うちの隊長は補佐官殿が気になるようですが

雪那 由多

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うちの隊長がこの光景を見たのなら悪い顔をして相談してるなぁと飽きれる事でしょう

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 ヴォーグは三日ほどをウィングフィールドで過ごしていた。
 とは言えクラウゼ家にもう一度訪問したり、エーンルート侯の屋敷に行ったり、そこで前ブルフォード侯も一緒に顔を合わせたりして件の情報を聞いていた。
 既に国王に話をしたのだ。
 この二人にも話はちゃんと回っていて、それについてまとめた物を受け取ってざっと読んで机に突っ伏すのだった。

「我々もこうやって書類を読ませてもらったが、想像以上だったな……」

 書かれていた書類にはダルカイス商会以外の金貸し業の名前が呆れるほど綴られていた。

「この国の金貸し業の名前がほぼ綴られている。
 これはもうグルと言うか、向こうと癒着しているのだろうな」

 宰相のエーンルートは体調が悪いのもかかわらず城で仕事をするように金貸し業のなかから法に触れるか触れないかギリギリの行いをして居る者達の名前をリストアップしていた。

「そして許し難い事に銀行すらその行いを真似している。
 クラウゼ家の印章の不正に手を貸した行ですらまた真似を……」
「ここはヴェナブルズも利用しているから早々に手を引かれた方がよろしいでしょう」
「だな。
 この後ヴェナブルズに行くからついでにワイズにも命じよう」
「メインバンクでないのが幸いですね」
「ああ、一度全部洗うべきか?」

 数年前に祖母が亡くなった時に洗い直したが、その時どれだけ手間がかかったか頭の痛い話だったが……

「最近イザムバード殿も何やらあまり素行のよろしくない者達と付き合っている様子。
 そちらも早々にどうにかした方がよろしいかと」
「ああ、あれは領地に封じる事にしたよ。
 ヴェナブルズの財産を勝手に売り払おうとした。
 幸いあいつが売り払おうとした先がウチの商家だというお粗末。
 情けなくて既に離れに閉じ込めてる。
 父は仕事もあるからと父の実家のタウンハウスに住まわせてもらうという兄夫婦の監視下で肩身の狭い思いをしてもらっていて、母にはすでに旅行にと言って別荘に滞在させている」
「お二人ともなぜああなってしまったのか……」

 子煩悩な祖父母と母。
 父も他人には厳しく俺達兄弟には甘い、そして強烈な祖父母の前では存在感のない性格。
 長男は今では家に全く寄り付かない精霊の血を濃く受け継ぐバックストロムの剣、弟は父と母の血を濃く残す面立ち。

「まぁ、普通の家庭とは程遠いからなぁ……」

 俺の一言に誰もが笑えもせずに否定できないまま唸るも

「そしてルードヴォーグはこの一件はどうするおつもりで?」
「そんなの見守るだけさ。
 力になりたいとは思っているも、それは俺の役目ではない。
 ただ、あの金貸しは俺は嫌いだ。
 陛下にも伝えたが、我らが国の民を他国に売る行為は我が子を売るに等しい行為。
 金貸しを守る法を何を勘違いしたか聞きたくもないが、あいつらを増長させる為の物ではない」
「見せしめが必要と?」
「いや、ただ……」

 何と言えばいいのだろうかと思う。
 見せしめをしても決して売られて行った者達、残されて行った者達はどんな結果になっても納得しないだろう。
 だけどそれは当人達の留まらない悲しみであって、それを考慮して罪を決めてはいけない。
 裁くのは犯した罪に対してであって、感情でする物ではない。

「まぁ、せいぜいどこかの国に追放が良い所だろう。
 ただし、自由は与える事は出来ない。
 彼らが売り払った人達が辿った結末に沿うようにいかに自分達の非道を顧みる事が出来なくてはいけないから。
 そしてそれを見て歯止めとなる様事を願うね」

 その程度で良いのかと言うエーンルートの視線に

「あとは法の範囲の出来事だ、俺の仕事ではない。
 俺はラグナーに飛び火しなければ問題ないよ。
 けど覚えておけ、もし巻き込まれるような事があれば俺は自分を抑える事は出来ない。
 そこだけを理解してくれればこれはお前達の仕事だ。俺が口出しする事でもない」
 
 エーンルートは満足げに頷き

「ルードヴォーグが王位を強請らなかった事は実に残念。
 エリオット殿下もこの一件早くお気づきになられて行動して頂ければと思いますが」
「あれはまだ外交担当だからな。
 だからこそ国外からこの国を見てほしいのに」
「うすうすは気付いておいででしょう。
 ですが、どうしてそうなってるのかはまだお気づきではないかと」
「そんな所でしょう。
 さて、ルードヴォーグ様。
 話は変わりますが、この数日巷に我ら貴族と言えどもおいそれと手に入れる事の出来ない品質の良い魔石が素晴らしい術式を宿して出回っているという話、お聞きになった事はありませんか?」

 前ブルフォード侯の笑顔なのに視線が全然笑ってない様子につー……と汗が一筋。

「うん。最近流行ってるね?ウィングフィールド辺りで……」
「挑発してるのですか?」
「まさか!
 フレッドの魔法の勉強の副産物だよ」
「そう言う事にしておきましょう」
 
 白い目を向けるエーンルートの瞳はただの白内障が理由だと思っておこう。

「だが、一体何で喧嘩を売る様な真似を」

 呆れるブルフォードに俺は何てことないどこにでも転がっている小石を二人に見せた。

「その石が一体何なんだ?」

 嫌な予感をしてか眉間を寄せるブルフォードに

「この石にちょっと魔力を注ぐ」

 淡い輝きの色を纏い、変哲のない石が魔力を宿して表面に透明な衣をまとった。

「魔力と言うのはね、こうやって上手く定着させる事が出来るとぱっと見魔石のような質感に変わるんだ」
「なんと?!」
「それじゃあ?!」

 さすが年の功と言った所か。
 リオネルは気づかなかったみたいだが石を渡せば転がした指先はその質感までもが誤魔化せない。
 この仕組みを知っている知識も必要だが、手を出すなと言ったにもかかわらず手を出した罰はこれからも失敗を重ねて学んでもらうつもりだ。

「これがダルカイス商会の魔石の秘密さ。
 魔力を定着させる、そのスキル自体はそこそこの実力を供わないとできない。
 これだけの数を騙してきた腕は大したもんだ」

 先日取り上げた石ころに二人の目が見開いたまま言葉をなくしていた。
 先ほど魔力を込めた小石が纏う魔力を宙に霧散させてただの変哲のない石にもどしてその石の山に放り込む。

「さあ、このからくりに気づいた時この国はどんな対応をするか。
 そして本物の魔石と本物の腕の価値はどうなるかだ」

 最も一晩でマスターできる程度の術だから値段は上がる価値もないがなと言っていくつかの魔石を二人に土産として持たせて屋敷を去るのだった。








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