うちの隊長は補佐官殿が気になるようですが

雪那 由多

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うちの隊長は旦那が弟と無事仲直りできるのか見守る事にします

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 そっと音もなくカトラリーをヴォーグは置いた。
 つ……と涙を落した弟の顔を正面から見て

「ワイズに感謝を伝えたか?
 トゥーレの姿はそのままお前の未来だ。
 学園を辞めさせて友達と切り離したのも今なら理由が分かるだろう。
 何で子爵家や男爵家如きにこの公爵家が軽く見られるのかも腹立たしい。
 勘違いするな。爵位という地位にこだわれと言ってるわけではない。
 王家より与えられた爵位にはそれだけの期待と信頼が込められている事をまず考えろ。
 長い歴史に沿う貢献にこの国が応えた気持ちが爵位として現れている。
 四家しかないこの公爵家は何度も王家の血筋を預けてもらえるくらいの信頼があってこその地位だ。
 その長い歴史の信頼をここ数代でのし上がった家にいい様に使われる謂れはない。 
 シルヴェストルのように勘違いをしてしまえばお前だってどうなるか判ってるだろう。
 社交界で孤立している姿位いやでも目にしているはずだ。
 それでもあいつは当主として歯を食いしばって何とか細々とした縁を切り離さないようにして領民の為にと奮闘している。
 自分が犯したわけでもない、記憶にもない顔も覚えてない幼い頃の兄の罪と親の罪を背負いながら顔を上げて公爵家当主として王家より与えられたその地位に恥かしくない様に踏ん張っている。
 今のお前には決してできない事を物心つく前から要求され、長年仕えた数少ない使用人達に支えられてあの子はその血筋の為に背筋を伸ばして顎を上げてふるえる膝でこの悪意しかない貴族社会の中で公爵として相応しくあろうとしている。
 お前はヴェナブルズの令息として出来ていたか?
 少なくとも公爵家直系として正しくあるか?」

 切々と問うヴォーグの言葉にほろりと落ちた涙は次々に零れ落ちて行く。
 そっと握りしめたナプキンを握りしめて俯いていく顔にヴォーグはグラスから爽やかな果実の香る水を口に含み

「お前がバックストロムの剣の弟としてしか見られてない事を哀れだと思う。
 俺に何かあった時の為にと生まれて育って何れこの家を継ぐのだから俺がいる間は我慢しろと言われ続けて来た事ぐらい俺だって知っている。
 俺が生まれた事でこの家がずっと歪だったのは誰よりも俺が知っているが、それとこれとは別だ。
 これはお前がこの公爵家の直系として、その名を名乗るにふさわしい行いをして来たかどうかというレベルの話しだ。
 正直ワイズに報告書を読ませてもらってここまで落ちたかと失望した位。
 守るべきものを守らず、残すべき物を捨て、伝えるべき物を絶ったお前にヴェナブルズの恩恵を今後一切与える事は出来ない。
 かといって好きに生きろと家を追い出せばいいと言う簡単な物でもない。お前に流れる血は何れバックストロムの剣を生み出すかも知れない王家に続く血筋なのだから管理をしなくてはいけない。
 だから俺の目の届くアルホルンに連れて行く。
 お前の知る世界とは全く違うよっぽど追い出された方がましな世界にお前を放り込む事にした。そこまでしないと俺はお前が何一つ変わる事はないだろうと思ってる。
 最初ラグナーに提案された時はいくら何でもと思ったが、ここ数日の報告をフレッドから受けている。
 学園に行かないから朝は起きない、授業がないから勉強はしない、目が覚めたらワインを飲んで昼間から酔っぱらって使用人にちょっかいを出して何も反省してないお前に期待する物は何もないから」

 確かにそれは酷いなと重すぎる空気に甘い果物を摘まみながら果実水を飲むも今は苦い味しかしない。

「お前は今後ヴェナブルズを名乗る事を許さず、使用人の一人として連れていく。
 シルビオに預けるから行動を共にしトゥーレに学びセラの監視の下でお前は俺と直接会う事も許されない雑用の一人として仕事を覚えろ。そうすれば寝る場所と食事位は与える」

 怒りで顔を真っ赤にするかと思いきや俯いた顔はまだ青く、ようやく自分の置かれた立場が分かったと言う様に小さく震えていた。
 気づくのが遅いとどうすればこんな風に育ったのかと思えば

「お前の欠点は耳触りの良い言葉しか聞こうとしなかった事だ。
 お前の事を誰よりも思って厳しい言葉を言うセラを排除し、俺が死んだ後の事を考えて保身に走ったアトリーの甘い言葉に乗せられた結果だ。
 セラの今の主は俺だから今後お前にはより厳しい言葉を言うだろう。
 だがそれは誰よりもお前の事を思ってからの言葉。今度は逃げるな」
「はい」

 感情を殺しての叱咤ほど厳しい物はない。
 その思いが欠片ぐらいは伝わったのか涙ぐみながらも小さな声で返事をする姿は食事を始めた時の生意気さはもう見当たらない。

「たった二人の兄弟、俺もお前とちゃんと向き合うから。
 どこまでお前を見守ってやれるか判らないがお前が生きた十七年と同じ時間をかけて再びヴェナブルズに相応しくある様に誇りを取り戻そう。
 たとえ二度と名乗れない名前ヴェナブルズでも」
「あ、あにうぇ……」

 涙どころか鼻水もぼろぼろと垂れ流し、そっと新たなナフキンをセラは渡すもただ強く握りしめるだけで役に立たない物になっていた。
 失いかけた家族をまたその手に取り戻そうとするも弟の泣き顔にどうすれば良いのか困った顔に向かって微笑めばはにかむような笑みを返してくれたヴォーグにもそれなりに葛藤があった事を理解して、無事乗り切った事を誇らしく思うのだった。










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