上 下
136 / 308

うちの隊長は部下がとんでもない事になっている事を知りません

しおりを挟む
 数日前の朝には副隊長昇格試験を受けれると、憧れでもあるシーヴォラ隊長に一歩近くなれると喜びに満ちた顔に向かって奴隷になれ何て、人事の様にはいられなかった。

「まてよ!それはオヤジさんの借金であって子供には関係ないだろ?!」

 思わずと言うように僅かに知る借金知識で地面に頭を付けて謝罪をするその姿との間に割り込むも

「これは……
 シルビオ小隊長殿と小隊の皆様、夜間警備お疲れ様です」

 丁寧に深々と頭を下げる金貸しの男はきちんとした身なりで俺達をそれなりに丁重に扱ってくれることに戸惑いを覚えるも

「ですが御覧の通り、既に契約書にはサインが入っております」

 見せてくれた契約書にはトゥーレ・ノラスの名前と妹のラナ・ノラスの名前が書かれていた。

「先日丁寧に説明した折りに承諾してもらって連帯人としてサインを入れていただきました。
 それなりの覚悟をお持ちで記入していただいたと思います」

 あまりの内容に記入されたサインはいつもの滑らかな筆跡とは違い震える手で書かれた歪なサインに食い入るように内容を見てる合間に金貸しに契約の借用書を取り上げられた。

「そのようなわけで、どうぞご理解をお願いいたします。
 ではノラスさん、期日の三か月後に」

 真っ直ぐな背筋のままノラスの両親に深々と頭を下げる男はそのまま次の取り立て先か自分の店かなんてどうでもいいが護衛を連れて去っていく背中をぼんやりと見送り

「ノラスのオヤジさん、この事あいつは知っているのか?」

 思わず地面に泣き崩れる夫婦に向かって言うも、何かあるのか泣き声だけがぴたりと止まる。
 こればかりは後は知った光景だ。
 貧困街ではよくある光景、よく見てきた光景。

「まさかトゥーレやラナに黙ってサイン入れたのかよ?!」

 思わず視線を合わせる様にしゃがみ込めば

「あ、あの時はそうするしかなかったんだ!
 あの時そうしなければ私達はもうこの国に、この世にはいられなかったんだ!!!」
「ごめんなさい!許して!
 あの子達を巻き込んだ私達を許して!
 お願い!
 この事はあの子達には黙ってて頂戴!
 今度は、今度こそあの子達に迷惑かけないから!!」

 許すも何も、この家族が懸命に働いて借金を返してきていた事は見て知っている。
 合間合間も勉強と、そして任務の合間に休む事なく魔物を狩って副収入を得てそれも全て借金に宛てていた事も知っている。
 縋りついて泣き崩れる様に懇願する親友の両親に俺は地面に膝をついて二人を抱き寄せて

「あいつは、やっと夢を一つ叶えようとしている。
 話聞いたか?
 あいつ副隊長になれるチャンスを掴んだんだ。
 隊長の後ろじゃなくて隣で仕事ができるようになるんだ!
 頼むからあいつの夢を、親ならあいつの夢を邪魔しないでくれ!」

 叫ぶようにあいつの夢を吐き出し、そのまま二人を押しのけて走り出せば背後から俺をほっとけないと言うように追いかけてくる部下の足音を聞いた。
 その足で俺達は長期で借りている安宿の一室に集まった。
 昔はそこそこの宿屋だったがおんぼろの建物を見ての通り管理する主達も老夫婦のみで室内の手入れは追いついていないそんな宿。
 食事の世話も掃除もしない代わりの格安の宿は駆け出しの冒険者達が住み着いていると言っても良い間借り状態で、運よく空室のあった一室を俺達は任務外の討伐の時の為の作戦会議の場所として借りていた。
    あまり広くない一室の部屋に人数が減って八人のシルビオ隊でも狭いが、今は無駄に広くなくて逆に落ち着いた。

「何だよ、黙ってろなんて……
 一刻も早く言わなくちゃならねー事じゃないのか?」
「しょーたいちょー、オヤジさん達覚悟決めちゃったんじゃないっすかー?」
 
 同じようにぐすぐすと鼻を鳴らして泣く部下達も取り立てのえげつなさを知っている者ばかり達。

「自分達の命で清算するつもりっすよ。
    たぶん……」

 身の回りにいる借金取りの追い立てられる者の顛末はそれだった。
 死して身の回りの物を総て取り上げられ、残された物はただそこに残され後は関与せず。
 あわよくば甘い言葉で引き取りどこに落とされるかなんて判りきった事だ。
 幸いにもトゥーレやラナには手に職がある。
 この近辺では誰もが声をかけたくなるという顔立ちの妹のラナは大店のお針子として顧客も抱えている位の腕前だ。
 そして美貌も相まって貴族の子息から沢山のプレゼントをもらっているも、あっさりと換金して借金に返済する始末。
 そのつれなさがまたいいと言われているが、当人はどうせ若いうちだけよとあっさりとしている。
 イリスティーナやランダーとも仲良く妹のように時折社交界に連れ回されて他の一流どころのドレスを見て回ったりしてたりシーヴォラ隊にも兄の忘れ物を届けに顔を出したりと馴染ある顔の行方何て想像するだけでも悍ましくて……

「だけど本当にそれだけで終わるんっすか?!」

 別の部下が顔を青くして

「なんか連帯人とかノラス小隊長のサインとか、なんか嫌な予感がします!」

 俺も気になっていたがそんな事詳しく知らないしと誰もが誰もの顔を見る中

「しょうたいちょ、ヴォーグさんに相談してみませんか?」

 ちょうどこれから一度家に戻って家で食事を済ませたら討伐に向おうとする所。
 何かあったら王都から一番近いアルホルンの森で呼んでくれとは言われていたのを思いだして

「とりあえず食事を家に置いたらすぐにブロムクヴィストの門の所に集合だ」
「「「「「了解しました!」」」」」

 かつてはそこそこ立派だった宿屋の安全管理は見かけによらず確かで家には置いておけない討伐用の装備を身に着けて駆け足で家へと帰り、誰もがパンを咥えてブロムクヴィストの屋敷の門の前に集合するのだった。
 門番から白い目で見られるも別に知らない顔ではない。
 ヴォーグが居た時に何度かアルバイトと称して葡萄畑の仕事に駆り出された事もある仲だ。
 だけど俺達の纏う空気がいつもとは違い、声をかけづらいと視線をそらして立っている横で揃ったメンバーと共に通り過ぎて地図上はアルホルンの森ではないものの、ヴォーグは人が住んで開拓が進み、とぎれとぎれになりながらも今も辛うじてアルホルンの森の一角だと言いながら古いアルフォニアの大木に手を添える姿を思い出していた。
 ここに来たからって会えるとは限らない。
 寧ろいないのが当たり前だ。 
 だけど俺は一つの賭けに出た……






しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

処理中です...