179 / 308
うちの隊長はこれでも少しセンチメンタルな気分になってるのを必死に隠しているつもりです
しおりを挟む
隊舎からの荷物を総て引き払い、クラウゼ家が準備した荷物を確認しながら王都の俺の家から持って行く荷物を鞄に詰めた。
仕事でこちらにも戻って来る事があるので屋敷はこのまま維持してくれると言うので是非ともヴォーグの本だけは大切に保管してほしい事を伝えておく。
そして一冊の本を俺は俺の空間に閉じ込める。
あれから何度か会ったが渡しそびれた幼い頃遠い地で書き写した物語。
得る事の出来ない希望に夢見て縋りつき一度は手にした物は水のように砂のようにその手から滑り落ち、代わりに得たのは責務と引き換えに与えられる自由。
そこにヴォーグの都合を入れる事は一切許されていない。
目を盗んで影響がなければ目こぼしもされてるが、それでも彼が背負う重責からは逃げる事は許されない。
たった一つの命で国の総ての命を守れと言われたその重責。
人はもちろん草木から動物まで息づく者総てがその存在だけで守られるバックストロム国でヴォーグに与えられるのは沢山の特権。
呆れるくらいのその権力はヴォーグを守る為の権力かも知れないが、そんな物一つも無くてもヴォーグは困る事はないだろう。
でもせっかくだからと有意義に使いはするも、与えられた権力のいかほど使っているのかは全くわからない。
欲しくて使ってる物はアルホルンの城の居住権。
褒美に何が欲しいと聞かれてアルホルンが欲しいと答えた時、大公の地位が、いさかいを生まないよう王と同位であれどその配下と言う意志を示しているのかと思うも単にアルホルンに有る緑の魔法使い垂涎の施設を使いたいからという、俺には理解できない者だった。
とは言え城に居てもアルホルンからの薬が届いたと大騒ぎの声を幾つも聞く。
どんなものか教えてもらってもさっぱりわからなかったが、シーヴォラ隊に届くポーションなどはヴォーグのでたらめポーションなので相変わらずだなと笑みが浮かんでしまう。
「ラグナー、準備は?」
「ああ、いつでも」
隊長服に身を纏うアレクが部屋まで迎えに来てくれた俺の出で立ちは久しぶりの、でも正真正銘の宮廷騎士の服を纏っていた。
鮮やかな青に黒のブーツとグローブ。
腰には式典用の、王から賜った剣を佩き、背中には地面に着きそうな真っ白なマントに宮廷騎士の徽章が刺繍されていた。
胸元には宮廷騎士の黄金の徽章と過去に得た勲章達。
クラウゼ家の侍女達によって髪も片側をかき上げたアシンメトリーに仕上がっている。
自分の顔の美醜は気にしないが、良く化けた物だと感心する姿にわざわざ俺達の初日の様子を見に来てくれたラビは「普段から身だしなみに気を付けておけば今頃アルホルンでヴォーグに監禁されてたのに」と俺がこんなにもモヤモヤする必要はなかったという。
まぁ、その手も良いかもと思った事はないとは言わないが、それでもヴォーグは俺を置いて行っただろう。
と言うか、何でそんなにアルホルンにこだわるのか問い詰めてやるのも目的の一つだが、そんな事を考えている間にアレクによってホールに連れて来られてしまった。
ホールにはクラウゼ伯とソフィア様を始め、クラウゼ家の使用人が集まっていた。
「ふむ、前回の時とは違いまた一段と立派になったな」
「クラウゼ伯には大変ご厚意を賜り……」
「そう言う堅苦しいのはよい。
何だか娘を嫁にやるような気分になる」
言って笑うも大して変わらないのでは?と言うソフィア様の呟きに使用人達はくすくすと笑いあっていた。
「だがラグナーには大変な任務があるという。
我々には聞かされてないが、あまり無理をするなよ」
「ありがとうございます。俺は無理をするつもりはないのですが……
任務の内容については失敗は許されないし、そんな結果に導きたくないという思いもあります」
「アルホルンにはハイラがいるわ。
もし何かあればすぐにハイラを頼るのよ」
「はい。ハイラからの連絡が一番確かなので、何かあれば頼る事になります。
どうかその折には手を貸してください」
「もちろんよ。
私達の息子達が苦しんでいるのを見守るだけの親にはなるつもりはないですからね」
その結果ハイラをアルホルンに送りつけ、ヴォーグは良き師に出会えたと喜んでいる。
クラウゼ伯の判断の速さは確かに見習う物があると今もあの時の勇気には頭が下がる思いだ。
「では行こうか」
「こうやって行くのもこれからもあるのかな?」
「まぁ、あればあるしなければない。
お前の寝起きに付き合わなくて済むというのはありがたいがな」
「懐かしくなったらいつでも呼べよ?」
「ヴォーグも付いて来そうでまた賑やかになるな」
アレクの何処か寂しそうな、でも楽しげな笑い声を合図にクラウゼ家を後にした。
馬車にはこのあとアルホルンに行く為の荷物があり座席が少し狭く、俺とアレクは肩を寄りそわせて馬車に揺れていた。
大公に挨拶の為に向かい、すぐにこちらに戻ってお披露目の夜会の後に正式に向こうに行く事になるが、荷物は今回の軍行と同じ速さで行く事は出来ない為に後から届く事になっている。
とはいってもその間王都に戻ったりするからその合間に届く手筈になっているのだが、慣例的な行事とは言えまだるっこしいと言わずにはいられない。
「良かったな?」
「まあ、な」
俺がこんな幸せを手に入れるまですべてを見てきたアレクは笑みを零しながらかけてくる体重を俺は押し返す事無くアレクの香りと重みと温もりを忘れないように堪能していた。
仕事でこちらにも戻って来る事があるので屋敷はこのまま維持してくれると言うので是非ともヴォーグの本だけは大切に保管してほしい事を伝えておく。
そして一冊の本を俺は俺の空間に閉じ込める。
あれから何度か会ったが渡しそびれた幼い頃遠い地で書き写した物語。
得る事の出来ない希望に夢見て縋りつき一度は手にした物は水のように砂のようにその手から滑り落ち、代わりに得たのは責務と引き換えに与えられる自由。
そこにヴォーグの都合を入れる事は一切許されていない。
目を盗んで影響がなければ目こぼしもされてるが、それでも彼が背負う重責からは逃げる事は許されない。
たった一つの命で国の総ての命を守れと言われたその重責。
人はもちろん草木から動物まで息づく者総てがその存在だけで守られるバックストロム国でヴォーグに与えられるのは沢山の特権。
呆れるくらいのその権力はヴォーグを守る為の権力かも知れないが、そんな物一つも無くてもヴォーグは困る事はないだろう。
でもせっかくだからと有意義に使いはするも、与えられた権力のいかほど使っているのかは全くわからない。
欲しくて使ってる物はアルホルンの城の居住権。
褒美に何が欲しいと聞かれてアルホルンが欲しいと答えた時、大公の地位が、いさかいを生まないよう王と同位であれどその配下と言う意志を示しているのかと思うも単にアルホルンに有る緑の魔法使い垂涎の施設を使いたいからという、俺には理解できない者だった。
とは言え城に居てもアルホルンからの薬が届いたと大騒ぎの声を幾つも聞く。
どんなものか教えてもらってもさっぱりわからなかったが、シーヴォラ隊に届くポーションなどはヴォーグのでたらめポーションなので相変わらずだなと笑みが浮かんでしまう。
「ラグナー、準備は?」
「ああ、いつでも」
隊長服に身を纏うアレクが部屋まで迎えに来てくれた俺の出で立ちは久しぶりの、でも正真正銘の宮廷騎士の服を纏っていた。
鮮やかな青に黒のブーツとグローブ。
腰には式典用の、王から賜った剣を佩き、背中には地面に着きそうな真っ白なマントに宮廷騎士の徽章が刺繍されていた。
胸元には宮廷騎士の黄金の徽章と過去に得た勲章達。
クラウゼ家の侍女達によって髪も片側をかき上げたアシンメトリーに仕上がっている。
自分の顔の美醜は気にしないが、良く化けた物だと感心する姿にわざわざ俺達の初日の様子を見に来てくれたラビは「普段から身だしなみに気を付けておけば今頃アルホルンでヴォーグに監禁されてたのに」と俺がこんなにもモヤモヤする必要はなかったという。
まぁ、その手も良いかもと思った事はないとは言わないが、それでもヴォーグは俺を置いて行っただろう。
と言うか、何でそんなにアルホルンにこだわるのか問い詰めてやるのも目的の一つだが、そんな事を考えている間にアレクによってホールに連れて来られてしまった。
ホールにはクラウゼ伯とソフィア様を始め、クラウゼ家の使用人が集まっていた。
「ふむ、前回の時とは違いまた一段と立派になったな」
「クラウゼ伯には大変ご厚意を賜り……」
「そう言う堅苦しいのはよい。
何だか娘を嫁にやるような気分になる」
言って笑うも大して変わらないのでは?と言うソフィア様の呟きに使用人達はくすくすと笑いあっていた。
「だがラグナーには大変な任務があるという。
我々には聞かされてないが、あまり無理をするなよ」
「ありがとうございます。俺は無理をするつもりはないのですが……
任務の内容については失敗は許されないし、そんな結果に導きたくないという思いもあります」
「アルホルンにはハイラがいるわ。
もし何かあればすぐにハイラを頼るのよ」
「はい。ハイラからの連絡が一番確かなので、何かあれば頼る事になります。
どうかその折には手を貸してください」
「もちろんよ。
私達の息子達が苦しんでいるのを見守るだけの親にはなるつもりはないですからね」
その結果ハイラをアルホルンに送りつけ、ヴォーグは良き師に出会えたと喜んでいる。
クラウゼ伯の判断の速さは確かに見習う物があると今もあの時の勇気には頭が下がる思いだ。
「では行こうか」
「こうやって行くのもこれからもあるのかな?」
「まぁ、あればあるしなければない。
お前の寝起きに付き合わなくて済むというのはありがたいがな」
「懐かしくなったらいつでも呼べよ?」
「ヴォーグも付いて来そうでまた賑やかになるな」
アレクの何処か寂しそうな、でも楽しげな笑い声を合図にクラウゼ家を後にした。
馬車にはこのあとアルホルンに行く為の荷物があり座席が少し狭く、俺とアレクは肩を寄りそわせて馬車に揺れていた。
大公に挨拶の為に向かい、すぐにこちらに戻ってお披露目の夜会の後に正式に向こうに行く事になるが、荷物は今回の軍行と同じ速さで行く事は出来ない為に後から届く事になっている。
とはいってもその間王都に戻ったりするからその合間に届く手筈になっているのだが、慣例的な行事とは言えまだるっこしいと言わずにはいられない。
「良かったな?」
「まあ、な」
俺がこんな幸せを手に入れるまですべてを見てきたアレクは笑みを零しながらかけてくる体重を俺は押し返す事無くアレクの香りと重みと温もりを忘れないように堪能していた。
21
お気に入りに追加
1,321
あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。


新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。


俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。

悪役令嬢の兄、閨の講義をする。
猫宮乾
BL
ある日前世の記憶がよみがえり、自分が悪役令嬢の兄だと気づいた僕(フェルナ)。断罪してくる王太子にはなるべく近づかないで過ごすと決め、万が一に備えて語学の勉強に励んでいたら、ある日閨の講義を頼まれる。

番だと言われて囲われました。
桜
BL
戦時中のある日、特攻隊として選ばれた私は友人と別れて仲間と共に敵陣へ飛び込んだ。
死を覚悟したその時、光に包み込まれ機体ごと何かに引き寄せられて、異世界に。
そこは魔力持ちも世界であり、私を番いと呼ぶ物に囲われた。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる