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聖女のある一日

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 長い石造りの廊下を歩く。
 明るい日差しの入る廊下はひんやりとして気持ちが良い位世界は陽気に満ちていた。
 だけど北の空を見れば暗雲と言う様に黒い雲がかかっていて、この世界に来てからずっとその雲は晴れる事はなかった。
 
「あの雲は瘴気が生み出した雷雲で、あの雲の下では雨と雷が降り注ぎ、暴風に荒れ狂っており、この三年の間晴れる事は一度もなかった」

 学校の授業でそう学んだ。
 雲の下の街は崩壊し、国を挙げての保護は街に住む人すべてがちりじりに分かれて誰もが貧困にあえいでいるときく。
 学校の老先生の授業は怖い事も恐ろしい事も総て真実を教えてくれる。
 貴族に対して目や耳を塞いだ方が良い情報も、平民が掴む与太話ではなく常に正しい真実を教えてくれる。
 若手貴族の先生達は目と耳を塞ぎたいと言うが、正しい情報こそ正しく導けると教師として素晴らしい姿勢をお持ちの方だった。
 その授業に感銘を受けながら次の授業の教室に赴く為に廊下を一人歩いている。
 友達はまだいない。
 未だ遠巻きにされ、いつも一緒にいる殿下達は剣術と馬術の為別行動となる。
 女の子達と仲良くならないといけない……
 それは判っているが、それを総て殿下達が阻む。これが強制力かとある種の感動は在れどあまりにタイミングが毎度良すぎるので逆に殿下達が気味悪く思う時が多々ある。まるで見てたかのように私を救わんとする王子様。
 残念ながら私の中ではストーカー扱いされている。

「何だか思ったような世界じゃないな」

 楽しんでいたくせにいつのまにか苦痛を覚えたのはわりとすぐ。
 学校を通い始めてから何かがおかしくなっていた。 
 城でも侍女達は少しずつ距離を取出し、代わりに殿下達が距離を詰めてくる。
 息が詰まる、そんな中花の日の天鳥さんとのお茶会は一種のストレス発散とするには丁度よかった。そしてスマホの充電。また次の花の日まで頑張れると力が沸く。
 陛下に覚えめでたい天鳥さんとのお茶会は短い物の穏やかな時間が過ぎる。
 天鳥さんがたくさんのお土産を侍女さん達にプレゼントしてくれるので、侍女の間では天鳥さんの人気はうなぎのぼりだ。
 そして

『学生で城と学校の行き来しかできない聖華ちゃんももっと外を見る機会があるといいんだけどね』

 私の世話係とも仲良くなって、身動きできない私の現状を訴えてくれる。
 
『でも、これだけ国に対して尽しているのに城での生活だけっておかしいと思いませんか?
 お給料どころかお小遣いも貰えてない状況、さらっておいてひどい扱いですよね』

 侍女さん達に事実を話してくれた。

『案外王子達は俺達みたいな毛色の変わった異世界人をペットにしたいから召喚したのかな?』


 天鳥さんのボヤキはあっという間にお菓子と共に侍女達に話が広がった。我らの王子実はヤバいんじゃないかって。
 もちろん城勤めの侍女達は実家が私と同じ学校の兄弟の方も居て、瞬く間にこの話題は学校でも広がっていた。
 それで一番焦ったのは殿下の婚約者だった。

「セイカ様、ごきげんよう。
 本日も穏やかな陽気で気持ちが良いですわね?」

 数人の取り巻きと連れて庭を望む廊下で足を止めた私に声をかけていた。
 今日も今日とて威勢のいい嫌味を言うのかと思ったが、その顔は暗く影っていた。

「ごきげんよう。
 少し厚い位の陽気ですが、からりとした風が気持ちよく木陰なら本と過ごしやすい気候ですね」

 めんどくさい挨拶は天気や草花の様子を織り交ぜるのがこの国の淑女の会話らしい。
 だけど皆さんのご様子がよろしくなく、いつもの威勢もなく何処か不安げな顔。
 喧嘩しかした事ない相手だけどそのまま見過ごすのも何か気持ちが悪く

「そうですわ。エスケープしませんか?」

 きっと高位貴族の淑女には縁のない言葉。勿論お付き合いする殿方含めた方達ともに道の物なのだろう。
 案の定キョトンとする彼女たちに

「ええ、そうしましょう!何事も一度は体験しなくては人生そんしますよ?」

 そんな私の人生論。
 多大この学校は高い壁にぐるりと囲まれているし門番は勿論衛兵も経っている。脱出するのは無理そうなのでそれならそれでいい場所を幾つか知っている。
 なんてったってこのゲームを熟知した私なのだ。
 フレーデリク王太子殿下の婚約者様、エヴィリーナ・ブラフィルド侯爵令嬢の手を取り

「皆様もご一緒下さい!」
 
 そう言って私はとっておきの場所。旧校舎にある図書室での友人となった司書さんにお願いをして司書室側のバックヤードに案内するのだった。






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