うちの隊長は補佐官殿が気になるようですが

雪那 由多

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うちの隊長は何で今頃こんな罰ゲームをと気が遠くなっております

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 アレクの指示でレドフォードに付き添われて式典を抜け出した俺は隊舎の自室にいた。
 ベットに潜り込んで先日の光景再びとなった。

「隊長、ショックなのはわかりますが……
 せめて隊服は脱いでください。
    式典用の飾りが壊れます。
 皺になります」

 レドフォードの訴えに俺はベットの中で隊服を脱いでベットから蹴落とした。
 暫くしてすぐ隣でクローゼットからハンガーを取り出して隊服を掛ける音がしたが俺はベットの中に籠っていた。
 もちろん一緒に新しく用意してもらった靴も脱いで毛布にくるまった中で枕に向かって泣いていた……
 声を殺して、でもしゃくりあげる声にレドフォードも居た堪れなさそうだがアレクから指示は既に出ている。
 どんな状態でも絶対目を離すな。
 ヴォーグを追いかけてアルホルンに行くかもしれないから何としても部屋の中に閉じ込めて置け、と。

「そりゃ、これだけ楽しみにしていて声所か見向きもされなかったというのはないよな……」

 どこかレドフォードの声も涙ぐんでいた。

「一緒に働いて一緒に飯食って、時々バカやって。
 だったらあんなにも優しくするなって言うんだよ……」

 ヴォーグから何を受け取ったかは知らないがレドフォードもいつの間にか泣いていたのか鼻をすする音が静かに響いた。

「何で優しさだけ置いてって今更知らない顔をするんだあいつは……」

 ガツッと床を蹴る音を俺は遠くに聞こえる音のようにぼんやりと聞いていた。
 既に失恋はしていたはずなのに、再度これだけ知らない顔をするなんて一体何なんだよと頭の中はただ一声でも声をかけてもらえたらと女々しくも縋るばかり。
 俺らしくないというのは承知している。
 だけど、心の整理何て全く出来てなくて、それなのにこれだけ期待させて無視されて。

 『俺なんかなんて、後悔しますよ……』

 ヴォーグを説得して初めて思いが通じたと喜んだあの夜を思い出してこういう意味だったのかとやっと理解したと同時にあの時俺は

『それはその時考えてみる』

 だったか答えていた。
 今がその時かと後悔どころではない悲しみにただただ泣いていればどれだけ時間が過ぎただろう。
 部屋の外が途端ににぎやかになった。
 何やらこの隊舎の俺の部屋に向かって全力で駆けてくる足音は一つや二つではない。
 先に泣き止んでいたレドフォードが「何だ?」なんて言いながら無警戒にもドアを開けて外を覗いていたのをベットと毛布の隙間から覗いてみれば

「ラグナー申し訳ありません!
 父から急いで帰って来いと厳命されたので申し訳ありませんが先に失礼します。
 後はレドフォード、ベットに引きこもってますがお腹が空けば出てきます。
    ラグナーの面倒を引き継お願いします!」
「シーヴォラは居るか?!
    クラウゼは少し時間を寄越せ!」
「ラグナーはここか!」

 やってきたアレクはそのままレドフォードにこの後いくつかの申し送りをする横でブルフォードとエリオット王太子殿下がベットまでやってきた。
 ブルフォードはまたかと呻いてベットすぐそばで立ち止まったが、エリオットはそのまま勢いに任せて毛布を剥ぎ取りシャツと下着姿と言う、隊舎の自室と言えでも隊長にあるまじき姿に目を点にしていた。
 慌ててレドフォードが毛布を掛けて普段の隊服を俺に着るように用意して、アレクはなんでそんな格好なのだとラグナーにおかんモードが発動されていた。
 気力のないラグナーがもそもそと着替えるのを待ちきれないというようにボタンをしめるアレクの背後から

「いつまで不細工な顔をしてるつもりか知らないが、ラグナーお前宮廷騎士の試験を受けろ」

 エリオットの言葉に俺は

「俺が宮廷騎士になれるわけがありません。
 俺にはその資格がないのだから」

 宮廷騎士になるには公表されてないが王家の血筋を条件としている。
 その血筋の正当後継者である事と、隊長クラスの実力と後いくつかの項目。
 親が誰かも知らない俺では間違ってもなれるはずもない。

「資格はフレッドからもぎ取り方の指示があった」
「ひょっとして副団長に渡していた用紙でしょうか?」

 止血を受けている時に渡していた用紙。
 エリオットが見せた用紙には当然血のりが付いていて、まだ生々しい色合いがあの時の物だと言ってもいいだろう。

「一回しかチャンスはないと思え」

 見せた用紙に俺もアレクもレドフォードも目を見開いてエリオットを見上げた。

「アルホルンには王族もしくは宮廷騎士以上しか入る事は出来ない。
 ルードの家族はもちろん無理だ。
 しかもルード側から許可が下りないと入城できない事になっている」
「だったら無理じゃね?」

 今かたくなに総てを拒絶しているヴォーグを思ってかレドフォードが王太子にとは言え不敬レベルの口調で思わずと言うようにつっこむも

「そこにチャンスがある。
 ルードが拒否したくても大公と言う地位、拒否できない公務がある。
 そのチャンスを使ってラグナーをあいつの所に送り込む。
    そこでクラウゼ、お前の家の協力が必要となる」

 何やらものすごいいい笑顔と簡単なスケジュールにアレクは目を点にし、ラグナーが顔を青くして冷や汗をだらだらと流しだすのを

「ご愁傷様」

 とレドフォードは呟かずにはいられなかった。

「ですがこう言う事になるとシーヴォラ隊は……」

    どうなるのかと尋ねるアレクに当然と言う顔で

「解散する事になるだろう」

    俺達三人は黙って無情な通告を聞くしかなかった。











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