うちの隊長は補佐官殿が気になるようですが

雪那 由多

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うちの隊長は自由への羽を手に入れた幼い後継を眩く思うのだった

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 そう言った後ヴォーグは俺と真っ青な顔のエリオットの手を引きずって部屋の片隅で待機していたハイラとワイズも連れて後宮の廊下を歩いた。その前にハイラとワイズに何やら指示を出していたがただ黙って俺達の後をついて来た。
 角を曲がり、食堂から随分と離れた所にあるラウナ妃の部屋へと向かう。
 そこはとても静かで後宮の騒動を知らないと言わんばかりに楽しそうな声の響く引っ越し作業が進んでいた。
 エーヴェルト殿下は王妃の隣で何やら楽器を学ばれている。
 弦楽器は美しい音を奏でそれは旋律となって部屋に安らぎを与えていた。そして誰もが口ずさむメロディに乗せて歌う幼い声が耳にも飛び込んできた。少しの間眺めていれば曲が終わり今度は見よう見まねで楽器を構え、そして指の配置を覚えながら騒音としか言えない音を響かせるエーヴェルト殿下はそれでも音が出た事に笑みを浮かべて懸命に王妃の手ほどきを受けていた。

「ラウナ妃殿下失礼しても?」

 ヴォーグが開けっ放しの扉にノックで取次ぎを願い出れば彼女は振り返りどうぞと勧めてくれた。

「あちらは寒いので改めてアルホルンでの殿下のお召し物の為の採寸をさせていただきたく思います」
「まぁ、それはお気づかいありがとうございます。
 よろしくお願いします」

 ラウナ妃はエーヴェルト殿下に楽器を置かせるも誰が採寸するのだと思えばハイラとワイズがすぐさまメジャーを取り出して次々に採寸を始めて行った。その為の要因かと思って扉すぐ横で俺は待機をする。宮廷騎士とは言え後宮の部屋に入る事に緊張はあれどマニュアル通りに入り口で待てばそれでいいと引越し要員の宮廷騎士が小さく頷いた。
 ヴォーグはエリオットを連れて王妃と妃殿下のテーブルに「失礼」と一言断りを入れて着席すれば少しの間をおいて侍女が二人分のお茶を淹れてくれた。

「ラウナ妃にはエリオット殿下が王位に着いた後のお話をしたくあります」

 その言葉に王妃は「話しを進めよ」とくいっと顎を上げて促す。

「王都からアルホルンに向かう手前の村に王家の荘園があります。
 かつてのアルホルン大公にお会いする為に王家の方々が滞在する為に建てられた屋敷です」
「そのような所に荘園があったのですか?」

 ラウナ妃が驚きに目を瞠っていたが

「かつておばあ様や殿下と一緒にアルホルンへ遊びに行く時はそちらで宿泊させていただきました。
 たとえ子供でも異性は宿泊できないのでそちらで夜を過ごし、荘園から足を運びます。当然家族であろうともです。
 最もそんなルールは先生達によって表向きだけのものになってしまいましたが、それでもラウナ妃には荘園の主として片道馬車で十五分ほどの距離はエーヴェルト殿下にはお心強い物となりましょう」

 ヴォーグの言葉に王妃はラウナ妃の手を握り是非ともそうなさいと背中を押してくれていた。

「ただ長い事使ってないので手を入れなくてはいけません。一度様子を見て頂ければと思いますが?」
「ですが……」

 エーヴェルト殿下がいないこの王宮に残るよりも一足早く引っ越ししてはという提案だが、さすがに妃として迎えられた為に躊躇うのだった。

「でしたらこう言うのはいかがでしょう。
 確かあそこは広大な庭があったと思ったと記憶してます。
 アルホルンの方達に手入れを学んだりして庭の維持をするのもまた荘園を預かるのも妃殿下の務めかと思います」
「そのようなお勤めがあるのですか?」

 知らなかったと言わんばかりにラウナ妃はエリオットの言葉に喰い付いていた。

「アルホルンも二年目にしてやっと整いました。
 これからは来客もあるだろうし、城からの使者も増えましょう。
 その方の為の受け入れとまでは言いませんが、休まれるような場所の提供にいかがかと思います」

 ラウナ妃の背中を押すようにあちらには妃殿下の手腕による仕事があると言えば

「ですが、私が皆様方を接待できるでしょうか」

 ヴォーグは知らなくラグナーは耳にした程度だが入城した頃は茶会を何度も開いて懸命に他の妃殿下達と交流を図ろうとしたり後宮の慣習に馴染もうとしたものの意地の悪い貴族のプライドの餌食となってもうずいぶんと長い事茶会を開いてなかった。
「あちらは王宮ではありません。
 そのような事は使用人に任せればよいでしょう。
 もし連れていきたい者が居れば連れて行っても構いません」

 そのような者が居るかと思うも年老いた一人の侍女へと視線を向けた。
 エプロンの色が違う事から後宮で働く侍女ではなく生家から連れて来た者だと一目でわかった。

「ただ今直ぐとなると陛下に屋敷の手入れだけはお願いしないといけませんね」
「でしたらさっそくお願いに参りましょう。
 そう言った物は早い者勝ちです。ラウナ妃、参りましょう」

 王妃がほほ笑めばかわいい我が子と離れ離れとは言えすぐ側の距離。暗い顔を隠しての引っ越し作業をしていたのが嘘のようにあかるくなった事に王妃はまるで自分の事のように笑うのだった。






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