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うちの隊長は森に散歩に行くことになりました

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 ヴォーグのご飯はやっぱりどこでも美味しかった。
 たとえ王都のあの小さな家だろうが、時折うちに来て用意してくれる食事も、こっそり城の俺の部屋で簡単に食べれる食事を用意してくれるのと変わりなく、つい食べ過ぎてしまう美味しい食事を用意してくれるのだった。
 今更この謎肉の本体の名前を知りたいと思わないが、食事よりも水を重視する遠征ではこんな新鮮な野菜や具沢山のスープはまず食べる事はないだろう。
 至る所で美味しいと喜びの悲鳴はつい先程まで死にそうになっていたこともあるが、ここ数日まともな食事をしていなかったことにも起因する。
 騎士団で支給される簡易携帯食料はわずかなお湯で塩分とエネルギーを摂取するだけのもの。火が使えない状況なら水でふやかして食べるだけの惨めな物だ。
 そんなところで焼き立てのパン、熱々のスープ、そして香ばしい香菜の香高い謎肉のソテーに誰もがおかわりをねだるのは当然というものだ。
 ニコニコとした顔でイリス達の部下と給仕を行うヴォーグは焼けるうちにパンは焼いておきましょうとシルビオ達の部下にパンの生地を捏ねさせて焼かせているあたりどれだけ食べるつもりなんだよと突っ込みたいもののこいつら全部食べるんだろうなとパンの焼き方を学ぶ一同に見ないふりをしておく。
 こんな森の奥で城の奴らに会うわけがないのだ。
 多少度を超えても見ないふりをしていればヴォーグがこのばをイリスに任せて剣を持って離れようとしていた。

「どこか出かけるのか?」

 声をかければちょっと困ったような顔をして

「ここベアー達がはちあわせる場所でしょ?」

 それだけで十分だ。

「ついていっても構わないか?」

 まさか文官に押し付けるわけにはいかない。たとえこの場の誰よりも、全員束になって襲っても笑いながら迎撃して勝利を勝ち取るのだろうと分かっていてもだ。

「絶対そばを離れないですよ」
「勿論」

 それからノラスを呼んでこの近くをグルリと見回ってくると言ってランダー達の面倒を任せるのだった。


 ヴォーグの丸太の家の拠点から十分もせずにキリングベアーと遭遇した。
 俺は剣を構えるも、ヴォーグは漆黒の剣を鞭のようなしなやかな動きで喉元に突きつけて貫通せずに手首を捻って僅かに切り口を付けた程度だがそのまま悶えて地面で悶えていた。
 何をしたのかと思うも足元を見れば地面に足を氷で縫い付けられていて

「速攻性はないのですが、首の血管の血が喉の中に溢れて溺れたようになるのですよ」
「わかってはいたがそれができる技術をすごいと思う反面首を切り落として楽にさせると言う選択はないのか」

 ひどいとは思わないがむごいだろと訴えるも

「このキリングベアーの皮で作ったブーツは耐水性もさることながら皮の程よい硬さと厚さが足の負担を軽減してくれるにですよ。今履いてるブーツもキリングベアーで作ったものなんです」

 ひょいと足を上げて見せてくれたブーツは脹脛までしっかりとホールドしたロングブーツ。余分な装飾は一切ないシンプルなもの。ただオレの目から見れば買い換える必要があるのかと思うも

「仕事用に一足欲しくて。でも在庫がないと言われたので採りにきたのですよ」

 何だか一瞬魔草を摘みに来たのと同じ感覚で聞こえたのは気のせいか。
 虫の息になったところで一気に凍らせて収納してしまったもののヴォーグは顔を明後日の方に向けて

「あちらにジェノサイドベアーがいます。捕まえに行きましょう!」

 逃げられる前に早く行こうとせっつくヴォーグの顔は虫を見つけて捕まえようというウキウキとした子供の顔。オレは盛大に顔を引き攣らせて一人では決して対応できない魔物が一瞬で屠られる様子を見守ることになるにだが……

「因みにこいつのアピールポイントは?」
「お肉のおいしさもさる事ながら内蔵は薬にもなりますし、何より皮も爪もこの国一番の高値をつけるベアー系なのです!」
「余す事なく全部が金になると言うことか!」
 
 俺より稼ぐなんてと悔しい思いはすでに時の彼方に置いてきたがそれでも悔しいと思わずにはいられない。

「おいしく熟成させてローストして食べましょう。この時期のものは程よく脂ものってて、赤ワインで作ったソースがまた美味しいんです!」
 力説するヴォーグの説明に思わず涎が垂れそうになれば

「クラウゼ副隊長のお屋敷でお願いしてみましょう。副隊長の家のシェフのソースはどれも絶品なので楽しみですね!」

 ヴォーグの今から楽しみもだと言うあかるい声に俺も思わずこくこくとうなづいてしまう。涎が垂れそうになるのを気にしながらなので全然締まりはないが。
 バックストロム国シーヴォラ隊隊長なのにと悔しく思っていれば不意に影が落ちた。
 ん?と顔を上げれば直ぐ目の前にヴォーグがいて、熱を孕んだ顔で俺を見下ろしていて……

 その視線を受けて俺ははしたなくもその視線の色が持つ意味に躰が反応していてゆっくりと浅くなる呼吸を繰り返しながら

「こんな所でか?」
「こんな所なのだからです。
 魔物に翻弄された姿がどれだけラグナーを虐めたいと思わせたかご存じありませんか?」

 そんなメチャクチャな理由をつけるヴォーグの下半身を俺の腰に絡めてきて、ヴォーグがもたらす美食に偏った思考はそのまま即物的な食事へと変わり、幾度と、ゆっくりと啄むように、だけどそれでは足りないと深く交わっていく口付けに俺の思考は響く水音と共に一瞬にして理性がグズグズに溶けていくのを心地よく感じるのだった。






 
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