上 下
265 / 308

うちの隊長は意外に子供の取り扱いが上手いなと感心しております

しおりを挟む
 ヴォーグは騎士棟に用意されたエーヴの部屋で熱にうなされる子供の寝顔を見ていた。
 エーヴのベットのすぐ横には手数が少ないアルホルンなのでエキストラベットをならべて一緒に面倒が見れるようにとアスタが寝ているはずだった。
 なのになぜかアスタのベットにエーヴは潜り込んでいて二人そろって魘されながら浅い眠りの中微かな物音に目を覚まして俺を見て安心するかのように笑みを浮かべる顔に良いから今は寝なさいと促すのだった。

「ハイラ、これはどう言う事か聞いても?」
「はい。最初アスタは自室で寝ようとしたのですがエーヴ様が一緒にと仰いまして急遽エキストラベットを入れました。
 ですが、一人は寂しいとエーヴ様はアスタのベットに入られまして」
「アスタをエーヴのベットに入れると言う発想はなかったのかな」

 高熱からか顔を真っ赤にしているものの、既に薬は飲ませたのだから後は熱を出させるだけで今夜には粥ぐらいは食べれるだろうと経験からヴォーグは安心して見守っていた。
 その様子にハイラもそこまで心配はしていないものの、居れば孫と同じような年頃の子供なのだ。幼い頃のアレクを思い出すかのように冷えたタオルで汗をぬぐう姿は慣れた手付きと優しさが溢れている。

「ハイラは休憩をするように。
 暫くなら俺がここで面倒を見よう」
「ですが……」
「二人がこうなったのは俺の責任だ。俺が世話をしなくて誰がする」
「大丈夫でしょうか?」
「汗が酷ければ服を着替えさせる。目を覚ませば水を飲ませる。あとはゆっくり眠らせる。これぐらいしかしてやる事もないしこれぐらいしかしてやれないからな。何かあればフレッドもいる。少しはあいつにも働かせろ」
「でしたらお言葉に甘えさせていただきます。着替えなどはこちらにご用意してございます」
「わかった。留守にしたとは言え心配かけた。
 ハイラはもう今日の指示をフレッドにした後に明日まで休むと良い」
「でしたら食料庫から少々失敬しても?」
「飲み過ぎには注意だぞ」
「ありがとうございます」

 そう言って去って行く後姿が扉によって見えなくなった所で苦笑を零す。

「食材の味を覚えてクラウゼ家に戻るつもりとはどこまで勤勉な家令だろうか」

 うちの家令もそうなのかなと思うも聞けば当然と言う言葉を出すだろう答えしか戻ってこない質問に意味はないなとすぐ側のエーヴの机を借りて仕事をする事にした。



 どれだけしただろう。
 もぞもぞと衣擦れの音が聞こえて視線をむければ髪の色からエーヴが目を覚ましたようだった。
 ピッチャーに濃縮前のポーションを入れてコップを持って二人の寝る側へと足を向ける。
寝る前に飲ませたポーションが効いてか頭から汗をかいていてパジャマどころか髪までぐっしょりと濡れていたのをすぐ側に着替えと共にタオルを置いてくれたハイラに感謝しつつ

「エーヴ、気が付いたのなら着替えよう。
 このまま寝たらまた風邪をひく」
「たいこう……ごめんなさい」
「何を謝るんだ?謝るのは俺の方だ。
 そして俺を探してくださってありがとうございます」

 負担にならない様にタオルで髪の汗をぬぐい、ぐっしょりと濡れたパジャマを脱がせて着替えさせる。
 高熱で身体が痛むのか苦しそうな表情は変らないもののどこか嬉しそうに俺にもたれかかるようなエーヴはこんな時だからこそ甘えたいと言う様に俺の服の端をぎゅっと握るもその手を無視して立ち上がれば寂しそうな顔をする。
 だけどその顔を見ないようにして

「アスタ、お前も目が覚めたなら着替えよう」

 声をかけてふとんをめくれば、億劫ながらも目を開けて体を起こす。
 甘えかけた態度を慌ててなかった事にするもエーヴはアスタが起きた事を知って嬉しそうにアスタの顔を覗き込んでいた。

「アスタほら両手を上げて」
 
 パジャマはボタンをはずして脱がすも中のシャツはそう言うわけにもいかず手を上げさせて脱がしてしまう。
 エーヴのように他人に着替えさせてもらう事になれてないアスタは恥ずかしそうにするも

「病人だから大人しく甘えてろ」

 言いながら脱がした所で頭からタオルをかけて布団の中に手を突っ込んで下着事ズボンを脱がす。
 慌てた様な仕種に笑いながら下穿きとズボンを渡し

「自分で穿けるか?」

 聞けば布団の中でいそいそと穿いていた。
 着替えた服を受け取って無造作に床に置けば衣類とは思えない音をさせた事に苦笑しつつエーヴと同じように髪を拭ってやって二人纏めて魔法で綺麗にしてあげた。
 服を綺麗にしてもぬぐえない汗臭さが無くなるも、まだそう言った事をあまり気にしない子供達はそれよりも魔法をかけてもらえたことの方に喜ぶのを黙らすようにアスタにもポーションを渡す。

「二人ともとりあえずそれを全部飲む事。
 時間かかっても良いから全部飲むのが二人の今出来る仕事だ」
「「はい」」

 嬉しそうな顔で飲む二人は少しずつ熱が下がっているようでガゼボで会った時のようなぐったりとした様子はなく、まだまだ熱で苦しそうな顔をしていても笑みを浮かべてゆっくりとポーションを飲む横でタオルと一緒に置いてあった果物の皮をヴォーグはむき始めた。




しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

◆完結◆修学旅行……からの異世界転移!不易流行少年少女長編ファンタジー『3年2組 ボクらのクエスト』《全7章》

カワカツ
ファンタジー
修学旅行中のバスが異世界に転落!? 単身目覚めた少年は「友との再会・元世界へ帰る道」をさがす旅に歩み出すが…… 構想8年・執筆3年超の長編ファンタジー! ※1話5分程度。 ※各章トップに表紙イラストを挿入しています(自作低クオリティ笑)。 〜以下、あらすじ〜  市立南町中学校3年生は卒業前の『思い出作り』を楽しみにしつつ修学旅行出発の日を迎えた。  しかし、賀川篤樹(かがわあつき)が乗る3年2組の観光バスが交通事故に遭い数十mの崖から転落してしまう。  車外に投げ出された篤樹は事故現場の崖下ではなく見たことも無い森に囲まれた草原で意識を取り戻した。  助けを求めて叫ぶ篤樹の前に現れたのは『腐れトロル』と呼ばれる怪物。明らかな殺意をもって追いかけて来る腐れトロルから逃れるために森の中へと駆け込んだ篤樹……しかしついに追い詰められ絶対絶命のピンチを迎えた時、エシャーと名乗る少女に助けられる。  特徴的な尖った耳を持つエシャーは『ルエルフ』と呼ばれるエルフ亜種族の少女であり、彼女達の村は外界と隔絶された別空間に存在する事を教えられる。  『ルー』と呼ばれる古代魔法と『カギジュ』と呼ばれる人造魔法、そして『サーガ』と呼ばれる魔物が存在する異世界に迷い込んだことを知った篤樹は、エシャーと共にルエルフ村を出ることに。  外界で出会った『王室文化法暦省』のエリート職員エルグレド、エルフ族の女性レイラという心強い協力者に助けられ、篤樹は元の世界に戻るための道を探す旅を始める。  中学3年生の自分が持っている知識や常識・情報では理解出来ない異世界の旅の中、ここに『飛ばされて来た』のは自分一人だけではない事を知った篤樹は、他の同級生達との再会に期待を寄せるが……  不易流行の本格長編王道ファンタジー作品!    筆者推奨の作品イメージ歌<乃木坂46『夜明けまで強がらなくていい』2019>を聴きながら映像化イメージを膨らませつつお読み下さい! ※本作品は「小説家になろう」「エブリスタ」「カクヨム」にも投稿しています。各サイト読者様の励ましを糧についに完結です。 ※少年少女文庫・児童文学を念頭に置いた年齢制限不要な表現・描写の異世界転移ファンタジー作品です。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

石女を理由に離縁されましたが、実家に出戻って幸せになりました

お好み焼き
恋愛
ゼネラル侯爵家に嫁いで三年、私は子が出来ないことを理由に冷遇されていて、とうとう離縁されてしまいました。なのにその後、ゼネラル家に嫁として戻って来いと手紙と書類が届きました。息子は種無しだったと、だから石女として私に叩き付けた離縁状は無効だと。 その他にも色々ありましたが、今となっては心は落ち着いています。私には優しい弟がいて、頼れるお祖父様がいて、可愛い妹もいるのですから。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 時々おまけのお話を更新しています。

異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか

片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生! 悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした… アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか? 痩せっぽっちの王女様奮闘記。

ワンコとわんわん

葉津緒
BL
あのう……俺が雑種のノラ犬って、何なんスか。 ちょっ、とりあえず書記さまは落ち着いてくださいぃぃ! 美形ワンコ書記×平凡わんわん ほのぼの全寮制学園物語、多分BL。

『転生した無名藩士、幕末の動乱を生き抜く~時代・技術考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁
ファンタジー
佐賀藩より早く蒸気船に蒸気機関車、アームストロング砲。列強に勝つ! 人生100年時代の折り返し地点に来た企画営業部長の清水亨は、大きなプロジェクトをやり遂げて、久しぶりに長崎の実家に帰ってきた。 学生時代の仲間とどんちゃん騒ぎのあげく、急性アルコール中毒で死んでしまう。 しかし、目が覚めたら幕末の動乱期。龍馬や西郷や桂や高杉……と思いつつ。あまり幕末史でも知名度のない「薩長土肥」の『肥』のさらに隣の藩の大村藩のお話。 で、誰に転生したかと言うと、これまた誰も知らない、地元の人もおそらく知らない人の末裔として。 なーんにもしなければ、間違いなく幕末の動乱に巻き込まれ、戊辰戦争マッシグラ。それを回避して西洋列強にまけない国(藩)づくりに励む事になるのだが……。

処理中です...