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うちの隊長はこれは迷子になっても仕方がないなと既に覚悟しております

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 アヴェリオ元騎士団団長が正面門に既に待機しており到着と同時にすぐに迎え入れられた。
 俺の顔を見てほっとしたような笑みにアルホルン城内がいかに緊張する場所なのか思ってしまうが、とりあえずと言う様にこの城で働く使用人に馬を預け城内に案内される。
 前にホルガーも言っていたが城の門から続く庭を抜けて城内へと入った。
 少しクラシカルな雰囲気の石造りの場内を俺達はぐるりと見渡すように美しい室内を眺める。
 美しい城と言う割にはどこかこじんまりとすら感じられるのはこの規模の敷地なのにと言うのが一番の理由だ。
 だけどその違和感もそのはず。
 元団長はブルフォードと俺達を連れてどんどん奥に向かって歩いて行く。
 どこへ行くのかと言う様にブルフォードへと視線を向ければ

「この城は外からのお客様と面会するだけの場所だ。
 これから向かうのは俺達宮廷騎士の居住そして職場になる。
 そこに大公の執務室もあり、一日の大半はそこで暮す予定になっているのだが」

 困ったようにくつくつと笑う。
 つまりそこにはいないという事だ。

 そう言っている間にもこの区画から次の区画に繋がると言う様に廊下を歩けばそこから一望する光景に俺達は思わずと言うように足を止めた。

「この廊下に繋がるのが宮廷騎士の区画、その奥に見えるのがヴォーグお気に入りの緑の魔法使いの研究棟と北側が使用人居住区、更に奥が滞在を許された方の居住区いわゆる迎賓館でその向こうに見えるのがこのアルホルンの主の居住区であるアルホルン城だ」
「ひ、広すぎるって言うか……」

 王都の王城より広いのではと思ってしまえばそれは顔に出ていたのだろう。

「ここに来る事になったアルホルンの姫達は一人身を貫く寂しさの代わりに次々に自分の為の城を作らせた。
 結果こう言った城が並ぶ景色になったのだが、あまりの高額な出費と城が出来上がる頃には姫達もだいぶ高齢になり興味をうせ、ある時の王によって城の建築がついに禁止された。
 この景色はその名残で、それ以降のアルホルン大公の役目はその維持と管理が大半になっている」
「ですが、まだほかにも建物がありますよね?」

 アンディが聞けば

「ああ、城を作るのは禁止されたので施設を作るという後の姫達の意地によりこのアルホルンの城の外壁を作るように指示をしたり物見の塔や趣味の合わない家具をしまう為だけの建物、ガゼボと言った施設を散歩の先にいくつも作ったりとした者も居た」
「外壁って、ひょっとして城より高額になるのでは?」

 思わず聞き返してしまえば

「自分の城を作るのを禁止された姫の腹いせらしい。
 ならばせめて安全に暮らせるようにと言ってな。
 でもそれは魔物の侵入防止にもつながり予算を次の代まで使って建築したと記録に残っている」
「因みにヴォーグは何を……」

 平然とした顔でアルホルンを欲しがるような感覚なのだ。
 きっと何かとてつもない物を要求したのかと深呼吸してから聞けば

「温室の修理と施設の備品の買い替えや後は大概の部屋のカーテンなどの変更と言った微細な物だ」
「カーテンですか?」
「ここは長い事女性が主を務めていたからな。
 少女っぽいとか女性趣味と言うか、フリルとレースやピンクだらけの柔らかな色合いをあいつは受け付けなかったと言うだけの話しだ」
「あー、それは納得です」

 ウィルも納得と言うようなのは最初の建物がやたらとかわいらしい置物が多かったのも一因の一つだろう。

「家具を置く、まあ倉庫だな。
 そこから入れ替えたりある物を使ってくれたからアルホルン城主としてここまで低予算なのはあいつが初めてかもしれないが、その代わりに施設の補修にあいつは金をかけた。
 数年の間完全無人になってた城だからな。雨漏りや窓枠が歪んでたりと言った箇所を総て調べさせて今も補修を続けている。
 昔は灯が少ない為に照明器具の増設をしたり、でもなんだかんだ手を加えさせても歴代の中で最低金額だったな」

 桁が二つ三つ違って陛下は泣かれて喜ばれたと言う。

「とは言えヴォーグの城主の期間は歴代の中で一番短くなるだろう。
 次の代に向けての準備ともいえるだけにその程度の要求では私達は納得できないがな」

 残り少ない期間ならこそもっと我を張れと言っているのだろう。
 少し寂しげな顔はそのまま一室の部屋の扉を開けた。
 暖炉のある大きな部屋だった。
 暖炉の遠い場所にソファとテーブルが待機場所と言う様に置いてあり、暖炉の側には一人掛けの優雅でいかにも座り心地がよさそうな椅子が置いてあった。

「さて宮廷騎士殿にはここで待機をしてもらう。
 なぜなら頭の痛い事に貴方方が来る事が判っているのに主は仕事を持って今日は陽気が良いからと言って時間が来るまでと庭のどこかにあるガゼボに出かけて行ってしまった」
「我々が来るのが遅かったのでしょうか?」

 違うと頭を振る。

「あいつの生活の問題なのだ。
 朝は日の出と同時に起きて、夜は日付が変わる頃に寝る。
 こっちに来た時は慣れない環境に皆体調を崩したりもしたのにもかかわらず遅寝早起きを崩さなかった生活だ」

 確かに早起きで夜は遅くまで本を読んだりしてたなとぼんやりと思い出したりもしていたが

「おかげで朝食も早く、諸君らが朝食を食べていた頃には一通りの事を済ませており暇を持て余して普段ならその辺を手入れをしながら散歩したり魔物を捕まえてきたりとする時間としている。今日は来客があるから城内に居てくれとお願いしておけばこの広い城内のどこかにいると言う始末……
 しかも良いのか悪いのか仕事を持って出かけたからキリが付く所までは帰ってこないだろう」
「それは、つまり……」

 ウィルが顔を引き攣らせて息をのむ様子を元団長は途方のくれた顔で

「腹が空いて戻ってくるまで待っていてくれ」

 昼ごろには帰ってくるだろうと言えば控えめなノックの音。
 ひょっとしてと言う様にアンディが期待の籠る目でドアを向くもそこにはハイラの姿が一人だけ。
 俺は思わずと言う様に再会に喜んで笑みを向えればハイラは苦笑を隠さない顔で

「主が不在の間はどうぞこちらをお召し上がりください」

 暖かな紅茶と小さくカットされた軽食を並べたトレーが目の前に広げられた。
 
「アヴェリオ殿、少し休まれた後に城内の案内と施設の紹介をお願いしましょう。
 この様子では主は昼までは帰ってこないでしょうから」

 にこにこと優雅に淹れた紅茶は香りだけで判る俺好みのブレンド。
 俺は迷いなく紅茶に口を付ければ初めてのハイラが淹れる紅茶の香り高さにウィルもアンディも驚いた顔で二口目、三口目と進んでいた。

「もし何か御用とあれば私ハイラをお呼び下さい」 

 慇懃に頭を下げるハイラに

「彼はアルホルン大公の家令を務めている。
 クラウゼ伯爵家の元家令で、彼がこちらに来た理由は皆も知っている事だろう。
 この城内でアルホルン大公の信頼を得ている彼に対する不敬は許されない」
「さて、堅苦しい事は終わりにしまして私は一度下がりますのでアヴェリオ殿後はよろしくお願いします」

 なんとなく長くなりそうな話をかぶせる様に明るい声で話しを切り替え、後はよろしくお願いしますと去って行った様子に俺の隣達はあっけにとられていた。 











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