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うちの隊長は開き直ったようです
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連行されるようにウィングフィールドの店の前で馬車から降ろされた俺は今も両脇をがっつりと捕まえられていた。
店の前ではいかにも今から店を閉めますと言わんばかりの従業員が今から買い物ですかと言うように気を使ってか俺達をきょろきょろ見ている。
そりゃそうだ。
騎士の隊服を着た男が三人店の前で入る入らないと大騒ぎをしているのだ。
諦め悪く逃げようとする俺に両脇をがっつりと捕獲する二人に引きずられるように無情にも店の中に入る事になった。
騎士団隊長が涙を流しながら喚くと言う情けない姿だが、客も引いて静かな室内は昼の合間には見る事の出来ない光景が広がっていた。
色とりどりな色彩の世界の中は一階には食品が並べられ、中央の吹き抜けをぐるりと囲む様に服や小物や本などと言った雑貨が所狭しと並べられていた。
そして奥の個室には宝飾品も取り扱っており、立ち寄った際にはよくそちらでペンやインクを買わせてもらっていた。
そこまで高級品を扱ってないとアレクは言うが、今を持っても奥の宝飾品のコーナーは値段にびっくりしてしまう物が多く、カフスなど何かいいのはないかなと覗きに行くがやんわりとアレクに毎度妨害される理由は爵位を持つ者が庶民と同じものを持つなと言う事が理由だ。
ちなみにアレクに連れて行かれる店はどれも商品に値札が付いていない。
確かに物は素晴らしいが怖くて買い物ができないのが俺の貧乏性な所。
つまりこの区画は庶民が少し背伸びをして買う場所なのだと言うが、店の中に入って解放された俺はアレク達が従業員達の何やら話している合間に宝飾コーナーへと足を運んでいた。
決して立て篭もろうとしてるわけではない。
店には贅沢なばかりにモノがあふれていて俺には少し眩しい光景なのだ。
かつて欲しくても手が出せなかったものがすぐ側に溢れていて、今でこそ好きなだけとは言わないが欲しい物は手入れれる事が出来、正直買い物に来るたびにあれが欲しいこれが欲しいと欲求を抑える方が難しくなっている。
故に何も買わない、もしくは三つまでと決めているのだが……当然オーバーしている。
誘惑に負けないようにと言ってあまり縁のない宝飾コーナーに足を踏み入れれば、やはり敵はいた。
「ああ、このナイフいいなぁ……」
宝飾品の中にはちょっとした装飾用の武器も飾られていたりする。
実用には向かない物だがペーパーナイフぐらいにはちょうどいいだろう。
ヴォーグから手紙を貰うようになって気を使って封を開ける機会も増えた。ちょうどいい機会だと思いながらケースの中を眺める。
とはいっても決してペーパーナイフでもないのだが、薄い刃と長方形にカッティングされた赤い石が持ち手に埋め込まれ、唐草模様の金の細工が絡まっている。
もう一つは同じように緑色から青色に変化する石が幾何学模様の中に閉じ込められていたが
「どっちかと言うとこっちの方が好みだな」
結局選んだのはそのどちらでもない赤い小さな石が一列に三つ並んだだけの極めてシンプルな物だった。
びっくりするほどの値段が付いていて、でも買えないほどではないなと空間から金貨を取り出しながらただその気持ちいい位の赤い色をケース越しに眺めていた。
「隊長……
なに普通に買い物をしようとしてるんですか……」
「ん?いや、なんか綺麗なナイフだろ?
ペーパーナイフとして使おうかと思ってな」
「でしたらお包みしましょう。
マリー、お願いするよ」
ふいに混ざった声に顔を上げれば緩やかな服を纏う優しげな顔立ちの男が立っていた。
長い髪を前に垂らし、白銀の髪飾りは石もさることながら見事な透かし細工が施されていた。
美しい装飾に負けないその姿を見て俺は思わず宙をぐるりと見回して
「すみません。こちらで支払いをしても?」
「はい。この部屋の物はこちらでお会計をして頂いてますので」
この部屋の物は初めてではないが、他にもいろいろ抱えて買うので気にした事はなかったが、そうなのかと相槌を打っていれば苦笑する店長の背後には頭が痛そうな副隊長と小隊長が壁と仲良くしていた。
「あとそろそろ茶葉の追加はいかがでしょう?
そろそろ無くなる頃ではないでしょうか?」
丁寧に包んでくれるマリーと呼んだ従業員も訳知りなようでこちらをちらちらと見る視線も気になるが
「アールグレイとそうだな。
ディンブラかニルギリがあれば。ウバも良いがそちらはまだあるから今日のお勧めは?」
「でしたらニルギリが良いでしょう。
今はシーズンなのでアールグレイのような香り高い物もございます」
「ならそちらを一缶ずつ」
「ありがとうございま……」
「後、氷砂糖のブランデー漬けはまだあるかな?」
「はい。一瓶でよろしいでしょうか?ご用意いたします」
「ありがとう」
俺達の会話に他の店員がいそいそと集めてた物を並べたのを見て思わず笑顔になってしまう俺に店の人達も何しに来たんだと言うようにいつの間にか警戒を解いていたが
「たいちょー、買い物も良いですが何しに来たかちゃんとわかってるんですかー?」
レドフォードの言葉に店員たちの表情が硬くなる物の
「それはお前達がしたかったんだろ」
さりげなく本来の目的を伝えるように言えば向こうも視線が走って何やら裏の方がバタバタしていた。
「ですが、早速足を運んでいただけたので少しお時間を頂ければと思います」
優美と言う美しさが似合う店主は何やら髪飾りに触れながら震える声で勇気を振り絞るかのように俺達を奥の部屋へと案内してくれた。
店の前ではいかにも今から店を閉めますと言わんばかりの従業員が今から買い物ですかと言うように気を使ってか俺達をきょろきょろ見ている。
そりゃそうだ。
騎士の隊服を着た男が三人店の前で入る入らないと大騒ぎをしているのだ。
諦め悪く逃げようとする俺に両脇をがっつりと捕獲する二人に引きずられるように無情にも店の中に入る事になった。
騎士団隊長が涙を流しながら喚くと言う情けない姿だが、客も引いて静かな室内は昼の合間には見る事の出来ない光景が広がっていた。
色とりどりな色彩の世界の中は一階には食品が並べられ、中央の吹き抜けをぐるりと囲む様に服や小物や本などと言った雑貨が所狭しと並べられていた。
そして奥の個室には宝飾品も取り扱っており、立ち寄った際にはよくそちらでペンやインクを買わせてもらっていた。
そこまで高級品を扱ってないとアレクは言うが、今を持っても奥の宝飾品のコーナーは値段にびっくりしてしまう物が多く、カフスなど何かいいのはないかなと覗きに行くがやんわりとアレクに毎度妨害される理由は爵位を持つ者が庶民と同じものを持つなと言う事が理由だ。
ちなみにアレクに連れて行かれる店はどれも商品に値札が付いていない。
確かに物は素晴らしいが怖くて買い物ができないのが俺の貧乏性な所。
つまりこの区画は庶民が少し背伸びをして買う場所なのだと言うが、店の中に入って解放された俺はアレク達が従業員達の何やら話している合間に宝飾コーナーへと足を運んでいた。
決して立て篭もろうとしてるわけではない。
店には贅沢なばかりにモノがあふれていて俺には少し眩しい光景なのだ。
かつて欲しくても手が出せなかったものがすぐ側に溢れていて、今でこそ好きなだけとは言わないが欲しい物は手入れれる事が出来、正直買い物に来るたびにあれが欲しいこれが欲しいと欲求を抑える方が難しくなっている。
故に何も買わない、もしくは三つまでと決めているのだが……当然オーバーしている。
誘惑に負けないようにと言ってあまり縁のない宝飾コーナーに足を踏み入れれば、やはり敵はいた。
「ああ、このナイフいいなぁ……」
宝飾品の中にはちょっとした装飾用の武器も飾られていたりする。
実用には向かない物だがペーパーナイフぐらいにはちょうどいいだろう。
ヴォーグから手紙を貰うようになって気を使って封を開ける機会も増えた。ちょうどいい機会だと思いながらケースの中を眺める。
とはいっても決してペーパーナイフでもないのだが、薄い刃と長方形にカッティングされた赤い石が持ち手に埋め込まれ、唐草模様の金の細工が絡まっている。
もう一つは同じように緑色から青色に変化する石が幾何学模様の中に閉じ込められていたが
「どっちかと言うとこっちの方が好みだな」
結局選んだのはそのどちらでもない赤い小さな石が一列に三つ並んだだけの極めてシンプルな物だった。
びっくりするほどの値段が付いていて、でも買えないほどではないなと空間から金貨を取り出しながらただその気持ちいい位の赤い色をケース越しに眺めていた。
「隊長……
なに普通に買い物をしようとしてるんですか……」
「ん?いや、なんか綺麗なナイフだろ?
ペーパーナイフとして使おうかと思ってな」
「でしたらお包みしましょう。
マリー、お願いするよ」
ふいに混ざった声に顔を上げれば緩やかな服を纏う優しげな顔立ちの男が立っていた。
長い髪を前に垂らし、白銀の髪飾りは石もさることながら見事な透かし細工が施されていた。
美しい装飾に負けないその姿を見て俺は思わず宙をぐるりと見回して
「すみません。こちらで支払いをしても?」
「はい。この部屋の物はこちらでお会計をして頂いてますので」
この部屋の物は初めてではないが、他にもいろいろ抱えて買うので気にした事はなかったが、そうなのかと相槌を打っていれば苦笑する店長の背後には頭が痛そうな副隊長と小隊長が壁と仲良くしていた。
「あとそろそろ茶葉の追加はいかがでしょう?
そろそろ無くなる頃ではないでしょうか?」
丁寧に包んでくれるマリーと呼んだ従業員も訳知りなようでこちらをちらちらと見る視線も気になるが
「アールグレイとそうだな。
ディンブラかニルギリがあれば。ウバも良いがそちらはまだあるから今日のお勧めは?」
「でしたらニルギリが良いでしょう。
今はシーズンなのでアールグレイのような香り高い物もございます」
「ならそちらを一缶ずつ」
「ありがとうございま……」
「後、氷砂糖のブランデー漬けはまだあるかな?」
「はい。一瓶でよろしいでしょうか?ご用意いたします」
「ありがとう」
俺達の会話に他の店員がいそいそと集めてた物を並べたのを見て思わず笑顔になってしまう俺に店の人達も何しに来たんだと言うようにいつの間にか警戒を解いていたが
「たいちょー、買い物も良いですが何しに来たかちゃんとわかってるんですかー?」
レドフォードの言葉に店員たちの表情が硬くなる物の
「それはお前達がしたかったんだろ」
さりげなく本来の目的を伝えるように言えば向こうも視線が走って何やら裏の方がバタバタしていた。
「ですが、早速足を運んでいただけたので少しお時間を頂ければと思います」
優美と言う美しさが似合う店主は何やら髪飾りに触れながら震える声で勇気を振り絞るかのように俺達を奥の部屋へと案内してくれた。
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