うちの隊長は補佐官殿が気になるようですが

雪那 由多

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うちの隊長は二度と帰れない場所をとても眩しく思います

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 迷子の子供の様に途方に暮れて何所を目指せばいいのか判らないルーツの顔に向けて視線を合わせ

「昨日をもってシーヴォラ隊は解散、本日よりクラウゼ隊となり現状のまま再編成される。稼働は十日後その間は引継ぎ期間とする。
 こちらの事務手続きは宮廷騎士の昇格試験の順番の遅さの為に騎士団団長の方で作業は進められており本日中には書類が届く手筈になっている。
 マリン、これからしばらく忙しくなるが隊の方をお前が支えてやってくれ、よろしく頼む」

 言いながらもまだ状況を呑み込めてない一同に

「本日付でクラウゼ隊発足となる。
 クラウゼ隊長を筆頭にレドフォード副隊長を隊の柱としてレーン小隊長、貴方にはずっと小隊長として隊を支える事ばかりで申し訳ないのですがアレクとレドフォードをどうぞ支えてください」

 頭を下げるもレーン小隊長は苦笑して

「お前は何時も問題ばかり持って来る。
 お前の隊に入った時には覚悟していたつもりだったが、まさか二年も経たずにこうなるとはさすがに考えた事も無かったが、お前の付き合いと同様に付き合いのあるクラウゼだ。
 三十だったか?となるとあと五年か……
 爵位を継ぐまでしか隊長にいられないのだろう。
 当然その後の事は考えてるんだろうな?」
 
 騎士団でもこんなにも在籍する隊長が変わるのは珍しいというくらい沢山の隊長の指揮下に入るレーンは諦めた様に笑みを零し

「アレクが退団後はレドを隊長にしようと既に行動と推薦者の確保はしてます。
 そしてルーツを副隊長に出来ればと二人に指示は出しています」
「まぁ、妥当だな」

 いきなりの指名に驚くルーツだが、現場で指揮の出来ないマリンは副隊長は決してなれない。
 そして騎士として歳を重ねすぎたレーンや婚約者の居るランダーやイリスティーナもいつ家に呼び戻されるか判らない以上無責任にも与える事の出来ない地位。

「これからは五年はレドに隊長を引き継がし、その合間にルーツに副隊長を覚えてもらうべく行動となる。
 アレクには既に隊長職がどんなものか判っているからこの一年は副隊長職の引き継ぎがメインになる。
 だがこの隊の目下の問題は圧倒的人員不足。
 団長の方に補充をお願いし、本年度入隊の騎士の研修後補充を約束してくれた」

 その後はしばらくレーンが俺が面倒を見るのかと珍しく項垂れていた背中をイリスが優しく手を添えている姿があった。
 結構いい感じだがなと、言えばそれは間違いですとアレクに真面目な顔で言われるのは目に見えているから言わないが

「今この隊は六隊が稼働している状況となっている。
 だが現状は新しい方針にあわせるとマリンが二隊を率いている状況、そしてルーツも自隊とは別にレーンから引き継いだ春の新人達の育成、レーンも自隊と別に夏の新人の育成の途中。
 ランダーとイリスとレドの隊を合わせて数字上九体が稼働しているが、実質は六隊しか数はない。
 さらに一隊の定数には数が足りてないのはみんなも知っての通り、無茶と無謀が売りのシーヴォラ隊ではなくなるから団長が今年度の新人に募集をかけて二十名ほど既にリストアップしてもらっている」

 机の上にまだ確定ではないが記された名前の横には誰もがこの隊を希望している理由が書いてあった。

「レドフォード喜べ。
 詳しくは記されてないがここに書いてある名前の奴らはお前がアルホルンで助けた者達の家族親戚または友人関係が中心となってこの隊の配属を希望してくれた」

 ランダーによってレドの前に差し出された書類に書かれた名前を一つずつ追う指先は所々覚えがあるのか止まったりしていた。

「正直平民の騎士が減るのは悔しいが、それはお前が落ち着いたら少し拾ってもらえばと俺は願ったりしている」

 やはり立場の弱い平民にも腕と高い志を持つ心があれば隊長になるのは難しくても騎士として名前を轟かせる夢は消さないでほしいと願ってしまう。

「アレクが隊長でいる期間は限定だ。
 レド、この隊にすでにお前が育てた騎士がお前の為に集まって来る。今後お前の騎士が騎士であり続ける限りどこまでも騎士であり続ける事が出来る。
 多少の入れ替わりはあるだろう、だがお前があの時選んだ選択が、その後のお前の行動が導いた縁だ。
 お前が隊を引き継ぐ時はとっくに三十も過ぎているが、新しい制度ではそれでもお前は若い隊長だろう。
 あの時の一振りの勇気がお前を騎士として、こんなにもたくさんの騎士を導いたんだ。
 このまま騎士を隊を引っぱってくれ」
「隊長……俺……」

 あの時ヴォーグがいなければとっくに騎士を廃業していたかもしれない。
 それどころか生きてなかったかもしれない。
 目が覚めていても手にかけた命の数に魘されて真面でいられなかった時に迷い込んだ場所はこの国の守護精霊の隠れ家。
 そこで何があったかは判らない。
 ただ一緒に行動していただけと言って、再会した時には何倍も強く、そして騎士として見違えるようになっていた姿はあの苦難を乗り越えた者だけが手に入れた証。

 ぐすぐすと涙を袖でこするレドフォードの姿があの森の中の姿と重なり思わず笑みが浮かんでしまう。
 たった一年でこんなにも成長したのに、こう言う所は全く変わらないんだとどこか安心してしまった心が俺の気持ちを晴れやかにしてくれる。
 みんな次に俺が口にする言葉を判ってか聞きたくないというように首を横に振ったり勘弁してくれと項垂れたり、それでも誰も席を立たずに最後まで居て聞いてくれた。

「昨日付となってしまったがシーヴォラ隊は解散となり本日付でクラウゼ隊の発足となる。
 至らない点ばかりで迷惑しかかけてこなかったがそれでも今日まで俺に付いて来てくれた感謝は忘れる事は出来ない。
 今まで皆ありがとう」

 宮廷騎士で学んだ美しい敬礼の姿で感謝を述べれば真っ先にレーンが立ち上がり敬礼をするのをきっかけに全員が敬礼の姿勢をとった姿に変わるのは瞬きの間の出来事。
 
 二度と忘れる事の出来ない美しい景色だと泣きじゃくって胸に飛び込んでくる部下を一人一人受け止めていた。





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