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うちの隊長は原因は俺ですと猛反省するのでした

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 ワイズとはずっと良い関係が作られてきたと思っていたのに、まさか他の家に願い出なくてはならない事があったなんてと未熟で使用人にまで舐められている事は理解していたつもりだが信頼を置いていたワイズにまでこのような事をさせてしまったと眩暈を覚えてしまえば

「ワイズ、せめて頭を下げる前にまず何を訴えたいのか聞かせてくれ」

 ワイズを立たせようとクラウゼ伯はその両肩に手を添えるも、息子に目配りをして俺の隣にアレクが座り直す。
 ランダーもイリスも何も言えないと言う様にすぐ側についてくれる中、ワイズは涙ながらに切々と願い出るのだった。

「どうか、どうか、ハイラ殿をヴェナブルズの屋敷に、ラグナー様の補佐、いえ家令としえ迎え入れたく願います!」

 涙どころか鼻水まで溢れだし、イリスがミューラの為に持っていたクマが刺繍されたハンカチでワイズの目元を抑える。

「いや、ワイズのようにとハイラも見習うべきと言った方の屋敷に、と言うか、ワイズがヴェナブルズを支えなくてどうする」

 クラウゼ伯はハイラにどう言う事だと視線で訴えたり、ラグナーが無事かと視線を変えたり忙しくしていたものの

「老いた私だけではヴェナブルズはもう支えられません。まだまだ若いハイラ殿にどうかヴェナブルズを、アヴェリオが成長するにはまだ時間が必要です!私ではもう、ハイラ殿でなければ今のヴェナブルズを支えられますまい!」
「それは、ええと?どういった意味でかな?」

 息子からヴェナブルズの使用人の質が落ちている事は聞いている。
 だがそれは手を抜いているだけであって根本的な能力が落ちたわけではない。
 そうなる何が彼を追いつめたのかと思うも

「私では、私ではルードヴォーグ様のようにヴェナブルズを支える事が出来ないのです……」
「いや、それはいくらワイズ殿でも無理でしょう」

 至極当然とハイラはワイズを突き放した。
 ええ?!と思う間もなくワイズもコクンと深く頷く。

「十年前ならいざ知らず今の私では計算の能力も落ちてきました」

 そう言うもラグナーが計算するよりも圧倒的早く正確なワイズの能力を疑った事はヴェナブルズを指揮する事になってから一度もない。

「領地の管理、財産の管理、税収の管理、使用人の管理、物の管理、スケジュールの予定、総てに置いてルードヴォーグ様亡き後私一人では回しきれず……」
「ヴォーグ様と共にしていた仕事を一人でするなど無茶です。
 出来なくて当然なので気にしてはいけません」

 ハイラはきっぱりと言い切ってこの訴えと言う暴挙のワイズ殿の涙や鼻水をクマが刺繍されたハンカチで綺麗に拭い

「旦那様、ワイズ殿はヴォーグ様亡き後のヴェナブルズをどうやら一人で支えていたようです。
 ヴォーグ様は私から見ても舌を巻くような仕事を常にこなしておいででした。それは眠る時間を削ってまでの仕事ぶりです。
 ですが……」

 ちらりとラグナーを見る。
 ラグナーはびくりと少しだけ肩を震わすもアレクが

「ハイラ、はっきり言ってやれ」
「しかし……」
「だったら俺から言おう」

 何かに気づいたように地を這う声が室内に広がる。
 その声の質で気が付いたと言う様にイリスとランダーはソフィア様とミューラを連れて部屋の外へと脱出したその気配が遠ざかるのを待って
                  
「お前は騎士だけじゃ飽きたらずワイズまで使い潰すきだったか!!!
 見て見ろ!
 こんな風にノイローゼのように追いつめられて、お前がここまで追い詰めた事を思い知れ!」
「あ、ええと?うん?」

「お前はヴォーグがワイズとしていた仕事をそのまま全部ワイズに押し付けて、お前はお前だけしか出来ない仕事だけを回してもらっていた事に気付いていたか!」
「はい。ええと、あれ?」

 胸ぐらをつかまれて立ち上げられたラグナーはアレクの絶叫に初めて気付いたと言う様にぎこちない動作でワイズを見る。
 そこには涙と感情を吐きだした事で見た事もない位やつれたワイズがハイラに支えられて「私めがふがいないからです」とまた涙を流していた。

「お前が、ヴォーグと、同じ技量だと、思うな!
 この場で、すぐ、謝罪をしろ!!!」

 一言一言丁寧に区切って俺でも理解できるように教えられてやっと理解できた。

「ワイズさん申し訳ありません。
 俺が頼りないばかりに苦労させてすみませんでした」

 何時かヴォーグが時折見せたドゲザスタイルで全力で謝罪をすればクラウゼ伯は失笑を零し

「まだまだ二人の関係は始めたばかりだからゆっくり頼れる関係になりなさい」

 言いながらも少しだけ苦しそうな顔をして

「ハイラ、この家も未熟ながらもアルヴェロが指揮を執って少しは形が出来るようになった」
「私から言わせていただければまだまだです」

 ハイラの返事にそうだと頷くも

「十日に一度ぐらい顔を見せてくれればいい。
 ラグナー君を、ワイズを助けてくれないだろうか」
「それは、限定的な事で?」

 ハイラのどこか縋るような視線にクラウゼ伯は目を瞑って首を横に振る。

「ヴェナブルズの家へ行き、ワイズを助け、アレクに家督を譲るまでを限定として教育に我がクラウゼ家に足を運び、その後ヴェナブルズでワイズの補佐をしなさい」

 まさかクラウゼ伯がワイズを手放すなどと誰もが唖然とする中今度はワイズが涙をこぼす。
 当然だ。
 十代からずっとクラウゼ家に仕えて家令まで上り詰めたのにいきなり他所の家に奉公に出されるのだ。
 
「すまないと思う。
 だが、ヴォーグ君が残した物を、息子と呼んで、父と呼んでくれた彼へしてあげれる事がやっと今出来たのだ」

 ポケットからハンカチを取り出して目元を抑える。ゆっくりとした動作でクラウゼ伯の言葉を呑み込みながら顔を上げて

「判ってくれるか?」

悔し紛れでも頷くハイラに

「すまない。私個人の感情、そしてクラウゼ家の受けた恩に報いるには今必要な物はとにかく優秀な人材。
 何時もヴォーグ君が誉めてくれたハイラ、お前の存在だ。
 それにお前がこのクラウゼ家を管理するうえでその力を持て余している事ぐらい気付いている。
 アルホルンの、ヴェナブルズの財産管理の一部とはいえ運用さえ任されていたお前にはこの変化のないクラウゼ家では退屈とは言わん。
 やりがいを知ってしまったお前にこのクラウゼ家に縛り付ける事の方が酷だと私は判断した」


 返事が出来ないまま立ち尽くすハイラはそのまま深く何も言わず頭を下げた。

「さて、私もミューラの顔を見に行こう。
 ラグナーの息子なら私の孫になるのかな?」

 わざとあかるい声で部屋を辞したクラウゼ伯を見送ればワイズがハイラの足元に蹲って謝辞する光景を見て総て俺の力不足が招いた事だと今は苦い思いで天井を見上げる事しか出来なかった。
 








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