上 下
296 / 308

うちの隊長は気合を入れて穴を掘ろうかと思います

しおりを挟む
 キリングベアーは収集癖があるらしく、俺達が逃げる為に捨てた荷物は見事一纏めに集めてくれていた。勿論キリングベアーの巣に。
 ヴォーグがキリングベアーの足跡を追跡して辿り着いた巣には沢山の……理解不明な謎な物が多く、キリングベアーの収集癖には疑問を抱くしかなかった。
「キリングベアーは巣にこうやって色々な物を集めて、それを見つけたメスが気になれば巣に入って、興味を示している時にヤリ逃げするのですよ」
 人間ならば酔っぱらってる時に、と言う奴か。さすが魔物。外道ぶりは標準らしい。
「まぁ、野生あるあるだな」
「この巣はそのままメスへ貢いで明け渡し、そのまま冬眠となるので……まぁ、餌とかも多く、時々こう言った魔石も転がっているのです」
 こぶし大の魔石を俺達に見せてくれて
「このサイズだと結構いい値段しますね。だからキリングベアーの巣を荒らすのは止められない」
とのほほんと笑っていた。案外人でなしだ。
 とは言え俺の背後でギラギラした視線に変った奴らにお前達がやったらキリングベアーに瞬殺だぞと注意は促しておく。ヴォーグは謎の収集物から目ぼしい物を幾つか拾い上げながら俺達の荷物も収納魔法で片づけてくれた。
「そろそろ逃げましょう。メスと出会ったら厄介ですからね」
 周囲を伺いながら今ならまだ大丈夫ですと急ぎ足で丸太小屋へと向かうのだった。
「疑問だがこの広い森の中で上手くメスと巡り合う物なのか?」
 縄張りと言う概念があるのだから巡り合うのだろうとは思うのだが
「キリングベアーは縄張りの中にいくつかああいった巣を作ります。
 そのうちどれかに引っかかればいいと言う程度の出会いの確率だそうです。そもそもヤリ逃げするゲスい生き物です。引っかからなかった巣は最後自分の冬眠用の巣になるので無駄はありませし、俺達みたいなコソ泥を捕まえる事の出来る罠にもなります。有効な使い方過ぎて感心しますよ」
 と笑いながら説明するヴォーグの足がいきなり止まって
「すみません。見つかっちゃいました」
 あははと笑いながら剣を取り出して
「少し行ってきます。ちょっとここで待っててください」
 一体に付き一隊で対応すると言う魔物相手に散歩の途中に寄り道してくる様な気楽な口調で言いながらやぶの中を進んで行ったと思ったらすぐに野太い獣の悲鳴。魔法の発動の気配はなかったが、ちょっとも待たない間にヴォーグが戻ってきて
「キリングベアーはゆっくりと油を落とすようにして焼くと無限に食べれます。特に今は冬眠に向けて脂肪を蓄えているので一年で一番美味しい時期です」
「そうか。それは楽しみだ」
 なぜか無言で無表情になる部下達の気持ちはわかるが美味しいお肉拾ったと言わんばかりの足取りの軽いヴォーグは丸太小屋はこちらですと案内をしてくれるのを俺達は黙ってついて行くのだった。
 時折足元が危ない所は俺に手を伸ばしてくれたり、滑りそうになっては腰に手を回して支えてくれたり。過保護だなぁ、なんて照れてしまうも自分が騎士団の隊長としてはどうだろうと悩むも
「あ、この木の実甘くて少し酸味もあって美味しのですよ。危険な魔物の気配もないし少し摘み取って皆さんのお土産にしましょう」
 言いながら真っ赤にむれた親指の大きさ程の柔らかな木の実を口の中に入れてくれた。思わずと言う様にヴォーグの指まで食べてしまうも、少し照れたような顔をするから俺まで照れてしまう。
 思わぬ油断というかちゅっと音を立てて指が口元から離れればヴォーグもその指をちゅっとなめとっていて、不意に現実に戻ってしまった。
 ヴォーグ止めてくれ。
 部下の前で恥かしいと思わずしゃがみこんで顔を両の手のひらで覆ってしまう。
 部下も部下達で
「何でここにクラウゼ副隊長がいないんですかー!!!」
 木々の合間に向かって吠える顔はどいつもこいつも涙を流していた。一体それは何の涙だ?と問いただしたかったがいつまでもこんな所で大騒ぎするわけにもいかず
「ある程度採ったら行くぞ!」
  木の実の如く真っ赤にむれているだろう顔を俺は隠せないまま急ぎ足で丸太小屋に帰り、そしてベットの上でちょうど暖かな茶を飲んでいたアレクの所に行けば俺の様子を見て眉間を潜め
「何があった」
 何だかあまりよくない予感だと言う顔を隠さずに、でもそれでも聞いてくれるアレクの優しさに森の中の一件を話し、盛大に呆れさせるのだった。



「つまり、お前は恥ずかしくて逃げてきたと」
 そう指摘されてコクコクと頷くも
「今更何を言ってる」
 物凄く呆れられた顔をされた。
「だって人前であんな指をちゅ、なんて、恥ずかしくて穴があったら入りたくなるだろ!」
「それは木の実を食べさせたヴォーグに対してか?家のように寛いでいる姿を部下に見られての事か?」
 この二人が案外恥ずかしい奴らだと知っているアレクは何を今更と言うが
「アレク、お前俺達の事をそんな恥かしい二人のように見てたのか?!」
 顔を青くしたり、そして思い出してか赤くしたりと忙しいラグナーに
「まぁ、大概家の者達も含めて慣れたつもりだが、そうか。肝心のお前が無自覚だとは……」
「仕方ないだろう。孤児院じゃちび共とは何時もそんな感じなんだし」
「それはヴォーグに言ってやるなよ」
 やっぱり所詮はそんなのかとラグナーの生態を良く知るアレクとしては改めて呆れ果てるが
「ヴォーグに嫌われないだろうか」
「そんな事で好き嫌いを決める奴じゃないだろう。もうちょっと信頼してやれ」
「だけど!」
「お前らは新婚なんだ。それぐらいがちょうどいいと言えば安心するのか?」
「新婚……」
「そういう時期なんだから、今はヴォーグに思いっきり甘えるのが礼儀じゃないのか?」
「礼儀……」
 それはどんな礼儀なのだろうかとアレクは頭を傾けるも何やら騙されつつあるラグナーの様子を見てもう一押し。
「恋愛の賞味は三ヶ月というではないか。あいつの気を引きたいのなら多少体を張るのは当然じゃないのか?あいつがお前の食欲を満たしている様に」
 三ヶ月ではなく三年だった様な気もしたが、こんなどうでもいい細かい事にまで拘る必要はないと飲みかけのお茶をサイドテーブルに置いてもう少し寝させてもらうと言ってラグナーを追い出すのだった。。



しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て運命の相手を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ──────────── ※感想、いいね大歓迎です!!

処理中です...