うちの隊長は補佐官殿が気になるようですが

雪那 由多

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うちの隊長は隠された物語にときめいていたのは内緒です

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 アルホルンとバックストロムが出会った時は戦争の真っただ中だった。
 肥沃な土壌の平野と緑豊かな森を有するこの国は小国なれども自然の恵みに預かり、故に周囲の国に狙われ続けていた。
 そんな中、酒の席で仲間達との話題に上がったあの森の主に会いに行くという度胸試しにバックストロムは足を運ぶ事となり、森で迷子になった先で出会ったその美しい精霊の姿に一目で彼女に心を奪われて以来、バックストロムは時間の許す限り何度も足を運び、何時でも会いに来る事は出来ない森に住む彼女との思い出を何か一つ欲しい、この一時が幻でない事を証明するために何でもいいから彼女の物を一つ頂きたいと懇願した。

『ならばこの枝をどうぞ』

 彼女の手に在った小さな種からすぐに双葉が伸びて一瞬で小さなな木へと成長し、地面に置けばすくすくと育った木の枝を一つ手折った物をバックストロムに渡したのだった。
 目の前で木が急成長した事にも驚いたが、それよりも手渡された物は一本の手折られた枝。
 本音を言えば甘く香るその身に着けている物が欲しかった。
 だけど自分の為にと一本の木を不思議な力で育ててくれた木の枝を手渡されて違うとも言えなかった。
 内心不満はあった。
 その耳を飾る耳飾りでもいい。
 手折れそうな細い手首を飾る華奢な腕輪でも良かった。
 だけど渡されたのは魔法のように育った木の枝の一振りのみ。
 何でもいいと言ったのは俺だ。
 不満な心は隠して初めての彼女からのプレゼントを笑顔で受け取り、代わりに身に着けていた歪な、でも見様によっては愛嬌のある真珠の耳飾りを彼女に渡した。
 アルホルンは暫し不思議そうな顔で真珠の耳飾りを眺めた後に自分の耳飾りと付け替えてた姿を見せてくれるという夢心地の世界へと旅立っていたが

「この木は何て言うの?」

 ふと気づけば見上げるまでに立派に育った木の幹に手を添えて聞けば

「名前はないの……」
「だけど、君みたいな木だね」

 細く直ぐに折れてしまいそうな木なのに、実際は折れる気配も無ければまっすぐに伸びた幹は彼女の楚々とした姿を表しているようで

「だったら俺が名前を付けよう。
 アルホルン、君の名前を貰ってアルフォニアなんてどう?」
「アルフォニア?」
「アルホルンの地と言う意味だよ。
 この木がある所君がいると思うと会えない間でもこの木が君の様で寂しくない」

 そう言って男はアルホルンの前から去り、持ち帰った枝をバックストロムは家の裏庭に植えた途端急成長して瞬く間に立派になった木の枝を一振り持って戦争に出かけるのだった。 
  木は不思議な事にどの地でも急成長を続け、バックストロムは行く先々で木を植えて枝を一振り折って戦争の日々を繰り返していました。
 仲間達もその不思議な木を胡散臭げに見ていましたが、その様子に何か約束でもあるのかと思い、バックストロム同様枝を折って行く先々で植えて行くのでした。
 そうするとどうでしょう。
 何年も続いた戦争のおかげで国中にアルフォニアの木は植えられていき、アルフォニアの木を植えられた平原を誰ともなくバックストロムが木を植え続けた平原、バックストロム平原と呼ぶようになった。
 そんな名前が定着する頃この辺りから魔物が居なくなりました。
 それどころかその魔物達は戦争相手国へと向かい、いつの間にか戦争どころではなくなったのです。
 その様子にこのアルフォニアの木の事を誰もが思い出し、アルフォニアの枝を植え続けたバックストロムはその国の王の息子として、戦争で失った息子の代わりと言うように召し抱えられる事になった。



「と言う一節がある。
 どちらが先かと言えばアルホルンの分身と言う解釈が正しいのだろう。
 葉っぱの変化は長い年月からその地の気候に順応して変化した物だと考えられている」
「何でそんないい話を世間に広めないのですか」

 あまりにいい話と言うか肝心のなれ初めの話しにここ重要だろうと頭の中で叫びながらも辛うじて冷静に聞くも

「時の王がアルフォニアを奪われて他国に向かった魔物がまたこちらに来る事を厭ったと考えればなっとくするだろう?」

 なるほど尤もだ。

「とはいえ、普通にそこらに生えているアルフォニアには魔物を払う効果はない。
 虫よけ程度には効果があるとは言うがその程度だ。
 長い年月でアルフォニアの、ルードが作った森の木と同じものが城にも生えてたのだが……
 そうだな、城のちょうどルードの離宮を建てた場所の近くだ。
 バックストロムの剣と判明して心が壊れて行くのと同様に木は弱ってしまい、二十歳の頃家族と言う拠り所も失ってしまったあの子の心と呼応する様に枯れてしまった」
「家族とは何が?」

 聞けば団長は肩を竦め

「ルードが家族同様に慕っていたアルホルンの先代の魔女でありルードの祖母の姉が無くなった折りだ。
 この葬式に合わせて戻ってきたルードと十数年ぶりに会ったルードの祖父はルードが立派に育った姿を見て強引にルードをヴェナブルズ家の当主にしてしまったのだ」
「は?」
「そして当主ならと昔からの友と約束した互いの孫との結婚という夢を悲しみに暮れていたルードに押し付けるように婚約させた。
 誰も反論できない相手だけにあれはもう激怒するしかない状況だった。
 しかも更にルードの婿養子の父親がそれならルードを婿に行かせてルードの弟に家を継がせようと言いだしてな、母親も既に弟を後継者として育てていて、何よりもかわいがっていた弟もルードの生い立ちを一切教えられずにいつの間にか傲慢に育ち恋人を譲るのだから当主の従者、つまり私をよこせと言い出してな……
 これがルードの決定的な家出の理由だ」

 あまりに身勝手な家族の言葉に頭を抱えながらいくらなんでも過去にあんな出来事があったのにありえないだろうと呻きながらも

「因みに婚約者はどなたでしょう……」

 一番の疑問と言うか、多分俺は知っておかなくてはならない相手。
 
「祖父の友人、先代国王だな、の孫。
 王太子の妹でありるラヴィニア様だ」

 俺の頭も真っ白に、そして室内も凍てついた。
 ああ、俺確実に極刑が決まったなと思うも

「な、何も聞いてないのですが……」
「あれは最初から王女殿下を嫌っていたからな。
 子供の頃から私は誰にでも愛される存在と言う事を言っていて……」
「団長、もういいです」
「助かる。
 何としても婚約破棄したい理由がそんな所だ。
 この話を聞いた者は他言無用だ」
「言っても信じる人はどれだけいると思うのですか?」
「それを十にも百にもするのが貴族と言う生き物だ。
 伯爵ならそれぐらいの警戒をして置け」

 その後もう行けと視線で訴える団長に従い部屋を出た。
 扉の外で待機している衛兵はどっと疲れた俺の様子に何があったというように視線を送ってきたが、俺の帰りが遅いからからとアレクの指示で迎えに来たルーツに

「俺騎士廃業になるかも」

 思わず泣きついてしまったのは仕方がないだろう。











   


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