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うちの隊長には決して知られてはならない話です
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俺を軽くあしらう先生が一度だけ見せた、まるで全てを引き替えに差し出した強い決意を俺は知っている。
守ると言う事は何かを引き替えに差し出さなくてはならないそう言う事だとあの強い決意の奥にある物を見付ければもう躊躇いはない。
「俺は俺が愛する総てを守る為に総ての災いを払いのけよう」
今も直接手にかけるのはいまだに恐ろしくジェフリー・シルヴェストルの顔を思い出す。
指先が震えて、めまいを起こす。
冷静にあの事を思い出せるようになった今、恐怖に狂いそうになるも時間をかけて向き合う事で何とか踏み止まる事ができるようになった。
だけど祖父をもう野放しにする事は出来ない。
こんな時だと言うのに先生の決意がこれほどまでに重いのだと理解したのに、それを差し出しても守りたい沢山のモノがある事の方が嬉しくて……
まるで俺に呼応するかのようにこの部屋を寝室にするには広過ぎる室内がアルフォニアの匂いで満ちた。
「なっ、なんだ!」
精霊の姿を祖父は忌々しいと言って数度しか見た事がない、祖母達はかわいいと言ってはその姿でいるように強請られるくらい馴染のある姿だった。
子供の頃から成長したこの姿を知らない祖父はまるでバケモノでも見るようかのような視線で俺を見上げ、確かに近しい人からこんな視線を浴びるのなら心も悲鳴を上げる物だと今更ながら決意に込められる物にはこう言った恐怖がある事を理解するが、そんな物今の祖父相手に必要はない。
「お爺様……」
このようにこじれた関係となってもまだお爺様と呼ぶ自身を笑うも他に何て呼べばいいのか判らない為に今では分別する為の名前として呼んでしまう。
「言ったでしょう。
愛する総てを守る為に総ての災いを払いのけると。
ラグナーとラグナーに繋がる総てに害をなそうとするあなたにはその汚い言葉を二度と用いて欲しくない」
アルホルンの森に立ち込めるアルフォニアの香りを含む風を呼び出して祖父に叩き付ける。
驚いて二つのクッションに身体を預けるもその体が少しクッションに沈んだけだった。祖父は何をしたと言うように口をパクパクとして……何も音を発する事はなかった。
「そしてもうそのように自分で歩く事も出来なく総てを他人にしてもらうのなら魔力も必要はないでしょう」
ゆっくりと勿体ないように足を運びながら近づいて、胸をとんと指で叩く。
耳の奥で何かの糸が切れたようなそんな音が響いた気がした。
これで魔力は使えなく、影との連絡のとり合う方法が一つ消えた。
「そうそう、言い忘れましたが母と父はヴェナブルズの席から消しました。そしてイザムも手続き中ですがアヴェリオの家へと養子に出します。
私の長くない残りの命の後は総てを貴方が毛嫌いするラグナーに託します。
そして彼の死後はヴェナブルズは王家預かりとなります」
なによりもヴェナブルズを誇りに思う祖父の驚きの視線と口をパクパクとさせていても罵声しか溢れださない口に向かって何も聞こえないよと笑みを浮かべながら首を傾げ
「次にヴェナブルズを継ぐのは俺の後継のバックストロムの剣です。
ええ、どの家から産まれるか判らない者にヴェナブルズの総てを託します」
そう伝えた時はもう顔を青ざめてそのまま死んでしまった方が楽なのにと思うような顔をしていた。
「既に陛下と王太子と紙面にて調印を結んでいます。
同じものを三家の公爵家、アヴェリオ家、エーンルート家にも写しを渡してあります」
驚きにベットを這い出ようとした所でずるりと床に落ちてしまった。
「大丈夫ですか?」
声をかければ何やら大きな声を出しているようだけど何を言っているのかわからなく不便だと思ったが、手首がありえない方に向いている。
ベットから落ちた時に折ったのだろう。
びっしりと脂汗を流す祖父を見下ろす。
決別した今ではそんな姿に何の憐れみを感じない心はまるでフレッドを見ている時の気分と同じだが、それでも今はフレッドを少し可愛く思えるのだから変化という物は中々に侮れない。
「そうだ、いい贈り物があります」
今のお爺様には必須だなと黄金のベルを取り出した。
チリーン……
澄んだ金属の音に耳を傾けてサイドボードに置く。
「いい音でしょう?何れ使おうかと思って向こうで特別に作ってもらった物です」
冷や汗を流しなが、俺を得体の知れない物を見る様に顔を引きつらせながらも睨む視線に笑って
「実は俺、アルホルンの森の中でしか生きる事が出来ないらしいです」
睨む視線はだからどうしたと言った物。俺の境遇に興味を持たないのは今も昔も変わらない。
「あなたが死ぬか俺が先に死ぬかの競争のレベルです」
駒として使えない孫にもう愛着も何もない視線に笑いながら
「陛下にいろいろお願いした事があるのです」
碌な事をたくらんでいないだろうと言う様に口元を引き攣らせながら
「貴方をヴェナブルズから除籍しました」
ヴェナブルズが全てと言うお爺様は何かの罵声を言うかのように口を大きく開けるも空気と唾が吐きだされるだけ。うん。汚いなぁ……
「あなたをさっさとヴェナブルズから引き離し、この屋敷に閉じ込めるだけでなく身動き取れない様にするべきでした」
膝の骨を複雑に踏み砕かれて俺並みの治癒術が使えなくては治る事はないだろう。
力ばかり求めて俺の実力を報告書でしか知らない祖父には酷く手の抜いた報告書しか渡されていない。
俺がその膝を容易く直す事が出来るのも知らないだろう老害はたとえ今治ってもあの落ちた筋肉では立つ事から始めなくてはいけないだろう。
「ヴェナブルズから追放されたあなたに従う影は今後一切与えません」
驚きに目が見開いて行く。
「ここの使用人はヴェナブルズの物なので全員引き揚げさせます」
ぽかんと口が開く。
「それでは不便なのでしょうから代わりに貴方と契約しても良いと言う方をお連れしました」
給金は先払いをしたので俺が先に逝く事になっても大丈夫ですよと手を叩いて部屋に招いた人達を見て、その顔が絶望に染まるのを俺は何の感情なく眺めていた。
守ると言う事は何かを引き替えに差し出さなくてはならないそう言う事だとあの強い決意の奥にある物を見付ければもう躊躇いはない。
「俺は俺が愛する総てを守る為に総ての災いを払いのけよう」
今も直接手にかけるのはいまだに恐ろしくジェフリー・シルヴェストルの顔を思い出す。
指先が震えて、めまいを起こす。
冷静にあの事を思い出せるようになった今、恐怖に狂いそうになるも時間をかけて向き合う事で何とか踏み止まる事ができるようになった。
だけど祖父をもう野放しにする事は出来ない。
こんな時だと言うのに先生の決意がこれほどまでに重いのだと理解したのに、それを差し出しても守りたい沢山のモノがある事の方が嬉しくて……
まるで俺に呼応するかのようにこの部屋を寝室にするには広過ぎる室内がアルフォニアの匂いで満ちた。
「なっ、なんだ!」
精霊の姿を祖父は忌々しいと言って数度しか見た事がない、祖母達はかわいいと言ってはその姿でいるように強請られるくらい馴染のある姿だった。
子供の頃から成長したこの姿を知らない祖父はまるでバケモノでも見るようかのような視線で俺を見上げ、確かに近しい人からこんな視線を浴びるのなら心も悲鳴を上げる物だと今更ながら決意に込められる物にはこう言った恐怖がある事を理解するが、そんな物今の祖父相手に必要はない。
「お爺様……」
このようにこじれた関係となってもまだお爺様と呼ぶ自身を笑うも他に何て呼べばいいのか判らない為に今では分別する為の名前として呼んでしまう。
「言ったでしょう。
愛する総てを守る為に総ての災いを払いのけると。
ラグナーとラグナーに繋がる総てに害をなそうとするあなたにはその汚い言葉を二度と用いて欲しくない」
アルホルンの森に立ち込めるアルフォニアの香りを含む風を呼び出して祖父に叩き付ける。
驚いて二つのクッションに身体を預けるもその体が少しクッションに沈んだけだった。祖父は何をしたと言うように口をパクパクとして……何も音を発する事はなかった。
「そしてもうそのように自分で歩く事も出来なく総てを他人にしてもらうのなら魔力も必要はないでしょう」
ゆっくりと勿体ないように足を運びながら近づいて、胸をとんと指で叩く。
耳の奥で何かの糸が切れたようなそんな音が響いた気がした。
これで魔力は使えなく、影との連絡のとり合う方法が一つ消えた。
「そうそう、言い忘れましたが母と父はヴェナブルズの席から消しました。そしてイザムも手続き中ですがアヴェリオの家へと養子に出します。
私の長くない残りの命の後は総てを貴方が毛嫌いするラグナーに託します。
そして彼の死後はヴェナブルズは王家預かりとなります」
なによりもヴェナブルズを誇りに思う祖父の驚きの視線と口をパクパクとさせていても罵声しか溢れださない口に向かって何も聞こえないよと笑みを浮かべながら首を傾げ
「次にヴェナブルズを継ぐのは俺の後継のバックストロムの剣です。
ええ、どの家から産まれるか判らない者にヴェナブルズの総てを託します」
そう伝えた時はもう顔を青ざめてそのまま死んでしまった方が楽なのにと思うような顔をしていた。
「既に陛下と王太子と紙面にて調印を結んでいます。
同じものを三家の公爵家、アヴェリオ家、エーンルート家にも写しを渡してあります」
驚きにベットを這い出ようとした所でずるりと床に落ちてしまった。
「大丈夫ですか?」
声をかければ何やら大きな声を出しているようだけど何を言っているのかわからなく不便だと思ったが、手首がありえない方に向いている。
ベットから落ちた時に折ったのだろう。
びっしりと脂汗を流す祖父を見下ろす。
決別した今ではそんな姿に何の憐れみを感じない心はまるでフレッドを見ている時の気分と同じだが、それでも今はフレッドを少し可愛く思えるのだから変化という物は中々に侮れない。
「そうだ、いい贈り物があります」
今のお爺様には必須だなと黄金のベルを取り出した。
チリーン……
澄んだ金属の音に耳を傾けてサイドボードに置く。
「いい音でしょう?何れ使おうかと思って向こうで特別に作ってもらった物です」
冷や汗を流しなが、俺を得体の知れない物を見る様に顔を引きつらせながらも睨む視線に笑って
「実は俺、アルホルンの森の中でしか生きる事が出来ないらしいです」
睨む視線はだからどうしたと言った物。俺の境遇に興味を持たないのは今も昔も変わらない。
「あなたが死ぬか俺が先に死ぬかの競争のレベルです」
駒として使えない孫にもう愛着も何もない視線に笑いながら
「陛下にいろいろお願いした事があるのです」
碌な事をたくらんでいないだろうと言う様に口元を引き攣らせながら
「貴方をヴェナブルズから除籍しました」
ヴェナブルズが全てと言うお爺様は何かの罵声を言うかのように口を大きく開けるも空気と唾が吐きだされるだけ。うん。汚いなぁ……
「あなたをさっさとヴェナブルズから引き離し、この屋敷に閉じ込めるだけでなく身動き取れない様にするべきでした」
膝の骨を複雑に踏み砕かれて俺並みの治癒術が使えなくては治る事はないだろう。
力ばかり求めて俺の実力を報告書でしか知らない祖父には酷く手の抜いた報告書しか渡されていない。
俺がその膝を容易く直す事が出来るのも知らないだろう老害はたとえ今治ってもあの落ちた筋肉では立つ事から始めなくてはいけないだろう。
「ヴェナブルズから追放されたあなたに従う影は今後一切与えません」
驚きに目が見開いて行く。
「ここの使用人はヴェナブルズの物なので全員引き揚げさせます」
ぽかんと口が開く。
「それでは不便なのでしょうから代わりに貴方と契約しても良いと言う方をお連れしました」
給金は先払いをしたので俺が先に逝く事になっても大丈夫ですよと手を叩いて部屋に招いた人達を見て、その顔が絶望に染まるのを俺は何の感情なく眺めていた。
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