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うちの隊長はとりあえず落ち着けと耳打ちしただけです

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 ヴォーグもそう思ったのかワイズに書類を持ってこさせて俺の好きな美しい文字を少しだけ歪めながらも婚約破棄の件を認めて、今度こそ彼女が選んだ素晴らしい伴侶をお与えくださいと言う言葉で閉めていた。

「イザム、この手紙を送るのは簡単だ。
 だけど一度交えた婚約を破棄すると言う事はお前の信頼問題にもかかわる。
 本当に良いのか?」

 ヴェナブルズの家紋の蝋印で封をしてワイズが用意したトレイに手紙を置いた。

「それは、覚悟してます」

 キリリと言ういい顔での返事だがその後に続く言葉に覚悟は次の言葉で一瞬で潰れさった。

「だったらそれなりの違約金をお渡ししなくてはいけないな」
「違約金ですか?」

 キョトンとした顔を見る所そんな事一度も考えた事がないと言う顔だった。
 やがて理解するように顔を青ざめて行き

「そうだよ。
 俺だって支払ったよ?
 王女殿下とは言え一般には金貨三百から五百の所を倍の金額を支払ったさ。
 当然お前もそれぐらいは用意しないとな」
「あ、兄上何を……」
「ああ、これは俺が勝手にやった事だけどラグナーも一応耳に入れておいてほしい。
 名前は違えど俺と一度結婚した事になっただろ?
 婚約破棄の理由の一つにと言われたから俺の半分ほどを支払っていたんだ」
「聞いてないぞ……」

 単純に金貨五百枚か?
 倍ほど支払ったと言ったがそれは二倍なのか?
 たぶん俺がいくら言っても詳しくは教えてくれないだろうが、少なくともいえる事は今日明日で直ぐには用意できない金額と言うのは確かだろう。

「待ってください!
 そんな話聞いた事ありません!」
「一般的な常識だろ。
 とは言え、おばあ様から頂いた商会があればそれぐらいの資金繰りは簡単に集めれるだろう?」

 呆れたと言う様にヴォーグはこちらの事に話を移すつもりで話しを変えようとするも

「待ってください!
 それはつまり私も支払わなくてはと言う事ですか?!」

 顔を真っ青にして俺が知る中でも上位を争うような見事な仕立てのドレスを着た少女はヴォーグに掴み掛りそうな様子の所を宮廷騎士に押し返されていた。
 だけどヴォーグはそこに彼女がいないかのように弟だけを見ていれば

「彼女を紹介させてください」
「今頃遅いよ。俺が椅子に進める前に紹介するがマナーだ。
 この部屋に入った時真っ先に紹介させないといけなかったのでは?」
「申し訳ありません。
 彼女はこの春たぐいまれなる魔力の保持量で編入してきました学友で、今お付き合いさせていただいてますセシリア・コロンと言います。
 リア、正面の方が俺の兄でバックストロムの剣でもあるルードヴォーグ兄様だ」
「初めましてセシリア・コロンと申します。
 バックストロムの剣と自慢されていたお兄様にお会いできて光栄です」

 すっと立ち上がって淑女の礼を取るも今更の挨拶は埃が舞うだけだ。
 それなりに形は出来てる所を見たらちゃんと練習はしてるのだろう。
 だけどそれよりもと言う様に無視をしようとしていた所で背後からラグナーが肩を叩いてくれて

「よろしいでしょうか?」

 そう言って俺だけに聞こえる声で一言囁いた。
 なんて事のないたった一言だけの注意。
 たったそれだけなのに目の前が感情でくもってしまっていた事に気が付いた。
 思わずその指摘に眉間を狭めてしまうも紅茶を飲んで深呼吸を一つ。
 ゆっくりと目を開いて見る世界は精霊の瞳。
 橄欖の間と呼ばれるように黄色がかった緑色にほんのわずかな黒色を混ぜた鮮やかでもあり目にも落ち着いた色で統一されている部屋だ。
 ヴェナブルズ家専用の控えの間ゆえに調度品も色調をそろえて金色がちらつくもあまり気にするほどではないと錯覚をしてしまう豪奢な部屋だった。
 その室内に渦巻く黒い霧の塊があった。
 この精霊の時の姿の時だけ見る事が出来る世界の理の真実の姿。

 ああ、彼女は……

 未だにトレイを持って立つワイズの所に在る手紙に手が伸びて無意識に破いて暖炉にくべていた。

「あ、兄上?!」

 驚いたと言う様に立ち上がりいきなりの俺の行動に誰もがあっけにとられていた。
 耳打ちしたラグナーでさえ驚いてたのだからよほどの想定外の展開だったのだろう。

「セシリア・コロン、悪いが弟と付き合うのは金輪際やめてほしい」
「ヴォーグ、いくらなんでもいきなりは納得できないだろう!」

 思わずと言う様に俺の肩に手を伸ばしてきたラグナーを見て彼の内の魔力の波動が驚きと怒りが攻め合っているのを見てそれはもっともだと思うも

「兄上!いくらなんでも兄上とは言えそれは酷いじゃないですか!」
「あの、それは私が平民だからですか?!
 つり合うようにちゃんと色んな事を勉強しました!
 私に足りない事もまだまだあると思いますがこれからだって勉強します!」

 必至と言う様に細い指先を胸の前で組んで頑張りマスアピールをするも、この精霊の瞳で見た世界はそんな姿さえ黒く染めてしまう闇があった。

「なら聞くが彼女は何だ?」

 その一言に室内の空気が固まる。
 まるで意味が解らない、彼女はセシリア・コロンでは?不審者?
 そう言ったようような考えの中で一番戸惑っている彼女が自分が何者かなんて知らないのだろう。

「兄上、言ってる意味が分かりません……」

 怒りを込めた視線で俺を見るイザムの顔は随分生意気な顔をできるようになったもんだと俺はこの精霊の瞳で見る事の出来る情報量にくらくらしながらも椅子に座り

「彼女は魔族だ。 
 純潔ではなく大分人の血の混ざった、俺と同じように魔族の血をよみがえらせた者だろう。
 とは言えごくわずかだが、それなら魔力の保持量が多いと言うのも頷ける」

 その一言に宮廷騎士達は剣を抜いて俺を守る体勢に入っていた。
 ラグナーは俺を椅子から引っ張り上げてその背中に俺は守られると言う力技を披露してくれた。
 さすがに他の宮廷騎士も一瞬驚きに目を見開いてはいたが

「俺ってそんなにも頼りないかな?」

 と言ってしまえば

「お前と彼女の距離を取る為だ。
 誰か大公の背中の警護を」

 言えば壁際で剣を構えていた宮廷騎士が背後に立ってくれた。
 












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