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うちの隊長は腹ペコの子供の対応に保育係を召喚します

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 あまり人の顔に美醜は気にした事ない。
 俺が言うと周りの奴らは大概腹を立てるが、生憎この顔とは物心ついたころから見慣れたモノで自分の顔など涎の跡や無精さえなければ問題ないと思っている程度だ。
 だけど美しいと言う人は確かにこの世界には存在していて、目の前の人物もその部類だと俺は思っている。
 だが、美しいという顔立ちはアレクで見慣れて満腹なので眼福程度で収まっている。
 たとえアレクと系統が違ってもだ。
 だけどそんな顔がまぬけにもポカンと口を半開きに俺を無言で眺める様子になんだと首を傾げれば

「てっきり別れろとおっしゃいに来たのかと思いまして」
「そのつもりならヴォーグに一言言えば済む事だ。
 俺はただこいつらに連れてこられたというか、まぁ、話が出来て良かったと思っている」

 言いながら席を立ち

「この二人には家同士の問題に俺がとやかく口を出せない事が判れば納得しただろうし、この話を聞いてどうこうするような奴なら俺の方からこいつらを何とかするさ」

 ギロリと睨めば冷や汗を流すレドが

「たいちょー、ちなみにどんな事を?」
「そりゃ山の中にひと月ほどサバイバル訓練だ。
 荷物は剣一本のみで行かせてやる」
「ひでぇー!!!」

 涙ながらの抗議は無視して

「アレクには隊舎の書類整理が終わるまで家に帰れないと言うのもいいな」
「やめてください。
 あのヴォーグですら泣き出した仕事をさせるなんて職権乱用も大概にしてください!」
 
 逃げ出そうとするアレクとレドに笑うも店主達の顔も盛大に引き攣っていて

「さすがシーヴォラ隊、噂以上の過酷さだ」
「ああ、知り合いのギルドの奴らもシーヴォラ隊はおかしいとか言ってたが、確かに普通じゃないな」

 店主の背後にいる男達の囁きは当然俺にも聞こえるが、まぁ、良く言われる事だから今更気になんてしない。

「さて、忙しい時間なのに随分と遅くまでお時間を頂いてしまい申し訳ありません。
 有意義な時間を頂きありがとうございました」
 
 丁寧に感謝をすれば店主も立ち上がり想像するような修羅場にはならなかったおかげもあってほっとした笑みを浮かべ

「こちらこそ足を運んでいただきありがとうございます。
 私のような日陰の者に声をかけて戴いた揚句御心を砕いていただきありがとうございます」
 
 大店の店主らしくそれは美しい感謝の礼にほんとに話しあえて良かったと胸をなでおろせば

 ちゃりりりぃぃぃぃ……

 涼やかなチャイムの音が店内に響いた。
 店主はとっさに背後の男達に視線を向けて何故この時間に客が店に入ってくると目配せしてる合間に

「マリー居る?リオネルでもいいから何か食べさせて……」

 耳に親しんだ人の良さそうな穏やかな声が飛び込んできた。
 思わず全員で顔を見合わせる。
 何故かこの様子を見られてはいけない、そんな判断は全員一致なようでどうやって部屋を出ようかとするも真っ先に目についたのは窓だった。

「旦那様にこの場を見られるわけにはいきません!」

 見知らぬ所で会っていたと知られたらどんなへその曲げ方をするのだろうかと店主は顔を青くするも

「ヴォーグの事旦那様って言うんだ」

 へーと感心するレドフォードにここで天然発動かとこの間の悪い男に殴りたい衝動になるも

「珍しいね、こんな時間まで店を開けているなんて、ってお客様でも……
 じゃないね……」

 部屋のドアを開けて入って来てしまった人物と窓から逃げよう、逃げさせようとする全員が対面して全員が固まってしまった。
 それはヴォーグも同様なようで異様に汗をかきだした様子は何で俺達が店主と一緒のテーブルについていたのだろうかと言う所だろうか。
 だから

「とりあえず話し合う必要があって、少なからず友情が芽生えそうな気もしないでもない複雑な所なんだ」
「複雑なんだ……」
「ああ、今後店に入れてもらえるかどうか。
 辛うじて買い物はできる程度に仲はいいと思っている……」
「お得意様のラグナーをそんな理由で買いものさせないって言うふざけた従業員は要らない。すぐにクビを切るよ」
「じゃないだろ。
 って言うか、お前疲れてるのか?」
 
 何故か全員が見守る中恥も外聞も無く俺に抱き着いて胸元に頭をこすり付ける甘える様な仕種は眠たい時の癖だ。
 体重もかけてきてそのままソファに押しつぶされた。
 視界の端では店長が少しだけ寂しそうな顔をしている。

「うん。疲れてる。
 ちょっと知人が隣国に来てるから会いに隣国まで行って来たんだ。
 今日ぐらいしか時間が取れなかったから無理して行っただけあって今日中に帰って来れたらラグナーに会えた。
 無理してでも今日中に帰って来れて良かった」
「レド、お前なら最速で隣国までどれだけで行ける?」
「場所次第ですがどれも隣国の人がいる街までですと出発の時間次第で三日から五日は必要かと」
「お前はどんな手品を使ったんだ?」

 呆れるアレクにヴォーグは俺をぎゅうぎゅう抱きしめながら

「魔力を枯渇寸前まで使えば何とか」
「……」
「……」
「……」

 全員が言葉を失ったが俺達はその危険な言葉にそれこそ顔色を悪くさせて

「とりあえずお前何か腹に詰めろ!
 この間みたいに何日も寝る事になるぞ?!」

 初めて聞くのか驚きに目を見開く店主たちはどうすればと、とりあえずテーブルに残っていた冷えた茶を飲ませる。
 クッキーを全部食べてしまったのがここにきて痛い失敗だ。
 いや、あったとしてもそれだけで足りるだろうか。

「店長、なんか食べれる物をヴォーグに食べさせてください」
「判りました。マリー、食堂に何かあったよね?」
「はい、従業員の夜食ですがあります」
「夜食は後から何とかしてすぐに食事を!シーヴォラ隊長他は?!」
「ええと、団長がいれば詳しく対処ができるはず……
 レド、城まで走れ!」
「はい!」
「お待ちください。アヴェリオ殿なら二階にいます!」
「何で?!」
「魔法の勉強中でと言うか、誰かアヴェリオ殿に連絡を!」
「フレッドの顔見るよりラグナーの顔を見てたい」

 俺の顔を両手でつかんで半分寝ぼけ眼になりつつあるヴォーグに起きろと言いながら食堂から持って来たスープやパンを机の上に置いてヴォーグの口に突っ込む。

「とりあえず食べろ!
 ヴォーグと話が出来るって楽しみだな?!
 だから食べろ!」

 何日も寝返り一つしないで眠りに就く姿を見て来て、このまま目を覚まさなかったらどうしようと思っていた日を思い出してちぎったパンを口の中に突っ込んでレードルのままスープを飲ませていた。
 お皿とスプーンを持って来た店長もびっくりな光景だったが、それでも二階から駆け足で降りてくる足音に救いを見出してほっとするも、室内に入った所でこの修羅場感満載の顔ぶれに彼の足は逃げ出したそうに下がっていった。













 
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