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うちの隊長は今も隊長呼ばわりされてます

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 そうこうしているうちにマリーと共にリオネルが戻ってきた。
 深い青のイブニングには見事な銀糸の刺繍が施してあった。
 髪も片側に前に垂らすようにしてゆるくでも艶やかに編んであった。
 ヴォーグの姿に一瞬息を飲んで頬を染めるも、膝の上で俺がヴォーグの顔を引っ張っていたのを見て苦笑に変った。

「精霊様のお姿ですね」
「まあな。今日の俺は機嫌が良い。
 こんな気分じゃないと陛下と取引するつもりになれないからな」

 ご機嫌な顔のまま俺を膝から降ろして立ち上がる。
 まるでタイミングを見計らったようにノックの音が響いた。
 いや、来るのが判ってたのだろう。
 でなければ俺の手を引いてドアに向おうとはしなだろうから。

「アルホルン大公ご準備はよろしいでしょうか」

 宮廷騎士の一人が呼びに来た。
 
「うん行けるよ。
 フレッド、リオネルを連れてこい」
「承りました」
「クラウゼ隊長もお呼び立てして申し訳ありませんでした。
 ランダーさんもイリスティーナさんもありがとうございます」

 言いながら二人の頭に髪飾りを一つづつ付けた。

「ラグナーが喜んでくれたのでお礼です」
「ラグナー隊長ありがとうございまーす!」
「何かあればまた呼んでくださいっ!」

 お互いの髪飾りを笑顔で見せ合って角度を決めてポーズをとっていた。
 髪飾りにポーズも必要なのかと妙な感心をしてしまう中

「あ、忘れる所だった」

 言えば両手を前に出させばその上には剣が一本乗っていた。
 細くもなく太くもなく短くもなければ長くもない騎士団ではありふれた長さの剣だった。
 ただ少し言えば柄の宝石が大粒だなとか剣を収める鞘の部分が見事な金細工と所々小さいながらも宝石が散らばっていて

「隊長昇進のお祝いです」

 あまりの見事な剣にアレクですら一瞬沈黙してしまった物の

「先ほどラビにも贈り物が届いたのに私にもありがとう」
「レドフォードにはまた別の物があるので後ほど会えればいいのですが」

 アレクは冷や汗を流しながらラグナーが王より頂いた剣にも引けを取らない美しい剣をどうすればいいのだろうか、そしてレドフォードもこれに似たような剣を貰うのだろうかと考える中

「いい剣だな、抜いて見せろよ」

 ラグナーも好奇心からどんな感じか見せろと言えばすらりと抜いた白銀の刃は鏡のごとく磨き上げられ魔石が輝くシャンデリアの光を反射していた。
 歪みなく映る刀身の景色にアレクだけではなくホルガーでさえ息を飲んで魅入ってしまっている。
 
「こんなにも素晴らしい剣を持つだけの実力が私にはあるだろうか」

 震える声で呟くアレクに元団は

「これからも精進しろとの事だろう。
 それに見る限り魔力と相性の良い剣の様だ。
 魔道士の杖代わりにもなるだろう」
「フレッドは判ってるなぁ。
 普通隊長さんが率先して闘うと言う事はないだろうから。
 だったらバッファーとして後ろから指揮を執るには少しでも相性考えればそうなるよ」

 師弟関係はなお続くと言わんばかりに遠くからも師匠から送られた剣を使いこなせと指令が下りるのを少しだけ羨ましく、そしてそのたとえは俺の事かとついヴォーグを見ていれば視線が一瞬反らされて

「ラグナーも剣を新調するとかしないとか前言ってたけど?」
「そういやんな事言ってたな。
 けどまぁ、これからあまり使う事もないだろうし」

 率先して魔物を狩りに行くと言う生活は当分なりだろうと思うもアルホルンの森の魔物の間引きにはいかなくてはならない。
 近いうちに買いに行こうかと思えば

「だったら俺のお古だけど使う?
 俺には先生からもらった剣があるからね」

 にこにことした何気ない会話の中から取り出した剣は何の変哲もない何かの鱗の鞘におさめられた物だった。
  
「なんかさっきの剣と比べるとシンプルだなぁ?」

 トゥロの言葉に

「向こうでずっと使ってた剣だからね。
 でもいつも使ってる剣を作ってくれた人が打ってくれた剣だからこれも良い剣だよ」

 ずっと実戦で使ってきた奴だけど、そう言って渡してくれた夜の闇のような、でも月明かりに照らされてほんのりと藍を含む夜空の色から朝を迎えると言わんばかりの白色のグラデーションに鞘の鱗が元は何だったかは全くわからない。
 ヴォーグの持ち物だから知らない方が良いのだろうかと思うも

「ずいぶん頑丈そうな鱗ね?」
「でも綺麗。一枚一枚が宝石みたいだわ」

 ヴォーグの謎な部分をまだ理解し切れてないイリスとランダーが聞いてしまい、思わず呻く俺とホルガー達は腹をくくって耳を傾ける。

「そう言ってくれると嬉しいんですが実際は悪さばかりしていたドラゴンを仕留めた時に手伝ったので、由来は血なまぐさいですよ?」
「ド、ドラゴン?」

 ワイバーンとかじゃなくてと思わず聞いてしまったホルガーの疑問が上手く伝わらないせいか

「子供のドラゴンでしたが、ずいぶんやんちゃして長でもあるドラゴンにはむかったので逆にやり返される事になってしまいまして。
 長のドラゴンは随分お怒りになりまして……
 ああ、ちなみに鞘にしたのはちょうど首の所ですね。
 鬣を抜いて二つ折りにして。
 ちょうどその時剣を作ってくれるマオから……あの黒い剣を作ってくれた方ですね。
 魔石の剣が作りたいからって依頼を受けていて彼が納得する魔石を幾つも用意してた時でして、いくつかもってったらこの剣を依頼の代金として頂いたのですよ。
 この鞘もその時に作っていただいたものです」

 にこにことした説明にやっぱり聞くんじゃなかったと後悔。いや、愛用の剣を貰えるのは嬉しいんだけどね。
 そーっと剣を鞘から抜けば魔石の剣を作りたいと言ったようにその刀身は総て魔石だった。
 透き通る青空から茜色に変る……
 陽が沈み、朝を迎える。
 そんな組み合わせなのかと感心してしまうこの剣に込められた想いは一体何なんだろうと考えてしまいながらも

「気に入りませんでした?」

 俺がヴォーグの望んだ反応をしてないからなのだろうか、へこたれた顔をしているヴォーグに向かって違うと首を振り

「どうやってこの驚きと今までお前を守ってきてくれた剣への喜びを表せばいいのか判らないくらい驚いてるんだ」

 寧ろ泣きたい。
 魔石だと言うのに重さを感じないくらい軽く刃零れも罅も含有物さえ見あたらなくそのくせ魔石からの力に体中をめぐる魔力が反応して溢れんばかりに駆け巡っている。
 そして俺の喜びを越えた困惑にヴォーグはやっと嬉しそうな顔を浮かべていた。

「では大公、そろそろ参りましょう」

 思いっきりその剣良いなと言わんばかりの視線の宮廷騎士に促されて俺はヴォーグにエスコートされながら会場へと向かう。
 そのすぐ後ろで何やら安心したような感嘆のため息が聞こえて、この剣が意味する物はもっと大きなものではないかと漸く気が付くのだった。

















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