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うちの隊長は旦那の落ち込み具合を心配しております

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 夕刻リオネルがアルホルンに到着してやっとエーヴェルトとイザムにマリーが亡くなった事が告げられた。
 昨日到着したばかりで初めましての人が多い中悲しみに深く沈む事はなかったものの、エリオの死を知る初期メンバーの中にはマリーの立ち位置を察して城の中は喪に服する様に新規のメンバーに指導を言い渡していた。
 エーヴェルトは短い旅の間の仲間だったが、それでも実際の孫のように扱っていたマリーを短いながらも慕っていて涙をこぼす様はまるで本当の家族のようにも見えた。
 そしてリオネルが連れてきたエーヴェルトより少し年上の少年はマリーを実の祖母のように慕っていて唯一の家族を失った悲しみにトゥーレにしがみついて声を上げて泣いていた。
 彼はトゥーレが奴隷として掴まった時一緒に牢に入れられて、ヴォーグがトゥーレを買い戻した時に一緒に買われた最年少の子供だった。
 家に帰れない彼はそれこそマリーを実の家族のように引っ付いて歩いていたのが微笑ましい光景だった。
 あれからマリーによってウィングフィールドの裏方の仕事と何れ何かの役に立つだろうからと色んな教育を施されていたが、まさかエーヴェルトの友人、そして何れは執事として教育されているとはトゥーレはさすがに予想してはいなかった。

「俺の後継の子の為にと思って教育はしていただけだけど、予想より早かったな」

 まさか先にマリーが逝く事までは想像がついておらず

「イザム、二人の世話を任せるぞ」

 ヴォーグと同じように、否それ以上に親しみのあるマリーの死に悲しむイザムの返事を聞く前に席を立ってアルホルンの森を呼び出してその中にヴォーグは閉じこもった。
 老いた者が先に逝く。
 当然の事だろうし、すでにいつ事切れてもおかしくない体調を何とか薬で命を伸ばしてきたのだ。
 そしてアルホルンに連れて来たら愛する主と再会して生きるのを辞める事も想像がついていたのに、連れて来ずにはいられなかった。
 だがマリーをこの高い壁に囲まれたアルホルンに連れて来るには他にはもう機会がなかった。 
 エーヴェルトを理由としてこじつけるしか連れて来る事が出来ず、どうなるかが判っていたのにもかかわらずつれてきてしまったのだ。
 ラグナーの腕の中で目が覚めた時とても幸せな気分になれた。
 不思議な事にマリーを喪失した悲しみは薄くなり、代わりにラグナーの胸元から届く穏やかな心音に生きている事に喜びを覚え、そしてラグナーの腕の暖かさに泣きだしたくなるほどの幸せを知った。
 それからラグナーと共にアルホルンの先代の部屋に向えば埃一つ落ちてない整えられた綺麗な部屋がそこにあった。
 まるでついさっきまで使っていて、離れたすきに掃除をしたそう言っても良いくらいに空気も新鮮で、机には花も飾られていた。
 同じ事は俺の部屋も同様に整えられているが、こんな死後まででと思うといかに先代が愛されていたかと思わずにはいられなく羨ましくもありそこまで人間関係を作ってこなかった俺としてはそんな事を思うなどおこがましいという物だろう。
 だけど心が無理だと言う。子供のころ受けた傷はその程度では癒されなく、癒し続けて取り戻したルードヴォーグの心の大半は遥か東の国に置いてきたのだ。
 今あるのは義務だけで生きる愚かな俺でそんな俺を愛してくれるラグナーを抱きしめて首筋に顔を埋めてしまう俺を許してくれるラグナーの優しさに甘えっぱなしで何と情けない姿だろうと思ってしまう。

 ふと肩に何かが触れた。
 見上げればアルフォニアの木の枝がヴォーグを励ますように肩を振れてくる。
 優しいアルフォニアの木の枝を手に取って口元近くに持ってきて「ありがとう」と言う。
 言えば嬉しそうに周囲のアルフォニア達が枝を伸ばして揺り椅子のように枝を絡ませて俺を座らせてくれた。
 心配していてくれたのだろう。
 俺はその椅子に深く座り体を預け。
 ゆらりとした座り心地と包み込むかのような椅子の形状は既にハンモックだ。

「こんなサービスしてくれると眠たくなるじゃないか」

 言いながらも瞼を瞑る。
 休息したばかりだが少しだけ、ほんの少しだけ休む事にした。
 




 


 次に目を開けた時ヴォーグはアルフォニアに感謝を述べてアルホルンの城に帰る事にした。
 随分すっきりしたなと思いながらも歩き慣れたアルホルンの道は思い出ばかりで作られたガゼボ近くに辿り着いた。

「そう言えばエーヴにとんでもない約束してしまったな」

 白い大理石でできたガゼボは雪のアルホルンの景色の中に溶け込んでいて、でも同じ白色なのにトーンの違いからかとても美しくおもうのだった。
 その中で黒色に近い色の頭と茶色の頭が揺れていた。
 小首を傾げればそれは揺れていて、何やら泣いているようでもあった。
 このアルホルンであんな子供の頭なんて……と慌てて駆け寄れば

「この寒い季節何をしてる!」

 黒い瞳と茶色の瞳が俺を見上げてぶわっと涙を溢れ出すのだった。

「大公!!!」

 力の限り叫んだ子供はそのまま俺へとぶつかる様に抱き着いて来て慌てて温めるように抱きしめ直すのだった。





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