うちの隊長は補佐官殿が気になるようですが

雪那 由多

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うちの隊長は意外な天敵に笑ってしまいました

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 初めての城の外。
 初めての乗馬。
 初めての旅……

 初めて尽くしにエーヴェルトは瞬く間にくたびれてしまい少し早目に取った昼食後直ぐに馬車の中で眠りに就いてしまった。
 
「はしゃいでいたと思ったらやっぱりこうなったか」
「はい。食べながら眠ろうとした時はどうなるかと思いましたが」

 馬車まで間に合ってよございましたとマリーの膝を枕に眠る様はまだあどけなく、眠りを邪魔しない様にハイラは昼食後に少し休ませてもらうと窓にもたれるように眠りに就いていた。
 昨日の晩から徹夜だったのだ。
 昼食までも馬車の中でいろいろマリーと情報の共有をしていて休む間もなかったように見えたし、アルホルンに着いたらエーヴェルトの部屋の確認だったり城で働く人達との確認だったり一番忙しくなる家令にその間は任せなさいと言うマリーの言葉に感謝をして一瞬にして眠りに就いてしまっていた。 
 窓から見える寝顔にヴォーグがホッとしてしまうのは無理をさせていたのは判っていたからだろう。

「フレッド、エーヴェルト殿下が寝ている間に距離を稼ぐぞ」

 先導するフレッドに残りの行程の予定を立てれば

「シルビオ隊は半数を先行、残りは後方に、宮廷騎士は護衛の配置だ」
「イザムも疲れているのなら馬車で休め」
「兄上、俺は……」
「言っただろ、距離を稼ぐと。
 ここまでの行程程度で疲れるならこの先はついて来れないと俺は判断した。
 出立が送れた以上陽のある夕刻までにアルホルンに着くには当然の判断だ」

 言えば渋々と言う様にヴェナブルズの馬車に乗り込みヴォーグがイザムの乗っていた馬の手綱を預かった。
 その合間に先行隊の姿は見えなくなり

「フレッド、お前の先導で出立だ」
「了解」

 短いやり取りの合間にヴォーグの声は真剣みを帯びる。
 王都を離れ、街道も段々細くなって荒れて行く。
 民家も見当たらなくなりどこから盗賊が出ても魔物が出てもおかしくない状況なのだ。
 緊張する状況の中

「ラグナーは周囲を常時確認」
「了解」

 まだヴォーグが貴族である事を知らなかった時、一緒に冒険していた頃のような指示を少し嬉しく思いながら意識を広げるように魔力の波動を周囲に飛ばす。
 数十分ほど走らせた所でこの波動に違う生き物の魔力がぶつかれば何かいると言う仕組みで、慣れるとだんだんそれが何かという事が判るようになる。
 アルホルンの魔物だらけの森でも散々練習したかいがあって、この長閑な田舎道では遠くに野を駆ける獣の気配しか感じる事は今はなかった。
 だけど

「前方交戦中。シルビオ隊と思われますが……北に向かって移動を始めました」
「ならばこのまま前進!足元には気を付けろ!」

 先行するシルビオ達の案内にラグナーの探知をフレッドが判断をして指揮を執るある意味理想で進軍の見本だ。
 
「これがフレッドとラグナーでなくても出来るといいんだけどねぇ」

 そんな恐ろしい事をぼやくのを聞いて顔を青ざめさせる宮廷騎士にヴォーグはニヤリと笑う。これは楽しい余興になりそうだと言う笑みに

「フレッド!ラグナー!」
 
 突然名前を呼ばれて足並みを緩めてヴォーグの馬とそろえれば

「フレッドは他の宮廷騎士達を鍛えろ。目標はラグナーのレベルまで上げるように、そしてラグナーはこのまま探知を継続。定期的に交代して全員をラグナーのレベルぐらいまで上げろ!」
「やっぱり鬼だな……」

 探知を常時展開すると言う事も随分と魔力の消費から疲れる物なのだが、それを馬に乗ってなのだ。
 さも当然に求めるあたりヴォーグもこうやって学んだのかと想像をしている間にヴォーグはイザムの馬を引きながら器用に俺の隣に位置取り

「探知するだけならこうやってラグナーと一緒に並んで走る事が出来るからね」
「ひょっとしてその言い訳を考えてたとか?」
「折角一緒に走らせてるのにあいつらはまじめすぎるんだよ」

 それはまさかの

「ひょっとして嫉妬?」
「ラグナーはエーヴに構いっぱなしだしね」
「そりゃお前だって俺の目の前でリオネルといちゃついてたくせに……」

 俺の反論にヴォーグはこれとないくらいほど表情を消した。しまったと思って弁解をしようとするも俺が口を開けるよりも早くでれっと顔をした。
 表情が蕩けた、と言うかだらしがないと言うか、ベッドの上以外では珍しい位の嬉しそうな顔だなと、言い訳の言葉すら何処かへと飛んで行ってしまっていた。

「ええと……」
「何て言うかさ、ラグナーって基本あんまり感情とか抑え込む方だったでしょ?」
「そうだった……か?」

 確かに抑え込んでいた部分はあったかもしれないが……

「俺のように訓練された物じゃなくて抑え込まれた、そう言ったたぐいだ」

 心配そうな目で見られるのは俺の育ちからだろう。
 だけどそれは違うと頭を振って

「単にガキみたいにやきもち焼いて嫌われたくないだけだよ」

 ヴォーグにとって予想外の答えだったのか珍しくぽかんとした間抜け顔だったが、そんな理由を言わせるなとこっちこそ恥ずかしくなってしまう。
 思わず視線を逸らしてしまうも

「ちゃんとやきもち焼いてくれてたんだ」

 何故か感動と言う目で見られてしまった。頼むからそんなきらきらした目で見るな……

「そりゃ好きな奴が俺以外の奴を見てたら腹も立つ。
 けどリオネルとかユハは不可抗力だろ?他はさて置き」
「ええと、うん。まぁ……ごめんなさい」

 素直に謝れて複雑になる物の

「それでも一緒にいられる時間はいつも限られていたから。そんなつまらない事に時間を使うのはもったいないと後回しにしてたらいつももうどうでもいいかという気分だ」
「ええと……」
「溜めこむのは良くないとアレクにも言われてるが」
「言われてるのって言うか知ってるの?!」

 驚くヴォーグに思わず笑う。

「お前アレクがほんと苦手だな?」
「いや、なんて言うかあの人無言でじっと見て来るから何か気まずいって言うか、怒られてる気分になるって言うか……」

 しどろもどろで言い訳するヴォーグに慌てて顔を背けるも吹きだしてしまった笑い声は誤魔化し様がない。
 なんせ俺は知っているのだ。 
 アレクはヴォーグを目の前にするとバックストロムの剣とか精霊とかそう言った敬うべき相手なのにどうしても俺と言う珍獣使いにしか見えないのは何故だと言っている事を。
 これは黙っているべき懸案なのだろうかと悩んでしまう。否、絶対に言ったらいけない奴なのだろうが、すれ違いもここまで来ると本当の事を言うべきか悩ましいどころか寧ろ微笑ましい。

「ヴォーグ大丈夫だよ。あれは俺が昔色々しでかしたからお前が迷惑を被ってるんじゃないかと言う心配の目だ」
「心配の目、心配の目だったんだ……」

 ホッとするヴォーグを見てそう言う事にして置いた。
 
 


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