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うちの隊長は実は三面記事の常連です。

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 本日のアルホルンは相変わらずうっすらと雪が積もっていて春はまだ遠そうな気候です。
 暖炉の前を今日の居場所と決めたこの城の主は王都からの使者である私と面と向かってご機嫌にほほ笑んで見せてます。
 何年ぶりに見た笑顔に相変わらず子犬みたいだなとほっこりしつつ、男に笑顔を向けられても嬉しくないはずなのに記憶と変わらない笑顔を向けられて思わず笑みを浮かべたら「気持ち悪い、笑うな」と言われた私は心の中で大泣きです。
 城の主の正面に立つ宮廷騎士団の隊服を纏う私よりも少し年下の男は背後に頭が痛そうにしている姿を隠せずにいる従者を従え、そして使用人の少ないこの城で唯一人と対面させる事の出来る家令のハイラに茶を用意するように指示をしていた。
 最も護衛以外一人しかいないのだが。
 当然のように主の一人分という要求に家令はにこやかな笑みを崩さず従う様子を見て見当違いとは言えどもクラウゼ家を恨まずにはいられない。
 いや、ゴルディーニ殿を思い出させる男を従えていたクラウゼ家にこのような使用人が居たこと自体周囲に情報を知られてない手腕を認めるべきか悩む中

「アルホルン大公、本日は……」
「俺達の間柄に挨拶何て良い。
 それよりも早く」

 俺達の間柄……
 親しい間柄なら何も問題はないのだが生憎こちらは何時殺されるか判らない命。
 お前の声なんて聞きたくないから余計な声を声なんて聞かせるなと言う意味に心が折れそうになってくる。
 少なくとも団長を辞めて数か月の間にそれなりに関係を修復したらしい二人の距離は縮まっているようにみえた。
    俺なんて久しぶりに会った時はその鬱陶しい視線は止めろとずっと目を閉ざさせていたのに、理不尽。
 シーヴォラを命がけで守った事もあってかあの時切り落とされた腕が元通りになっていて、城から出てすぐにお前の面倒は見たくないと治したのだからこいつはただ素直になれないだけじゃなかろうかと私と殿下の間では疑惑が上がっている。
 それはさておき持ってきていた鞄からいくつかの新聞の束を取り出す。
 私は五日に一度発行される新聞を王都から運ぶのが仕事になっていた。
 アルホルンの森とこの城以外何もないこのアルホルン大公領の不便な所で王都から馬で一昼夜程度の距離。
 微妙に遠いのがしんどい所なのだろうが元団長曰くあの城を出た日、その足で朝を迎える前に到着した事を後で聞かされてヴォーグ恐ろしいと四十近い体なのに付いていけた元団長も凄いと怯えずにはいられなかった。
 そして今回も五日ぶりのお使いを終えた私に容赦なく

「ご苦労、また五日後もよろしく」

 なんて紅茶を飲みながら陶然とした顔で私を追い出そうとする幼馴染を恨まずにはいられない。
 一日位滞在させろと思うも客間の準備が出来てないと一蹴されてしまった。
 この指名された特殊任務に私は長期の任務から外れ続けている。
 寧ろ干されていると言ってもいい。
 とは言え、この仕事を指名される理由も判ればこの程度の嫌がらせの一つや二つこなすぐらいわけもない。
 もう一つ大切な任務も預かっている。

「大公よろしいでしょうか?」

 声を掛ければ既に机一杯に新聞を広げて目的の記事でも探してるのか勢いよくページを捲っていた。
 娯楽に餓えたアルホルン大公の楽しみに邪魔をするなと聞こえないふりをされれば

「陛下の薬を頂きたいのですが」

 声を掛けるも目的の記事を見付けてかすっかり活字の世界に行ってしまった幼馴染には届かなく代わりに

「お薬ならご用意しております」
「ハイラ殿……」

 心が折れそうな所で毎度救ってくれるクラウゼ家の元家令の手を握りしめるのだった。

「お薬を届けるのも大切なお勤め。
 五日分のお薬しかご用意出来なく申し訳ないのですが、この雪の中あぶのうございますがお気をつけてお帰り下さい」
「はい。
 それは重々承知しております」

 私が五日ごとに来るもう一つの理由。 
 城の医師達でさえ作る事の出来ない薬をアルホルンの魔道士自ら作った貴重な薬を頂くために派遣されているのだ。

「そしてこちらがエーンルート侯のお薬になります」
「ありがとうございます」

 深々と頭を下げればそのまま失礼しますと挨拶をしてハイラと元団長に見送られる形でアルホルンを後にするのだ。
 最もこの時に元団長とハイラから色々手紙を預かったり次に持ってきてほしい荷物一覧を預かるのだが、幼馴染殿は私的な部分をとっくに気づいているようなのに全くの無視をしている。
 いい奴なのかどうなのか、ここも殿下と一緒に素直になれないやつめと笑っていた。

 そして私が降り出した雪にはしゃいで居る馬を落ち着かせて王都へと駆け出した頃……

「じゃあ、墓参りに行ってくる」
「ついて行きましょうか?」
「すぐそこだからいい。護衛もいらない。
 それよりも城の片づけを頼む。
 一向に片付かないのは許し難い」
「清潔にしていただいて大変ありがたいのですが、これだけ物が多いのも考え物ですね」

 ハイラが寒くないようにと暖かな上着と外套と暖かなお茶を水筒に入れて用意してくれた。
 中身は何だとふたを開ければホットワインから香るシナモンの香りに口角が上がる。

「ハイラは判ってるな」
「はい、エリオ殿に教えてもらったレシピなので。
 ですが最後までお飲みいただいた時に首をひねられて、無念です」
「ああ、多分使用して要るシナモンの違いだ。
 ハイラは上等なシナモンを使っているのだろうが、前アルホルン大公はシナモンが苦手でね。
 シナモンの香りが強くならないようにあまり上質でない物でスティックをクルリと一回香りを移した程度だけの物を何時も作ってた」
「なんと、そんな心遣いが」
「俺はこっちの方が好きだけどね」

 水筒の蓋を開けて香りを楽しんだ後またきゅっと閉ざして収納空間に片づける。

「エリオの墓参りを済ませたら森を回ってくる。
 日没までには帰る」
「また雪も降りだして寒いのでお気をつけてください」

 玄関先で見送れば、すぐに外套のフードをかぶって出かける姿を見送った。
 その姿が見えなくなった所で

「毎回思いますがラグナー様の記事を探してご機嫌になるなんて、ヴォーグ様も可愛らしいですな」
「ああ、ブルフォードもこの為にだけ走らされてるとは思ってないだろうが、それにしてもシーヴォラは何やってる。
 こんなにも話題に上がりおって……」
「ラグナー様が話題に上がるのはいつもの事。
 おかげでブルフォード殿にも仲直りの機会に恵まれているので良いではありませんか」
「すっかり事件の印象が強くてその前を忘れているだろうが、庭で遊んだあとはいつもおんぶしてもらっていた事を覚えてないようだな」
「おや、ずいぶんとかわいらしい」
「あれは昔は甘え上手だったのだが、いつの間にこうなったんだか」
「健やかな自立心の成長を送れたようで何よりです。
 故に、弟君の様子が気になるようですね」
「まぁ、母親の従兄弟殿の末の子供を養子にするとか言っていたが、早まらなければいいのだが」
「養子をですか?弟君をですか?」
「両方に決まっている。
 養子の子供はまだ5歳だ。
 親から離すべきではないだろう」
「それを言うとなら自分はとおっしゃると思うので、年齢ではないという事を心の片隅に置いておいてください」
「判ってはいるが……
 そうだったな、それも含めて考えながら掃除をしてくる」
「はい。
 本日は北の塔をよろしくお願いします。
    随分傷んだ家具が多いので修復可能か不可か仕分けて下さい」

 難しい顔をして掃除に赴くフレッドにハイラは小さくまだまだですなと呟くのだった。







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