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うちの隊長がこの日の出来事を見ていれば、それだけで終わると思うなとつっこむのは確実です
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ヴォーグは基本アルホルンにひきこもっている。
膨大な森の管理、森に住まう魔物の管理、大半が野生化して駄目になってしまっていた薬草園の管理、そして無駄に広い城の管理。
そしてアルホルンに居を得る条件として開国以来残される莫大な緑の魔法使いの知識から作る薬を作る事が主だった仕事としている。
一日があっという間に過ぎて行く日々は充実していると言っても良い。
よそ事を考える間もなく一日が終わり夢を見る間もなく朝を迎えるそんな日々の繰り返し。
「たまには休まないと体が持たないぞ」
ある日の朝食の場の一コマだった。
今日も今日とてうちの従者殿の小言が煩い。
「向こうじゃこの生活が基本だった。
寧ろ王都で暮していた時より調子がいい。
それに天気が良ければ森を見回り天気が悪ければ城に籠るだけだろ?
この程度で崩れる体調ならお前は従者引退した方が良いな」
「そう言ったのではない。
もう少しゆとりのある生活をしろといっているのだ。
どの世界にこんな仕事にがんじがらめになってる大公が居る。
先代のようにお茶にとは言わん。
たまには友人を招待したりすればいい」
「悪いね。
ずっと留学してたからここに呼べる友人は居ないんだよ」
いる事はいるが、呼んだら一悶着起きそうな面々ばかりというか、後ろめたさから呼ぶどころか会う事も出来なかった。
そもそも会っておきたい顔見知りの貴族なんてのも居ないし、大体は書面で何とかなる程度の間柄でしかない。
「もともと俺はヴェナブルズ家の息子として紹介される前にバックストロムの剣として育つ事になった。
存在すらあまり知られてない揚句にあの祖父と両親の知り合いばかり。
さあ、誰を呼べばいい?」
「宮廷騎士達から庭師の応援が欲しいと言っております」
「カレヴァはダメだよ。
あいつはクラウゼ家の庭師だ。
確かにあいつは宮廷騎士よりも何倍も働いて文句も何も言わない。
そして粗食にも耐えて宮廷騎士なんぞより働き者だ。
ここで働くのが嫌なら王都に帰っても良いんだぞと言っておけ」
「王命に背く事となればそのまま宮廷騎士引退だぞ?」
「そのままお家の為に働けばいい。就職先はあるのだから俺は構わない」
王命に背いて家を継いだとしてもその先は明るくないという未来の想像は容易いが、と言う事までは丁寧には言わないものの、この場に居る者達は全員ちゃんと理解をしていて顔を青くしていた。
「まぁ、アルホルンに来て薬草の知識も得ろうともしない者達に居てもらっても邪魔だし、森で討伐に行かせれば見境なく殺戮と破壊を楽しむゴミを置くようなゴミ置き場でもない」
ちらりと背後に並ぶ宮廷騎士はこれ以上とないくらいの屈辱を初めて受けて顔を真っ赤からどす黒くして怒りに震えているのが見えないかのようにヴォーグは言葉を紡ぐ。
「本来この森にいる魔物も生き物も当然植物もだ。
総てアルホルンの書の薬の為に在る命。
王の薬草園とも言うべきアルホルンの森で年甲斐もなく暴れているのかは聞かないが、ここは今は俺が預かってはいるがそもそも王の庭だ。
城壁の中こそ希少な植物と交配の難しい物で揃えているが、城の外も貴重な薬草園だという事を理解できない者ならばここを去った方が良い。
ただでさえ魔族のせいでめちゃくちゃになった生態系を戻すのに大変なんだから……
そうだな。
警備をお前に任せて城から緑の魔道士を何名か招こう。
そっちの方が有益だし、そろそろ俺の跡を継ぐアルホルンの後継者を育てないとな。
誰か十歳未満で家を継ぐ予定のない子供を知らないか?
男女問わないが、ここを継いだら外界とは一切関係を切る。
家族の出入りは許すがあくまでも客人としてだが誰か知らないか?」
こんな所にこんな男の許に自分の息子、娘、親戚を誰が送り込めるかという顔ぶれにヴォーグは肩をすくめる。
「仕方がない。
今度王都に行く時に陛下に強請るか。
フレッド、次はいつ行くんだっけ?」
拒否権のない王命を十歳未満に命じるなんてアルホルンとはそう言う物なのかと誰もが驚きに目を見開いて言葉を返せないでいれば
「次は十日後に開催されるこの冬の社交シーズンを閉める王家主催のパーティになります」
「できれば三日前までに入っていただきたいと思いますが?」
「こっちではまだ雪がちらついてるというのに、向こうでは苗を植える季節が来たのか。
そうだな……
少し早いが五日後に向こうに入りたいと伝えてくれ。
前回家の方の経理に疑問があったから調べさせた結果も出ているだろう。
数字に興味の持てない母と家の帳簿を見る事が出来ない父と弟のせいで家令のワイズはおちおち引退も出来ん。
それにアトリーも俺の執事の癖に弟に付きやがって、あいつは要らないな」
「十年以上も放って置かれたら忠誠すら誓えないと思います」
そんな家の事情に俺の食事を黙って見守りながら警護に当たる宮廷騎士は他人の家のいざこざほど面白い話はないというように興味深げに耳を傾ける中
「だからハイラがお前に執事教育と家令教育を施してるのを黙って見ているんだろ。
所でこいつは素質はあるか?」
今の今まで空気のように存在を消していたハイラは空いたプレートを下げて最後のデザートを並べながら
「さすが元騎士団長と言うべきでしょうか。
書類仕事の早さはこちらも舌を巻くほどです。
屋敷の警護の配置はもちろん備品から屋敷までの管理からヴェナブルズに関る家の総てを覚えていただいてますし、ヴォーグ様のスケジュールもこのひと月ほどはお願いしている状態です。
教えるべき物は全て教えたので後はそつなくこなす事と、ヴォーグ様の嗜好をまだ理解し切れてないようなのでそこはもうしばらくお待ちください」
「それをハイラが既に覚えたあたり俺はまずハイラを誉めるね。
さすがだ。
あとお前はハイラみたいに俺の邪魔にならないように気配を隠す術を学べ」
「ヴォーグ様、それはアヴェリオ殿にはまだ早いと言う物。
だから私は家令なのですぞ?」
「従者ごときが一足飛びに家令になるわけないか」
「なのでそろそろ執事としての教育を本格的にしたいと思いますがよろしいでしょうか?」
「もともとそうなる予定だったのだから構わないよ。
寧ろ何で騎士団の団長なんかやっていたのか、そっちの方が不思議なくらいなんだがな」
「それは総て何時かお帰りになる主人の身の回りの整頓をする為には、権力で融通利かないのなら別の方向から力を掛ける手立てを得る為と思えば納得いきましょう?」
「団長室で会った時の気まずさは良く叫ばなかったと俺を誉めたけどね」
なんて遠回りな力の使い方だと呆れるもちらりと壁際で待機のまま俺の食事を終えるのを待つ宮廷騎士を見て
「お前らもこれのどこに憧れてこんな森の奥について来たんだか……」
呆れた視線にハイラは笑う。
「それはもちろん、過去に取り返しのつかない失敗を起こした男が懸命に信頼を取り戻そうとする姿を見て、と私なら思いますが?」
「まぁ、盾として十分に働いた。
昔の汚名位は忘れてやるよ」
食事を終えて席を立てばさっと椅子を引いてくれたハイラに
「今日から王都に行くまで薬作りに入る。
フレッドは宮廷騎士を鍛え直せ。遊びに来たのなら王都に帰させろ。
ハイラはフレッドの教育を、そしてついでに宮廷騎士も躾け直せ」
「承りました」
視界の隅っこでハイラの再教育となったフレッドを始めとする宮廷騎士の青ざめる顔色にこの人この雰囲気に似合わないくらいのスパルタなんだよな……と、少しだけクラウゼ家で垣間見た執事達の教育現場と副隊長の教育現場を見てしまったヴォーグはご愁傷様と部屋を辞そうとした瞬間……
「そうそうヴォーグ様。
今度の王家主催のパーティーに衣装をいくつか用意させたので向こうに着いたら必ずそちらの服に袖を通してください。
このアルホルンに居るような作業着では大公の名を軽んじられてしまいますから、そうですね。
今の内からそう言った服装に慣れてください」
そう言って何所から取り出したのか本日の御召し物ですと今からどこぞのパーティーに出席ですかと言う衣装にフレッドが笑っているのを知らないふりをして着替えるのだった……
膨大な森の管理、森に住まう魔物の管理、大半が野生化して駄目になってしまっていた薬草園の管理、そして無駄に広い城の管理。
そしてアルホルンに居を得る条件として開国以来残される莫大な緑の魔法使いの知識から作る薬を作る事が主だった仕事としている。
一日があっという間に過ぎて行く日々は充実していると言っても良い。
よそ事を考える間もなく一日が終わり夢を見る間もなく朝を迎えるそんな日々の繰り返し。
「たまには休まないと体が持たないぞ」
ある日の朝食の場の一コマだった。
今日も今日とてうちの従者殿の小言が煩い。
「向こうじゃこの生活が基本だった。
寧ろ王都で暮していた時より調子がいい。
それに天気が良ければ森を見回り天気が悪ければ城に籠るだけだろ?
この程度で崩れる体調ならお前は従者引退した方が良いな」
「そう言ったのではない。
もう少しゆとりのある生活をしろといっているのだ。
どの世界にこんな仕事にがんじがらめになってる大公が居る。
先代のようにお茶にとは言わん。
たまには友人を招待したりすればいい」
「悪いね。
ずっと留学してたからここに呼べる友人は居ないんだよ」
いる事はいるが、呼んだら一悶着起きそうな面々ばかりというか、後ろめたさから呼ぶどころか会う事も出来なかった。
そもそも会っておきたい顔見知りの貴族なんてのも居ないし、大体は書面で何とかなる程度の間柄でしかない。
「もともと俺はヴェナブルズ家の息子として紹介される前にバックストロムの剣として育つ事になった。
存在すらあまり知られてない揚句にあの祖父と両親の知り合いばかり。
さあ、誰を呼べばいい?」
「宮廷騎士達から庭師の応援が欲しいと言っております」
「カレヴァはダメだよ。
あいつはクラウゼ家の庭師だ。
確かにあいつは宮廷騎士よりも何倍も働いて文句も何も言わない。
そして粗食にも耐えて宮廷騎士なんぞより働き者だ。
ここで働くのが嫌なら王都に帰っても良いんだぞと言っておけ」
「王命に背く事となればそのまま宮廷騎士引退だぞ?」
「そのままお家の為に働けばいい。就職先はあるのだから俺は構わない」
王命に背いて家を継いだとしてもその先は明るくないという未来の想像は容易いが、と言う事までは丁寧には言わないものの、この場に居る者達は全員ちゃんと理解をしていて顔を青くしていた。
「まぁ、アルホルンに来て薬草の知識も得ろうともしない者達に居てもらっても邪魔だし、森で討伐に行かせれば見境なく殺戮と破壊を楽しむゴミを置くようなゴミ置き場でもない」
ちらりと背後に並ぶ宮廷騎士はこれ以上とないくらいの屈辱を初めて受けて顔を真っ赤からどす黒くして怒りに震えているのが見えないかのようにヴォーグは言葉を紡ぐ。
「本来この森にいる魔物も生き物も当然植物もだ。
総てアルホルンの書の薬の為に在る命。
王の薬草園とも言うべきアルホルンの森で年甲斐もなく暴れているのかは聞かないが、ここは今は俺が預かってはいるがそもそも王の庭だ。
城壁の中こそ希少な植物と交配の難しい物で揃えているが、城の外も貴重な薬草園だという事を理解できない者ならばここを去った方が良い。
ただでさえ魔族のせいでめちゃくちゃになった生態系を戻すのに大変なんだから……
そうだな。
警備をお前に任せて城から緑の魔道士を何名か招こう。
そっちの方が有益だし、そろそろ俺の跡を継ぐアルホルンの後継者を育てないとな。
誰か十歳未満で家を継ぐ予定のない子供を知らないか?
男女問わないが、ここを継いだら外界とは一切関係を切る。
家族の出入りは許すがあくまでも客人としてだが誰か知らないか?」
こんな所にこんな男の許に自分の息子、娘、親戚を誰が送り込めるかという顔ぶれにヴォーグは肩をすくめる。
「仕方がない。
今度王都に行く時に陛下に強請るか。
フレッド、次はいつ行くんだっけ?」
拒否権のない王命を十歳未満に命じるなんてアルホルンとはそう言う物なのかと誰もが驚きに目を見開いて言葉を返せないでいれば
「次は十日後に開催されるこの冬の社交シーズンを閉める王家主催のパーティになります」
「できれば三日前までに入っていただきたいと思いますが?」
「こっちではまだ雪がちらついてるというのに、向こうでは苗を植える季節が来たのか。
そうだな……
少し早いが五日後に向こうに入りたいと伝えてくれ。
前回家の方の経理に疑問があったから調べさせた結果も出ているだろう。
数字に興味の持てない母と家の帳簿を見る事が出来ない父と弟のせいで家令のワイズはおちおち引退も出来ん。
それにアトリーも俺の執事の癖に弟に付きやがって、あいつは要らないな」
「十年以上も放って置かれたら忠誠すら誓えないと思います」
そんな家の事情に俺の食事を黙って見守りながら警護に当たる宮廷騎士は他人の家のいざこざほど面白い話はないというように興味深げに耳を傾ける中
「だからハイラがお前に執事教育と家令教育を施してるのを黙って見ているんだろ。
所でこいつは素質はあるか?」
今の今まで空気のように存在を消していたハイラは空いたプレートを下げて最後のデザートを並べながら
「さすが元騎士団長と言うべきでしょうか。
書類仕事の早さはこちらも舌を巻くほどです。
屋敷の警護の配置はもちろん備品から屋敷までの管理からヴェナブルズに関る家の総てを覚えていただいてますし、ヴォーグ様のスケジュールもこのひと月ほどはお願いしている状態です。
教えるべき物は全て教えたので後はそつなくこなす事と、ヴォーグ様の嗜好をまだ理解し切れてないようなのでそこはもうしばらくお待ちください」
「それをハイラが既に覚えたあたり俺はまずハイラを誉めるね。
さすがだ。
あとお前はハイラみたいに俺の邪魔にならないように気配を隠す術を学べ」
「ヴォーグ様、それはアヴェリオ殿にはまだ早いと言う物。
だから私は家令なのですぞ?」
「従者ごときが一足飛びに家令になるわけないか」
「なのでそろそろ執事としての教育を本格的にしたいと思いますがよろしいでしょうか?」
「もともとそうなる予定だったのだから構わないよ。
寧ろ何で騎士団の団長なんかやっていたのか、そっちの方が不思議なくらいなんだがな」
「それは総て何時かお帰りになる主人の身の回りの整頓をする為には、権力で融通利かないのなら別の方向から力を掛ける手立てを得る為と思えば納得いきましょう?」
「団長室で会った時の気まずさは良く叫ばなかったと俺を誉めたけどね」
なんて遠回りな力の使い方だと呆れるもちらりと壁際で待機のまま俺の食事を終えるのを待つ宮廷騎士を見て
「お前らもこれのどこに憧れてこんな森の奥について来たんだか……」
呆れた視線にハイラは笑う。
「それはもちろん、過去に取り返しのつかない失敗を起こした男が懸命に信頼を取り戻そうとする姿を見て、と私なら思いますが?」
「まぁ、盾として十分に働いた。
昔の汚名位は忘れてやるよ」
食事を終えて席を立てばさっと椅子を引いてくれたハイラに
「今日から王都に行くまで薬作りに入る。
フレッドは宮廷騎士を鍛え直せ。遊びに来たのなら王都に帰させろ。
ハイラはフレッドの教育を、そしてついでに宮廷騎士も躾け直せ」
「承りました」
視界の隅っこでハイラの再教育となったフレッドを始めとする宮廷騎士の青ざめる顔色にこの人この雰囲気に似合わないくらいのスパルタなんだよな……と、少しだけクラウゼ家で垣間見た執事達の教育現場と副隊長の教育現場を見てしまったヴォーグはご愁傷様と部屋を辞そうとした瞬間……
「そうそうヴォーグ様。
今度の王家主催のパーティーに衣装をいくつか用意させたので向こうに着いたら必ずそちらの服に袖を通してください。
このアルホルンに居るような作業着では大公の名を軽んじられてしまいますから、そうですね。
今の内からそう言った服装に慣れてください」
そう言って何所から取り出したのか本日の御召し物ですと今からどこぞのパーティーに出席ですかと言う衣装にフレッドが笑っているのを知らないふりをして着替えるのだった……
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