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うちの隊長はこれが親子の絆なのかと、少し羨ましく伴侶の手をそっと繋いでみた
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俺にとっては何だろうと思うも陛下には心当たりがあるのか玉座から腰を浮かせ、目と口を開けてその小さな種を覗き込んでいた。
「私の願いを聞き入れてくれるのなら私はこちらを差し上げましょう」
「それは、それが……」
「かつて精霊アルホルンがクレルヴォに与えたアルフォニアの木の種です」
ふ、と息を吹きかければその種はすぐさま芽吹き双葉となってすくすく育ち始め、あっという間にヴォーグの手のひらに安定するかのような成長を遂げた。
なんて言う魔法だと思うもエリオット殿下がこれは緑の手かと呟いていた。
「了承して頂けるならお渡ししましょう。
していただけなければ私は総てを捨ててこの国から去りましょう」
とんだ二択にぎょっとして驚くよりも先に陛下は膝をついて恭しくその若木の苗となったアルフォニアの木に両手を差し出す。
「バックストロムの剣の願い引き受けよう」
どれだけ待ち望んだと言わんばかりに溢れる涙にその隣の王妃まで寄りそって陛下を支えていたが
「でしたらこれよりアルフォニアの儀式を行う」
静かな声に陛下さえも困惑を浮かべた。
「どういう事だ?」
周囲からの問う声の疑問にヴォーグは瞳を伏せて
「このアルフォニアの木は私の手を離れた瞬間から急成長を始めます。
知っての通りアルフォニアの木はそれなりに大木となります。
陛下にはかつてクレルヴォが行ったとおりこの木を誰に触れさせることもなくご自身の手で植えてください。
道具を使わず手のみを使って地面を掘ってこの木をお一人でお植えください。
アルフォニアは契約を求めています。
原書の一節にもありました。
『この枝をその手で植えた者のその血が続く限りアルホルンは安らぎを与えましょう』
陛下には言葉通りそれをなぞって行ってもらいたく思います」
俺の知らないアルホルンの書の話しだった。
だが想像はつく。
たぶんアルホルンがクレルヴォに木の枝を渡した時に伝えたのだろう。
それでなくてはクレルヴォが家の庭に枝を植えるなんて話にはつながらない。
ヴォーグの言葉に原書を知るだろう陛下はしばらく考えて
「この木に相応しい場所を決めた。直ぐに始めよう」
言いながら王冠やマント、上着も王妃に預けた。
エリオット殿下も宮廷騎士達に陛下に付くようにと命じる中
「苗を渡した瞬間から急成長を始めます。
ちゃんと土のある場所に、根と枝を十分にはれる場所をこのアルフォニアに与えてください。
五年前アルフォニアの原木を枯れさせてから五年をかけてこの種をここまで作り育てあげました。次の機会はないでしょう。
枝葉を伸ばせる場所をどうぞお与えください」
今はヴォーグがいるから守られる平和もこの精霊が与えた木がなければ崩れ去る未来となる。
知らない者達はいぶかしげにこの様子を見守る中、陛下は慎重に問題ないと頷いてヴォーグの手に添えてそっと苗を受け取った。
「走れ!」
凛としたヴォーグの声をスタートに陛下はそのふくよかな体を揺らしながら懸命に足を運ぶ。
玉座裏から飛び出せば先導する様に宮廷騎士が道を作っていた。
「ラグナー、結末を見に行きましょう」
言ってヴォーグは俺の手を引きながらフレッドもついて来いと言って走り出した。
リオネルは宮廷騎士が守るようだが、それでも心配気な視線に任せろと俺は一つ頷いてヴォーグのあとを追いかける。
城の中は予想外にも知った場所を走り続けた。
元団の後ろにはエリオット殿下も付いてきている。
エリオット殿下以外の血のつながらない兄弟達も付いて来ていた。
王位を諦めてないという事だろうかと思うもきっと彼らは腹違いどころか血が繋がってない事を知らないのだろう。
だけどヴォーグが言ったように契約は血のつながった者と指定されている。
そろそろ真実を知る時だとでもいうのだろうか。
言いながらも足の遅い陛下は宮廷騎士に先導されながらも必死で走っていた。
いつの間にか子供の大きさになってしまっていた木を抱えて汗をかきながら足を休めずに走り続けていた。
そして俺も知る後宮へと続く道に驚きを隠せないまま後を辿れば予想通りヴォーグの為に用意された屋敷の庭に辿り着いていた。
その庭の真ん中に陛下は苗を横に倒して自分も倒れ込みたいのを耐え、荒い呼吸を休める事無く必死になって地面を掘り返していた。
誰も手伝ってはいけない、そんな約束に宮廷騎士は邪魔をしないように俺達に穴を掘るのも木に触れるのも禁じる世言う様に剣を抜いて見張っていた。
必死になって穴を掘る間にも木は成長する。
汗を流しながら、そして爪がはがれたのだろう。
堅い地面を掘る手の指先が赤く染まる痛みに歯を食いしばりながら何とか根っこが収まるだけの穴を掘って既に大人の大きさまで成長しているアルフォニアの木を転がすようにして何とか根っこを落すようにして起きあがらせた瞬間……
突然木が光り輝き先ほどとは比べようのないほどの急成長が始まった。
陛下が流した血痕を包みこんで取り込むように根を広げ、急速な成長に周辺の土を盛り上げながらも大地と一つに交わって行く。
枝を広げ葉からただよう新緑の匂いが、やわらかな枝葉の木陰の中で涼やかな風に乗って漂っている。
瞬く間に見上げる様に成長した木の下で誰ともなく足を運んで仰ぎ見る見事な大木に育っていた。
「陛下、一枝を手折ってください」
ヴォーグの言葉に促されて指先から流れる傷の治療もせず、そして爪の間にも土が入り込む手も洗わず、小さな石によって傷だらけとなった手で一枝を折った。
細い枝はしなやかで折るだけでも苦戦している。今もゆっくりと成長する大きな枝は何時しか木刀にするにはちょうどいい太さになっていた。
そんな枝を持ってヴォーグを見れば、ヴォーグは一つ頷いてエリオット殿下に向けば、陛下はエリオット殿下の前へと足を運んだ。
「エリオット、待たせて済まない。
このバックストロムを、精霊アルホルンに守られたバックストロムをお前に託す」
そっと枝を親から子へと受け渡した。
「確かに受け取りました」
その言葉に王は滂沱という涙を流し、王冠とマント、上着を預かりながらも静かに寄りそう様に最後まで見守り続けた王妃と総てを受け継いだ息子を一緒に抱きしめて声を上げて涙を流しつづけていた。
「私の願いを聞き入れてくれるのなら私はこちらを差し上げましょう」
「それは、それが……」
「かつて精霊アルホルンがクレルヴォに与えたアルフォニアの木の種です」
ふ、と息を吹きかければその種はすぐさま芽吹き双葉となってすくすく育ち始め、あっという間にヴォーグの手のひらに安定するかのような成長を遂げた。
なんて言う魔法だと思うもエリオット殿下がこれは緑の手かと呟いていた。
「了承して頂けるならお渡ししましょう。
していただけなければ私は総てを捨ててこの国から去りましょう」
とんだ二択にぎょっとして驚くよりも先に陛下は膝をついて恭しくその若木の苗となったアルフォニアの木に両手を差し出す。
「バックストロムの剣の願い引き受けよう」
どれだけ待ち望んだと言わんばかりに溢れる涙にその隣の王妃まで寄りそって陛下を支えていたが
「でしたらこれよりアルフォニアの儀式を行う」
静かな声に陛下さえも困惑を浮かべた。
「どういう事だ?」
周囲からの問う声の疑問にヴォーグは瞳を伏せて
「このアルフォニアの木は私の手を離れた瞬間から急成長を始めます。
知っての通りアルフォニアの木はそれなりに大木となります。
陛下にはかつてクレルヴォが行ったとおりこの木を誰に触れさせることもなくご自身の手で植えてください。
道具を使わず手のみを使って地面を掘ってこの木をお一人でお植えください。
アルフォニアは契約を求めています。
原書の一節にもありました。
『この枝をその手で植えた者のその血が続く限りアルホルンは安らぎを与えましょう』
陛下には言葉通りそれをなぞって行ってもらいたく思います」
俺の知らないアルホルンの書の話しだった。
だが想像はつく。
たぶんアルホルンがクレルヴォに木の枝を渡した時に伝えたのだろう。
それでなくてはクレルヴォが家の庭に枝を植えるなんて話にはつながらない。
ヴォーグの言葉に原書を知るだろう陛下はしばらく考えて
「この木に相応しい場所を決めた。直ぐに始めよう」
言いながら王冠やマント、上着も王妃に預けた。
エリオット殿下も宮廷騎士達に陛下に付くようにと命じる中
「苗を渡した瞬間から急成長を始めます。
ちゃんと土のある場所に、根と枝を十分にはれる場所をこのアルフォニアに与えてください。
五年前アルフォニアの原木を枯れさせてから五年をかけてこの種をここまで作り育てあげました。次の機会はないでしょう。
枝葉を伸ばせる場所をどうぞお与えください」
今はヴォーグがいるから守られる平和もこの精霊が与えた木がなければ崩れ去る未来となる。
知らない者達はいぶかしげにこの様子を見守る中、陛下は慎重に問題ないと頷いてヴォーグの手に添えてそっと苗を受け取った。
「走れ!」
凛としたヴォーグの声をスタートに陛下はそのふくよかな体を揺らしながら懸命に足を運ぶ。
玉座裏から飛び出せば先導する様に宮廷騎士が道を作っていた。
「ラグナー、結末を見に行きましょう」
言ってヴォーグは俺の手を引きながらフレッドもついて来いと言って走り出した。
リオネルは宮廷騎士が守るようだが、それでも心配気な視線に任せろと俺は一つ頷いてヴォーグのあとを追いかける。
城の中は予想外にも知った場所を走り続けた。
元団の後ろにはエリオット殿下も付いてきている。
エリオット殿下以外の血のつながらない兄弟達も付いて来ていた。
王位を諦めてないという事だろうかと思うもきっと彼らは腹違いどころか血が繋がってない事を知らないのだろう。
だけどヴォーグが言ったように契約は血のつながった者と指定されている。
そろそろ真実を知る時だとでもいうのだろうか。
言いながらも足の遅い陛下は宮廷騎士に先導されながらも必死で走っていた。
いつの間にか子供の大きさになってしまっていた木を抱えて汗をかきながら足を休めずに走り続けていた。
そして俺も知る後宮へと続く道に驚きを隠せないまま後を辿れば予想通りヴォーグの為に用意された屋敷の庭に辿り着いていた。
その庭の真ん中に陛下は苗を横に倒して自分も倒れ込みたいのを耐え、荒い呼吸を休める事無く必死になって地面を掘り返していた。
誰も手伝ってはいけない、そんな約束に宮廷騎士は邪魔をしないように俺達に穴を掘るのも木に触れるのも禁じる世言う様に剣を抜いて見張っていた。
必死になって穴を掘る間にも木は成長する。
汗を流しながら、そして爪がはがれたのだろう。
堅い地面を掘る手の指先が赤く染まる痛みに歯を食いしばりながら何とか根っこが収まるだけの穴を掘って既に大人の大きさまで成長しているアルフォニアの木を転がすようにして何とか根っこを落すようにして起きあがらせた瞬間……
突然木が光り輝き先ほどとは比べようのないほどの急成長が始まった。
陛下が流した血痕を包みこんで取り込むように根を広げ、急速な成長に周辺の土を盛り上げながらも大地と一つに交わって行く。
枝を広げ葉からただよう新緑の匂いが、やわらかな枝葉の木陰の中で涼やかな風に乗って漂っている。
瞬く間に見上げる様に成長した木の下で誰ともなく足を運んで仰ぎ見る見事な大木に育っていた。
「陛下、一枝を手折ってください」
ヴォーグの言葉に促されて指先から流れる傷の治療もせず、そして爪の間にも土が入り込む手も洗わず、小さな石によって傷だらけとなった手で一枝を折った。
細い枝はしなやかで折るだけでも苦戦している。今もゆっくりと成長する大きな枝は何時しか木刀にするにはちょうどいい太さになっていた。
そんな枝を持ってヴォーグを見れば、ヴォーグは一つ頷いてエリオット殿下に向けば、陛下はエリオット殿下の前へと足を運んだ。
「エリオット、待たせて済まない。
このバックストロムを、精霊アルホルンに守られたバックストロムをお前に託す」
そっと枝を親から子へと受け渡した。
「確かに受け取りました」
その言葉に王は滂沱という涙を流し、王冠とマント、上着を預かりながらも静かに寄りそう様に最後まで見守り続けた王妃と総てを受け継いだ息子を一緒に抱きしめて声を上げて涙を流しつづけていた。
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