うちの隊長は補佐官殿が気になるようですが

雪那 由多

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うちの隊長はこれでも少しセンチメンタルな気分になってるのを必死に隠しているつもりです

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 隊舎からの荷物を総て引き払い、クラウゼ家が準備した荷物を確認しながら王都の俺の家から持って行く荷物を鞄に詰めた。
 仕事でこちらにも戻って来る事があるので屋敷はこのまま維持してくれると言うので是非ともヴォーグの本だけは大切に保管してほしい事を伝えておく。
 そして一冊の本を俺は俺の空間に閉じ込める。
 あれから何度か会ったが渡しそびれた幼い頃遠い地で書き写した物語。
 得る事の出来ない希望に夢見て縋りつき一度は手にした物は水のように砂のようにその手から滑り落ち、代わりに得たのは責務と引き換えに与えられる自由。
 そこにヴォーグの都合を入れる事は一切許されていない。
 目を盗んで影響がなければ目こぼしもされてるが、それでも彼が背負う重責からは逃げる事は許されない。
 たった一つの命で国の総ての命を守れと言われたその重責。
 人はもちろん草木から動物まで息づく者総てがその存在だけで守られるバックストロム国でヴォーグに与えられるのは沢山の特権。
 呆れるくらいのその権力はヴォーグを守る為の権力かも知れないが、そんな物一つも無くてもヴォーグは困る事はないだろう。
 でもせっかくだからと有意義に使いはするも、与えられた権力のいかほど使っているのかは全くわからない。
 欲しくて使ってる物はアルホルンの城の居住権。
 褒美に何が欲しいと聞かれてアルホルンが欲しいと答えた時、大公の地位が、いさかいを生まないよう王と同位であれどその配下と言う意志を示しているのかと思うも単にアルホルンに有る緑の魔法使い垂涎の施設を使いたいからという、俺には理解できない者だった。
 とは言え城に居てもアルホルンからの薬が届いたと大騒ぎの声を幾つも聞く。
 どんなものか教えてもらってもさっぱりわからなかったが、シーヴォラ隊に届くポーションなどはヴォーグのでたらめポーションなので相変わらずだなと笑みが浮かんでしまう。

「ラグナー、準備は?」
「ああ、いつでも」

 隊長服に身を纏うアレクが部屋まで迎えに来てくれた俺の出で立ちは久しぶりの、でも正真正銘の宮廷騎士の服を纏っていた。
 鮮やかな青に黒のブーツとグローブ。
 腰には式典用の、王から賜った剣を佩き、背中には地面に着きそうな真っ白なマントに宮廷騎士の徽章が刺繍されていた。
 胸元には宮廷騎士の黄金の徽章と過去に得た勲章達。
 クラウゼ家の侍女達によって髪も片側をかき上げたアシンメトリーに仕上がっている。
 自分の顔の美醜は気にしないが、良く化けた物だと感心する姿にわざわざ俺達の初日の様子を見に来てくれたラビは「普段から身だしなみに気を付けておけば今頃アルホルンでヴォーグに監禁されてたのに」と俺がこんなにもモヤモヤする必要はなかったという。
 まぁ、その手も良いかもと思った事はないとは言わないが、それでもヴォーグは俺を置いて行っただろう。
 と言うか、何でそんなにアルホルンにこだわるのか問い詰めてやるのも目的の一つだが、そんな事を考えている間にアレクによってホールに連れて来られてしまった。
 ホールにはクラウゼ伯とソフィア様を始め、クラウゼ家の使用人が集まっていた。

「ふむ、前回の時とは違いまた一段と立派になったな」
「クラウゼ伯には大変ご厚意を賜り……」
「そう言う堅苦しいのはよい。
 何だか娘を嫁にやるような気分になる」

 言って笑うも大して変わらないのでは?と言うソフィア様の呟きに使用人達はくすくすと笑いあっていた。

「だがラグナーには大変な任務があるという。
 我々には聞かされてないが、あまり無理をするなよ」
「ありがとうございます。俺は無理をするつもりはないのですが……
 任務の内容については失敗は許されないし、そんな結果に導きたくないという思いもあります」
「アルホルンにはハイラがいるわ。
 もし何かあればすぐにハイラを頼るのよ」
「はい。ハイラからの連絡が一番確かなので、何かあれば頼る事になります。
 どうかその折には手を貸してください」
「もちろんよ。
 私達の息子達が苦しんでいるのを見守るだけの親にはなるつもりはないですからね」

 その結果ハイラをアルホルンに送りつけ、ヴォーグは良き師に出会えたと喜んでいる。
 クラウゼ伯の判断の速さは確かに見習う物があると今もあの時の勇気には頭が下がる思いだ。

「では行こうか」
「こうやって行くのもこれからもあるのかな?」
「まぁ、あればあるしなければない。
 お前の寝起きに付き合わなくて済むというのはありがたいがな」
「懐かしくなったらいつでも呼べよ?」
「ヴォーグも付いて来そうでまた賑やかになるな」

 アレクの何処か寂しそうな、でも楽しげな笑い声を合図にクラウゼ家を後にした。
 馬車にはこのあとアルホルンに行く為の荷物があり座席が少し狭く、俺とアレクは肩を寄りそわせて馬車に揺れていた。
 大公に挨拶の為に向かい、すぐにこちらに戻ってお披露目の夜会の後に正式に向こうに行く事になるが、荷物は今回の軍行と同じ速さで行く事は出来ない為に後から届く事になっている。
 とはいってもその間王都に戻ったりするからその合間に届く手筈になっているのだが、慣例的な行事とは言えまだるっこしいと言わずにはいられない。
 
「良かったな?」
「まあ、な」

 俺がこんな幸せを手に入れるまですべてを見てきたアレクは笑みを零しながらかけてくる体重を俺は押し返す事無くアレクの香りと重みと温もりを忘れないように堪能していた。
 








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