広がる。
 ゆっくりと目を開いて俺を正面に見るように顔を上げ

「魔王は悪です。
 それはゆるぎない真実、この世界の理です」

 まるで後光から光が差すような、そんな清廉な祈りを奉げる聖女の姿。
 先ほどまでとはまるで別人のようなその姿に俺は違うと言う様に頭を振りかぶる。

「聖華ちゃん、君もこの世界のシステムに逆らえずに操られているんだね」

 にこりと微笑みを浮かべるその片方の瞳から一筋の涙。

「聖女モードで総てに平和の祈りを奉げ続ける、それが聖華ちゃんに与えられたこの世界を守る方法なんだね」

 ぽたぽたと零れ落ちる涙に祈りを奉げる聖女の仕事に初めて疑問を覚えるたのだった。

 


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