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うちの隊長にそれは訪問着であって戦闘服じゃないだろと誰か言ってやってくださいと新しい隊長は呟いておりますが勝負服は間違いないようです
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任命式は厳かにそして粛々と進んだ。
とは言え毎年の事。
関係ない下級兵士にとってはあくびの数を数えたり、立ったまま寝たりとそれはそれで難しい一芸が発揮される場でもあった。
俺の退団の代わりにアレクが隊長に立ったことが今回の式典の一番の目玉だろう。
二人の小隊長の代わりに新たに小隊長に二人が抜擢され、そして小隊長から副隊長になったレドフォードとレドフォード小隊の補佐が小隊長に立った。
元シーヴォラ隊が一番人事異動が激しく、でも先に振り分けていた為に混乱はないものの周囲の者達には動揺が走っていた。
それは仕方がない。
今まで平民出の隊長の平民の部隊という見方から金銭的にも裕福で侯爵家並みの力と今では公爵家に向かって言葉を言える発言力さえ持つ伯爵家の子息がまとめる隊なのだ。
挙句に数多くの上位貴族の後ろ盾を持つレドフォードがいる。
仕事的には変わらないだろうが、それに対して下手な事を言えなくなったのが他隊の立場だ。
アレクが国王から直々に隊長の徽章を頂き美しい姿勢で自隊の場まで下がる。
少しだけ嬉しそうに照れながら、真新しいバッチが輝くのをちらりとのぞく視線は確かに嬉しそうに笑っている。
最もそう言った笑みを見せる場ではないので表情はないものの、長い付き合いからそんな微細な表情でもどんな感情が込められているかは手に取るようにわかっていた。
そして任命式は宮廷騎士の番へと変る。
ウィル、アンディと呼ばれ
「ラグナー・シーヴォラ前へ」
国王の前に立つ二人の隣に俺も足を向けた。
よほど俺が宮廷騎士になったのが予想外なのだろう。
俺だってそうだ。
が、そんな予想外の俺の出現に懐かしい声が黄色い悲鳴を上げるも同時に消すかのような野太い声の歓喜の悲鳴が混ざると言う、ざわつく背後に俺は頼むから大人しくしてくれと冷や汗を流すも目の前に立つ国王陛下は俺達だけに聞こえる小さな声で
「この場でこれだけの反応は中々にないぞ?」
どうやら楽しんでいるようだ。
ウィル、アンディもそんなにも俺がここにいるのが予想外のどよめきの気持ちがわかると言う様に頷き、そしてあまりの周囲の反応の良さに国王は嬉しそうな顔で俺達に自ら宮廷騎士の徽章を取り付けてくれた。
今まで見ない光景の為にウィル、アンディ、そして俺も興奮してしまうもすぐ傍らで待機しているゴルディーニ殿がいつまでも遊んでないでと言わんばかりに咳をしても効果は全くなかったが俺達が下がり国王が広間を一望すれば声はぴたりと止まり静寂が広がった。
「昨年はあまりに多くの命が国の為に亡くなり多くの指導者も失われたが今年は新たに三人もの国の平和へと導く指導者となる宮廷騎士を迎え入れる事が出来た。
若さゆえに未熟な事もあるだろう。
経験の浅さゆえに予期せぬことも出会うだろう。
そして世界はまだ魔王がその力を振るう時代、いつまた混沌となる日を予告なく迎える事になる不安の尽きない日々が続くだろう。
力は決して数ではない。
力なき民の剣となり盾となる騎士が一致団結すれば必ずしも勝利を収める事が出来るとは言いきれないこの時代。
こんな時代だからこそ多くの者が成長を遂げ今日と言う日を迎える事が出来た。
平和な世を守るべく皆の胸に持つ騎士の姿を、誇れる騎士であり続ける事を私は願う」
そう言って国王は背後の国旗の下まで下がればブルフォードがこの任命式の続きを取り仕切っていた。
ゴルディーニから始まる何人もの長い訓辞の間俺は久しぶりにうっすらと目を開けたまま直立不動で話に耳を傾けると言う技を披露してその場を乗り切れば、やがて周囲をざわつかせる声に意識を取り戻し、あらかじめ決められている予定をウィルとアンディの見本通りに行動している間に任命式は終わった。
アルホルン大公への挨拶の為に下がった先では真新しい訪問着を渡された。
アルホルン手前の村で一泊をして朝一番に挨拶をして会談と昼食会の後に城に戻るという行程を先導するのはこの道に慣れたブルフォード。
新しい訪問着はそこで着替え、村から三十分ほどの道のり先にアルホルンの正面玄関でもある南門に辿り着く。
去年のアルホルン討伐戦の折りに何度も見た南門の立派さは忘れる事はない。
見上げる高い柵と城を取り囲む塀は何所までも続き、ユハ達が本当にぐるりと囲んでいると呆れて居た様に広大な敷地面積を持つアルホルンの城は要塞と言っても良いだろう。
その中心にヴォーグは居る。
アルホルン手前の村で初めての訪問着に袖を通して真っ白なマントを纏い、やっとここまで来たと言う様にその見上げんばかりの立派な門に向かってもう逃がさないぞヴォーグ……と、俺は睨みつけていた。
とは言え毎年の事。
関係ない下級兵士にとってはあくびの数を数えたり、立ったまま寝たりとそれはそれで難しい一芸が発揮される場でもあった。
俺の退団の代わりにアレクが隊長に立ったことが今回の式典の一番の目玉だろう。
二人の小隊長の代わりに新たに小隊長に二人が抜擢され、そして小隊長から副隊長になったレドフォードとレドフォード小隊の補佐が小隊長に立った。
元シーヴォラ隊が一番人事異動が激しく、でも先に振り分けていた為に混乱はないものの周囲の者達には動揺が走っていた。
それは仕方がない。
今まで平民出の隊長の平民の部隊という見方から金銭的にも裕福で侯爵家並みの力と今では公爵家に向かって言葉を言える発言力さえ持つ伯爵家の子息がまとめる隊なのだ。
挙句に数多くの上位貴族の後ろ盾を持つレドフォードがいる。
仕事的には変わらないだろうが、それに対して下手な事を言えなくなったのが他隊の立場だ。
アレクが国王から直々に隊長の徽章を頂き美しい姿勢で自隊の場まで下がる。
少しだけ嬉しそうに照れながら、真新しいバッチが輝くのをちらりとのぞく視線は確かに嬉しそうに笑っている。
最もそう言った笑みを見せる場ではないので表情はないものの、長い付き合いからそんな微細な表情でもどんな感情が込められているかは手に取るようにわかっていた。
そして任命式は宮廷騎士の番へと変る。
ウィル、アンディと呼ばれ
「ラグナー・シーヴォラ前へ」
国王の前に立つ二人の隣に俺も足を向けた。
よほど俺が宮廷騎士になったのが予想外なのだろう。
俺だってそうだ。
が、そんな予想外の俺の出現に懐かしい声が黄色い悲鳴を上げるも同時に消すかのような野太い声の歓喜の悲鳴が混ざると言う、ざわつく背後に俺は頼むから大人しくしてくれと冷や汗を流すも目の前に立つ国王陛下は俺達だけに聞こえる小さな声で
「この場でこれだけの反応は中々にないぞ?」
どうやら楽しんでいるようだ。
ウィル、アンディもそんなにも俺がここにいるのが予想外のどよめきの気持ちがわかると言う様に頷き、そしてあまりの周囲の反応の良さに国王は嬉しそうな顔で俺達に自ら宮廷騎士の徽章を取り付けてくれた。
今まで見ない光景の為にウィル、アンディ、そして俺も興奮してしまうもすぐ傍らで待機しているゴルディーニ殿がいつまでも遊んでないでと言わんばかりに咳をしても効果は全くなかったが俺達が下がり国王が広間を一望すれば声はぴたりと止まり静寂が広がった。
「昨年はあまりに多くの命が国の為に亡くなり多くの指導者も失われたが今年は新たに三人もの国の平和へと導く指導者となる宮廷騎士を迎え入れる事が出来た。
若さゆえに未熟な事もあるだろう。
経験の浅さゆえに予期せぬことも出会うだろう。
そして世界はまだ魔王がその力を振るう時代、いつまた混沌となる日を予告なく迎える事になる不安の尽きない日々が続くだろう。
力は決して数ではない。
力なき民の剣となり盾となる騎士が一致団結すれば必ずしも勝利を収める事が出来るとは言いきれないこの時代。
こんな時代だからこそ多くの者が成長を遂げ今日と言う日を迎える事が出来た。
平和な世を守るべく皆の胸に持つ騎士の姿を、誇れる騎士であり続ける事を私は願う」
そう言って国王は背後の国旗の下まで下がればブルフォードがこの任命式の続きを取り仕切っていた。
ゴルディーニから始まる何人もの長い訓辞の間俺は久しぶりにうっすらと目を開けたまま直立不動で話に耳を傾けると言う技を披露してその場を乗り切れば、やがて周囲をざわつかせる声に意識を取り戻し、あらかじめ決められている予定をウィルとアンディの見本通りに行動している間に任命式は終わった。
アルホルン大公への挨拶の為に下がった先では真新しい訪問着を渡された。
アルホルン手前の村で一泊をして朝一番に挨拶をして会談と昼食会の後に城に戻るという行程を先導するのはこの道に慣れたブルフォード。
新しい訪問着はそこで着替え、村から三十分ほどの道のり先にアルホルンの正面玄関でもある南門に辿り着く。
去年のアルホルン討伐戦の折りに何度も見た南門の立派さは忘れる事はない。
見上げる高い柵と城を取り囲む塀は何所までも続き、ユハ達が本当にぐるりと囲んでいると呆れて居た様に広大な敷地面積を持つアルホルンの城は要塞と言っても良いだろう。
その中心にヴォーグは居る。
アルホルン手前の村で初めての訪問着に袖を通して真っ白なマントを纏い、やっとここまで来たと言う様にその見上げんばかりの立派な門に向かってもう逃がさないぞヴォーグ……と、俺は睨みつけていた。
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