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うちの隊長をそっとしておいてください
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件の日を遂に迎える事になった。
この日は隊員には用事で休みと伝えておいてあるが、事情を知るアレクとレドフォードは黙っていてくれた。
いくら宮廷騎士への道のりが用意されているとはいえたぶん俺の一生の大博打だから……
何か何処かでしくじった時隊長を辞めなくてはいけない、それは騎士を辞めると同意語なので幾ら不正が準備されているとはいえ最低限隠しようのない所は自力で乗り切らなくてはいけない。
午前中の実技試験の折りに参加者の顔ぶれを見る事が出来た。
誰も彼もが見知った上級貴族で、俺を見る目は何でお前が?と言った物だ。
そして当然この宮廷騎士の合格条件を知る奴らはなるほど……と、お前も苦労するなとねぎらってくれるのだ。
その後終始行動する事になったのはウィルバー・グランヴィルとアンドリュー・マートランド。
マートランド侯爵家の一人とグランヴィル伯爵家の一人、共に次期当主と言う血統ぶりは当然王家の血筋を受け継いでいた。
「事前に貴方が宮廷騎士にとお召し抱えになるという話は聞いて耳を疑ったが、森の方の騎士だとか?」
「詳しい話は貴方方の方が知っておいででしょう。
取引材料とされましたが、個人的にお目にかかりたいので」
言えばニヤニヤと笑う二人はどんな話と視線で訴えるが、俺は目の前で繰り広げられる実技試験を眺めながら
「いくつか殴り飛ばさないといけない懸案と話し合わないといけない懸案が山のように積もっていて、何度か期会はあったけど全部誤魔化されたのでそろそろ腹を割って話し合おうかと」
「お、おう……それは話し合わないとな?」
「追いかけに行くなら止めないが、追い詰めに行くのは……早まるなよ?」
「大丈夫です。追いつめて追いつめられるようなたまじゃないでしょ、あいつ」
「あー、悪いな。 そこまでの知り合いじゃないんだ」
「何度かお目にかかった事はあるんだが話しなんてさせてもらえなかったからな」
と言うのはマートランド。
「あの方は一種の独特の空気を纏ってるから前団長でさえ声をかけづらいようだからな……」
「俺はそこまで面通しされたことないし、そんなにも気難しい方か?」
グランヴィルは不安そうに俺に問うも
「気難しくはないが、意外にも慎重な奴だからどんな奴か判るまでちょっと時間を必要とするかもしれん」
「人見知りですか?」
「多分人間不信だと思うんだが……」
それについては俺より宮廷騎士になる連中の方が詳しかろうとどう言えばいいのか悩んでいれば
「それでよく結婚できましたね?」
「今思えばかなり力技の強引で問答無用だったが、後にも先にもヴォーグの背後を取れたのはあれ一度きりだったな」
「奇跡の勝利でしたね」
「あれ以降は全敗だがな」
「アルホルンでは勝利だったと聞いたが?」
「あれは、勝利なのか?勝利なんだろうが……
その後の苦情がひどかった。とにかく夢でうなされたとか元団にも言われたな……」
一体何があったんだというも誰もが視線を外して詳しい事は教えてくれない。
どうせそんな事だろうと溜息を零しているうちに俺も剣と魔法の実技の試験の番が来て問題なく終わらせ筆記試験を小一時間ほど。
当然内容は事前に渡された過去問を暗記するほどやらされた為にもんだいない。
最後は面接なのだがそちらに向かう途中にブルフォードが俺達三人の所にやってきた。
「面接の準備は?」
「まあ、なんとか行けるかなとエーンルート侯からのお墨付きを頂いたが……」
「まぁ、宮廷騎士に誰もなれない年もあれば何人もなれる年がある。
どう言った理由からは大概次が理由の大半だ。
心を強く持てよ」
そう言ってブルフォードは俺達の顔をじっくりと眺め
「心折れる言葉を浴びせられるだろう。
だけどそれは全員通った通過儀礼、誰もが同じ悔しさと辱めに会ったと思えば耐える事が出来る。
だがどんな質問にも必ず答える、これが宮廷騎士への絶対条件だ。
では、無事宮廷騎士として再会しよう」
これが俺からできるアドバイスだと訳の分からない言葉を貰った。
不安しかない言葉だった。
何が起きるのかと思うも一人一人よばれ国王を含めた五人の審問者に俺達は心が折れる予感しかなかった。
と言うか折れた。
折れに折れてボキボキになって羞恥と屈辱、そんな言葉さえ風化してしまうほど心が灰になる質問は最初の質問で逆切れして部屋から出てきた奴らは味わうことなくて羨ましかった。
寧ろブルフォードの進言を信じて頭の中は真っ白になりつつも何とか質問に対する答えを吐きだし、気が付けば無事(?)面接を終えて何があったんだと言わんばかりの待合室に戻ったのだった。
一体何なんだよ……
この面接に恋人との性行為の好きな体位とかどこをナニされるのがイイとか、んな事宮廷騎士になるについて必要か?
告白の言葉とか今までどんな奴と寝たとかどんなセクラハなんだよ!
国王てめぇ相手がヴォーグだと知っててどんなプレイをしたとかふざけんな!
あいつは一応ノーマル思考だぞ?!
なんて名誉を守ったつもりだったが気が付けば俺の口からヴォーグの性癖(?)がダダ漏れだった事はその夜になって気付いた事だが……
面接を終えたばかりの俺は大理石造りの壁に向かって皮膚が破けるほど拳を叩き付けるのを一緒に面接を受けた奴らに羽交い絞めにされて落ち着かされる事になってヴォーグの事まで気を回す余裕さえなかった。
俺の後の奴らも面接を終えたあたりでガラス窓を蹴ってわっていたり、扉から出てきた瞬間泣きながら意識を失ったりと、誰もがトラウマを負って宮廷騎士昇格試験は終わった……
逆切れして辞退するのが正解だなんて何て試験なんだとその日はまっすぐ家に帰って泣きながら寝るのだが、おかげで夜目が覚めた時に冷静になった頭でまたパニックに陥り朝まで眠れなく疲れ果てた顔で隊舎に向えば誰もがぎょっとして声さえかけてくれずに遠巻きに見守るだけ。
ああ、それでいいんだよ。
今声をかけられたらまた泣きそうな気がするから声をかけないでね、なんて思ってたらアレクに問答無用で隊舎の俺の執務室へと放り込まれた。
「今日は仕事しなくていいからこの部屋から出るな」
そんな優しさにまた涙があふれる俺にアレクはくどいほど甘い紅茶を淹れて俺に差し出した。
「とりあえず寝てろ」
対処しようもない俺の薬はただ心をいやす時間だけだった……
この日は隊員には用事で休みと伝えておいてあるが、事情を知るアレクとレドフォードは黙っていてくれた。
いくら宮廷騎士への道のりが用意されているとはいえたぶん俺の一生の大博打だから……
何か何処かでしくじった時隊長を辞めなくてはいけない、それは騎士を辞めると同意語なので幾ら不正が準備されているとはいえ最低限隠しようのない所は自力で乗り切らなくてはいけない。
午前中の実技試験の折りに参加者の顔ぶれを見る事が出来た。
誰も彼もが見知った上級貴族で、俺を見る目は何でお前が?と言った物だ。
そして当然この宮廷騎士の合格条件を知る奴らはなるほど……と、お前も苦労するなとねぎらってくれるのだ。
その後終始行動する事になったのはウィルバー・グランヴィルとアンドリュー・マートランド。
マートランド侯爵家の一人とグランヴィル伯爵家の一人、共に次期当主と言う血統ぶりは当然王家の血筋を受け継いでいた。
「事前に貴方が宮廷騎士にとお召し抱えになるという話は聞いて耳を疑ったが、森の方の騎士だとか?」
「詳しい話は貴方方の方が知っておいででしょう。
取引材料とされましたが、個人的にお目にかかりたいので」
言えばニヤニヤと笑う二人はどんな話と視線で訴えるが、俺は目の前で繰り広げられる実技試験を眺めながら
「いくつか殴り飛ばさないといけない懸案と話し合わないといけない懸案が山のように積もっていて、何度か期会はあったけど全部誤魔化されたのでそろそろ腹を割って話し合おうかと」
「お、おう……それは話し合わないとな?」
「追いかけに行くなら止めないが、追い詰めに行くのは……早まるなよ?」
「大丈夫です。追いつめて追いつめられるようなたまじゃないでしょ、あいつ」
「あー、悪いな。 そこまでの知り合いじゃないんだ」
「何度かお目にかかった事はあるんだが話しなんてさせてもらえなかったからな」
と言うのはマートランド。
「あの方は一種の独特の空気を纏ってるから前団長でさえ声をかけづらいようだからな……」
「俺はそこまで面通しされたことないし、そんなにも気難しい方か?」
グランヴィルは不安そうに俺に問うも
「気難しくはないが、意外にも慎重な奴だからどんな奴か判るまでちょっと時間を必要とするかもしれん」
「人見知りですか?」
「多分人間不信だと思うんだが……」
それについては俺より宮廷騎士になる連中の方が詳しかろうとどう言えばいいのか悩んでいれば
「それでよく結婚できましたね?」
「今思えばかなり力技の強引で問答無用だったが、後にも先にもヴォーグの背後を取れたのはあれ一度きりだったな」
「奇跡の勝利でしたね」
「あれ以降は全敗だがな」
「アルホルンでは勝利だったと聞いたが?」
「あれは、勝利なのか?勝利なんだろうが……
その後の苦情がひどかった。とにかく夢でうなされたとか元団にも言われたな……」
一体何があったんだというも誰もが視線を外して詳しい事は教えてくれない。
どうせそんな事だろうと溜息を零しているうちに俺も剣と魔法の実技の試験の番が来て問題なく終わらせ筆記試験を小一時間ほど。
当然内容は事前に渡された過去問を暗記するほどやらされた為にもんだいない。
最後は面接なのだがそちらに向かう途中にブルフォードが俺達三人の所にやってきた。
「面接の準備は?」
「まあ、なんとか行けるかなとエーンルート侯からのお墨付きを頂いたが……」
「まぁ、宮廷騎士に誰もなれない年もあれば何人もなれる年がある。
どう言った理由からは大概次が理由の大半だ。
心を強く持てよ」
そう言ってブルフォードは俺達の顔をじっくりと眺め
「心折れる言葉を浴びせられるだろう。
だけどそれは全員通った通過儀礼、誰もが同じ悔しさと辱めに会ったと思えば耐える事が出来る。
だがどんな質問にも必ず答える、これが宮廷騎士への絶対条件だ。
では、無事宮廷騎士として再会しよう」
これが俺からできるアドバイスだと訳の分からない言葉を貰った。
不安しかない言葉だった。
何が起きるのかと思うも一人一人よばれ国王を含めた五人の審問者に俺達は心が折れる予感しかなかった。
と言うか折れた。
折れに折れてボキボキになって羞恥と屈辱、そんな言葉さえ風化してしまうほど心が灰になる質問は最初の質問で逆切れして部屋から出てきた奴らは味わうことなくて羨ましかった。
寧ろブルフォードの進言を信じて頭の中は真っ白になりつつも何とか質問に対する答えを吐きだし、気が付けば無事(?)面接を終えて何があったんだと言わんばかりの待合室に戻ったのだった。
一体何なんだよ……
この面接に恋人との性行為の好きな体位とかどこをナニされるのがイイとか、んな事宮廷騎士になるについて必要か?
告白の言葉とか今までどんな奴と寝たとかどんなセクラハなんだよ!
国王てめぇ相手がヴォーグだと知っててどんなプレイをしたとかふざけんな!
あいつは一応ノーマル思考だぞ?!
なんて名誉を守ったつもりだったが気が付けば俺の口からヴォーグの性癖(?)がダダ漏れだった事はその夜になって気付いた事だが……
面接を終えたばかりの俺は大理石造りの壁に向かって皮膚が破けるほど拳を叩き付けるのを一緒に面接を受けた奴らに羽交い絞めにされて落ち着かされる事になってヴォーグの事まで気を回す余裕さえなかった。
俺の後の奴らも面接を終えたあたりでガラス窓を蹴ってわっていたり、扉から出てきた瞬間泣きながら意識を失ったりと、誰もがトラウマを負って宮廷騎士昇格試験は終わった……
逆切れして辞退するのが正解だなんて何て試験なんだとその日はまっすぐ家に帰って泣きながら寝るのだが、おかげで夜目が覚めた時に冷静になった頭でまたパニックに陥り朝まで眠れなく疲れ果てた顔で隊舎に向えば誰もがぎょっとして声さえかけてくれずに遠巻きに見守るだけ。
ああ、それでいいんだよ。
今声をかけられたらまた泣きそうな気がするから声をかけないでね、なんて思ってたらアレクに問答無用で隊舎の俺の執務室へと放り込まれた。
「今日は仕事しなくていいからこの部屋から出るな」
そんな優しさにまた涙があふれる俺にアレクはくどいほど甘い紅茶を淹れて俺に差し出した。
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