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うちの隊長はこんな冬でも花を飾ってくれる配慮に感謝するタイミングを見計らっています
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子供と言うのはとにかく回復力が早かった。
夜寝かせて朝起きた頃にはあれだけの高熱が微熱まで下がっていた。
アスタに関しては熱も下がって朝食もしっかりと食べれるまでに回復していた事にはエーヴも恨めしそうに睨む姿がなんとも可愛らし子供の顔だとみんなで和んでしまう。
ミルクでパンを煮蕩かせた粥を食べるエーヴと共にエーヴの部屋に招かれた俺はヴォーグ達と一緒に食事をとっていた。
エーヴもだいぶ回復したと言わんばかりにミルク粥をぺろりと食べてそれでは足りないと空の器をじっと見ているあたり今日一日は大人しくしてれば問題ないだろうとハイラの言葉にイザムが二人の面倒を今度こそ見る事になって、イザムだけでは心配だからとトゥーレを始めとしたシルビオ達を置いて行くのだった。
「むしろ心配なんだけど」
ポツリとつぶやくヴォーグに俺も同じだと言いたい言葉をぐっと我慢して
「そこは信頼しておくべき所だ」
と言いながらハイラとアヴェリオを連れてこのアルホルン城の門から一番近い来客の間へと足を運んだ。
来客の間のやたらと豪勢な部屋の扉を開ければ見覚えのある頭が並んでいた。
「大変お待たせいたしました。
遠い所ようこそおいでくださいました」
ヴォーグが部屋に入った早々の挨拶の言葉にソファに座る人物達は立ち上がり
「こちらこそ招待をありがとうございます。
丁寧なお招きに快適な旅を楽しませていただきました」
丁寧に頭を下げる男はエドヴァルド・クラウゼ伯爵とその妻ソフィア・クラウゼ一行だった。
挨拶が終わって久しぶりの再会にラグナーはヴォーグに続く形で握手をした後、その後ろに並ぶ面々の顔を見てヴォーグはニヤリと笑う。
「カレヴァ来てくれてありがとう」
「呼ばれたのならどこへでも。
だがここに来るまでクラウゼ家の庭の手入れをあらかた終わらせる時間を貰って悪かったな」
「なに、お前達の庭はクラウゼ家だ。春の一番忙しい時にこちらまで来てもらって悪いな」
「アルホルンの荘園の庭の手入れができるとなれば来るに決まっている」
誰もがまるでアルホルンの荘園を知っているような口調に疑問の色を顔にを浮かべれば言葉足らずのカレヴァの代わりにホーリーが説明してくれた。本日も娘のアイーダがソフィア様の膝の上に大人しく座っていて相変わらずクラウゼ家の面々を虜にしているようだ。
「私達が海を渡りこの国に辿り着いて言葉もあやふやで路銀も少なかった頃の事です。
行くあてのない私とカレヴァはギルドでその日暮らしの路銀を稼ぎながらカレヴァの特技で薬を作って売る為に薬草を求めるそう言った日々でした。
ある日こちらのアルホルン方面に来た時カレヴァは呼ばれたと言ってこちらに足を運んできたのですが、運悪くまだこのアルホルンは雪深い冬で、あまりの寒さに体調を崩した私は大きな木の下、アルフォニアですね。そこで足止めとなってしまいました。
熱も出て、吐き気と眩暈、立派に体調を崩して途方にくれた時です。
目の前を立派な馬車が通り過ぎる所が止まり、高貴な身なりの奥様方が私達を乗せてアルホルン村のお屋敷、荘園でね。そちらへと招待してくれました。
助けて下さった奥様はお姉様とお呼びする方にお願いして私達を使用人に命じて介抱して下さいました。
私は旅の疲れとその日暮らしの生活も合わさって長く伏せる事になり、その間カレヴァはこの家の下男として出来る事をしてお世話になる恩を返す事をお約束しました。
体調を取り戻したのは雪も解けた遅い春を迎えた頃でしたが、少しずつ奥様方と一緒に散歩を始めて体力を取り戻したり、食事の量を増やしたりそうやって時間をかけてお世話して下さった奥様は笑いながら「話し相手が出来てうれしいの」と言ってくださってました。
ですが春を迎えて散歩も少しずつあの広大な庭を散策できるようになって気が付いたのです。
カレヴァったらあの広大な庭を総て花で埋め尽くしたのです。
可愛らしい季節の花から薬草魔草ありとあらゆる花を咲かせて私たちを驚かせてくれたの」
懐かしい思い出を振り返るように目を閉じて
「あの日の恩、あの日の思い出、再びあの庭に立つ事が許されるなら草取りでもなんでもしますって旦那様に私達からお願いさせていただきました」
まだたった二人で手を取りあっていた時代の色鮮やかな思い出にヴォーグも優しげな笑みを浮かべ
「俺も覚えている。あれはカレヴァの仕業だったか。
お前達は知らないだろうが結局その年は雪が降り始めるまであの庭は季節の花達が咲き乱れていた。
その年限りだったがおばあ様や先代達は野草魔草を刈り取っては乾燥させたり花を摘んではサシェを作ったり、ああ、香水も作ってたな。俺もこちらに立ち寄った際は随分と手伝わされた」
楽しい思い出なのだろう。
懐かしそうに目を細めて穏やかな笑みを浮かべる様子に三人はお互い謎解きの答え合わせをしたと言う様に笑いあっていた。
「だけどそうなるとクラウゼ家のお庭は大丈夫か?」
あの広大な庭を管理するのは大変なのは少しでも住んでみればわかる事だが
「だからあらかた手入れを終わらせてきたと言っただろう。
アルボとメリス二人で十分なぐらいまで整えてきた。細かい事はアルヴェロに指示を出して任せて来たしな。
あとひと月だったか?
お前達の披露宴と殿下のお披露目までにはあの庭を好きに整えて良ければこいつらにもアルホルンの庭を見せてやりたい」
それが報酬と言わんばかりの提示はとても大公に対する言葉使いではない。少し警戒する宮廷騎士だがヴォーグは気を悪くする事なく、寧ろ上機嫌に
「クラウゼ伯がよろしければそれでお願いしたい。
アルホルンの荘園に滞在して城に来てもらう形になる。
そして城の庭師もお前達の所に勉強させてほしい。
あの城は特殊な草花達ばかりだから。たまには普通の草花も触れさせてやりたい」
「ヴォーグの事だ。
どうせ城の庭を全部薬草園にしたのだろう」
「そんな事はない。
ラグナーにおいしい野菜を食べてもらいたいし新鮮な果物も食べてほしい、居住区には花を飾りたいから万遍なく育ててるつもりだ」
そう言えば寝室や執務室、廊下にはいつも綺麗な花が飾ってあったなと花より団子のラグナーだから言われて初めて気が付いたと表情を変える事無いままにあれはヴォーグが手配していたのかと感心するふりをしてその場をごまかせば背後でお茶のおかわりをするハイラの苦笑がラグナーの耳だけに届いて背筋を伸ばすのであった。
夜寝かせて朝起きた頃にはあれだけの高熱が微熱まで下がっていた。
アスタに関しては熱も下がって朝食もしっかりと食べれるまでに回復していた事にはエーヴも恨めしそうに睨む姿がなんとも可愛らし子供の顔だとみんなで和んでしまう。
ミルクでパンを煮蕩かせた粥を食べるエーヴと共にエーヴの部屋に招かれた俺はヴォーグ達と一緒に食事をとっていた。
エーヴもだいぶ回復したと言わんばかりにミルク粥をぺろりと食べてそれでは足りないと空の器をじっと見ているあたり今日一日は大人しくしてれば問題ないだろうとハイラの言葉にイザムが二人の面倒を今度こそ見る事になって、イザムだけでは心配だからとトゥーレを始めとしたシルビオ達を置いて行くのだった。
「むしろ心配なんだけど」
ポツリとつぶやくヴォーグに俺も同じだと言いたい言葉をぐっと我慢して
「そこは信頼しておくべき所だ」
と言いながらハイラとアヴェリオを連れてこのアルホルン城の門から一番近い来客の間へと足を運んだ。
来客の間のやたらと豪勢な部屋の扉を開ければ見覚えのある頭が並んでいた。
「大変お待たせいたしました。
遠い所ようこそおいでくださいました」
ヴォーグが部屋に入った早々の挨拶の言葉にソファに座る人物達は立ち上がり
「こちらこそ招待をありがとうございます。
丁寧なお招きに快適な旅を楽しませていただきました」
丁寧に頭を下げる男はエドヴァルド・クラウゼ伯爵とその妻ソフィア・クラウゼ一行だった。
挨拶が終わって久しぶりの再会にラグナーはヴォーグに続く形で握手をした後、その後ろに並ぶ面々の顔を見てヴォーグはニヤリと笑う。
「カレヴァ来てくれてありがとう」
「呼ばれたのならどこへでも。
だがここに来るまでクラウゼ家の庭の手入れをあらかた終わらせる時間を貰って悪かったな」
「なに、お前達の庭はクラウゼ家だ。春の一番忙しい時にこちらまで来てもらって悪いな」
「アルホルンの荘園の庭の手入れができるとなれば来るに決まっている」
誰もがまるでアルホルンの荘園を知っているような口調に疑問の色を顔にを浮かべれば言葉足らずのカレヴァの代わりにホーリーが説明してくれた。本日も娘のアイーダがソフィア様の膝の上に大人しく座っていて相変わらずクラウゼ家の面々を虜にしているようだ。
「私達が海を渡りこの国に辿り着いて言葉もあやふやで路銀も少なかった頃の事です。
行くあてのない私とカレヴァはギルドでその日暮らしの路銀を稼ぎながらカレヴァの特技で薬を作って売る為に薬草を求めるそう言った日々でした。
ある日こちらのアルホルン方面に来た時カレヴァは呼ばれたと言ってこちらに足を運んできたのですが、運悪くまだこのアルホルンは雪深い冬で、あまりの寒さに体調を崩した私は大きな木の下、アルフォニアですね。そこで足止めとなってしまいました。
熱も出て、吐き気と眩暈、立派に体調を崩して途方にくれた時です。
目の前を立派な馬車が通り過ぎる所が止まり、高貴な身なりの奥様方が私達を乗せてアルホルン村のお屋敷、荘園でね。そちらへと招待してくれました。
助けて下さった奥様はお姉様とお呼びする方にお願いして私達を使用人に命じて介抱して下さいました。
私は旅の疲れとその日暮らしの生活も合わさって長く伏せる事になり、その間カレヴァはこの家の下男として出来る事をしてお世話になる恩を返す事をお約束しました。
体調を取り戻したのは雪も解けた遅い春を迎えた頃でしたが、少しずつ奥様方と一緒に散歩を始めて体力を取り戻したり、食事の量を増やしたりそうやって時間をかけてお世話して下さった奥様は笑いながら「話し相手が出来てうれしいの」と言ってくださってました。
ですが春を迎えて散歩も少しずつあの広大な庭を散策できるようになって気が付いたのです。
カレヴァったらあの広大な庭を総て花で埋め尽くしたのです。
可愛らしい季節の花から薬草魔草ありとあらゆる花を咲かせて私たちを驚かせてくれたの」
懐かしい思い出を振り返るように目を閉じて
「あの日の恩、あの日の思い出、再びあの庭に立つ事が許されるなら草取りでもなんでもしますって旦那様に私達からお願いさせていただきました」
まだたった二人で手を取りあっていた時代の色鮮やかな思い出にヴォーグも優しげな笑みを浮かべ
「俺も覚えている。あれはカレヴァの仕業だったか。
お前達は知らないだろうが結局その年は雪が降り始めるまであの庭は季節の花達が咲き乱れていた。
その年限りだったがおばあ様や先代達は野草魔草を刈り取っては乾燥させたり花を摘んではサシェを作ったり、ああ、香水も作ってたな。俺もこちらに立ち寄った際は随分と手伝わされた」
楽しい思い出なのだろう。
懐かしそうに目を細めて穏やかな笑みを浮かべる様子に三人はお互い謎解きの答え合わせをしたと言う様に笑いあっていた。
「だけどそうなるとクラウゼ家のお庭は大丈夫か?」
あの広大な庭を管理するのは大変なのは少しでも住んでみればわかる事だが
「だからあらかた手入れを終わらせてきたと言っただろう。
アルボとメリス二人で十分なぐらいまで整えてきた。細かい事はアルヴェロに指示を出して任せて来たしな。
あとひと月だったか?
お前達の披露宴と殿下のお披露目までにはあの庭を好きに整えて良ければこいつらにもアルホルンの庭を見せてやりたい」
それが報酬と言わんばかりの提示はとても大公に対する言葉使いではない。少し警戒する宮廷騎士だがヴォーグは気を悪くする事なく、寧ろ上機嫌に
「クラウゼ伯がよろしければそれでお願いしたい。
アルホルンの荘園に滞在して城に来てもらう形になる。
そして城の庭師もお前達の所に勉強させてほしい。
あの城は特殊な草花達ばかりだから。たまには普通の草花も触れさせてやりたい」
「ヴォーグの事だ。
どうせ城の庭を全部薬草園にしたのだろう」
「そんな事はない。
ラグナーにおいしい野菜を食べてもらいたいし新鮮な果物も食べてほしい、居住区には花を飾りたいから万遍なく育ててるつもりだ」
そう言えば寝室や執務室、廊下にはいつも綺麗な花が飾ってあったなと花より団子のラグナーだから言われて初めて気が付いたと表情を変える事無いままにあれはヴォーグが手配していたのかと感心するふりをしてその場をごまかせば背後でお茶のおかわりをするハイラの苦笑がラグナーの耳だけに届いて背筋を伸ばすのであった。
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