上 下
139 / 308

うちの隊長の手紙が暫く忘れられていたとは決して言葉に出して言えない秘密です

しおりを挟む
 ハイラに黙って出てきたのは心苦しかったがフレッドに黙って出てきた事に関しては何とも思ってなかった。
 だけどどうしてもすぐに帰らない理由があって、アルホルンに来てからこればかりが俺の慰めで、最近ではほぼ毎回届く物に心が躍っててシルビオの話しなんてどうでもいいわけじゃないが些細な事だと思いつつも最後に聞かされた言葉にモヤモヤが広がる中、早くラグナーの手紙で癒されたいけど最後のモヤモヤが意外にも俺の中で苛立ちに変わっていたりの状態でアルホルンに戻れば謁見の間には五日ぶりのブルフォードが居た。
 王都より一足早く秋の気配が濃厚なアルホルンに涼しい顔をしているが、タオルを頭に巻いたまま袖を肩まで捲り上げる俺の姿に眉をひそめるのはブルフォードだけでは無くフレッドも顔に表していた。
 ただハイラだけが

「頭に葉っぱが付いておいでです」

 言いながら既に乾いている草の汁を吸ったタオルを取られて俺は魔法で身体の汚れを落とすもシルビオとの話が頭の中をぐるぐると駆け廻っていれば

「難しい顔をしてるが何かあったのか?」

 気遣い気にブルフォードは声を掛けながら

「預かっていたシーヴォラの手紙と新聞だ」

 何時もなら真っ先に広げるラグナーの手紙を収納空間に片づけて黙ったまま幾つもの新聞を広げてすべてに目を通す。
 まだ癒されるタイミングではないとばさばさと立ったまま手荒にページを捲る俺に誰もが気遣って沈黙を守る中一通り読み終えて

「ブルフォード、王都まで送ってやるからアルホルンにいる奴らを一度王都に戻るように今すぐ連絡に行け。 
 アルホルンをいったん閉めるからフレッドもハイラも王都に戻るぞ」
「一体何が……」
「承りました」

 フレッドが何か聞きたそうな言葉を遮る様にハイラが承諾をすれば、執事が主に質問するのはいけないと言うように言葉が鋭かったが

「ですが突然のとこ。
 何か心配がおありならお話を聞かせていただけないでしょうか」

 質問があればこういう風に聞くのだという見本を見せればフレッドは頭を下げて壁まで下がり、茶の準備を始めた。

「少し気に入らない事があった、で納得はしてくれないよな?」
「申し訳ございません。
 このような老体には大概の事は受け入れる許容があるのでどのあたりまで気に入れるのか教えていただければ幸いです」

 マイナスではなくプラスの言葉に言い換えるハイラにヴォーグは勝てないなと新聞を幾つか開いて誰もがとある人物が大きな店を吸収した記事が良く見えるように置き、フレッドの淹れた茶でのどを潤しながら

「ダルカイス商会のラザル・ダルカイス。
 聞いた事はあるか?」
「ええ、ここ数年先代より店を任されて業績が伸びていると聞いております」
「ああ、俺は知り合いの貴族の家に出入りしているのを見た事があるが……」

 全員で記事を見ながらの質問にブルフォードのどこか歯切れの悪い言葉にフレッドがそれが何だというも、ハイラは困ったですねと言う顔で頷いていた。

「この商会はどうやら金も貸しているらしい」
「売るのは商品だけでなく金もか」
「聞いた話ではラザル・ダルカイスの祖父の代からやっているらしいが随分とどんぶり勘定な金貸しだと聞いた」
「ええ、たしか聞いた話ではシャトー・ブロムクヴィストでも……と噂を聞いてますが?」
「話が早い。
 あのブロムクヴィストがギルドにまで金を借りる事になった原因でもあった。
 ブロムクヴィスト曰く先代のダルカイス商会が金を貸すのは投資の一つだと言っていた。
 採算が取れなくてもそれでいずれよくなってゆくゆくはダルカイス商会に戻ってこればいいと言って金を貸していたという。
 シャトー・ブロムクヴィストが卸していたワインの卸先で、ラザル・ダルカイスはワインでなく金貨で要求したんだろうな。
 金貨以上の価値をワインに見出せないとは嘆かわしいと思っていたが……」
「で、その金貸しがどうしたんだ?」

 この話に纏わる話を聞こうとしないブルフォードに肩をすくめて

「どうやら借金の支払いが出来なければ他国に奴隷として売り払っているらしい」
「そんな馬鹿な事を!」
「我が国の法では許されてない!」

 騎士の血が騒ぐのかフレッドも思わずと言うようにブルフォード同様に感情的に吼えるが

「ですが、他国に連れて行く分には問題がなく、他国で売るにも問題がありませんな」

 法の穴を潜り抜けると言うか有って無い法は意味をなしてなく、やりたい放題というのは前々から問題になっていたとは聞いていたが……

「ハイラ、クラウゼ家なら副隊長が隊員の家の調査をしたと思うんだが?」
「申し訳ありません。クラウゼ家の事は口外しない約束なので」

 何でここにクラウゼ家と言う名前が出て来るんだと誰もが緊張を顔に浮かべるが

「クラウゼ家の事じゃない。
 ノラス小隊長の家の事を教えてほしい」

 ハイラもどこか意表を突かれたという顔をするが

「どうやら三か月後に他国に売られることが決まっている話しを小耳に挟んだ」
「他国に売られるって、あいつ何をやったんだ?!」

 シーヴォラ隊の隊舎に入り浸ってるらしいブルフォードが机越しに睨みつけてきた。
 昔は平民の癖にと言っていたのに随分と仲良くなったなと感心をしながら

「どうやら親の借金の連帯人に妹共々させられたらしい。
 話を聞く限り本人の署名ではなく親が勝手に署名したという……
 証明は難しいな」
「そんな馬鹿な事が……」
「フレッド、どうやら向こうの欲しい物はこれから開花する可愛らしい妹とバックストロム国の小隊長の地位までのし上がった男だ。
 おまけに立地の良い家が手に入るっていう物らしいが……
 そもそも魔石の取引で失敗して膨れ上がった借金と聞いたがハイラ。
    元は幾らの借金なんだ?」

 そこまで言えば誰もが理解できた。
 妹は毎夜毎夜春を売らされ、小隊長まで成り上がった騎士は闘技場で命をかけて戦わされ続け、最後は命を乞いながら嬲り殺される駒となる事を、いやその前に男娼としてどんな目に合うかもわからない。
 何せ周辺国とはそれなりにいさかいがあって向こうはバックストロム国の騎士ならなぶり殺しにしたい相手だ。
 それが目の前に転がされたら恥辱と言う恥辱を味わせたいと言う物だろう。

 ブルフォードとフレッドの睨みにハイラも記憶を探る様に口元に手を当ててブツブツ言っていたが

「確か私が調べた時は残り一億近い借金だったと思います。
 他にも借金はありましたが、そちらはこつこつへ返済してて完済してたはずです。
 なのでここ数年は家族三人の給料を合わせて年一千万近くは返済できていると思いますので残りは七千万かもう少し少ないはずですが……」

 ヴォーグはしばらくの間立ち尽くした後、崩れ落ちる様に謁見の間の豪華な作りの椅子に座りこんで

「そんな馬鹿な事が許される物か……」

 小さな泣き声にも似た呟きになってしまい周囲はぎょっとしたかのように背もたれに力なく体の総てを預ける俺の様子に誰もが口を閉ざしてしまった。






しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...