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うちの隊長はちょっと浮かれているようなので生暖かい目で見ないふりをしてあげてください

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 魔物の退治は思ったよりはかどった。
 魔族に統率されてないおかげでアルホルンよりも厄介な魔物はおらず、そして魔族のように強い物もおらず、何よりギルドが率先して退治をしてくれたので騎士団は王都に侵入しようとする魔物の退治に追われる程度で済んだのだから随分楽だと言ってもいいだろうと思っている。
 魔族に騙されたバイロン・レッグの配下は一応すべて捕まえた事になっている。
 仲間をかばうような義理堅い者は誰もおらず、寧ろちょっとおどせば隠れている奴らの居場所を吐くぐらいなので結託も無い連中を捕まえるのも簡単だった。
 もっとも、騙されて石造りの隙間のない小屋から見つけた騙された仲間の亡骸を見た時ほど怒りを覚えた事はなかったが、何とか彼らも埋葬を終えた頃この戦いの勝利と亡くなった者達の弔いを兼ねた式典が開かれるのだった。
 会場は崩壊した玉座の間を眺める事も出来る大広間。
 何とか形を取り戻した庭園に出入りも出来る大広間は夜会などにもよくつかわれる場所だったが、今回亡くなった者達を弔う意味合いが大きい為昼前から開催されることになった。
 石造りの暗い室内には美しいシャンデリアの灯にともされた室内は夜会ほどではないとは言え今回の趣旨とはずれた煌びやかなドレスを纏う令嬢達が先日の恐怖を既に忘れて楽しげな声と花のような笑顔を振りまいていた。
 次々に名前を読み上げられて大広間に入城する貴族の衣装は美しく、それでもこの戦いで亡くなった騎士や街の戦闘で亡くなった人、更にその後の魔物の討伐で命を命を失った人達へ喪に服すように黒のリボンで出来た花を胸につけていた。
 警護に立つ騎士も、そして給仕をする者達も総てつける事になっていた。
 ちなみにこれは入城する時に渡されて胸につける事になっている。
 子息令嬢達には大変ご不満なようだが、王命であり今回の式典の意味でもある。
 嫌なら帰れと言われた令嬢達もいたが、そこは貴族の義務。
 ノーなんて言えば反逆罪と見做され一族全員処刑と言うルートもある事ぐらい知っているのでしぶしぶリボンを付けていた。
 時間になり警護を務めるシーヴォラ隊の小隊長以上はこの式典に出席の為にこの場をレドフォードの所の補佐に任せて揃って入城する事になった。
 アルホルンからの帰還後一番彼を支えたのは間違いなくこの補佐で、その事はマリンからも報告が上がるほどで俺も何度かいっしょに飲みに行ったこともある。
 その彼に隊を任せ俺達は裏側から会場に潜り込む前に

「アレク、なんかおかしい所はないよな?」
「貴方の頭の中以外なら大丈夫ですよ」

 本日何度目か判らない質問を繰り返せばレドフォードにも笑われてしまう。

「仕方ないだろ、団長にめかし込んで来いって、式典用の隊服以外でどこをめかし込めばいいかなんてわかるか?」
「隊長、髪形もちゃんと綺麗に決まってますよ」

 意外にも手先が器用なランダーに普段のように髪型を整えていれば少しアレンジしましょうと片側のサイドを耳にかけるように流され、前髪も軽く流れる様にされてしまった。

「やだ!ものすごくいろっぽいですよ!
 キスしてもいいですか?!」
「断る」

 即行で拒絶すれば酷いと涙ぐむランダーに、でもこの馬鹿さ具合に何度助けられたのだろうなと素直にありがとうを言わせてもらえない彼女の優しさは素直に受け取る事はやっぱりできずにいる。

「まあ、いつもより大人びたと言ってもいい顔をしてるな」

 レーン小隊長にも言ってもらえたところでほっとすれば
 
「糸のほつれも無ければゴミも付いてない。
 昨晩イリスティーナがチェックしたから問題ないな」

 式典用の金糸銀糸を使ったマントはめったに使わないだけに虫食いがないか要注意なのだがアレクの家で管理をしてもらっているから問題はない事は知っている。
 なんせ、初めて与えられた時あまりの上等なマントに仮眠の時に毛布代わりに使って寝ていたのがばれて長々とアレクに説教されたのはこのマントを使う時思い出す軽いトラウマだ。
 そんな最終チェックをしてから指定された場所へと足を運ぶ。
 既に他の隊も並んでいて、いつもなら広いと思われた大広間はひな壇に用意された陛下の席は空席なれど、そのひな壇に既に宮廷騎士が並び、更に騎士団の各隊長を筆頭にその小隊長がずらりと並んでいた。
 ちなみにシーヴォラ隊は陛下から一番遠い場所に位置どるのだが、今回は叙勲と褒賞が与えてもらえるらしく一番近い場所を指定されてしまった。
 他の隊長……平民上がりの俺を快く思わない隊長達に睨まれるも何と俺の隣には団長が居るのだ。
 俺を睨みつけるたびに何故か団長が反応してぎろりと睨み返すのが面白いのか反対側に並ぶ副団長と半数の隊長小隊長が笑うのを堪えているのを眺めるというシュールな光景に非常にいたたまれない気持ちになるも直ぐに真面目な顔に戻った。
 陛下がお見えになり、すぐ隣には王妃と王太子を始めとした成人王族が並んで表れたのだ。
 全員そろって現われるのは王家主催の夜会でも珍しく城内はすぐにピタリと全員が口を閉ざした。
 それからは陛下の挨拶、そしてこの度の災厄を説明し、亡くなった者達に黙祷を奉げた。
 そして今回の災厄に対して貢献の多い者達に褒賞を与える運びとなった。
 やはりというかホルガー達【暁の大牙】が横一列になって全員召喚されていたようだった。
 いつもとは違いドレスアップした彼らに子息令嬢達が色めき立つのは仕方がないだろう。
 アルホルンに続き魔族を二体倒したという手柄を立てた彼らは全員が男爵位の貴族の地位を与えられた。
 ホルガーはこの間与えられたばかりなので今回は見送られたが、一人一人に報奨金も与えられ、彼らはそれを表情を変える事無く恭しく受け取るのだった。
 周囲は羨ましそうな目をするが、ヴォーグと一緒に行動しているとその程度の報奨金は見慣れた物でもあり、彼らはそれをどうやって使うか今夜にでも相談するのだろう。
 あれから噂ではホルガー達が所属していたギルドのギルド長の姿が見当たらないと言っていたが、ホルガー達からバイロン・レッグとヴァルター・バウアーの因縁を聞かされた後に国外へと逃がしたと話を聞かされた。
 残されたギルドの運営チームも唖然とする内容にたぶんギルドの立て直しに使うのだろうと俺は勝手にそう思う事にしていた。
 ちなみに今いるメンバーはバイロンを見捨てた後メンバーを一新したチームが主だった者達なのでこの話を信じる事ができなかったみたいだがヴァルターから預かった手紙に書かれた内容を見ても信じられないと涙を流しながらもギルド長にホルガーを迎えて再出発をする事を誓ったのだ。
 
「冒険者は引退か?」
「まさか。
 だけど誰かがあいつらを引っ張ってやらないといけないだろ……」

 裏切られ捨てられて悲しみにくれるギルドを見捨てれないと言うが

「もっともギルド運営なんて知らないからどうなるか判らないけどな。
 まぁ、副ギルド長をいずれギルド長にするまでの代役として名前を貸すぐらい何とかやってやるさ」
「ああ、あの有能な女な。
 ギルドを束ねるには力が足りないようだが……」
「そこは俺達が鍛えると言う約束をしている。
 ヴォーグ仕込みで昨日までみっちり山籠もりしてきた」
「あれはダメだろ……」

 苦笑する俺に

「ヴォーグに会えたか?」
「あれからはまだ。
 だけどいろいろ話を聞いて家出する理由ももっともだし、運が良ければ今日会えるかもしれないしな」

 期待はしていない、だけど俺の気合の入れた姿を見てホルガーはニヤニヤと笑みを作りながら

「まぁ、そう言う事にしておいてやるよ」

 入城間際の短い会話。
 騎士と冒険者と言う組み合わせにもかかわらず気安いやり取りに周囲には胡散臭げに注視している。
 これだから平民上がりの騎士はと言うように……
 きっとこれからはあまりしゃべる事も無い間柄になるんだろうなと、普段より美しい出で立ちの彼らを見送ったのはまだ一刻にも満たない時間。
 そんな彼らが褒賞を貰って下がって行けば次々に読み上げられる名前ともったいぶるかのような褒賞の受け取り。
 それを繰り返す方も大変だが見る方も大変だと時間が流れて行けば騎士団の番となり、一番最初に俺の名前を呼ばれた。






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